4話:屋上にて
太陽が少し西に傾いていた。
それでも、雲ひとつ無い青空から、日光が容赦なく俺を照らしつける。
屋上のベンチに寝転がりながらタバコに火を点けた。
深く吸い込むと、それを太陽目掛けて大きく吐き出す。
目が見えないのか----------
あの時、なぜそんな事を聞いたしまったのだろう。
思わず、そう口にしていた・・・
会話は、そこで途切れ二人の間には無言の時が流れた。
居辛くなって、一服がてら屋上へと逃げてきたのである。
「おぅ!何してんだおまえ」
不意に呼ぶ声がしてベンチから起き上がる。
「あ・・・・」
呼ぶ声の主は、俺と同期の死神ディルの姿があった。
ディルは、歩み寄ってくると俺の隣に腰を落ち着ける。
「タバコ一本くれないか?」
俺が、無言で差し出すと拝むような仕草をしてケースから一本タバコを抜き取る。
火を点けてやると美味しそうに煙を吐き出す。
「おまえも、この病院に?」
「ああ・・・じゃあ、ディルも一緒か?」
「まぁな。寝坊してさっき到着したばかりだ」
ディルは、からからと笑った。
「で?お前は、いつからこっちに来てるんだ?」
「俺か?今日からだよ・・・」
タバコの灰がぽとりと地面に落ちる。
「ん?どうした。いつものお前らしくないな」
俯いている俺の顔を覗き込むようにしてディルは聞いた。
「あ・・・いや、俺・・・今日が初めてだから。緊張しているのかもな」
笑顔を作って明るく振舞おうとしたが、うまくいかない。
「そっか・・・ま、最初は誰もが緊張するさ。俺だってそうだったし」
ディルは、成績も優秀で同期の中では一番最初に現世での仕事を行っていた。
新卒の仕事は学校での成績順で順番が決められる。
俺は、中の下だったので、ディルとの経験の差は驚くほど開いている。
「ディルは、いつまでこっちに居るつもりだ?」
ディルは、相変わらずタバコを美味しそうに吸っている。
「俺は、もう宣告はしたから三日後、迎えに来るだけだよ。お前は?」
俺は、短くなったタバコを踏み消した。
そういえば、一口しか吸っていなかった。
「俺は、まだ宣告していないんだよ・・・」
「は?まだしていないのか?」
ディルは、顔をしかめる。
「いや、これからするつもりさ」
新しくタバコを取り出すと火をつける。
「はー。ま、宣告は早めにしておいたほうがいいぞ」
ディルは、タバコを揉み消し立ち上がる。
「ああ。わかってる・・・ただ・・・」
そこまで、言いかけて俺は言葉を飲み込んだ。
「ん?」
ディルは、首を傾げて不思議そうな表情をする。
「いや・・・何でもない。もう、帰るんだろう?」
「まぁな。とにかく、お前も早めに宣告して仕事に慣れろよ」
ディルは、そう云うと屋上を後にした。
わかってる----------
そんな事、わかってる-------
ただ、さっき思わずディルの聞こうとして飲み込んだ言葉・・・
宣告しなかったらどうなる------
どうして、自分がそんな事を聞こうとしたのか・・・
頭を左右に振ってそんな思考を払い落とそうとする。
まだ、一週間ある・・・
ベンチに寝転がると紫煙を大きく吸い込む。
それを太陽目掛けて大きく吐き出す。
ずっと愛用してきたタバコの味が今日に限って、なぜか不味かった------
今まで、時間が空いた分、一気に書き進めようと思ってます。