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ゲームの世界02

 『ナイト・ライド』の世界ではエリアが13に分かれている。

 人が集まる唯一の中心都市。この場所で装備や依頼を受けている。

 そしてそのエリアの一番近くにある――樹海。

 小鬼やスライムなど初心者用に作られたそのエリアに白狐と豊は訪れていた。

 生気の無い木々が頭を垂らし、枝を絡ませ道を拒むその樹海は二人とも何度もゲームの世界では目にしていたが――自分の目で見るとその恐ろしさは比にならない。


「さてと、ここで実践をして貰っちゃうわけだが、ユラリン」

「何その呼び方」

「ごめん平社員」

「確かに新入りではあるけど――全く名前に関係ないよね」

「真面目にやってくれない?」

「はい? それはこっちの台詞なんだけど……」


 ふざけているのか分からない白狐。

 腕を組んで豊を睨みつけている。――なんで僕が睨まてるんだ?


「おいおいおい、こっちは命がかかってるんだぜ。真面目にやってくれよ」

「もう、疲れる。ゲームの世界で混乱してるのに――更に混乱させてくる馬鹿はいるし」

「馬鹿、馬鹿って言ったか?」


 腕を開いて空へと浮かぶ。

 その異様な雰囲気は――豊を殺そうとしているのか。


「言いましたよ」

「あっそ。それじゃあ早速ゴブリン狩りに行こう!」

「それだけ?」


 地面に足を付けてエリアの奥へと入っていく。

 太陽の光は射さないが――人口太陽が存在している世界。都市の中心部に置かれている人口太陽は――エリアによっては届かない。

 現実の太陽ほど、本物の太陽ほどのエネルギーは無い。

 このゲームの設定にある独自のエネルギーによって稼働している人口太陽。

 それは乗り物や武器にも活用されている。


「おおお! 早速敵を発見なり!」

 

 現れたのはスライム。

 プルプルと震えているスライム――ゲーム内だったら相手にもしない敵ではある。

 豊にとって初めての敵。

 それが実際に現れたのだ。


「何かおいしそうだな」

「それじゃあ、レッスン1。まずは動きに慣れよう」


 VRMMOでは脳内の信号を操作して行う――つまりは実際に体は動かしていない。ゲームで当たり前にやっている激しい戦闘が出来るのか。

 最低でも出来る様にしなければ生きていけない。


「ほら、さっさと構えろこのゴミ屑野郎」

「白狐さん。着いて行けないからとりあえず普通な感じでお願いします。急すぎて着いて行けない」

「何だよ。弱っちいな。分かったよ」


 目の前にいたスライムはそのゼラチン質の体を震わせながら二人の元へとゆっくり近づいていた。

 

「うん?」


 あと一歩と言う所で動きを止めたスライム。


「なっ」


 今まで遅かった動きからは想像も出来ない速さで豊を襲う。

 やわらかい弾性を利用したスライムの攻撃に――豊は反応しきれなかった。


「うおお」


 スライムに頭から食べられる豊。

 スライムの特徴は体全体で獲物を多いゆっくりと体内にある溶液で溶かしていく。

 

「それ本気でやってる? 狐奏曲コンチェルト


 魔法の杖を持っている右手の人差し指と小指を立てて握った白狐は軽く杖をふるう。杖から出た白い炎がスライムを焼いて行く。

 甘く香ばしいカラメルの匂いが豊を覆う。


「ぷはっ……。死ぬかと思った」


 息を切らしながらペタペタする顔を豊は拭った。その様子を呆れたように白狐は見ていた。


「死ぬかと思ったって。スライムだよ、あれ」

「知ってるけど……あんな早いなんて思わなかったんだ。ゲームの世界では簡単に避けれたのに」

「遊びと本気を一緒にするなって教訓だね」


 顔に掛かった粘液を拭き終えた豊。

 

「次は助けないからね。ほらさっさと小鬼ゴブリン見つけないと」

「はあ、先が思いやられる……」


 まさかここまで違うなんて。

 豊はそう感じていた。

 自分で体験できるとはうたった新世代のゲームであろうと――ゲームには変わりがなかった。戦いの恐怖も何も分かってはいなかった。

 最もそれがないからこそここまで人気になっているのだが。


「白狐」

「ん、何?」

「君もさ――『プレイアブル』に襲われたの?」


 自分より一回りも小さい少女は一体どれだけの視線を潜り抜けてきたのだろうか。


「私はこのゲームが発売した時からやってるから12歳からかな」

「12歳……」

「その直後に襲われたから――かれこれ3年たつわね」

「3年!?」


 こんな恐怖を3年も味わっている。

 豊には考えられない。

 12歳の時自分は何をしていたのか――全く思い出せない。

 小学生だったかな――ぐらいの感想しかない。

 

紳士スートは1年前だから私の方が先輩だね」

「そっか」


 何事も無いように白狐は歩き始める。

 あまり話したくないのだろう。


「ほら、あんたもすぐ戦力になってもらわないと」


 エリアの奥へと進んでいく白狐。

 

「あのさ、技ってどうやって出すの?」


 歩きながら質問する豊。

 技の出し方が分かれば多少戦えるようになる。


「技? 技は音声認識だよ」


 声に出すか想像するか。

 音声認識の方が技が出しやすい為――多くのプレイヤーがそちらを選択している。


「そこは同じなんだ」

「ゲームのキャラと同化してるからじゃない?」

「なるほど。ゲームのキャラと同化してるから――ある程度は操作が引き継がれてるって事か……」

「あ、ほらスライム! こんどはしっかりね」

「うん」


 今度は油断せずにしっかりとランスを構える。

 武器も戦闘をしようとすると勝手に現れるようでさっきは出せなかった。

 ランスを構えてゆっくり震えているスライムに狙いを定める。一定の距離まで近づかなければあの素早い攻撃はしてこない。


「せいっ」


 豊の初めての攻撃は見事にスライムを貫いた。

 貫いたスライムはコインを落としながら消滅していく。


「やった……」

「うん! 大した経験値は貰えないが実際の経験では多く手に入れたね」


 手をたたいて喜んでくれる白狐。

 そうしていると年相応の可愛い少女である。


「その調子で小鬼倒しちゃおう」

「簡単に言ってくれるよ……。でもちょっと慣れてきたかも」


 身体の調子も良くなった気がしている豊。

 これならば小鬼程度倒せる気がする。


「白狐! 『プレイアブル』が現れました! って、あれ?」


 プレイ部屋に唐突に現れた少女。

 白狐とは違い黒い髪をマッシュにしているこの少女はいきなりその場に現れたのだった。


「いま、白狐はゲームの中ですよ?」

紳士スート

空間トリップ。別に白狐に頼らなくても自分で戦えるでしょう?」

「そうですけど……。私いっつも皆さん移動させる為に全国駆け回ってるんです。それなのに――戦いもなんて」


 少女は手に持っていた本を開いて閉じてを繰り返し、怒りをぶつける。泣きながら怒る空間トリップ

 紳士スートはため息を付いて部屋に入る。

 

「僕も今しがた仕事してきたばっかりなんですけど。分かりました、僕が行きます」


 本で口元を隠しながら紳士を《スート》へ自分の理想をぶつけた。


「何してるんです。早くその場所へ向かいましょう」

「やだ」

「は、何を言ってるんですか?」

「白狐がいい」


 忘れてた。 

 紳士は顔に右手を当てて天を仰いだ。

 空間 《トリップ》は白狐が大好きだったんだ。

 普段はふざけてばかりいる白狐ではあるが、何故か空間 《トリップ》にはいいお姉さんを演じていた。

 年齢的には空間トリップの方が上ではあるが。


「馬鹿な事言わないで下さい――こうしてる間にも『プレイアブル』が」

「……」

「あー。帰りにあなたの大好きなドーナッツ買って上げますから」

「わーい」


 紳士スートに飛びついた瞬間二人の姿が消えた。

 空間トリップの力。


 移動系・特殊能力ライド――瞬間移動《ページ飛ばし》

 自由に空間を越える力であった。

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