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「決めろ! ナギト!!」

「応!!」

俺が右手の剣を振り下ろすと、狼型の魔物は悲鳴を上げてその場に倒れる。そして虚空へと消えた。

それと同時にバトルフィールドが解除される。

「ふむ。他のゲームで慣れてるってのもあるんだろうがなかなか筋がいいな。与えるダメージは少ないが」

俺の動きを見たロックが感心したように言った。

「そりゃ、まだレベル3だしな」

「まあ、それでも木刀でここの魔物を倒せるのはすごいよ」

「あとレベル2くらいあればもうちょっとマシな武器装備できるんだけどなぁ」

ここのゲームではレベルにあった装備しか装備することが出来ないらしく、今のところ俺は木刀しか装備することができない。まあ、レベル1で伝説級の武器は装備できないってことだ。

そういえば、別のサイトでレベル1で最強装備で無双してた奴がいた。おそらくゲームバランス調整のためのルールだろう。

「ま、はじめは地道にレベル上げだな。頑張れよ」

「へいへい。あ、湖ってここのことか?」

俺たちは町から出て近くの森へと移動していた。今、いる場所は少し開けた場所で小さな湖がある。

ここの湖の水を五個採取することが俺たちが受けたクエストの内容だった。まあ、いかにもな初心者用クエストだ。

「そうみたいだな。意外に早かったな」

俺はよろずやから預かってきた瓶に水を汲む。

「しかし……」

ロックが腕を組んで辺りを見渡した。

「どうしたんだ?」

「いや、やっぱり今日も魔物の数が少ないなと思ってな」

「魔物の数……たしかに、結構歩いた割りにはそこまでエンカウントしなかったな。こんなもんじゃないのか?」

「いや、俺が初心者の頃はこんなもんじゃなかった。ここに来るまでに普通に歩いて軽くレベル10くらいあがる程エンカウントしてたからな」

「そんなに?」

「ああ。初心者向けのダンジョンやフィールドは場所を問わず簡単にレベルが上がれるようになっている。そうしないとバランスが悪いからな。それが最近、ここ数週間前から全てのダンジョン・フィールドで魔物の数が減退している減少が起きてるんだ。運営側に文句は言ってるんだが、未だに調査中です。お待ちくださいの一文だけだ」

「ふーん……」

「あ、初心者にする話じゃないな。まあ、プレイするぶんにはあまり支障はないと思うけどな」

曖昧に笑うロックに、俺は気になっていたことを突っ込んでみることにした。

「それって、要するにレベル上げがしづらくなってるってことだろ?」

「あ、ああ」

「RPGっていうのは楽しみ方は人それぞれだがやっぱりレベル上げに専念してる奴も多少いる。魔物がいなくなったらそのレベル上げの対象っていうのは一般PCにいくもんじゃないのか?」

「……」

「さっきから聞きたかったんだが、俺たちが町を出るまでに三度PC同士の戦闘終了の場面に立ち会ってる。サシの勝負ならまだいいが、集団リンチみたいなことされたりすんじゃないかってずっと思ってたんだけど……さっきの赤髪のPCみたいにさ」

「その点については大丈夫だ。一人一人のPCのウォッチャーを通して運営側が管理している。もしも、リンチ行為をしようとした場合、強制ログアウトされるようになってるからな」

「でも、それじゃあさっきの赤髪は……」

「運営側は全てのPCのレベルと能力値を把握している。互いのレベルを見て執行するかしないか判断しているんだ」

「あの赤髪……何者なんだ? 有名人なのか?」

「通称赤法術師。噂だと一度も戦闘で負けたことの無いPCらしい」

「は……?」

俺は唖然とした。戦闘で負けがないなど、ありえるはずがない。そんな俺にロックは軽く笑って言った。

「まあ、どうやったかは知らないけどな。数ヶ月前に入ったばかりの新人だったはずなんだが、気付けば一般PCが誰でも知ってるような有名人になっている。性格はお前も見たとおり最悪。あんまり関わり合いになりたくない相手だな。俺たち新人支援ギルドの仕事は、お前みたいな新人に普通にここで遊べるようにシステム内容やルールを教えることと、赤法術師みたいな危険な奴の情報を教えることなんだ。今日赤法術師に戦闘しかけたのは、多分レベル上げが思ったほどいかなくて弱そうなPCを襲う新人連中だろうな。赤法術師からの被害をなるべくおさえたいとは思ってるんだが」

「けど、それは襲った奴らの自業自得だろ」

「相手が赤法術師じゃなければ普通にそう言えるんだがな。ま、お前は赤法術師に関わらないってことを覚えておけばいいよ。それから、よかったらこれから先、新人に出会うことがあったら、今日俺が教えたことをお前が教えてやってほしい。俺は今日が最後だからな」

ロックはそう言うと、少し名残惜しそうに空を見上げた。

「え? もうログインしないのか?」

俺が尋ねると、ロックは恥ずかしそうに頭をかきながら答えた。

「ああ……実は俺、幼馴染と婚約しててさ、近々結婚するんだ。これまでは一人身だったから好き勝手やってこれたんだけど、彼女からもうネットゲームはやめてくれって言われててな。今日が最後のログインなんだ」

「……あ、お、お」

「お?」

「お、おめでとうございます!! 結婚するんですか!? っていうか、ロックさん年上だったんですか!? てっきり同年代かと思ってため口きいてすみませんでした」

思わず頭を下げる俺に、ロックは慌てて手を振る。

「いやいやいや、今までどおりタメ口でいいよ。それにPCネームにさんづけされるのも何か変な感じがするしな。今日はどうしようか迷ってたんだが、お前みたいなPCと最後に冒険できて楽しかった。ありがとな」

ロックが差し出した手を俺は、強く握り締めた。

そこに、湖の奥から歩いてくる一人の男の姿が目に入った。遠目で見ても一目でわかるほどの銀髪の美形PCだった。背中には大剣を背負っている。大剣士だろうか。

その男は俺たちの姿を見つけるとすたすたとこちらに近づいてくる。

すると、横にいたロックが身構えた。慌てて俺も身構える。同時にショートメールが届いた。

『油断するな。見たところかなり上位レベルのPCだ』

ロックからのショートメールだった。俺がちらりとロックを見るとロックは静かに頷く。

男は俺たちの前で立ち止まると俺とロックを相互に見て「二人だけ?」と尋ねてきた。

「あ、ああ。あんたは一人か?」

答えたのはロックだ。すると男は笑って言った。

「良かった。あたしは一人よ。安心してちょうだい」

「……」

「……」

男の一言に、俺とロックは言葉を失った。一瞬頭が真っ白になった俺にまたロックからショートメールが届く。

『こいつ、ネカマか? おかまか?』

『お、俺に聞かれても……ロックが直接聞いてくれよ』

『俺がか?』

『他に誰がいるんだよ』

そういうやり取りをこそこそしていると、なかなか喋らない俺たちを見かねて男が口を開いた。

「あなたたち、ここで他にPC見なかった?」

「俺たち以外にか? ナギトは誰か見たか?」

ロックに尋ねられ俺は首を横に振った。

「そう。困ったわね……デマだったのかしら?」

真剣な顔で腕を組む男に、俺は「どうかしたのか?」と聞いてみた。

「いえ。ここにあたしが追ってる男がいるって情報があったから来てみたんだけど、どうやらデマだったみたいね。変なこと聞いてごめんなさいね。それじゃ、ごきげんよう」

男はにっこりと微笑んでそれだけ言うと、俺たちが来た方へ歩いていってしまった。

「何だったんだ……?」

「さあ……」

「ま、何はともあれ初クエストおめでとう。ナギト。あとはその水をよろずやに届けたら終りだ。後は一人でも大丈夫だよな。俺はもうログアウトするけどお前どうするんだ?」

「とりあえず、俺もログアウトするよ。明日学校だし、それに妹の誕生日プレゼントのこと考えないといけないし」

「そうか。それは大事なことだな。一応俺のパソコン用メールアドレス教えておくよ。何かあったら気軽にメールしてきてくれ」

するとロックからショートメールが送られてきた。本文にはパソコン用のメールアドレスが記載されている。

「ありがとう」

「じゃあな」

ロックはウォッチャーを開いて操作するが「あれ?」と顔をしかめた。

「どうしたんだ?」

「……おかしいな。壊れたのか? おいナギト、お前のウォッチャーでログアウトしてみてくれ」

「へ……ああ、わかった」

ロックに言われた通り、ウォッチャーで操作してログアウトを選んで決定するが、何も起こらなかった。

「あ、あれ?」

「お前もログアウトできないのか。こりゃ、サイト自体のシステム不全か? とりあえず——」

突然、目の前にいたロックの姿が消えた。掻き消えたというより、ワープするときの効果と同じような消え方だった。

「ロ、ロック!?」

そして俺のPCにも同じ効果が現れ、俺の視界は真っ暗になった。


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