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序盤だけ

序盤だけ  2

作者: 月読 龍


記憶5

それはとあるアパートの一室で始まった。

ブザー音で部屋の主が呼び出される。

反応はしない。

携帯が鳴り出す。

「はい」

簡素な応答しかしないが、現時点での作者の周りでの一般的な対応だ。

「お兄ちゃんひどいじゃない!」

いや、君は妹じゃ無いからね。

そう心の中で突っ込みを入れておく。

致し方ないといった感じで部屋の中に進入を許す。

まだなにか小言を続けてるようだがまぁ無視だ。

「せっかくお土産持ってきたのに…」

食い物か!?

差し出されたのは地元の和菓子・・ではなく近場の県でなら比較的入手しやすい和菓子。

ただ、個人的な好みの一品。

封を開けてみると木のヘラが入っていた・・・本店?

「お兄ちゃんの為に昨日、一人で本店に行ってきたんだよ」

電車でも車でも一日かかる場所だが、やはり本店は違うのでとても有難い。

あそこのカキ氷も食べたくなる。

見るとお茶のペットボトルも買ってきてあるようだ。

「どのみちお茶は無いと思って買って来といたよ」

茶葉の片付けが面倒だからありがたい。

茶碗に注いでからお湯を少し入れる。

電子レンジでも良いがお湯割りは一人暮らしの基本よね。

彼女もお湯割りを飲んで意外と気に入ったようだ。

「んで、今回の目的は住居探しだっけ?」

「うん、よさそうな所を一緒に探してくれる?」

上目遣いで伺うように覗き込んでいる彼女は本当に成長したんだなと感慨にふける。

4月から社会人になると言う事で早々に就職先も決まり、夏休みを利用して現地確認に来るとはなかなかに几帳面だ。

「それは良いが、どこに泊まる予定なんだ?」

この問いに動きが停止した。

しばし停止した空間を越えて彼女は近づいて来た。

「聞いてないの?」

なんの事だ…

そう考えても不思議は無いだろう。宿泊期間は夏休み丸ごと40日。

年頃のお嬢さんが親戚でも独り身の男の家に泊り込むなんて危険を冒す…

不意に携帯を取り出し電話を掛ける。

しばしのコール音が遠い。

『葉月か?』

名前を呼ばれても無視して本題、彼女の泊まる先を確認する。

返答は思考の中で最悪の方法だった。

『嫁に行って来ると言って出てったからお前の部屋だろ?』

行って来るって…

「おれは春から住む部屋探しに来ると聞いてたのだが?」

『だからお前と一緒に住む部屋を探すんだろ?』

…話しが噛み合わない。

「いつの間にそんな話しになったのかわからんが、そんな話しは知らんのだが…」

『若葉が16に成った時におじさんと入籍手続きすましてあるから気にするな』

4年前…そいや、親父が妙に上機嫌だったなぁ…

後で親父を絞めるか。

『春までは孫を作るなよ?だが3年後には居てほしい物だ』

ブツッ

思わず切っちまった。

この状況なら思わず切っても許されるよね?

「ふつつかものですが?」

三つ指ついて、疑問符でそのせりふはどうよ?

「これ、お父さんから」

手渡された封筒には現金と通帳。

現金も通帳残高も結構ある。

ふと考えてみる。

家賃が10万円前後で敷金礼金におよそ50万。

式を挙げる場合の費用がほにゃらら、ほにゃららで確か200万円程度。

生活用品を購入に新品で全部そろえた場合にほにゃららでやはり200万円程度。

余剰分が生活費として…結構本気だな、あのおっさん。

てか、多すぎだろう!

「それからおじさんからコレ預かったよ」

こっちもお金ですか?

確認するまでも無いようだ。

「こっちはおまけで、私から」

にこやかな笑顔が怖いのだが…

「バイトしたお金を貯めといたの。結構あるでしょ?」

机においてあるPCを起動して、近くのビジネスホテルを確認し始める。

「私が居ちゃ邪魔?」

「倫理を重んじる人間で居たいからな」

しばしにらめっこ。

若葉の顔が近づいてくる。


決済ボタンを押す直前、ぱそを閉じられてしまう。

ノートPCは閉じれば邪魔できれるのが欠点よね。


押し切られるのは判っては居るのだが、無駄な抵抗はしてみます。

結論、なんか知らん内に嫁ができててそれを認める羽目になり、今回は同棲っぽい感じで春からは新婚生活って事らしい。

無駄に廻る頭の中で最後によぎったのは結婚の報告および扶養控除と家族手当の申請を会社にしないといけないって事。


いやまて、面倒が多そうだ、その辺は後でゆっくり考えよう。


「出かける準備するからちょっとまってろ」

そう言ってシャワーを浴びる。

裸で出てきてわざと動揺を誘うのは愛嬌だ。

「お兄ちゃん!いくらなんでもそれは無いんじゃないの!」

真っ赤になって叫ぶ抗議の声は聞かない。

「俺の嫁なら気にするな」

「気にするよ!」

そりゃそうだろうが、ここは気にしない。

「慣れろ」

そう言って突き放す。

ワンルームの自分の部屋。

正直、脱衣所に着替えを置いたら狭くてしょうがない。

「ワンルームの間は諦めろ」

「んじゃ、私はどうするのよ」

当然の抗議です。

「したいようにすれば良い」

突き放しているようだが、同じ部屋に住んでたら下着姿位は見せても大丈夫じゃなければ一緒に居られない。

下着ぐらいなら都度持っていけば良いさ。

「見たいの?」

顔を真っ赤にしながら言う台詞では無いと思う。

どこまでからかうかは問題だが、まだ付き合っても居ない相手にどうしようか…。

「俺の嫁ならいずれ裸にひん剥くな」

言い方は色々あるが、まだ気を使ってやれない。

ふっと彼女に近づき、抱きよせる。

まだ強張ってるが問題では無いだろう。

軽く抱き上げてから、座るとひざの上に乗せてそのまま抱きしめる。

顔が赤いのは当然の反応だろう。

右手を背中から頭に回し、そっと頭をなでる。

自由な左手で彼女のあごを掴み自分の方に向ける。

動揺しまくりの彼女に優しげな笑みを浮かべたつもりで居る。

そっと目を閉じる彼女に唇を近づけて触れさせる。

ここまできてヘタレと思うかもしれませんがおでこですよ。

間をあまり置かずにぎゅっと抱きしめる。

耳元でそっと囁く。

「今はここまで。まずはデートしよう」

横に置いてさっさと服を着だす。

「子供扱い?」

少し不満げに言ってくる彼女への返答は簡単だ。

「どうせなら恋愛したくないか?」

嬉しそうな満開の笑みを彼女が浮かべ自分も満足した。

ふいに暗い顔をして不安そうに言葉をつなげる。

「やっぱりお兄ちゃんモテるよね?」

なんの事やら。

「間違いなく今はソロだし、お前が俺の嫁と言うなら過去は気にするな」

少し格好つけてみたものの、彼女が居た事は無い。

バレンタインも職場ですら貰った事が無い。

学生時代も社会人になっても周囲に女の子はそれなりにいた。

だから友人関係は男連中より女の子の方が多かった。

それと恋愛は別問題みたいだ。

「彼氏ができた」って報告なら幾らでも聞いたし、恋愛相談も結構した。

やっぱり居るから恋愛できるって訳でも無いよね。

準備ができて玄関に向かう。

後ろから着いて来てるのを気配で確認して振り返る。

「若葉、出かける時のルールを決めよう」

困惑したのか言葉が出てこないようだ。

「おいで」

そう言って両手を広げるとゆっくりとくっついて来た。

軽く抱きしめる。

「出かける時はこうしてからキスをくれ」

耳が真っ赤になってる。

伺うようにそっとキスをしてくる。

触れて即座に離れるあたり可愛いもんだ。

そのうち慣れるだろ。

ぎゅっと強めに抱きしめてから玄関を開けて外にでる。

間違いなく彼女は顔を真っ赤にしている事だろう。

夏だから手を繋ぐと汗ばむのは間違いない。

長袖のワイシャツをわざと着るのはこの為だよね。

腕に捕まらせて置けば、多少汗ばんでもシャツが吸収してくれるさ。

夏場の長袖シャツは少ないけど、スラックスにしてカラーシャツにしておけばそれなりさ。

軽く腕まくりしておいても良いし、カフスで袖元を光らせるのも手だ。

ちなみに、夏でもカフス派なのは、汗が周りでべとつくのが嫌いだから。

もちろん、会社にも長袖シャツです。

もう一点は汚れが袖の内側につく事。

ボタンで留めると外側に汚れがつくのでみっともないと思ってます。

洗濯してて悲しくなるもんね。

おっと、閑話休題。

歩いて数分、バス停にたどり着きバスに乗り込む。

最初に向かったのは駅の近くに有るショッピングセンター。

スポーツ用品売り場に行くとおもむろに寝袋を確認する。

「なんでそんなの見てるの?」

「今日からの俺の寝床だ」

言葉だけ投げて商品の確認を継続する。

「普通に布団にしようよ」

「半年後に引っ越すまでならこれで十分」

顔も向けずに言葉だけ返していく。

「予算はもっと大事な方に廻すから今だけ必要な物には最低限で済ます」

少し不機嫌そうな気配だったが、言葉が続いているので聞くだけは聞いているようだ。

「それに、キャンプとまでは行かなくても一緒に出かけるのに範囲が広がるぞ?」

聞いているのか?と疑問符調で声を掛けると、きっちり真剣に物を見ていた。

「私のはどれが良いかな?」

品選びに入ったらしい。

しばらくメーカーやらなんやら、品質が判らないので店員を捕まえて確認しつつ2個購入。

「んで、お兄ちゃんは何処に連れてってくれるつもりかな?」

「キャンプも良いけど、長距離ドライブで温泉めぐりに星空見ながら車中泊ってのもありだね」

バーベキューなんかの系統はもう少し調べてからゆっくり選ぶことにしよう。

そんな事を思いながら次の目的の品を求めに足を運ぶ。

百均。

目先の食器類ならコレで十分。

「普通のにしない?」

「それは後日に陶器市でも行って本当にほしい物を選ぶさ」

デパートで適当に買うぐらいなら製造元に行って良いものを安く買うのが個人的好み。

市で100円の物がデパートで数千円したり、時には100倍以上の値が付いている事がある。

価値はそれぞれだが、ほとんど輸送費や間に入った業者の手数料や人件費ではなかろうか。

「瀬戸物ですか?」

「瀬戸までは行きたくないな」

瀬戸物に限定して瀬戸に行かないと買えないのでは意味が無い。

「焼き物市なら適当に有るでしょ」

なんとなく判る気がする。

瀬戸の近くに美濃焼きがある。

現地への問い合わせで「瀬戸物はどこで売ってますか?」との問い合わせがあり、受けた人は「瀬戸に行って下さい」と答えたとか。

聞いた方は「陶器」を「瀬戸物」ではなく「セトモノ」と認識してたんだよね。

それは地元の人に大変失礼です。

瀬戸って土地があるんだから判りそうな物だがこの話しには続きがあって「市があるんですよね?」と続いて確認し「瀬戸物はありません」と答えたとか。

「何で売ってないんですか?」と更に問い、「こちらは美濃ですから美濃焼きです」と言われ一緒に考えてた物が違う事をやっと理解できたとか。

そんなこんなでとりあえず終了。

このまま車を借りに行く。

昼前に家に戻り荷物を置く場所を定め…る程のスペースは無い!

適当に置いてからごみをひとまとめにする。


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