表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/9

ラウンド2:負けの価値とは?

(背景に「ROUND 2:負けの価値とは?」と浮かび上がり、会場全体に重みのある緊張感が漂う)


あすか(司会)(ややトーンを落として、静かに語り始める):

「“勝ち”の意味を語るには、“負け”の意味を避けては通れません。

日本には「相撲に勝って勝負に負ける」ということわざがあります。

でも――“負けには価値がある”という言葉、

これほど人によって賛否が分かれる言葉も、そうそうありませんよね。」


(全員の表情が少し硬くなる。空気が張り詰める)


あすか:

「では、あえて聞きます。

“負け”に意味はあるのか?

――今日は、忖度なしでお願いします。」



---


ビリー・ジーン・キングの主張


キング(即座に前のめりで発言):

「あるわ。負けは、“今の社会がどうなってるか”を教えてくれる。

私が最初にプロテニス協会を作ろうとしたとき、誰も女の話なんか聞かなかった。

負けて、無視されて、それでも声を上げ続けた。

だからこそ、次の世代が勝てるのよ。」


アリ(鼻を鳴らすように):

「それは……負けじゃねえよ、キング。

あんたは勝ったんだろ。ボビー・リッグスを打ち負かしてな。」


キング(静かに、けれど刺すように):

「その1勝の裏に、何千回の“見えない敗北”があったって言ってるのよ。

でもそれは――あなたみたいなヒーローには、見えないのね?」


アリ(目を細め、言葉を選びながら):

「……悪かったな。でもな、俺は“見える勝ち”でしか人を動かせなかった。

見えない努力なんて、誰も耳を傾けちゃくれない。

“目の前の敵を倒してみせろ”って――それが世界のルールだったんだよ。」



---


クーベルタンの反論と理想


クーベルタン(椅子に深く腰かけ、やや堅い口調で):

「それは、少々短絡的ではないでしょうか。

負けるという経験は、個人の内面を成熟させる貴重な機会です。

負けを経て、人は“自分と向き合う”のです。」


アリ(声を荒げて):

「“内面”? くそくらえだ。

俺が負けた夜、どれだけの新聞が“黒人はもう終わりだ”って書き立てたと思ってる?

俺にとっての負けは、俺だけの問題じゃなかったんだ!」


(会場がどよめく)


クーベルタン(やや言葉に詰まりつつ):

「……それでも、私は信じたい。

スポーツが社会から“偏見”を取り除く力を持っていると。」


キング(声に熱を込めて):

「なら、“偏見”の中で戦っている人の声を、ちゃんと聞いてください。

理想だけじゃ、現実の苦しみは届かないの。」



---


宮本武蔵の静かな怒り


(全員の声がぶつかる中、静かに、だが強い眼差しで口を開く武蔵)


武蔵:

「――“負け”は、価値がある。だが、

それは、“勝とうとした者”にだけ与えられる。」


(他の対談者たちが一瞬黙る)


武蔵:

「私は、60を超える命のやり取りを経てきた。

その中で、敗れた者の死には意味があった。

――だが、“逃げた者”には何も残らなかった。」


アリ(にやりと笑う):

「おいおい、まるで俺が逃げたみたいな言い方だな?」


武蔵(微動だにせず):

「おぬしは、逃げていない。戦って、何度も立ち上がってきた。

だが……“負けを正当化する言葉”に、私は違和感を覚える。」


キング(鋭く切り返す):

「それって、“負ける人間は価値がない”ってこと?」


武蔵(少し目を伏せる):

「そうは言っておらぬ。

だが、“敗北を美化するな”と言いたい。

敗れてなお立つ者こそ、そこに価値がある。」



---


クーベルタン(少し苛立ちを滲ませて):

「私は、“美しい敗北”の存在を信じます。

それがなければ、スポーツはただの“権力闘争”になります!」


アリ(バンッとテーブルを軽く叩いて立ち上がる):

「“美しい敗北”? フランス貴族の言葉遊びだな!

負けたら仕事も失う。メシも食えない。

“美しい”なんて言葉は、“飢え”を知らない人間の慰めだ!」


(観客がざわめき、キングが息をのむ)


あすか(すっと立ち上がり、柔らかくしかし強い声で):

「……ここで一度、深呼吸をしましょう。

どの言葉も、命の重みを背負っています。

だからこそ、今、この場に意味があるのです。」


(アリがゆっくりと席に戻る。キングは目を伏せ、武蔵は眼を閉じて黙する。クーベルタンは手を握ったまま沈黙)



---


あすか(静かに、全員を見渡しながら):

「負けることは、敗れること。

でも、敗れることが、終わりとは限らない。

――それでも、そこには痛みと矛盾がある。

ラウンド2では、皆さんの“本音”がぶつかり合いました。

けれど、それぞれの立場が浮かび上がったからこそ、次のラウンドが必要なんです。」


あすか(ふっと微笑む):

「それでは幕間を挟んで、次回、問います。

“スポーツは社会と切り離せるか?”――

勝ちも負けも、ただの数字ではないことを、私たちはもう知っています。

お楽しみに。」


(背景が暗転し、BGMが静かにフェードアウト。次回への期待と緊張が、スタジオ全体を包む)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ