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ゲームの世界

全く。嫌な夢を見た」


 豊は自分の夢の内容を思い出す。

 タンスに貫かれ――バイクに縛られ高速で道路を駆けていく夢。


「ゲームのやりすぎかな……って、ここ何処?」


 目が覚めた場所は自分の寝室では無く――保健室の様な場所。豊はほとんど保健室に言った事がない子供だったのでなんとなくしか分からないが。


「あれ、目が覚めたみたいね」

白髪しらが……の少女?」


 知らない場所で白髪の美しい少女がいた。

 自分は異世界に迷い込んだのかと思ったがそんな事はなく、普通の世界だった。


「白髪いうな! 私は荒木 美穂。『白狐』だ」

「白狐?」

「ああ。君でいう所の『ジェネラス』と同じ意味だ」

「それは……」


 ジェネラスとは豊が『ナイト・ライド』をプレイしている時のキャラクターの名前であった。

 何故初めて会ったこの少女はそれを知っているのだろう。


「まあ、私に掛かればこの程度……」

「何が私に掛かればですか」

「げ、『紳士スート』」


 紳士スートと呼ばれたのは燕尾服を着用していた男。丁寧な物腰ではあるが、その威圧感に豊は少したじろいた。


「そんな怯えないで下さい。私はこう見えても紳士ですから」

「紳士が自分からそんな事言うかな~」


 わざとらしく幼い声でとぼけている。

 状況がよく分からない豊ではあるが――この二人が仲がいい事だけは分かった。

 

「馬鹿な白髪は置いといて」

「置いとくな!」

「どこまで君は覚えてますか?」

「ええと……」


 置くなよー。

 白髪をゆらゆら左右に揺らしながら紳士スートの邪魔をしようとするが、それを機にもせずに話を続ける。


「ああ。昨日の夜――コンビニに向かった事は覚えてますか?」

「はい! それで……騎士?」


 記憶が徐々に蘇っていく豊。


「あれ、あれ……あれ!?」

「夢じゃないぞー」


 戻ってきた記憶に驚いた豊。

 ペチペチと豊の頬を叩きながら大笑いする白狐。


「ええ。君は昨日の夜――『プレイアブル』に襲われたのです」

「『プレイアブル』?」

「『プレイアブル』とは『ナイト・ライド』の――プレイヤーが操作しているキャラクターです」

「あっ!」


 だから見たことがあったのか。

 豊はそこで気づく――あれは自分が作ったキャラクターだった。


「何で……」

「さあね。私たちも原因は分からない」

「分からないって」

「ただ――戦えるのは私たちだけ」

「そう。君もその力を手にしたのです」


 ごく稀に『プレイアブル』と同化する人間がいる。

 それはすなわち――ゲームと現実を行動できるという事。


「同化ってそれにゲームで行動?」


 豊の理解が追いつかなくなってきた。


「やっぱさ、経験するのが一番だよね」


 白狐は豊の首根っこを掴んで保健室をでる。

 そして何個か部屋を通り過ぎ一際大きな部屋へとたどり着いた。    


「ここは?」

「ここは私たちギルド――『現実主義』のプレイ部屋」


 十個置かれている『ナイト・ライド』のゲーム機。


「現実――って、え、『現実主義』って!」


 ガクから聞いた伝説のギルドの名前。


「私たちも有名になったわね」


 紳士スートが遅れてプレイ部屋へと入ってくる。

 『現実主義』の一番の異常度はその人数になる。トップギルドは規模も大きく何十人、何百人と存在しているが――『現実主義』はたったの十人。

 

「しかし、人数が不足していまして」


『現実主義』は同化した人間たちのみで構築されている。

 そしてその目的は――。


「現実に現れる『プレイアブル』達の討伐」

「え、でもそれじゃあゲームやる意味は?」


 現実に出てくる『プレイアブル』の討伐ならばわざわざゲームをやる必要はないのではないのか。

 豊はその疑問を白狐――ではなく紳士スートに聞いた。


「え、今私見たよね? ねえ、見たよね。なぜ変えたし」

「それはですね。ゲームのレベルが私たちの強さに影響するからです」

「レベル……。それじゃあ、装備も!」

「その通りです。更に厄介なのは高レベルのプレイヤーほど現実に現れやすい」

「高レベル?」


 レベル100がMAXなこのゲーム。

 豊のレベルは30。まだまだ初心者のプレイヤーだ。

 それなのに何故豊の『プレイアブル』が現れたのか。


「だから対応が遅くなってしまいました」


 申し訳ありません。

 頭を下げた紳士スートの頭をキョロキョロとあたりを見回して――白狐が叩いた。


「白狐……」


 頭を下げたまま白狐を睨む。

 いつの間に取り出したのかその手にはトランプが握られていた。


「よし! あとは私が説明するから『ナイト・ライド』へゴー!」


 ヘッドギアを装着した白狐の姿が消える。


「えっ」

「同化した者たちはゲーム世界へダイブするのです」

「え……」


 普段ならゲーム中は固定されてプレイを行っている。しかし体ごと向こうの世界に行ってしまったと言う事は。


「察しの通りです」


 ゲームでの死は現実での死。

 だがしかし――強くなるためにはゲームへと行かなければいけない。


「死のスパイラルから抜け出すには――強くなるしかありません」


 私は別の仕事がありますので。

 紳士スートはそう言って姿を消した。


「マジか……」


 残された豊は戸惑いながらもヘッドギアを手に取った。



 視界が一瞬暗くなる。

 そして目を開けた時には――『ナイト・ライド』の世界。

 太陽の光がない荒廃した世界。

 そこで凶悪な進化を遂げた獣たちと戦い、資源を集めていくのがこのゲームの世界観である。

 だが実際自分の五感で感じるとこうも違って見えるのか。


「お、来た来た『ジェネラス』!」

「何かそう呼ばれるのは違和感なんだけど」

「安心しなさい。君の『特殊能力ライド』が分かればそれに相応しい通称がもらえるって」


 妖術系・特殊能力ライド――白九尾。

 荒木あらき 美穂みほ 

 通称タックネーム 白狐


 召喚系・特殊能力ライド――絵札

 四種よつだね 陸玖りく

 通称タックネーム 紳士スート


「『特殊能力ライド』……」

「ゲームでいうチートみたいな物でもあり裏技でもある」

 

 でも、チートで人が使えるなら私は容赦なく躊躇なく使う。

 そうする事で私の望みが叶うのならね。

 最後に笑ってそう占めた白狐。


「ほら、さっさとメニュー開きなさい」

「メニュー?」

「とりあえずメニューって念じて」


 言われた通りに今までプレイしていた画面を思い浮かべると、いつもの様に画面が見える。


「本物だ!」

「そう。本当にゲームの世界に入ったみたいでしょ――あ、入ってるのか」

「えーと、とりあえずプロフィールを」


 事前に紳士スールのスルースキルを見ていたので真似をする豊。

 自分の画面を見ると明らかに数値が変わっている事に気付く。


「数値が無くなってる!」

「それは当然でしょ――人は数値じゃない」

「え、じゃあレベル関係ないじゃん」


 真面目に儚い表情で白狐は言う。

 しかし豊は何故かイラッと来ていた。


「なんでだろう。一番言われたくない人に言われてる気がする」

「ははは、褒めろ。褒め称えろ」

「いや、褒めてない」


 数値こそ表示されていなかったが――今まで無かったデータが表示されていた。それは『特殊能力ライド』。

 豊に与えられた力――


「『天使契約アームズ』」


 天使の力。

 天使と言っても豊はいまいちピンと来ていない。


「天使? いいなー」


 それじゃあ通称は豊穣で――ユラ!

 白狐によって新たな名前を手にした豊。

 生まれ変わった自分のステータスが表示される。


憑依系・特殊能力ライド――天使契約アームズ

岸部 豊

通称 豊穣ユラ

「見た目――5

 性格――2」


「ちょっと何付け足してくれてんの?」


 白狐が口で豊のステータスを付ける。

 見た目5、性格2。

 結構辛口に評価した白狐。そんな白狐を無視してレベルに着いて質問する。

  

「あの数値が無いなら何でレベル上げるんですか?」

「まあ、レベル上げれば多少強くなるし――何より装備が強力なの付けれるからね」

「装備は確かにでかいですね」


 装備が強力になればつけられる『効果』の数も増えてくる。


「もっとも、私たちほどになる現時点での最高レベル90でカンストしるけどね――古株なめんな」


 白狐の装備は魔法少女シリーズの最高ランク。

 白をベースにピンクのラインが入るフワフワの装備を着用していた。女の子に人気なこのシリーズの特徴。

 それは『空中浮遊』である。

 服を着ただけである程度の制限はあるが空を飛べるようになる。爽快感と移動の便利さが売りの装備。

 それに対して豊の装備は静養をモチーフにした鎧。

 大きな特徴は無い――その分高い防御・攻撃力が魅力的な初心者向けの装備である。


「とりあえず、この状況になれる為に簡単なミッションでも受けるかね」

「簡単ね……」


 簡単でもいざ自分が戦うとなると心配になる豊。

 ゲームの世界だろうと実際の戦いは本物で――ランスに刺されたのも事実。

 自分を貫いた武器を使用するのも気まずいが――使い慣れた方がいいとの白狐との意見だった。

 ちなみに白狐の武器は魔法の杖である。

 妖術使いで魔法の杖。

 統一しろと豊は思うがそちらの方が白狐らしいと無理やり納得した。


「よし、それじゃあミッションレベル10! ゴブリンの討伐みってみよー!」


 こうしてゲームの世界での豊の初めての冒険が始まったのだった。


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