ラウンド3:スポーツは社会と切り離せるか?
(「ROUND 3:スポーツは社会と切り離せるか?」のタイトルが光と共に映し出され、コの字型のテーブルに再び対談者が戻ってくる。先ほどよりも、わずかに落ち着いた表情が見える)
あすか(司会)(微笑みを含んだ声で):
「さあ、休憩を挟んで、少し和やかになったように見えますね?
……でも、きっと、またすぐ熱くなると思います。」
(クスッと観客席から笑いが漏れる)
あすか(姿勢を正して):
「今回のテーマは、ずばり――
“スポーツは社会と切り離せるのか?”
競技は、あくまでルールの中のゲーム?
それとも、社会の鏡であり、戦場でもあるのか?
ここまでの対話を受けて、より深い議論が期待されます。」
あすか(目線をキングへ):
「まずは……ビリーさん、いかがですか?」
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キングの意見:スポーツは社会の鏡
キング(すっと背筋を伸ばし、凛とした声で):
「私の答えは明確です――切り離せない。
だって、私がラケットを握った瞬間から、“女のくせに”という声がコートの外から飛んできた。
勝てば“話題作り”、負ければ“やっぱり女は”――
私の試合は、常に“社会”と戦ってた。
ルールブックだけじゃ、人は守ってくれない。」
アリ(うなずきながら):
「分かるぜ。俺もそうだった。
勝てば“黒人でもやるな”、負ければ“黒人だから”――
リングの上に立ってたのは、俺だけじゃなかった。
全部、俺たちの背中に乗ってきてた。 それが“社会”ってやつだ。」
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クーベルタンの理想と葛藤
クーベルタン(少し沈黙したのち、語り始める):
「……本来、私は“スポーツは社会の外にあるべき”と考えてきました。
それは、社会の分断を超えるための“共通語”であってほしい――という願いでした。
でも……私たちが理想として描いたフィールドにも、差別も、戦争も、政治も――入ってきた。」
(ふと、キングと目が合う)
クーベルタン(深く頷き):
「ビリーさん。あなたと先ほど話して、私は思いました。
“社会から切り離す”のではなく、“社会を変える力”として、スポーツはあるべきなのかもしれないと。」
キング(目を細めて):
「ありがとう。ピエール。……それが、今のあなたの“挑戦”なのね。」
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武蔵の視点:勝負に社会は不要か?
あすか(武蔵に向き直る):
「では、武蔵殿。あなたは、どうお考えですか?
“勝負”と“社会”――結びつけて考えることは、ありますか?」
武蔵(一瞬目を閉じ、低く静かに語る):
「我が身が斬られれば、理想も社会もない。
勝負の場では、“ただ、生きるか死ぬか”――それだけが真実。」
アリ(腕を組み、挑発的に):
「じゃあ、あんたは、“社会のために戦う”ってのを認めないのか?」
武蔵(ゆっくりと視線を返して):
「否。
おぬしが背負った“社会”も、キング殿の“誇り”も、
己が戦いの“信念”として持つのは構わぬ。
だが……勝負の場に、その“感情”を持ち込めば、刃は鈍る。」
キング(わずかに声を荒げて):
「じゃあ、私たちは“鈍った刃”で戦ってたっていうの?」
武蔵(穏やかに、しかしはっきりと):
「いや……
“鈍らせぬまま、感情を制して戦った”――それは、尊敬に値する。」
(キング、一瞬驚いたような表情を見せ、微笑する)
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アリの爆発と真実
アリ(突然、拳を握って立ち上がる):
「……でもな、俺はそう“綺麗に”やってこれたわけじゃねぇ!
俺が“イスラムに改宗した”って言ったら、スポーツ記者たちは俺の名前を黒く塗りつぶした。
ベトナム戦争を拒否したら、“国賊”って言われて、チャンピオンベルトまで奪われた。
それでも俺はリングに戻った。勝った。
でもな――
“スポーツは社会とは無関係”なんて言葉を、俺は信じられない。」
(重たい沈黙。アリの目には怒りと、微かな痛みがにじんでいる)
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対話の昇華
あすか(静かに立ち上がり、全員を見渡す):
「……スポーツは、理想を描く“舞台”でもあり、
現実と向き合う“鏡”でもあるのかもしれません。
勝負の場は、きっと常に“社会”に染まっている――
でもだからこそ、そこで何を示すかが問われるんですね。」
クーベルタン(穏やかに微笑む):
「そのとおりです、あすかさん。
理想は、現実と対話してこそ、力を持つ。」
キング:
「戦うだけじゃなくて、伝えることも、ね。」
武蔵:
「伝える言葉が、己の“剣”であるならば――それもまた、勝負だ。」
アリ(肩の力を抜き、口元をほころばせ):
「……上手いこと言うな、サムライ。」
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あすか(やや前のめりに、柔らかな声で):
「ラウンド3を通して、
“社会と切り離せない”という現実と、
“切り離したい”という願いが、交錯しました。
でも……
勝ちも、負けも、社会も、想いも――すべてが競技に宿っている。
そう思えてきました。」
あすか(いたずらっぽく微笑んで):
「さあ、コーナーを挟んで次はいよいよ最終ラウンド――
“究極の勝負とは何か?”
戦いの果てに何を見るのか。
どうぞ、刃を交える準備はよろしいですか?」
(背景がゆっくりと暗転し、重厚な音楽が静かに流れ始める)




