↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR

【短編】冤罪を被せるあなた達に我が子は渡せない!

作者: リーシャ
掲載日:2026/10/18

 セレスティーナ・ロドウェイはこの世界にとっての悪役令嬢らしい。同時にこの世界が乙女ゲーム聖女の輝きの中だということを知っている転生した身であるので言い切れた。


「なぜ、よりにもよって」


 運命はゲームの主人公である侯爵令嬢のリーゼロッテをいじめ抜いた挙句、最終的に王子から「婚約破棄!」と叫ばれて国外追放されること。冗談じゃない。

 せっかく憧れの貴族に転生できたのに、そんなバッドエンドはまっぴらごめんだ。


「リーゼロッテ……あの疫病神さえいなければ!」


 机に突っ伏して唸る。リーゼロッテは行く先々でトラブルに巻き込まれ、それを丸っと王子や騎士団長子息、魔法使いといった攻略対象たちが助け出すこと。

 よくあるタイプのものだ。好感度を上げていく、というイベント体質の持ち主。

 つまり、彼女がいるだけで周りは常に騒がしくなり、最終的には悪役令嬢として断罪されるシナリオになってしまう。かも、しれない。


「こうなったら、シナリオ介入以前に、物理的に排除するしかない」


 もちろん、殺すなんて物騒なことはしない。考えたのはもっと平和的で、かつ確実な方法。完璧な保護と派遣だ。


 すぐに、リーゼロッテがまだ学園に入学する前のタイミングで行動を開始。ぼーっとしている場合じゃない。急がないと。


「お父様、お願いが」


 執務室へ向かう。まず、父に頼み込んでリーゼロッテの生家である侯爵家との交流を深め、恩を着せるように天使の活動のように、リーゼロッテに接する。そうしてすぐに接触を測りに行く。


「まあ、リーゼロッテ様! なんて可愛らしいのでしょう!」


「わたくしの屋敷に遊びにいらっしゃいませんか?素敵な絵本がたくさんございますわ」


 見つけては声がけしていく。リーゼロッテは予想通り人の好い、純粋な少女。甘い言葉にコロリと騙されてすぐになついたが、流石にちょっとチョロ過ぎるような。


 ある日、リーゼロッテにとっておきの提案を。そして、自分に救いになるものを。


「リーゼロッテ様。わたくし、最近知ったのですが。遠い隣国にあなた様のような素晴らしい感性を持つ方を求めている機関がありまして。そちらで文化交流特命派遣社員として知識を広め、経験を積んでみませんか?」


 言ってはいるが、もちろんそんな機関は存在しない。裏で手を回し、架空の役職を作って誘うための最高の舞台を用意しただけ。リーゼロッテの生家は侯爵家とはいえ経済的にあまり裕福ではないから。


 提示した隣国での高待遇と貴重な経験という話に、侯爵夫妻は飛びついた。だから、なぜ疑って掛からないの?


「なんと! それは娘にとってまたとない機会でございます!」


 こうしてリーゼロッテは学園入学を前に完璧な計画によって、意気揚々と頷いてくれる。


「リーゼロッテ、そんなに簡単に行くなんて」


 遠い隣国へと旅立つことになった。リーゼロッテが隣国へ出発した日、屋敷の窓から一人乗った馬車が小さくなっていくのを眺める。


「ふふふ……これで、平穏な学園生活は安泰」


 リーゼロッテがいなければ、王子たちが困ることもない。いなければいいのだ。トラブルが発生することもないし、悪役令嬢として断罪されることもない。そうすれば計画通り、学園生活は驚くほど穏やかに過ぎていく。


 ゲームのイベントは発生せず、王子たちはそれぞれの趣味に没頭し、騎士団長子息は真面目に訓練に励み。魔法使いは研究に没頭していた。順調。


「あら、セレスティーナ様は今日も素敵ですわね」


「本当に美しいわ」


 周りの令嬢たちも以前は陰で高飛車と噂していたが、今では素直に称賛してくれる。悪役令嬢としての役目を果たさず、ただ品行方正に振る舞うだけで学園の人気者になっていた。

 完璧だ。全てが思い通りに進んでいる。そう、信じていた。その時までは。


 まさか別の方向から、シナリオルートが大きく狂い始めるなんて思いもしなかった。甘かったのか、思っていたよりもうまくいかなくなったのか?いつからだろう。


 リーゼロッテを隣国へ送った後、学園生活はまさに完璧。トラブルは一切なく。品行方正な令嬢として先生方からも、生徒たちからも絶賛。

 全てが予定調和。王子や攻略対象の皆もそれぞれの道を、順調に進んでいるように見えた。


「セレスティーナ様は、いつもお綺麗で、お優しいわね」


 そんな言葉が、耳に心地よく響く。ああ、これが悪役令嬢にならずに済んだ世界……なんて、なんて素晴らしい。


 そんな完璧なはずのシナリオ。少しずつ異変が起き始めたのは、学園祭の準備が始まった頃。

 本来、学園祭では、ヒロインのリーゼロッテがトラブルに巻き込まれ、王子たちが助けることで親交を深めるはずで。リーゼロッテがいない今、そんなイベントは起こりませんが、と言わんばかり。


 代わりに、王子であるアレクサンダーは、なぜか相談を持ちかけるようになった。


「セレスティーナ嬢。今年の学園祭の出し物で、少し悩んでいることがあるのだが、君の意見を聞かせてもらえないだろうか?」


 王子は、真剣な顔で見つめて、内心「なんで私が?」と思いながらも、完璧な令嬢を演じるために、彼にアドバイスを送る。王族の彼に意見を求められたのなら、何も言わないということは無理。

 少しでも言わないと、顰蹙を買うかもしれないし。


 王子は意見を熱心に聞き入れ、才能を称賛する。なにそれ、と呟く。簡単に褒めすぎるくらい。


「君は、本当に聡明だな。私の婚約者が君であったなら、どれほど心強いことか……はぁ」


「え、なに?」


 王子の言葉にゾッとした。いやいや殿下、貴方の婚約者はゲームでは私なんですよ、なんて。自分を追放するシナリオだったから避けたのに。

 なのに、なぜそんな目で見るのだろう?王子の変化と王子が異変なだけではなかったらしい。


 本来はリーゼロッテに好意を抱くはずだった騎士団長子息のディークス。学園の秩序を守るために、生徒指導を手伝っていた際、公正な判断力と行動力に感銘を受けたのか騎士道精神を褒め称えるようになった。はい?となるわけで。


「セレスティーナ様は令嬢の鑑です! 私が守るべきはあなた様のような高潔な御方だ」


 守られる気はないのに。天才魔法使いのルークもたまたま彼の研究室に、忘れ物を届けに行った際に読んでいる魔法書に興味を示し「魔法の才能がある」と褒めそやし、研究室に招き入れる。

 この本はレンタルだけど?あと、天才なら忘れ物もなくしてほしい。


「君の理解力は素晴らしい。君と一緒ならもっと素晴らしい研究ができるだろう」


 研究させようとしないでほしい。皆が皆、目を指すような悪役な令嬢にならない平穏な生活とはかけ離れた、過剰な好意を向けてくる。焦ったが冷静にならないと。


 リーゼロッテを排除すれば、シナリオは平穏になるはずだったのに。なぜか王子たちから熱烈にアプローチされるヒロイン役に祭り上げられている。これでは追放される代わりに鳥籠の中だ。焦りが募る。


 リーゼロッテを送り出した隣国から、文化交流特命派遣社員が帰国する際のこと。本来、ヒロインが体験するはずだった断罪イベントが今度は降りかかるのではないか、とさえ思い始めた。


 なぜ、こんなことになったのだろう?ただルートから逃れたかっただけなのに。


 夜会の日。本来ならリーゼロッテが王子にエスコートされるはずの場所に、アレクサンダー王子と並んで立っていた。やめてほしいのですがとやんわり断ったけど腕は腰に優しく添えられている。気持ち悪い。


「セレスティーナ嬢。君こそ国の未来を共に築く、私の隣にふさわしい」


 王子の真剣な眼差しに何も言えないというか、言いたくない。周りには、ディークス騎士団長子息やルーク魔法使いの姿も見えた。彼らもまた、熱い視線を送っている。鳥肌が立つ。


 どうしてこうなった?


 リーゼロッテを排除した結果、悪役令嬢から逆ハーレムのヒロインになってしまったなんて。強制力が酷すぎる。

 これはゲームのシナリオには存在しない、全く新しい展開。同時に王子たちの真剣な好意に、戸惑いながらもどうしたものかと逃げ場を探す。


 なんとかしなくては。ゲーム知識をフル活用して、リーゼロッテを遠くの隣国へ派遣社員として送り出し、平穏な学園生活を手に入れた……はずだったのに。


「セレスティーナ様、ご存知ですか?隣国から、リーゼロッテ様の驚くべき噂が届いていますわ!」


 ある日、侍女が興奮した様子で駆け込んできた。嫌な予感がする。

 完璧な計画は、一体どうなったというのだ。噂によると隣国に渡ったリーゼロッテは、持ち前の人の好さと少しドジな性格であっという間に周囲の注目を集めたらしい。


 よりにもよって隣国の第二王子。若き騎士団長子息。国の天才魔術師までもが、彼女に夢中になっているというではないか!


「まさか……隣国でまで逆ハーレムを築くなんて」


 思わず叫んでしまった。ゲームのシナリオにはない全くの想定外。しかも、隣国の王子がリーゼロッテに夢中になり、婚約者がいる身でありながら宣ったらしい。

 公衆の面前で「リーゼロッテ嬢との結婚を望む!」と宣言した、というのだ。それをさせたくなくて遠ざけたのに。


 ゲームで仮初の経験をした断罪イベントが隣国で、リーゼロッテを巻き込んで起きている。このままではリーゼロッテは隣国で王子の婚約者を誑かした罪、なんかで断罪されてしまう。

 責任は我が家にまで及ぶかもしれない。派遣したのは我が家だから。


「なんてことをしてくれたの、リーゼロッテ」


 怒りで机を叩いた。怒っていても仕方ない。状況を打開しなければ手に入れた平穏な生活がまたもや崩れ去ってしまう。

 すぐに父に連絡を取り、隣国にいるリーゼロッテの派遣契約解除を依頼。当然だ。


「父上、リーゼロッテ嬢は、当初の目的であった文化交流の役目を十分に果たしました。これ以上、彼女を留めておくことは、隣国との外交問題に発展しかねません!」


 父は鬼気迫る表情に圧倒されながらも言葉に従ってくれた。


「わかった」


 リーゼロッテの家にも外交上の理由で至急帰国が必要である旨を伝え、異論を挟む間を与えない。


 数日後、隣国からリーゼロッテの帰国が決定したという連絡が入った。心底ホッ。これで隣国での断罪イベントは回避できるだろう。ヤキモキする。


 なんとか、リーゼロッテが帰国した日。彼女の馬車が到着するのを遠くから見ていた。以前よりもどこか大人びて、少しだけ疲れたような顔をしている。

 隣国での逆ハーレム生活も、案外大変だったのかもしれない。リーゼロッテはこちらと再会することはないだろう。


 王子たちの過剰な好意から身を守ることに集中する。リーゼロッテは今度こそ平穏な生活を送れることを祈ろう。


 彼女がまたどこかで逆ハーレムを築かない限りは、だが。落ち着いて隣国から呼び戻し、シナリオは完璧だと思っていた。

 学園は平穏を取り戻し、王子たちはそれぞれ以前と変わらず過剰な好意を向けているけれど。相変わらずさぶいぼが。


「セレスティーナ嬢。今日の君も太陽のように輝いているね」


 アレクサンダー王子は相変わらず、褒め称え。ディークス騎士団長子息は護衛を申し出て。ルーク魔法使いは新しい研究の成果を一番に報告しに来た。

 望んでない逆ハーレムの平穏も長くは続かなかった。本当に望んでないけど。


 数日後、各攻略対象の実家から緊急の連絡が入った。


「王子殿下が公衆の面前でセレスティーナ嬢への一方的な求婚を宣言されたと!」


「騎士団長子息が自身の身分を顧みず、セレスティーナ嬢への忠誠を誓ったと!?」


「魔法使いが研究を放棄し、セレスティーナ嬢の傍で過ごすことを望んだと!」


 それぞれの家から届いた報告はどれも信じられない内容。ヒロイン役になったことで彼らはゲームのシナリオとは全く違う形で、各々の婚約者や家の立場を危うくする行動に出ていたのだ。


 リーゼロッテが隣国でやったことと、全く同じではないか。 まさに断罪イベントが今度は攻略対象たちに降りかかっていたのだ。真っ青になった。リーゼロッテを排除したことで、身は安泰だと思っていたのに。王子たちが断罪される側になるなんて。


 そんな子息達は各当主達に即処理される。各々の家は彼らの独断専行と家の名誉を傷つけた罪に対し、厳しい処分を下した。

 それはありがたいと安堵。まず、アレクサンダー王子は、王位継承権を完全に剥奪され王族の品位を汚した罪で、王城の地下牢へと送られることに。


 ディークス騎士隊員は騎士団を解雇され、騎士道精神に反する不義の罪で辺境の牢屋へと送致。


 ルーク魔法使いは魔法学院を追放され研究者としての道徳を欠いた、として魔術師ギルドの地下にある監禁施設へ送られた。彼らはそれぞれの家から処分されるとのこと。


 数ヶ月後には、もう面倒を見切れないからとそちらで処分してくれと言わんばかりに厄介者、として送り届けられてきたのだ。

 基本的に王家が貴族を裁くので、そうなったのだろう。彼らを預かる場所として指定されたのが、まさかまさかの……王城の地下牢。


 呆然と地下牢へと続く階段を下りていた。

 薄暗く湿った牢屋の奥で熱烈な好意を寄せていた王子、騎士、魔法使いがそれぞれ別の牢に入れられていた。共謀されないようにと。

 彼らの顔は青ざめ、目には絶望の色が浮かんでいる。


「セレスティーナ嬢……」


 アレクサンダー王子が縋るような目で見た。


「君は、こんなところで何をしているんだ……」


 牢の前で立ち止まった。


「何を、ではありませんわ。殿下方も各々のご実家からこちらで処分するよう、お預けになったので私が様子を見に来たのです」


 彼らは絶句した。まさか、自分が好意を寄せていた相手が令嬢ではなく断罪する側に回るとは思ってもいなかっただろう。静かに言った。


「あなた方には自分の置かれた立場と、これまで行ってきたことの責任をしっかりと考えていただきたいものです」


 黙って言葉を聞いていた。牢屋を慰問する断罪執行人のような立ち位置になるなんて。ヒロインを排除したことで、まさかの逆ハーレムを築いてしまったし。

 その結果、逆ハーレムの面々が揃って断罪されるというゲームには存在しない、究極のバッドエンドを作り出してしまったのだ。


 王子たちが地下牢に送られ、学園中が話題で持ちきりになった後も生活は驚くほど穏やかだった。熱い視線を送る者はおらず、周囲は遠巻きに見守るだけ。


 ホッとする。これこそ求めていた平穏だ。リーゼロッテを遠ざけ、攻略対象たちを断罪することでようやくゲームの呪縛から解放されたのだ。


「セレスティーナ様、本日もお美しいですね」


 侍女の言葉も以前のようなうわべだけの称賛ではなく、心からのものだと感じられた。気持ちの問題だけど。


 誰かのシナリオに振り回される必要はない。これからは人生を思うままに生きたい。

 穏やかな日々の中で、とある人物と出会った。学園の図書館で働く司書補佐のアラン。


 地味で目立たない存在だが、いつも静かに本を整理し、訪れる生徒たちに的確なアドバイスを与えていた。

 これまで王子たちに囲まれてきた自分にとって、アランの存在は新鮮だ。身分や家柄といったものに囚われず、ただ一人の人間として接してくれた。


「セレスティーナ様は、いつも難しい本をお読みになりますね。もしよろしければ、こちらの書物もご参考になるかと」


 アランは、興味を持つ分野の本をさりげなく薦めてくれた。知識は深く、困っていると、いつも的確な答えを導き出してくれる。図書館の片隅で優しい時間と言葉を交わすようになった。


 ゲームのキャラクターたちの誰よりも、アランとの会話は心地よく話に真剣に耳を傾け、考えや感情を尊重してくれた。楽しい。


 ある日、アランは。


「あなたのように聡明で心の優しい方にお仕えしたいと願っております」


 アランの言葉に驚く。彼は何も知らないのに。自身を見て必要としてくれたのだ。

 王子や攻略対象たちとの逆ハーレム行為に辟易していた。意思とは関係なく勝手に作り上げられた関係だったから。皆、外側ばかり見て持ち上げるばかり。


 アランは違う。彼との関係は自我の意思で築き上げてきたもの。手を握り微笑んだ。


「私も共に人生を歩みたいと願っています」


 家族にアランとの結婚を申し出た。最初は身分の違いに反対されたがこれまでの評判を覆し、品行方正な令嬢として学園で高い評価を得ていたこと。強い決意に家族は最終的に折れた。優等生でよかった瞬間。


 こうして自分はゲームのシナリオや展開とは全く異なる、司書補佐のアランと結婚した。悪役令嬢として追放されることもなく、ヒロインとして逆ハーレムに巻き込まれることもなく。王子たちを逆に断罪することもなくなった。ハッピーエンドで終われたのかは、まだわからないけれど。


 自分自身の意思で選んだ平穏な人生を歩んでいけると微笑んだ。このままちょっとずつ周りを見ていけば安定した生活を維持できることを知り、拳を握った。


 *


 セレスティーナ・ロドウェイは、学生時代に自分が悪役令嬢として断罪される運命から逃れるため、様々な策略を巡らせた。


 この世界でいうヒロインを隣国へ派遣社員として送り出し、王子たちを地下牢送りにしたあの事件から数年。

 愛する夫のアランと結婚し娘のルミナを授かっていた。安産だったことも覚えている。


 ルミナはセレスティーナに似て聡明で、アランの優しさを兼ね備えた自慢の娘。ほのぼの、スローライフは最高だ。


 娘が学園に入る年齢になった頃に時代は進む。成長するにつれて、娘周りで奇妙な事件が、頻発するようになった。


「ルミナ様が学園の花壇を荒らしたんですって!」


「あの子が殿下の飼っている小鳥を逃がしたって噂よ!」


 噂は瞬く間に広がり、娘のルミナは学園の不良令嬢として仕立て上げられていった。身に覚えのある言葉の数々。


「身に覚えがありすぎる」


 セレスティーナは知っていた。ルミナはそんなことをする子ではない。全ては何者かによる陰謀だとハッキリ確信。

 ゲームのシナリオを捻じ曲げたように、国の貴族社会は一度レッテルを貼られた者を簡単には許さない。心が狭いを通り越している。異常だ。あまりにも異常。


「ルミナに何か起きるかもしれない。準備しておかないと。あんなことが起こってから慌てないために。しっかり計画を、下準備をしないと」


 着々と爪を研ぐ。そうして過ごしていれば。


 愛しい子であるルミナは学園の卒業パーティーで、ルイス王子……あの時、地下牢送りにした王子とは別人のルイス王子は彼のいとこだからそっくりなだけ、な相手によって断罪されたのだ。


「聞け!ルミナ・ロドウェイ! 貴様の罪状は数々の陰湿な嫌がらせ、王族への不敬である! よって貴様を我が国から追放する!」


 傲慢な声が耳に触るとルミナは涙を流しながらも毅然とした態度でその場に立っていた。彼女の白いパール付きのドレスには、誰かに故意にかけられた絵の具が飛び散っている。怒りが突破していく、噴火のように。


「わたくしは何もしておりません……!」


 ルミナの訴えは誰にも届かなかった。光景を見ていることしかできなかったのが、悔しくて悔しくて許せない。自分が悪役令嬢を演じた時とはわけが違う。今回は完全に無実の罪。策略もなにもない。最愛の娘が同じように、いや、セレスティーナ以上に理不尽な形で断罪される。国の全てが憎かった。


 ルミナが追放を言い渡されたその日、夫のアランに全てを話した。世界がゲームであること。悪役令嬢として阻止するために行動したこと。

 ルミナが無実であること。信じてもらえなくても構わない。アランは驚きながらも、話を最後まで真剣に聞いてくれた。


「セレスティーナ。君を信じる。ルミナも何もしていないと信じている。国がルミナを拒絶するのなら、私たちには守れる場所が他にあるし。そこへ移動すればいい。いいね?」


 アランが提案してくれたのは彼の故郷。祖国が遠い国の出身とは聞いていた。この国では身分を隠して司書補佐として働いていたが、実は祖国では由緒ある家柄の次男だったのだという。


「え?」


「うーん、なんだかすまない。この国では無爵位なのは嘘じゃないから」


 数日後の夜、家族を連れて密かに国を去った。娘のルミナは最初は不安そうだったけれど。ルミナの祖父母たち、自分の父や母には申し訳ないけれど、国の総意のようなものだろうから。捨てられたようなもの。いらないと叩きつけられたもの同然。


 娘はアランとセレスティーナが傍にいることで、少しずつ笑顔を取り戻していった。

 乗り継いで辿り着いたアランの祖国は緑豊かな美しい場所だった。暮らす人は穏やかで異邦人である母娘に温かく接してくれる。


「パン、美味しいです」


「セレスティーナさんはお上手ねえ」


 アランの家族も心から歓迎してくれる。


「お父様、ちょっと横に動かして」


「ルミナ、これはどうだい?」


 ルミナはここでは誰からも恋人たちの恋を破ろうとする令嬢、と呼ばれることはない。酷いなんてものではない。割って入ってきた順番がまず違うのに。

 婚約は契約であり、そこに途中で入ってきたのはあちらなのにとセレスティーナは憤った。


 娘は好きなだけ本を読み、庭で花を育て夫のアランから娘は国の歴史や文化を学んだ。

 あっという間に無邪気な笑顔で時にはこちらに甘え、時にはアランと楽しそうに話すルミナを見ていると安らぎで満たされる。


 安堵の笑みが浮かぶ。夫婦はこの地で新たな家を築き、ルミナを愛情いっぱいに育てた。ここでなら穏やかに生きていけると娘は過去の理不尽な断罪を乗り越え、新しい国で自分らしく輝き始めた。

 見るたびに口元がほころぶ。国では誰も貴族の家として見ない。令嬢、夫人扱いしない、一人の人間として扱ってくれる。愛し合い、支え合う家族としてここにいられるのだ。

最後まで読んでくださり感謝です⭐︎の評価をしていただければ幸いです。発明、アイデア系を考えるのは楽しいですね

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 断罪を避けようとして、リーゼロッテさんへの親切などを織り混ぜての隣国送りをして、悲劇回避と思いきや、逆ハーレム願望0の者へのやんわり対応のフリした腰への腕絡めに、忘れものを口実にしての付きまとい………
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。