第3話:負けヒロイン、王都の闇に触れる
配信開始から三日目。
画面に映る自分は、昨日より少し落ち着いた笑顔をしていた。
「皆さん、今日も王都市場からお届けします!」
コメント欄は今日も賑やかだ。
「沙織ちゃん、ファイト!」
「焦がさないでねw」
「それよりあの商人、怪しくない?」
——あ、また視聴者が小さな異変を見つけてくれた。
市場の一角、王都で有力な商会が扱う穀物の取引が、どう見ても不自然だ。値段が他と比べて異常に高く、かつ取引の形跡が隠されている。視聴者コメントとともに、私は端末を向ける。
「皆さん、ちょっと見てください。この商会、値段がおかしいですよね……?」
コメントはすぐに反応する。
「やっぱり怪しい!」
「沙織ちゃん、もっと詳しく実況して!」
——負けヒロインの演技の裏で、私は小さなスクープを拾っていた。
その時、視線を感じる。振り向くと、背後にエルド=ヴァレンの姿があった。冷静で、誇り高そうな眼差し。彼は無言で私の配信画面を見つめていた。
「君が……沙織か」
——配信を通じて知った私の評判を、王族の彼はすでに耳にしていたらしい。
「え、ええ、私です……」
少し動揺しながらも、私は配信を止めずに説明を続ける。
「この商会、取引が不自然で……皆さんと一緒に監視してます」
エルドは私の端末をじっと見つめ、やがて軽くうなずいた。
「なるほど。君の配信は、単なる娯楽ではないようだな」
——その瞬間、視聴者も気づく。負けヒロインの配信が、王都の闇に触れていることを。
配信終了後、コメント欄は熱を帯びる。
「沙織ちゃん、王都の闇を暴くの!?」
「次回も絶対チェック!」
「負けヒロイン最高!」
私は端末を置き、夜空を見上げる。ランタンの光がゆらめき、王都の建物が静かに並んでいる。
「……負け役でも、こんなに影響力があるなんて」
しかし同時に胸の奥で、微かな恐怖も芽生えていた。王都の秩序を揺るがす行動——知らず知らず、私は危ういラインを踏み越えつつあるのかもしれない。
エルドの目も、ただの視聴者としての好奇心以上のものを含んでいた。これから先、私の配信は、王都の利権者たちとの距離をも左右することになる——。