ラウンド2:負けの価値とは?
(背景に「ROUND 2:負けの価値とは?」と浮かび上がり、会場全体に重みのある緊張感が漂う)
あすか(司会)(ややトーンを落として、静かに語り始める):
「“勝ち”の意味を語るには、“負け”の意味を避けては通れません。
日本には「相撲に勝って勝負に負ける」ということわざがあります。
でも――“負けには価値がある”という言葉、
これほど人によって賛否が分かれる言葉も、そうそうありませんよね。」
(全員の表情が少し硬くなる。空気が張り詰める)
あすか:
「では、あえて聞きます。
“負け”に意味はあるのか?
――今日は、忖度なしでお願いします。」
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ビリー・ジーン・キングの主張
キング(即座に前のめりで発言):
「あるわ。負けは、“今の社会がどうなってるか”を教えてくれる。
私が最初にプロテニス協会を作ろうとしたとき、誰も女の話なんか聞かなかった。
負けて、無視されて、それでも声を上げ続けた。
だからこそ、次の世代が勝てるのよ。」
アリ(鼻を鳴らすように):
「それは……負けじゃねえよ、キング。
あんたは勝ったんだろ。ボビー・リッグスを打ち負かしてな。」
キング(静かに、けれど刺すように):
「その1勝の裏に、何千回の“見えない敗北”があったって言ってるのよ。
でもそれは――あなたみたいなヒーローには、見えないのね?」
アリ(目を細め、言葉を選びながら):
「……悪かったな。でもな、俺は“見える勝ち”でしか人を動かせなかった。
見えない努力なんて、誰も耳を傾けちゃくれない。
“目の前の敵を倒してみせろ”って――それが世界のルールだったんだよ。」
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クーベルタンの反論と理想
クーベルタン(椅子に深く腰かけ、やや堅い口調で):
「それは、少々短絡的ではないでしょうか。
負けるという経験は、個人の内面を成熟させる貴重な機会です。
負けを経て、人は“自分と向き合う”のです。」
アリ(声を荒げて):
「“内面”? くそくらえだ。
俺が負けた夜、どれだけの新聞が“黒人はもう終わりだ”って書き立てたと思ってる?
俺にとっての負けは、俺だけの問題じゃなかったんだ!」
(会場がどよめく)
クーベルタン(やや言葉に詰まりつつ):
「……それでも、私は信じたい。
スポーツが社会から“偏見”を取り除く力を持っていると。」
キング(声に熱を込めて):
「なら、“偏見”の中で戦っている人の声を、ちゃんと聞いてください。
理想だけじゃ、現実の苦しみは届かないの。」
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宮本武蔵の静かな怒り
(全員の声がぶつかる中、静かに、だが強い眼差しで口を開く武蔵)
武蔵:
「――“負け”は、価値がある。だが、
それは、“勝とうとした者”にだけ与えられる。」
(他の対談者たちが一瞬黙る)
武蔵:
「私は、60を超える命のやり取りを経てきた。
その中で、敗れた者の死には意味があった。
――だが、“逃げた者”には何も残らなかった。」
アリ(にやりと笑う):
「おいおい、まるで俺が逃げたみたいな言い方だな?」
武蔵(微動だにせず):
「おぬしは、逃げていない。戦って、何度も立ち上がってきた。
だが……“負けを正当化する言葉”に、私は違和感を覚える。」
キング(鋭く切り返す):
「それって、“負ける人間は価値がない”ってこと?」
武蔵(少し目を伏せる):
「そうは言っておらぬ。
だが、“敗北を美化するな”と言いたい。
敗れてなお立つ者こそ、そこに価値がある。」
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クーベルタン(少し苛立ちを滲ませて):
「私は、“美しい敗北”の存在を信じます。
それがなければ、スポーツはただの“権力闘争”になります!」
アリ(バンッとテーブルを軽く叩いて立ち上がる):
「“美しい敗北”? フランス貴族の言葉遊びだな!
負けたら仕事も失う。メシも食えない。
“美しい”なんて言葉は、“飢え”を知らない人間の慰めだ!」
(観客がざわめき、キングが息をのむ)
あすか(すっと立ち上がり、柔らかくしかし強い声で):
「……ここで一度、深呼吸をしましょう。
どの言葉も、命の重みを背負っています。
だからこそ、今、この場に意味があるのです。」
(アリがゆっくりと席に戻る。キングは目を伏せ、武蔵は眼を閉じて黙する。クーベルタンは手を握ったまま沈黙)
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あすか(静かに、全員を見渡しながら):
「負けることは、敗れること。
でも、敗れることが、終わりとは限らない。
――それでも、そこには痛みと矛盾がある。
ラウンド2では、皆さんの“本音”がぶつかり合いました。
けれど、それぞれの立場が浮かび上がったからこそ、次のラウンドが必要なんです。」
あすか(ふっと微笑む):
「それでは幕間を挟んで、次回、問います。
“スポーツは社会と切り離せるか?”――
勝ちも負けも、ただの数字ではないことを、私たちはもう知っています。
お楽しみに。」
(背景が暗転し、BGMが静かにフェードアウト。次回への期待と緊張が、スタジオ全体を包む)