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海辺の蝶  作者: 宮野 圭
2/8

アルバム

 ミーンミンミン……。


「あぢぃ~」


 自分の部屋で、床に直接寝転がりながら、今頭を占めている言葉を口に出す。出したところで、現状は変わらないのだが……。

 ゴロゴロと転がりながら、少しでも冷たい場所を探す。

 実は、朝からずっとこの調子。一日中部屋でダラダラしていた。暑くて暑くて、とてもじゃないが、動く気になれなかった。


 今年の夏は、やけに暑い。

 毎年同じことを思ってる気がしなくもないが……。きっと年々地球の温度は上昇しているんだ。そのうち地球は燃えるな。

 ミンミンと、命を削りながら、全身で鳴いている蝉の声も、温度上昇を手伝っているようにしか、思えないし。むしろ応援してる?いや、逆に反対運動を起こしてるのかも。……どっちにしろ、暑苦しいのには変わりないか。


 窓の外を見れば、ようやく、昼間ギラギラと、その存在を鬱陶しいほど主張していた太陽が、沈み始めたところだった。


 でも、暑さは変わらない……。


 俺は、暑さから気を紛らわそうと、近くにあった幼い頃のアルバムを手に取った。まだ俺が、世の中の汚い部分なんか知らず、純粋だった頃の写真が挟んであるアルバムだ。


 お皿に沢山盛られたスイカを、満面の笑みで食べてる写真。捕まえたトンボを得意気に掲げてる写真。遊び疲れたのか、虫取網を片手に、お腹を出してお昼寝してる写真。

 昔を懐かしく思いながら、ページを捲っていると、一枚の写真が目に留まった。


 それは、小さな男の子と、女の子が、楽しそうに笑っている写真だった。

 二人はよっぽど仲が良いのだろう。並んで座っている二人の距離は、ほっぺがくっつきそうな程近い。


 俺はその、写真の中で笑っている、小さな女の子から、目を離すことができないでいた。


 いつの間にか、あんなに五月蝿かった蝉の声が、聞こえなくなっていた。

 聞こえるのは、ドクンドクンと、いつもより少し早く動いている、自分の鼓動だけだ。


 俺は、あの夏に起こった、あの、不思議な出来事を、思い出した。


「そういえば、あの夏も、やけに暑かったな……」



〈海辺の蝶 アルバム〉 

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