第2話:負けヒロイン、王都で人気に
配信を始めて二日目。
画面に映る自分を見て、私は小さくため息をつく。「今日も失敗したらどうしよう……」
だが、コメント欄は昨日以上に賑やかだった。
「沙織ちゃん、頑張れ!」
「焦げても大丈夫! 可愛いから!」
「今日はどんな失敗を見せてくれるの?」
——失敗も褒められる。これが、負けヒロインの特権なのかもしれない。
「えっと、今日は王都の市場で見つけた食材で新しい料理に挑戦します。皆さん、一緒に見てくださいね!」
端末を持ち、王都市場の小道を歩く。通りにはランタンが灯り、人々が夜市の準備をしていた。視聴者に見せるため、あえてゆっくり歩く。すると、遠くから目立つ人物が私を見つめていた——
高貴な立ち居振る舞い、鋭い目つき。エルド=ヴァレン──王都の有力者の令息だった。
「誰あれ? 可愛いぞ」
コメント欄がざわめく。私も思わず視線をそらす。王族が視聴者になっているなんて……。
「えっと、こちらは王都名物の焼き野菜です。ちょっと焦がしても美味しいですよ!」
視聴者は笑い、応援し、私も笑う。配信の中では、失敗はもう恥ではなく、コミュニケーションの手段になった。
しかし、端末越しに見えない部分では、王都には小さな問題が渦巻いていた。市場の一角で、不自然に高額で取引される食材——視聴者が指摘するその現象は、ただの偶然ではない。
「あれ、明らかにおかしい」
「沙織ちゃん、もっと近くで見て!」
私は画面の向こうにうなずく。負けヒロインとしての役割を果たしつつ、ちょっとした事件に首を突っ込む。すると、エルドの視線も段々と私の配信に引き寄せられる——。
配信終了後、コメント欄は大盛り上がり。
「沙織ちゃん最高!」
「次回も絶対見る!」
「王都の闇を暴け!」
——負けヒロインは、知らぬ間に王都で“推される存在”になっていた。
画面を閉じ、私は小さくつぶやく。
「……負け役でも、誰かの力になるなら、それでいいのかもしれない」
そしてその夜、私は初めて自分の配信が王都の未来に少しだけ影響を与えるかもしれないことを実感した。