プロローグ
本作品は歴史を一応準拠としてますが、史実改変を含む架空戦記です。
物語の都合上ご都合主義になってしまう事もありえますので、
純粋に歴史戦記物をご期待なさる方はお戻りになられる方がいいかもです。
また登場人物のセリフまわしや描写表現において、
読者がなるべくとっつきやすいよう、なるべく判りやすいように
現代風にアレンジさせていただいております。その点をご容赦ください。
拝啓
親父様、お袋様、大姉ちゃん。小姉ちゃん。お元気でしょうか?
こちらは元気にやってます。
ええと…、いまさらではありますが、突然先立つ不幸をいたしてしまったことを懺悔させてください。
社会人になる矢先のこの不幸…。育ててもらった恩を返せず本当にゴメンナサイ…。
ついでに俺のささやかな(?)趣味のせいで家族みんなに迷惑かけまくったことも併せてゴメンナサイ…。
でも少し言い訳をさせて下さい。
俺自身大怪我は予想できても、あんなことで死ぬなんて予想も想像もできなかったのです。
水溜りに張った氷に滑って転んで頭を打って打ち所が悪くて死亡とか…どんなギャグですかねー。
一時代前のコントじゃあるまいに…。
笑うに笑えない、葬式で言うに言えない死に様で本当に申し訳なくおもっておりますデス、ハイ。
ちなみにちょうど所用(?)で通りかかった神様に現場を目撃され、腹が捩れるほどに大爆笑されました。
絵文字は嫌いなのですが、その絵文字ばりに orz となっていたのでしょう。神様は涙をぬぐいながら謝ってくれました。
『いやぁスマンスマン。あまりにも…プッ…その豪快な、プふッ…死にっぷりに、思わず…』
時折噴出すのを我慢しているのがなければその謝罪も受け入れられたのでしょうが…。
堪えるくらいなら目撃した時みたいに遠慮なく笑えばいいのに。
笑いを堪える神様をあまりにも恨めしそうな顔をしてみてたのか、はっと気付いた神様はバツが悪そうに俺にこういいました。
『あ~悪い…。定めとは言え、君にとっては唐突過ぎる一生の終わりだものな。笑ってしまって悪かった。これ、この通り許してくれ』
そういうと神様はなんと頭を下げたのです。
神様に頭を下げられるとは思ってもなかったので、慌てて普通(?)にしてくれるようにお願いしたのですが、少し痛ましそうに俺を見ながらきっぱりといいました。
『いや、神としてあるまじき事をしたのにはかわらない。ふむ、これだけの事をしてしまったのだ、ただ謝るというだけでは神の名が廃るな』
いや…神の名が廃るといわれましても…。
あーでもないこーでもないとぶつぶつ独り言をいっていたかと思うと、神様はやおらぽんっと手を打つと『お詫びといってはなんだが…君、転生してみないか?』ととんでもないことを俺に提案してきたんです。
思わず絶句してしまった俺を一体誰が責めるでしょうか?
『うむ、それがいいな!是非ともそうしよう!』
マテ、俺の意思は無視ですか?!つか俺の意見を訊かない時点で謝罪の為の提案ですらなくなってるんですが?!
『なに、心配するな。サービスだ!』
いや、心配とかサービスとか以前の話ですから!
『ふふふ、我ながらナイスだな』
何度もうんうんと首を振る神様。
何「ふっ、オレいい仕事した!」って顔してんの!この神様は!!俺はまだ承諾も何にも言ってないっちゅーに!
『よし!善は急げだ!早速逝っといで!』
オイっ!!字が違ェ!
『なに、心配するな。詫びの一環としていくつかオマケも付けとくから』
だぁぁ!!そんなことはまったく、一切、これっぽっちも心配してねぇぇぇぇぇ~~~!!!
そこから先はどうなったのか判りません。
気がついたら知らない天井を見上げてました。
「おぎゃぁぁふぎゃぁぁ!!」
叫んだ声がマトモな声でなかったのはお約束というか…。
……とまぁ、そんなこんなで俺は転生して第2(?)の人生、がんばってますので。
みんなも風邪とかひかないよう、元気でやってください。
では、またお便りします。
政志 草々
PS.俺のPC、即OSの再インストールお願いします。
とまぁ、死に方を覚えている事や転生に至った事象を覚えていることからもご推察いただけるかとは思うが、俺はネタのつまった小説家がよく書くという、前世の記憶を持った転生者、というわけだ。この『前世の記憶』というのが神様の言っていた『いくつかの』オマケの一つらしい。
我ながら奇妙な体験してるなぁという自覚はあったりなかったり。
余談だがあの後、俺の泣き声を勘違いしたのか和服姿の純和風美人が俺の顔を覗き込んできて、抱き抱えたかと思うとおもむろに和服の袷を開いてぽろっとおっぱいを出し、母乳を与えてくれたのだった。
いや、赤ん坊の本能に負けて貪る様に吸いましたけどね、おっぱい。
今思い出しても恥ずかしい…。どんな羞恥プレイなんだよ…。
赤ん坊の頃の記憶があやふやなのは、こんな余計な羞恥心を覚えないためだったのか…と誰得な納得をしたのは内緒の話だ。
さて、転生を自覚した当初は現状を把握しようと頑張ったのだが、いかんせん赤ん坊故か、はたまた脳が未熟なせいか長時間の思考はろくに出来ず、2、3ヶ月は不覚にも睡眠に明け暮れてしまった。ただお世話されつつもナニやら腫れ物を扱うような扱いだったんだけどさ。
おっぱいやオシメを知らせる為に泣く事はあってもそれ以外では泣きもせず、また『あ゛~』『う゛~』としかしゃべることはできなくとも言葉は理解できていたのでついジっと聞き入ってしまったり、理解しているが故に実にタイミング良く返事なんかをしてしまったりしたせいだ。
あと考えられるとしたら…『いないいないばぁ』をされてもニコリともせずに『何してんのこの人』的なうろんな顔をしたのもマズかったかもしれない。
初めの頃はこの仕打ちに内心憤慨していたのだが、よくよく考えてみれば、静かでうんともすんとも言わず無邪気に笑わない冷徹な赤ん坊とか確かにものごっつ不気味過ぎる…。俺でも近づきたくない。
なんか自分で言ってて虚しくなってきた…いや、いいんだけどさ。くすん。
そんな俺が周りの状況や、転生先の事をようやく把握することができたのは2歳になった時だった。
そして把握した俺の心境は…察してくれ…。
(……よりによって転生先が日本の戦国時代かぃ…)
そうなのだ。俺を覗き込む人の全てが和服を普段着で着ているので、異世界にも和服が普段着なところがあるんだな~お約束かぁとか我ながら阿呆な考えをしていたのだ。
喋る言葉が判るのは神様のくれた例のオマケで、文字を書けるところまではサポート外だろうなぁとか、大学時代第二外国語はおろか英語もダメダメだった俺に異世界の文字とか大丈夫か?とか、唐突に眠くなる赤ん坊脳をフル回転させながらそんなシアワセな事をつらつら考えてましたよ、ええ…。
けれど時間が経って思考時間に余裕が出来、周りを見る機会が増えるにしたがって、少しみょーな具合になってきた。
見覚えのあるモノやテレビでお馴染みだったモノがこれでもか、という程目につくようになり、脳内の異世界転生設定に少しずつ修正が入るようになってきたのだ。
障子、襖、畳、行灯、着物、肩衣、袴、打掛、刀、乳母、女中、月代、丁髷、etc…。
(こういう日本風な設定の異世界があるのか~)
から
(いや、ちょぉっと無理ある設定の異世界だな~)
から
(おい…ここホントに異世界か?)
になるまでさしたる時間はかからなかったのは言うまでもない。
そして決定的だったものが3つある。
1つは正月を祝う宴会の中で集まった連中全員に誕生日でもないのに加齢を祝われた事だった。俺が生まれたのは初秋。生まれて4ヶ月も経ってないというのにもう2歳とか。まぁそれだけなら古代中国とかもありえたんだろうが、デフォルト和装の古代中国とか少しどころかかなり無理がある。
そしてもう1つの物証(?)。首が据わるようになってから上機嫌な父親に抱かれて「お前がこれを着けて戦場を駆ける姿が楽しみだ」とかなんとか言われながら板張りの広い部屋に鎮座しているカタマリを見せてくれたのだが、ソレを見たらもう、ね…。
それを見た瞬間、赤ん坊でよかったと心底思ったよ、俺は。転生前の俺なら絶対に唖然呆然となって、怪訝な顔を向けられること請け合いだった。
俺を唖然とさせたソレ、とは教科書の挿絵によく載っている戦国武将の甲冑、武者鎧だったのだ。ご丁寧にも鎧の横には長い槍が立てかけてあった。
間違いない。ここは異世界なんかじゃない。過去、それも日本の戦国時代だ。
何故『戦国時代』かが判るかだって?
まぁ確かに鎧があっても鎌倉時代とか応仁の乱以前とかもあるし、往年の名作ウィ〇゛ード〇ィみたいにそういうアイテムがデフォな世界もある。
また服装にしたって丁髷とかは『斬新な趣味ですから(はーと)』とすっぱり言い切られてしまえば「そうなのか…」と納得せざるを得ない。
いや、納得に無理があるなって自分でもわかるんだ、突っ込まないでくれ…。
まぁ最後の1つが決定的だったんだけどね。
俺が一番吃驚し、『戦国時代』だと断定できたのが父親の名前と俺が今いるこの場所の地名だった。
父親の名は第10代当主朝倉 孝景。
俺が今いるここは越前国、一乗谷城。
ガチで俺の大好きな『戦国時代』じゃん…。しかもよりによって『朝 倉』かぃ。
改めて自己紹介しよう。
俺の転生前の名前は朝倉 政志。
転生後の名前は朝倉 修羅。
そう、俺は何の因果か、ご先祖様がいる過去の日本に転生したのだった。
だが俺は知らなかった。
神様の気まぐれで転生した俺だが、この転生こそが歴史の新たな分岐点となってしまっていたことに―――
誤字脱字がありましたらご指摘願います。