プロローグ 二話 前
出てくる技名、罠名、モンスター名は覚えなくていいです
フルダイブ型ゲーム機で行うMMORPGの人気タイトルの一つ『Myriad OF Arms』。
タイトルどうりの無数の武器が実装されている。
剣や槍や斧といったポピュラーの武器をはじめ、チャクラムやフレイルといったマイナーとも言える武器も多く実装されている。
もちろんモンスターたちも、そういった無数の武器を扱うのである。
いま眼の前にいる敵モンスターは骨も肉もない骸骨が、少しの防具をつけているだけの、見た目が手に持つ武器だけが違うコンパチ使い回しモンスター7体であり、もっと敵グラフィック増やせとか言いたくなる、ステータスが違う別々のモンスターである。
レベルは72~74の【トリステス・オス・】。
最後の『・』の後には装備武器名が入る。
敵構成は、両手剣持ちが2体、片手剣と盾持ちが1体、短剣双剣使いが1体、槍持ちが1体、フレイル持ちが1体、弓矢持ちが1体である。
正直ランダムに別々に発生したにしては、近距離・中距離・遠距離が全員いる、なかなかにバランスがいい構成だった。
俺にとってはかなり悪い構成である。
自分、『ミケル』が装備しているのは、鞭。
中距離武器であり、近距離に入り込まれたら不利になるし、遠距離攻撃もかなり辛い。
レベル差もあるため1体1なら簡単に完封可能だが、この数でしかもバランスがいいとなると、やられる可能性がとてつもなく大きい。
だからこそ覚悟を決めなければならない。
「SPを気にせずやるしかないな」
武器ごとにある無数の流派による技の数々。
どうやって使うか、どこで使うか、どういう状況で使うか、どう組み合わせるか、使い手次第で様々な色を見せる。
SPというほかのゲームでいうMPやTPを消費することで使用できるその技たちは、SPを消費しない通常攻撃より威力が高かったり、様々なことができるのだが、もちろんSPを消費しきったら使うことができなくなる。
無駄打ちをしたらかなりきつい。
視線を動かしながら一歩後ろに下がり、モンスターの位置や今の状況を確認し、自分が戦いやすい距離を空けた。
さきほどの【電網】で受けたダメージを回復したいが、その時間はない。
近距離、中距離武器持ちの骨が距離を詰めに、弓使いの骨は弓に矢をつがえた。
相手の攻撃が届く前に、素早く鞭を振るい技を発動する。
【打ち飛ばし(ペルディド・リペ―)】
小さなアイテムを鞭で打ち飛ばす技である。
打ち飛ばす対象は、先ほど起動した罠の一つ【不意の矢】。
地面に突き刺さっていた矢を、弓骨に向かって打ち飛ばす。
飛ばした矢が弓骨に当たるがダメージは少ない、だが攻撃の邪魔はできた。
返しの手で、向かってくる骨をなぎ払うように鞭を振るう。
しかしそれを盾持ちの骨が一歩前に出てて、盾で防いだ。
(予想ずみ!)
鞭が盾にぶつかる瞬間、技が発動する。
鞭がまるで生きているかのように動き、盾ごと腕を掴み取る。
【巻き掴み】
そのまま掴み状態から派生して、掴んだ敵を横に振り回す【ハンマースイング】を発動する。
大剣骨Aと双短剣骨を巻き込みながら、通路の壁に叩きつける。
だが短剣骨は壁にたたきつけられる寸前のところで抜けだしていた。巻き込めなかった槍骨、フレイル骨よりもステータスの速さの値は早く、素早い動きで距離を詰めてくる。
すぐに盾骨に対する掴みを解除するが、間に合わない。
(できるだけ食らうダメージを抑えなければ)
ある程度のダメージを覚悟していると、突然短剣骨の後方が爆炎に包まれた。
「なんだ!?」
その爆炎により自分のHPが削られるが、爆炎の範囲ギリギリだったため、それほどのダメージではない。
短剣骨は背後からの爆炎をモロに喰らい、地面に倒れた。
HPが無くなったわけではないので、立ち上がらないうちに追撃を行う。
【堕岩】
天まで届かせようとするがごとく、限界まで頭上に伸ばした鞭をそのまま、倒れた双短剣骨に向かって振り下ろす。
双短剣骨のHPは一気に削れ、体が崩れた。
残りの骨を確認すると、盾骨と大剣骨Aはすでにいなくなっていた。
【ハンマースイング】では倒しきれなかったが、爆炎の中心にいたようで、HPが無くなったようだ。
他の骨も爆炎によりそれなりのダメージを受けているようだった。
どうやらさっきの爆炎は、壁に叩きつけた盾骨と大剣骨Aが、壁からずり落ちてそのまま床にあった爆発する罠【爆裂罠】を起動させてしまったようだ。
(けどラッキーだ、残り4体、ダメージもそれほどない。いける)
そう安心していると、槍骨が黒い炎のようなエフェクトを纏う槍を振りかぶっていた。
【怨飛炎】
「あっ、やばい」
そう思った、次の時には槍骨の手から槍は放たれていた。
「投げ槍使いかよ!!」
気づくのが遅かった、かわすことも迎撃することもできず、槍が俺の体に突き刺さる。
そこに更に弓骨の放ったいくつもの矢が襲い掛かってくる。
何本か鞭で迎撃することができたが、それでも4本ほどくらってしまった。
今までの経験でHPがごっそり削られたのがわかる、ステータスを確認する暇はないが、もう一度同じ攻撃を受けたら確実にやられる。
『Myriad OF Arms』は他のゲームと比べるとHPの回復手段がかなり乏しく、基本的にアイテムでの回復しかない。
だがそれも発動まで時間がかかるもので、かなり隙ができるものである。
敵が目の前にいる状況で使うのは、もうタコ殴りにしてくださいと言っているようなもので、使うことはできない。
(かなりやばい、どうすれば!)
考えている間にも骨たちは攻撃の手を止めようとはしなかった。