よろしく
「そういえば、お名前」
ボクの言葉に、てんしさまはこてんと首を傾げた。
可愛い……じゃなくて。
「モンシロチョウは、種類の名前だよ。てんしさまの名前は?」
「そうだったの? 蝶々は名前で呼び合うことがなかったからなぁ。……あ、そうだ。テツくんが付けてよ。あたしの名前」
良いことを思いついた、とばかりににっこり笑う、てんしさま。
ぼくが名前を付ける? 良いのかなぁ。なんとなく、責任重大な気がするぞ?
確か結構前に、お母さんが言ってたな~。ボクの名前は、意味があるって。適当に付けたんじゃなくて、たくさん考えて、付けたんだよって。
ならぼくも、意味のある名前を付けなくちゃ!
う~ん……てんしさま、かわいい、真っ白、ちょうちょ……。
顎に手を当てて考える。お父さんがこの前やってて、かっこ良かったんだよね。
「う~ん……あ!」
ひらめいた! ピンと来た! 雷がドピャーって当たった感じ。
「スノウ!」
思わず大きな声が出た。だけど気にならない。だって、こんなに素敵な名前を思い付いたんだもん。
突然叫んだぼくに、てんしさまはこてんと首を傾げた。
「てんしさまの名前は、スノウ。スノードロップの、スノウだよ。白くてかわいいお花なんだぁ。意味は、天使の贈り物」
スノードロップは、お母さんが好きな花なんだ。だから、覚えてた。
真っ白な、かわいいお花を咲かせるスノードロップ。しかも、天使の贈り物だなんて……まさにてんしさまにぴったりだ。
「スノウ……」
てんしさまは小さく呟くと、にっこりと笑った。
あんまりにも嬉しそうに笑うから、ぼくはてんしさまから目が離せなかった。
まるで燃えてるみたいに、顔が熱くなる。なんだろう、これ。心臓も、いつもと違って大暴れしているみたいだ。
「ありがとう、テツくん。すっごく嬉しい。……あたしの名前は、スノウ。改めて、よろしくね」
ふわっと笑って、片手を出すてんしさま、じゃなくてスノウに、ぼくは少し恥ずかしさを感じながらも、その手をそっと握った。
「よろしく、スノウ」