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第三章 弟子品(6) 懺悔の道を優波離に聞く

 

 佛告優波離汝行詣維摩詰問疾優波離白佛言世尊我不堪任詣彼問疾……

 

 

 優波離(うはり)尊者は、ブッダと同じ釈迦シャーキャ族の出身ですが、ブッダが王族だったのに対してこちらは奴隷身分だったようです。

 インドにはカーストと呼ばれる身分制度があり、奴隷身分の人々にもそれぞれ専門職があるわけですが、優波離は理容師を仕事としていたようで。

 ある日、大勢の釈迦族がいちどに出家し……そのときに優波離は「今日は私の頭をいちばん最初に剃ってください」と申し出、ブッダはこれを快諾しました。

 身分の低い優波離を貴族たちより先に入門させることで、「ブッダの弟子は平等であり、出家以前の身分はもう関係ない」ということを全員に理解させる意図があったのでした。

 のちに阿羅漢となってからは十大弟子で「持戒第一」と言われ、第一結集の時には戒律部門の経典をまとめる責任者になったとの由。


「キミ、維摩詰ヴィマラキールティの見舞いに行ってきてくれ」

 すると優波離が言うには……


尊い先生(ヴァガボン)、私ではその任に耐えません。なぜかというと……忘れもしません、昔、2人の比丘がいまして。戒律を犯して、それを恥じていたのです。」


 かつて仏教徒には「盂蘭盆会(ウラーバナ)」という習慣がありまして。毎月14日の満月の日(注:太陰暦)に仏教徒どうしで集まって戒律違反を告白しあい反省し、お互いに許しを与え合うという方法で懺悔しておりました。

 しかしいろいろあって盂蘭盆が日本に定着したころには形が変わり、「苦しんでる餓鬼(いつも飢えている死霊)に食べ物を布施するという子孫の行為を先祖の霊の功徳に回向し、また生きてる僧侶や先祖の霊と食事をともにする」という、年1回の「お盆」というお祭りになったわけですが……なんでそうなったのかは「盂蘭盆経」という短めの経典をご参照ください。


 さて、優波離尊者はこのとき2人の比丘と14日の盂蘭盆会を行ったようですが……。


「……2人の比丘が、戒律を犯しまして。しかしあまりにもそれを恥と感じていたためにそれをブッダに告白することができず、私のところへ告悔しに来たのでした。


『優波離さん、私たちは戒律を犯しました。けれど、自分たちの心の汚れていることが恥ずかしすぎてブッダに言うことができません。なのであなたが私たちの懺悔を聞き、私たちの疑問を解決して、罪を打ち消してください。』


「そこで私は、戒律とダルマについての説明をしようとしました。そのときに維摩詰が来まして、こう言ったんです。


『優波離先輩。この2人の比丘に、さらに罪を重ねさせようというのですか? 罪を打ち消そうというならそれを悔いる心理ごと消さなければ、(また悔いが生じるから)無意味ですもの。

『なぜかというと、罪というものは、彼らの内にもなく、外にもなく、内と外以外にもないからです。

『ブッダもは言われました「心が汚れると衆生も汚れる、心を浄めれば衆生も浄い」と。

『心もまた、彼らの内にもなく、外にもなく、内と外以外にもありません。心がただそこに在るように、罪の汚れもまたあるようにして在るだけで、すべてのダルマ(存在)として在る。それ以外のなにものでもないんです。

『優波離先輩、解脱した心は、汚れていますかいませんか?』


「『そりゃ、汚れてはいませんよ』 と私は答えました。すると維摩詰は……


『すべての衆生の心も、また汚れてなんかないんです。

『優波離先輩、心が汚れていると思うのは妄想で、浄いのが本当の姿なんです。汚れていると思うのは間違いで、浄いのが本当なんです。

『汚れは落とせるけど、浄さは洗っても磨いても擦っても落とすことができないでょう?

『すべてのダルマ(存在)は、なくなりもしなければ永遠にそのままでもありません。幻のように、イナヅマの光のように、すべての法は形の無いものですもの。法(存在)とはすべて、妄想が見せてるものなんですよ。

『夢のように、炎のように、水に写った月のように、鏡に映った虚像のように、妄想は生じます。

『それを知ってる人はしぜんに戒律を守るでしょう。そしてそれを知ってる人を善解(よくわかってる人)といいます。』


「こう聞いて2人の比丘が驚きました」


『すごい智慧プラジニャーだ! 優波離さんの説明でもここまでは……ブッダが戒律第一と認めた優波離さんでも、ここまで解かり易くは説説明できなかったのに!』


「私もすぐに2人に言いました。」


『このおじさんをただの在家信者だなんてナメちゃダメだよ? 声聞(直弟子)でも菩薩でも、如来タターガタ以外で、このおじさんほど上手に法を説明できる人はいない。明るい智慧とは、まさにこの人のようなことを言うんだ!』


「2人の比丘の疑問も即解決し、阿耨多羅三藐三菩提心を起こして、『すべての衆生がこのおじさんのような智慧を得られるようにしたい』という願いを立てました。こういうわけで、格が違いますから、私は彼の見舞いをはたす自信がありません。」


 ブッダは困ってしまって、次は実子でもある羅喉羅ラーフラに……



 ---つづく 

 


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