最後のひとひら風になびいて
掲載日:2026/03/27
妻に先立たれた次の日。
ギンイチは縁側に座り、庭に植えられた色とりどりのチューリップをポーっと見つめていた。
腫れた目としわくちゃな手。
風になびく白い髪。
昨日まで君は隣にいた。
心にぽっかりと穴が空き、その隙間を風が駆けていく。
ミツが育てていたこのチューリップが全部枯れたら後を追おう。
そう思っていた。
数年が経ち、最後の一輪が残った。
赤いチューリップ。
君が一番好きな色だった。
この花が枯れて散るまで。
そうしたら俺は・・・。
けれど、一年経っても二年経ってもチューリップは枯れなかった。
ギンイチの時が止まったまま
三年、四年、五年・・・と過ぎていく。
そしてギンイチが亡くなったその日に
チューリップは枯れて散った。
止まっていなかったのだ。
ギンイチの中にある時計は確かに時を刻んでいた。
ずっと一人じゃなかったのだ。
後を追ったのはギンイチなのか。
それともチューリップなのか。
最後のひとひらが地面に落ちて
風に飛ばされた。
一匹の渡り鳥が茜色の空を羽ばたいていく。
最後の花びらは
どこへ向かうのか。
どこへ行くのか。
どこへ帰るのか。
きっと辿り着く先はギンイチと一緒だ。




