殺人者の女
星新一のショートショート風です。
久々に読んで気になったので書いてみました。
「やあ」
「どうも」
「今日は天気が良いですねぇ。実に素晴らしい朝だ」
「そういえばそうですね。気がつきませんでした」
「天気が良いのだから外に出てきているものだと思っていました」
男がそう言うと女は黙った。
男は終始無表情である。
「実は、さっき夫を殺したところなんです。だから気分転換にというかなんというか」
「ほう。それは落ち込みますなぁ。周りが見えなかったというのも分かります」
「今日がこんなに晴れていたら殺してはいなかったのに…。私は最初から周りなんて見えてはいなかったんでしょうね」
女はため息混じりに言うが、顔は血行の良い色をしているし悪びれた様子もなかった。
「それじゃあ、僕はそろそろ散歩を再開するとします。そんなに落ち込まないで。それではまた」
「さようなら」
やがて男が去ると女は頭皮をひっぱった。すると頭の後頭部の所が開いた。そこからマイクロチップを抜き取る。そして、ポケットにいれておいた別のマイクロチップを取り出すと、また頭に差し込んだ。
技術が進歩した世界では、自分の好きなロボットを作り結婚することが可能だった。
人間として生まれたものも自らの体をサイボーグにすることが当たり前になっていた。
女は結婚したロボットが飽きたと言い、その気に入らなくなった顔を切り裂き、使える部品だけを残してロボット製作所に持っていくところであった。ロボットが使っていたマイクロチップのデータは、自分のチップにコピーして初期化する。こうすることで、またチップは再利用できるし、自分の知識も増やすことができた。
朝の男も何度も殺しているし、他の人も数人は殺しているだろう。女も殺人者ではなくただの一般人だった。
2098年の天気の良い朝の会話には当たり前で日常であった。