2話:少女
次の日---------
高さ30メートルはあるだろう現世とを繋ぐ門の前に俺は立っていた。
「えーっと・・・」
門番は、ファイルをパラパラと捲りながら渋い表情をしている。
「あー!あったあった。あなた、今回が初めてですね?」
門番は、下がった眼鏡を正すと、俺を上目遣いで一瞥した。
「は、はい・・・」
「一応、知ってると思いますけど、簡単に説明しますね。あなたは、これから目的の人物に対して死の宣告をして頂きます。その際の注意点なのですが、必ずその人物の耳元で告げて下さい。そうしなければ、何の効力も発揮しません」
「はい」
「それから、あなたに与えられた時間は一週間ですね・・・つまり、現世に赴くと最長一週間は戻って来れません。行ったその日に宣告して魂を連れて来ても構いません。判断は、全てあなたに委ねられます。・・・ここまでは、よろしいですか?」
「はい・・・」
どれも、学校で習った話だ。
「次に、これだけは注意してください」
門番は、ファイルを閉じると声のトーンを落とす。俺は、何だろうと首を傾げた。
「期間は、必ず守って下さい。日付はあなたが現世に降りた時間からカウントされます」
それは、知っている事だが・・・
「もし、時間を超過した場合・・・あなたは、こちらの世界に戻る事は出来ません。目的の人物も幽体になり現世を彷徨う事になります。幽体に関しては他の死神を派遣し回収出来るのですが、あなたは一切の力を失い現世を彷徨う事になります。こちらは、いかなる者でも回収出来ませんので注意を・・・」「そうなんですか」
別に大した事じゃないじゃないか。
これだけ余裕があって時間を越す事などありえない。
「最後に、今回の目的人物の書類です」
門番は、ファイルから紙を一枚取り出すと俺に差し出す。
それを受け取ると同時に門がギギギと重厚な音を立てて開き始めた。
「そちらの書類は、目的の人物が書かれた大事な書類です。決して紛失しないように。それでは、よい成果を・・・」門番が云い終わると門は、完全に開ききっていた。
門の先は白く歪んでいる。
そう、とっとと済ませて戻って来よう。
どうせ、人間にはわからない事なのだから・・・
唾を飲み込みゆっくりと歩を進める。
門を潜ると目を開けていられないほどのまばゆい光りに包まれる。
「期限だけは、忘れないように」
遠くで門番の声が聞こえた。
何の匂いだろう・・・
鼻を突くような臭いがする。
ゆっくりと瞼を開ける。
白い壁に白色の蛍光灯。
スライド式のドアが並び番号が振られている。
課外授業で一度だけ来たことがある。
確か、病院とかいう場所だ・・・
白のキャップをかぶった女性がパタパタとスリッパを鳴らしながら慌ただしく俺に向かって突進してくる。
「うわっ!」
俺は、身構えるも女性は、俺の体を摺りぬけて行く。
「あ・・・・・・」
体と摺りねけた女性を見比べる。
しかし、女性はすでに廊下の奥に消えていた。そうか、俺の姿は人間に見えないんだった。
触ることも出来ないんだな・・・・・
一人感心する。
さて、とっとと済ませますか。
俺は、書類に目を通そうと右手に視線を落とす。
・・・・・・・・・!
無いっ!
正確にいうと半分以上千切れて無くなっていた。
おそらく現世に飛ばされた時、千切れたねかも・・・
そんな・・・・・・
血の気が引く。
頭が鈍器で殴られたかのようにグラグラと揺れる。
倒れそうになるのを堪え、絶望感に浸りながら残った紙切れに視線を移す。
室 306号って、これだけかよ!
と、打ち拉がれていると目の前に306と表示された病室があった。
名前を見ると個人部屋のようである。
なるほど、目的地に飛ばされるようになっているのか・・・
それなら、書類なんて最初から必要無いじゃないか・・・
ホッと胸を撫で下ろすとその病室のドアに手を掛ける。
カラカラとドアは、軽い音を立ててスライドする。
風が鼻を擽った。
夏の香りがその一室には充満している。
晴れ渡る空から注がれる日光に照らされ少女は外を眺めていた。
肩まで伸びた髪が、風に揺られながら---------
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