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海辺の蝶  作者: 宮野 圭
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はじめまして

「てんしさまだ」


 白く美しい彼女に、気づけば勝手に言葉がこぼれた。

 自分のいった言葉に気づき、急いで口に手をやると、クスクスと控えめな笑い声が耳に届いた。

 それはとても聞いていて心地よく、いつまでもこの笑い声を聞いていたいと思った。

 笑っている姿さえも美しい彼女に見惚れていると、ぼくが怒っていると勘違いしたのか、彼女が笑うのをやめた。


「ごめんね? 笑ったりして」


 彼女の口から紡がれた言葉は、今まで耳にしたことのないきれいな音を奏でる。

 なんだっけ。こーゆうとき、男が言う台詞。なんだったっけ~。あー、こんなことなら、お父さんの"イケメン講座"、真面目に聞いとくんだった。


「えっと、謝ることは、ありません。てんしさまの、お美しい、お言葉が聞けて、わたくしは、かんげきでございましゅっ!」


 ……う、噛んだ。べろ噛んだ。

 いったい。あー、サイアクだ。カッコつけようとして、かっこわるくなった。ちくしょう。


「……ふっ。ふふっふふふ……」


 てんしさまをみれば、肩を震わせて笑っている。

 まぁ、てんしさまが笑ってるなら、それでいっか。

 ぼくはもう心の広い、過去を振り返らない、大人の男だからね!


「ぼくの名前は、テツ。昨日で六歳になりました。てんしさまの、お名前を、教えてください!」


 少し緊張しながら、それでも最後まで言い切ると、てんしさまは、ふわりと笑って頷いてくれた。


「あたしは、てんしさまじゃないよ。蝶なの。えーっと名前は確か、モンシロチョウ、だったっけ」


 こてんと首を傾げるてんしさまに、ぼくは目を丸くした。


「えっ! ちょうちょなの?!」

「うん、蝶々。あのね、午前中、テツくん蜘蛛の巣に引っ掛かった蝶々を、助けてくれたでしょ? それがあたしなの。テツくんにお礼がしたくて、神様に頼んで人間にしてもらったの」


 てんしさまはにこにこしながら教えてくれた。


「すごいや。あのときのちょうちょが、てんしさまだなんて。しかも、神様に会ったなんて、かっこいーね! ぼくも神様に会ってみたいなぁ」

「ふふふ……テツくんならきっと、いつか神様に会えると思うよ」


 うっとりした目でてんしさまを見つめると、てんしさまは優しく微笑みながら、そう言ってくれた。

 ぼくなら神様に会えるのか……。うん、ぼくもそう思う。


「それでね、テツくん」


 ふっとてんしさまは真面目な顔で、ぼくを呼んだ。こてんと傾げられた顔は、少し不安そうに見える。いったいどうしたのかな?


「なぁに?」

「あたしと……お友だちになってくれる?」

「なぁんだ、そんなことか。もちろんだよ! てんしさまが、ぼくの初めてのお友だちだ。よろしくね!」


 満面の笑みで答えると、てんしさまは少しビックリした顔をしたあと、笑顔でぼくの手を握り返してくれた。

 てんしさまの手はぼくより少し小さくて、ぼくより少し冷たかった。

 だけどぼくの心は、ポワーって温かくなったんだ。

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