ラウンド1:勝利とは何か?
(背景に「ROUND 1:勝利とは何か?」と浮かび上がり、テーブルを照らすライトが強まる)
あすか(司会)(やや身を乗り出して):
「さて、ラウンド1のテーマは――『勝利とは何か?』です。
この言葉、簡単なようで、実は人によって驚くほど意味が違う気がします。
ここにいる皆さんは、まさに“勝ち”の重みを知る方々。
まずは率直に、おひとりずつお聞きしましょう。
“あなたにとって、勝利とは?”」
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クーベルタン(胸に手を当て、静かに語る):
「勝利とは、“人間としての成長”を促す過程における一つの通過点にすぎません。
競い合うことで、自己を高める。それがスポーツの本質です。
結果が勝ちであっても、礼を欠けば、敗北と等しい。」
アリ(少し眉を上げる):
「つまり、勝っても“礼儀知らず”なら負けってことか?」
クーベルタン(笑顔で返す):
「礼を欠いて勝つよりも、尊厳を保って負ける方が、私は美しいと思います。」
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アリ(腕を組み、少し身を乗り出して):
「俺にとっての勝利は、“誇り”を取り戻すことだった。
黒人の少年たちに、“俺たちもやれる”って見せること。
ベルト?トロフィー? そんなもんより、
俺が勝つことで、奴らの目つきが変わった――それが本当の勝利さ。」
キング(柔らかくうなずきながら):
「あなたの勝ちは、きっと多くの人に“存在していい理由”を与えた。
それって、すごく重たい勝ちよね。」
アリ(やや皮肉っぽく):
「重たいし、リスキーだ。クーベルタンさんの“教育”じゃ、ベトナムの徴兵拒否は教えてくれなかったろ?」
クーベルタン(苦笑して):
「そこは、まさにスポーツの“外”にある社会の問題ですね。だが、教育とは常に変わっていくものです。」
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あすか:
「ビリーさんはどうお考えですか?」
キング(口元に指を添えて少し考え、語る):
「私にとっての勝利は、“証明”です。
男女が同じ土俵で戦えること。
弱い立場に置かれている者が、声を上げてもいいってこと。
勝った瞬間に、何かが“動く”――そういう勝ちを、私は信じたい。」
武蔵(小さくうなずく):
「勝つことで、道が開かれることは、ある。」
キング(鋭い眼差しで):
「でも、“勝てないと声を聞いてもらえない”っていう現実もある。
そこが、正直……つらいところなの。」
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あすか(静かに目を向ける):
「では、宮本武蔵殿。あなたにとっての勝利とは?」
武蔵(やや沈黙の後、淡々と):
「“勝ち”とは、“生き残る”ことだ。
戦において、敗れた者は死ぬ。
そこには、理想も平等もない。
私は、そういう世界で生きてきた。」
(空気が一瞬、張りつめる)
アリ(やや挑発的に):
「なるほど。なら、あんたの“勝ち”は、生き残りゲームか?」
武蔵(静かに視線を返す):
「時に、そうだった。だが、“生き残るために勝つ”と思っていた時は、
心が鈍った。勝ちとは、自分の弱さを斬ることでもある。」
キング(やや驚きつつ):
「自分の弱さを……」
あすか(鋭く反応):
「なるほど。“他人との勝負”でなく、“己との勝負”としての勝利――ですね。」
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クーベルタン(そっと反論の意を込めて):
「ですが、私は“生き残るために勝つ”という考え方には、やや疑問を感じます。
スポーツは命の取り合いではありません。そこに、精神の成熟があるべきでは?」
アリ(眉をしかめる):
「あんたの時代の“スポーツ”と、俺の“リング”は違う。
教育だ?礼儀だ? こっちは、戦場だったんだ。」
キング(困ったように):
「どちらの言い分にも、正しさがあるわ。
でも、その“違い”が理解されないとき、女は――最初から“リングにすら立てない”のよ。」
(一瞬の沈黙)
あすか(穏やかな口調で):
「……皆さんの“勝利”には、それぞれ血が通っている。
けれど、その“色”は違いますね。」
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あすか(テーブルを見渡して):
「さて、ラウンド1では、“勝ち”が意味するものが、人の数だけ違うということが、浮き彫りになってきました。
でも……どうやら、この違いが、次の議論で火を噴きそうですね?」
(アリがにやりと笑い、武蔵は静かに目を伏せる。キングは視線を強くし、クーベルタンは静かに顎に手を当てている)
あすか(微笑みながら):
「それでは次回、いよいよ感情が動き出すラウンド――
『負けの価値とは?』に進みましょう。
皆さま、覚悟はよろしいですね?」
(照明がやや落ち、BGMがフェードイン。次のラウンドのタイトルが浮かび上がる――)




