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口煩いと婚約破棄されまして~今更助けてくれ?見返りに貴方のお兄様を紹介しなさい~  作者: 甘寧


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 自分の気持ちを伝えると決意してから、既に半月が経過してしまった。

 いざ行動に起こそうとすると、どうしても体が強ばって動けなくなってしまう。自分では割と楽観的な性格だと思っていたが、実際は意気地がないただのヘタレ。


 なんなら、ヴィクトル団長と顔を合わせることすらまともに出来ないかもしれない。


 だから騎士宿舎へも行けていない。


 仕事に私情を挟むなって昔上司に散々言われた。仕事があって生活が出来るんだから、仕事を怠ってはいけないって事も。


(分かってるよ……そんな事)


 今の私は無断欠勤中。このままではクビまっしぐら。むしろ、半月も無断欠勤しておいてクビになっていない事の方が驚きだが。


 パンッ!と両手で顔を叩き、顔を上げた。


「行くか」



 ──……てな感じで、重い腰を上げて宿舎までやって来たんだが……



「ちょ、なにすんの!?」


 着いて早々カイエンに捕まり、抵抗虚しく応接室に通された。


「ここで大人しくしてて」

「は?」

「動いたら……分かってるよね?」


 鋭い眼光で言われたら頷くしかない。


(なに怒ってんの?)


 珍しく苛立った様子のカイエンにシェンナも戸惑いを隠せない。しかし、動くなと言われた以上ここからは動けないと思い、用意された茶を淹れながら待った。


 コンコン……


 しばらくすると扉を叩く音がした。


「失礼する」


 現れたのはヴィクトル団長。


 その面持ちは険しく、これは何か告げられる。そう察した。そして、その内容にも心当たりはある。


(決まっちゃったか……)


 自分の想いを告げる前に砕けたが、どうせならちゃんと口にしてから砕け散りたい。


「……久しぶりだな」

「え、えぇ。すみません。中々来れなくて……」


 あ、駄目だ。声が震える。


 笑顔を取り繕うとするが、ヴィクトル団長の顔が見れない。熱くなる目頭を隠すように顔を俯かせて、返事を返すのが精一杯。


「実は、君に伝えなければいけない事がある」

「……」


 やっぱりという思いと聞きたくないという思いが同時に込み上げてくる。


 目を強く閉じ、拳を握りしめその答えを待った。


「シェンナ。私と結婚を前提に付き合ってくれないか?」

「…………………………は?」


 予想外の言葉に出かかっていた涙も一瞬で引いた。


「こんなおじさんが相手では不満もあるだろう。だが、すまない。年甲斐もなく君が欲しいと思ってしまった」


 眉を下げ、自嘲しながら気持ちを伝えてくれる。


(うそ……)


 嬉しさで舞い上がりそうだが、まだ早い。それなら、お見合いは?あの女性は誰だ?という事になる。


 この人が二股かけるなんて事ないと思うけど、万が一と言う事もある。しっかり答え合わせをしてからじゃないと喜べるものも手放しで喜べない。


 シェンナはグッと口を噤むと、ゆっくり口を開いた。


「……お見合い……してたじゃないですか」


 そう伝えると、ヴィクトル団長は一瞬、目を見開き驚いた表情を浮かべたが、すぐに表情を戻した。


「あぁ~、見られていたか……」


 溜息を吐きながら項垂れた。


 この反応は、肯定しているのか否定しているのかどっち?


「すまない。余計な事は君の耳に入れたくなかったんだが……余計な事を話す奴等の存在を忘れていた」


 今、ヴィクトル団長の頭の中にはカイエンとアーネストの姿が思い浮かんでいるのだろう。「余計な事しやがって」っていう表情をしてる。


「簡潔に言えば、今回の見合いは見合いと言う名の囮だ」

「え?」

「あの女性の名はエリザ・ウォーレス。宝石商を営んでいる女主人だ」


 そのエリザと言う女主人は、最近この国に来たばかりで顔を知る者も少ないが、他国では宝石の不正入手、裏金、闇市オークションなど色んな犯罪に手を染めていたらしい。

 逃げるのも隠れるのも上手く、この国に逃げていたのを知った近隣国から注意喚起が来ていたらしい。


 そこで、問題が起こる前に手を打てと陛下から打診があったらしい。


「わざわざ見合いなどしなくとも拘束して尋問すればいいと言ったんだんが、それでは確証が得られないと言われてしまってな」


 その言葉通り、ヴィクトル団長の外見と人柄と話術に乗せられて闇市オークションの情報は吐いたらしいから見合いという名の話場があって正解だったと思うが……


「……でも、キス、してたじゃないですか……」

「はぁ?」

「囮ならキスも簡単に許すんですか?」

「ちょっと待て!何を言っているんだい?キス?いつ?誰が?」


 分かり易く動揺する姿に不信感が増す。


「劇場から出て、貴方が、相手の女性に迫られて」


 そう口にすると思い出したように「あ~……」と顔を覆いながら背にもたれた。


「確かに迫られたが、触れる前に拘束したが?」

「え?」

「私が簡単に唇を許す男に見えたのは心外だな」

「いや、でも、えぇ……?」


 あの時、とても見ていられなくて、すぐにその場から去ってしまったから最後までは見ていない。


(私の勘違い?)


 それも全部。


 だらだらと嫌な汗が背中を伝うのが分かる。


「それで?私の誤解はすべて解けたかな?」


 いつの間にか隣に座り、逃がさないとばかりに肩を抱きながら素敵な笑顔を向けてくる。


「えっと……はい。すみません……」

「謝罪はいいから返事を聞かせてくれないか?」

「!」


 息がかかるような距離で言われ、ドキッと胸が飛び跳ねた。


(本当に……?)


 ヴィクトル団長が私の事を?


 ドキドキと高鳴る胸に、激しい喜びが心を揺さぶる。もう一度確認するようにヴィクトル団長を見れば、優しく微笑みながら答えを待っている。


「~~~~~~~ッ!」


 顔を歪め、込み上げてきた涙が溢れる。


「……私、私も、ヴィクトル団長の事が……!」


 最後まで言い切る前に大きな胸に抱きしめられた。


 玉砕前提で来たのに、まさかこんな大逆転、誰が想像できたと思う?……ううん。誰も出来ない。


 ただ、もうこの温もりを離したくない……離さない。そう思った。








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