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アーネストとの兄は、この国の騎士団長であるヴィクトル・クライトン。碧眼銀髪の絵に描いたような美貌の持ち主。剣の腕前はさることながら頭の回転もよく、まさに文武両道なお方。
この方は私と一回り以上歳が離れているが、それがまたいい。正直、もろタイプ。大人の色気と包容力は我儘坊ちゃまには到底真似できる代物じゃない。例えるのなら、宝石と石ころ。ケーキと生ゴミほどの違いがある。
騎士ということもあり、体力づくりや日々の食事は間違いなくちゃんとしている。本音を言えば、アーネストではなく、ヴィクトル団長と婚約したかった。
アーネストと婚約中、一目ぐらいはお目にかかるかと思っていたが、一度も姿を目にしたことがなかった。
この兄弟、少し訳ありで、アーネストとヴィクトル団長は腹違いの兄弟。前妻との子がヴィクトル団長で継母との間に生まれたのがアーネストだった。継母との関係が悪いとかではないらしいが、滅多に帰ってこないと聞いた。
……今なら分かる。彼がどうしてこの屋敷に近寄らないか……それは十中八九アーネストが原因だ。
こんな我儘ばかり言う弟に、それを諫めるでもなく容認してしまう両親や使用人達に愛想が尽きたに違いない。
(絶対そうだ)
「な、なんだよ」
恨みを込めてジト目でアーネストを見ると、怯えたように肩をすかめていた。
「とりあえず、私の助言が欲しいのならお兄様を紹介なさい。それ以外受け付けません」
「お前……俺が兄上に嫌われるの知ってるだろ……?」
おや、予想外。自覚はあったもよう。
「兄上が俺の言葉を聞いてくれると思うか?」
「さぁ?それは貴方の出方次第では?」
「……」
「誠心誠意お願いなさい。私の為に。最悪、骨は拾ってあげます」
腕を組み、仁王立ちで言い放つ。もはやどちらがお願いしている立場か分からない。
「……分かったよ……聞くだけ聞いてみる。あまり期待するなよ」
痛風の痛みに耐えるか、兄からの罵声を耐えるか。彼にしたら究極の選択だったらしいが、痛みより罵声を取ったらしい。
「貴方の交渉術はポンコツだと知っております。ですが、今回ばかりは一目会わせてやるぐらいの勢いと根性で合意を奪い取って来なさい」
アーネストからすればとんでもない無茶ぶりだと、顔面蒼白のまま開いた口が塞がらない様子。今まで費やした私の時間と労力を考えれば安いもの。
「楽しみにしてますね」そう言って、アーネストの部屋を後にした。その足で向かったのはキッチン。応急処置にもならないかもしれないが、今出来る事を伝えて行こうと思った。
甘いと言われても仕方ない。自分でも甘いなと思ってる。
(このお人好しの性格を何とかしたい……)
「はぁ~」と息を吐きながら、料理長の元へ急いだ。
***
四日後、アーネストから連絡があった。どうしようもない人だが約束だけは守ってくれるので、そこは評価している。そうは言っても、如何せん早すぎる対応に驚きを隠せない。
私の目の前には、淡い色の封筒。ドキドキと胸が高鳴る。
あまり期待はしていないが、ワンチャンあるかもと少しの期待は残しておきつつ、封を開けた。
「……うそ」
その内容は『兄上から承諾を得られた』という、まさかの大金星。
どんな手を使ってあの方を堕としたのかは分からないが、この時ほどあの人を敬った事はない。
「えっと、日時は……──ん゛!?」
蛙を潰したような声が出た。
指定された日時は……本日。時間は……14時。只今の時間、12時半を回ったところ……
サァーと全身の血の気が一気に引いた。
「無理無理無理無理!!!」
大急ぎで侍女達を呼びつけ、身支度を手伝ってくれるようにお願いした。
「信じらんない!なんで当日!?無茶ぶりした私に対する嫌がらせ!?」
文句を口にしつつも、体はしっかり動かしている。
……いや、文句は言ってやるな。嫌われていると分かっていても私の為に勇気を振り絞り、約束をこぎつけてくれたのだ。礼は言ってもクレームを言うのは筋違い。──というか、今は文句を言っている時間すら惜しい。
「あ~!もう!なるようになれよ!」
半ばヤケクソになりながら叫んだ。




