最終ラウンド:究極の勝負とは何か?
(照明がゆっくりと落ち、舞台上のテーブルを囲む四人に、それぞれスポットライトが落ちる。
BGMが静かに消え、「ROUND 4:究極の勝負とは何か?」の文字が浮かび上がる)
あすか(司会)(ゆっくりと歩み出て、柔らかな声で):
「勝ちと負けを語り、社会との関係を探ってきた今日の対談も、いよいよ最後のテーマです。
“究極の勝負”――それは、あなたにとって何ですか?
結果でもなく、称賛でもなく、ただ“自分にとっての勝負”とは何か。
皆さんの、核心に触れる時間がやってきました。」
(あすかの声が静かに消えると、場内はしんと静まり返る)
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武蔵の答え:己の“空”との対峙
武蔵(静かに目を閉じ、低い声で):
「……“究極の勝負”とは、
己の“空”――何もない場所――と向き合うことだ。」
(全員が一瞬、言葉を失う)
武蔵:
「私は、数多の命と剣を交えてきた。
だが、最後に立ちはだかるものは、相手ではなかった。
それは、“己の中にある迷い”、“執着”、“恐れ”。
それらを斬ったとき、私はただ一人、誰とも戦っていなかった。」
アリ(感嘆のように):
「……それは、勝っても、孤独だな。」
武蔵(目を開けて、静かに微笑む):
「勝負とは、常に孤独だ。だが、“己を超える”という道に、他者の評価はいらぬ。」
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アリの答え:“誇り”をかけた戦い
アリ(両手を組み、やや低く語る):
「究極の勝負か……。
俺にとって、それは“拳”じゃねぇ。
――“誇り”を守るために、拳を握ることだ。」
あすか(少し息をのむ):
「誇り、ですか。」
アリ:
「俺はベルトを失った。名誉を汚された。国からも見放された。
でもな、それでも拳を下ろさなかった。
“あきらめなかった自分”が、俺の中では一番の勝利だ。
究極の勝負ってのは、他人が見てるリングじゃない。
“自分が逃げたくなる夜”を、踏みとどまれるかどうか――それが勝負だ。」
キング(しみじみと頷く):
「……アリ、あなたの“夜”は、どれだけ深かったのかしら。」
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キングの答え:“声なき人”のための勝負
キング(言葉を選ぶように、ゆっくりと):
「私にとっての究極の勝負は、
“誰かのために、声を上げる”こと。」
(静かな感動が走る)
キング:
「私ひとりのためなら、もう少し楽に生きられたかもしれない。
でも、あのとき、ラケットを置かなかったのは――
“誰かの声になりたかった”から。」
アリ(柔らかい声で):
「それは、戦うより痛ぇ時があるな。」
キング(うなずく):
「ええ。
声を上げれば、孤立する。誤解される。時に裏切られる。
でも……
“沈黙して得た勝利”より、“声を上げて得た敗北”の方が、私は誇りに思える。
――それが、私の究極の勝負。」
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クーベルタンの答え:“理想”を掲げ続ける覚悟
クーベルタン(ゆっくりと立ち上がり、語り始める):
「……私にとって、究極の勝負は、
“理想を掲げ続ける”という行為そのものです。」
(会場が静まりかえる)
クーベルタン:
「理想は、常に現実に打ちのめされる。
オリンピックを作ったときも、戦争が起き、差別がはびこり、政治が入り込んだ。
それでも私は信じた。
人間は、もっと高く、もっと美しくなれると。」
あすか(静かに見つめて):
「それは……とても、孤独な戦いですね。」
クーベルタン(微笑んで):
「はい。だが、それでも――私はあえて理想を選びます。
敗れ続けても、それを捨てぬことこそ、私の勝負です。」
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(4人の言葉が、場を包み込む。あすかはしばし沈黙し、全員を見渡す)
あすか(ゆっくりと語る):
「誰かと戦うための勝負ではなく、
誰かのため、自分のため、あるいは“信じる何か”のために続ける戦い――
それが、究極の勝負なのかもしれません。」
(全員が静かに頷く。観客席にも、深い静寂と共鳴の空気が広がる)
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あすか(軽やかに口元を緩めて):
「さあ、これで全ラウンドが終了しました。
でも、まだ終わりではありません――
最後は、エピローグです。
この対話の旅を、皆さまと一緒に締めくくりましょう。」
(照明がゆっくりと落ちていく。静かな余韻と共に、幕がエピローグへと移行する)




