表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

第5話:負けヒロイン、王都に立ち上がる

朝の光が王都の街を淡く染める。


端末を手に、私は今日の配信の準備をする。昨夜の商会不正の指摘は、王都内でも小さな騒ぎを呼んでいた。視聴者たちの声が、現実の力に少しずつ変わり始めている——その感覚が、胸を熱くさせる。


「皆さん、おはようございます。今日も負けヒロイン、頑張ります」


コメント欄がすぐに反応する。


「沙織ちゃん、昨日の件、どうなった?」

「商会、ちゃんと対応するのかな?」

「負けヒロインのくせに強い!」


——笑われても構わない。負け役としての自分が、誰かを支え、王都を少し変えるなら、それで十分だ。


配信を続けながら、市場に出向く。昨日までと違うのは、視聴者と一緒に行動できることだ。画面越しに指示や情報をもらい、怪しい取引や不正の証拠を確認していく。


「見てください、皆さん。やっぱりこの取引、通常と違いますね」


コメントの指摘を確認しながら、私はメモを取り、端末で証拠を撮影する。これが、王都改革の第一歩になる——そう思うと、心が少し強くなる。


そのとき、背後から声が聞こえた。

「沙織、君は本当にただの負けヒロインか?」


振り返ると、エルド=ヴァレンが立っていた。昨夜より少し柔らかい表情だ。


「え……ええ、私は……」

「いや、見ていると違うな。君は自分の弱さも、失敗も武器にできる。だからこそ、市民は君を信じる」


——その言葉に、胸の奥が温かくなる。恥ずかしくて顔を赤らめながらも、心の奥で少し勇気が湧いた。


「今日も皆さんと一緒に頑張ります。負けヒロインでも、誰かの力になるなら」


配信終了後、コメント欄はさらに熱を帯びた。


「沙織ちゃん、王都を変えて!」

「負けヒロイン最強!」

「応援してる!」


その日、市民の声が小さな波となり、王都に届き始めた。配信を通じた小さな行動——負け役の少女が、市民の力を借りて立ち上がる。その第一歩は確かに、王都を揺るがすほどの力を秘めていた。


夜、王都の街灯がゆらめく中、エルドが端末を覗き込み、ささやいた。

「これからも、君と一緒に見守ろう」


——負けヒロインは、ただ笑っているだけでは終わらない。王都の未来を変える存在として、静かに、しかし確実に歩き出したのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ