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口煩いと婚約破棄されまして~今更助けてくれ?見返りに貴方のお兄様を紹介しなさい~  作者: 甘寧


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 散々な目に遭った数日後、あの時に採れた山菜を炊き込みご飯にして、食べやすくおにぎりにした物を差し入れに騎士宿舎を訪れた。


『もう大丈夫だ』


 未だに耳に残るヴィクトル団長の声。それに大きな腕に抱かれた温もりが忘れられなくて、つい視線が腕に行ってしまう。


「………」


 騎士たちと談笑しながら私の握ったおにぎりを口にしているだけなのに目が離せない。


 大きく握ったつもりだったが、ヴィクトルの大きな手と比較すれば随分と小ぶりなおにぎりに見えてしまう。


「見すぎ」

「え!?」


 無言で魅入っている私の背後へカイエンが忍び寄り、ボソッと呟くように指摘してきた。


「もぉ、シェンナちゃんエッチだなぁ。そんないやらしい目で見てちゃ誰だって気づくよ」

「そ、そんな事……」


 ない。とは言いきれず言葉を言い淀んでしまった。


「僕はエッチな子好きだよ?」


 馬鹿にするように薄ら笑いを浮かべて言われたので言い返そうとしたが、口をぱくぱくさせるだけで上手い言葉が出てこない。


(最悪)


 カイエンに弱みを握られたようで、どうにも面白くない。


 シェンナがムゥと顔を顰め、睨みつけていると黒い物体がカイエンの背後目掛けて飛び掛るのが見えた。


「あ」と声を出したが時すでに遅し。「うおッ!」と彼らしからぬ驚いた声と共に、その場に尻もちをついていた。


 カイエンを襲ったのは、黒と白が混じりあった艶やかな毛並みの小型犬?のようで、尻尾を振りながら顔をベロベロ舐めている。


「んもぉぉ!いい加減にしてよ!僕は生き物苦手なんだよ!」


 文句を言いながら引き剥がそうとするが、ベッタリくっ付いて離れない。本気を出せば容易く離すことが出来るはずなのに、そうしないのは傷付けてしまうリスクを考えての事だろう。動物には防衛本能が備わっているから、自分を傷つけない人をよく分かっているとみえる。


 そんな訳で、カイエンがいくら文句を言っていても周りは笑って見ているだけで誰も助けようとする者がいない。


「えっと、この子は?」

「コイツは先日の魔獣の子だ」

「え!?」


 私があ然としたまま問いかけるとヴィクトル団長が教えてくれた。


「あそこら辺一帯はあの魔獣の縄張りだったようで、我々が足を踏み入れた事で子供を護ろうとしたのだろう。親を失くしたコイツが巣に取り残されていたんで分かった事だが……悪いことをした」


 目を伏せ、心痛な表情を浮かべている。


「幼いコイツを手に掛けるのは忍びなくてな……弔いや償いにはならないが、しばらく騎士団で預かることにした。陛下らには許可を得ているが、見てくれはこれでも一応は魔獣だからな。行動には制限を設けている」

「へぇ~……」


 よく見ると、首に魔力を制限する首輪が付けられている。まあ、万が一のことを考えれば当然なのだろうが、こうしてみると本当に飼い犬にしか見えない。


 前世、実家でクロと言う名の柴犬を飼い、可愛がっていた私からすれば、これはまたとないチャンス。


 そっと手を伸ばし、毛に触れると「モフッ」と柔らかな毛の中に手が埋まる感じ……久しぶりの感覚に全身に電気が走ったような衝撃だった。

 魔獣と呼ばれるからには乱暴な子かと思えば全くそんな事はなく、大人しく撫でられてくれている。そうなると、撫でるだけでは済まない。うずうずする体に堪らず顔を魔獣の毛に埋めていた。


「あぁ~~~、最高……!」


 周りに騎士らがいる事など忘れ、ただ自分の欲を満たそうと柔らかな毛に顔を擦り付けていた。


『お姉ちゃん、面白い魂持ってるね』


 声が聞こえた気がした。


「ん?」


 顔を上げて周りを見渡すが、話しかけられた様子はない。


(気のせいか)


 そう思い直し、再び毛に顔を押し当てていると


『ねぇ、お姉ちゃん名前なんて言うの?』

「!!」


 今度は聞き間違いじゃない。脳裏に直接話しかけられているような感じ。まさかと思いつつ、魔獣を抱き上げて問いかけてみた。


「え、もしかして、君?」

『そうだよ!』


「みなさぁぁぁん!?」


 その場に私の声が響き渡った。



 ***



「魔獣の声が聞こえるって?」

「そうです!」

「シェンナちゃん、疲れてる?」

「本当ですって!」

「疑う訳じゃないけどさぁ、今までそんな人間聞いたことないよ?」

「えぇ~……」


 必死に訴えてもみんなまともに取り合ってくれない。

 聞こえるのが私だけという点で、仕方ないと言えば仕方ない事だけど、こうも頭ごなしに否定されると私がおかしいのだと言われているようで辛い。


「まあ、待て。シェンナの話を聞こう」


 泣きそうになっている所でヴィクトル団長の声が聞こえた。


「シェンナ。コイツの声が聞こえると言うのは本当か?」

「……はい」


 私の視線に合わせるように膝をつき、優しい眼差しで尋ねてくるが、その表情は真剣で心の内を探られているようで、少し怯えながら答えた。


「それはどんな感じ?」

「頭に直接話しかけてくるような感じです」


 そう答えると、ヴィクトルは「ふむ」と言って口を閉ざし、何やら考えているようだった。


『どうしたの?喧嘩?お姉ちゃん、虐められてるの?』

「うんん。違うよ。君の声が聞こえるのが私しかいないからみんな困惑してるだけ」

『そりゃそうだよ。お姉ちゃんは特別だもの』

「え?」


 思わぬ答えに今度はこちらが困惑する。


『魂の色が違うんだよ。それが原因だと思うけど、僕もよく分かんない』


 この子も頭を抱えている所を見ると、本当に分からないのだろう。……というか、答えはもう出ている気がする。


(完全に私が異端(転生者)だからって事じゃん)


 え?なに?これが俗に言うチート能力ってヤツ?魔法は使えないけど魔獣と話せる能力は付属されたの?そんな……そんなの……


(くっそ最高じゃないか……!)


 シェンナは周りに気付かれないように小さく微笑むと心の中でガッツポーズを決めた。


 犬猫を飼った事のある人なら共感できると思う。何度、この子の気持ちが分れば……話せたら……と思ったことがあるだろう。それが、今現実となっている感動がわかるだろうか。


(異世界万歳!)


 改めてこの世界で生きる意味を見出した瞬間だった。


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