相貌失認症
私の持つ病気シリーズです。
「相貌失認症」という病気がある。
一般には「人の顔が認識できない病気」と理解されている。
この説明は間違いではない。が不正確だ。
相貌失認症の人は、人の顔がわかりにくいし覚えにくい。名前も覚えづらい。
私の経験を語るとしよう。
大学の講義で敬愛する先生がいた。
髭の先生である。
普通なら顔を見れば気づくはずだ。
しかし、私はその先生が同じバス停で乗り降りしていることに気づかなかった。
声を聴いて初めて同じ人だとわかったのだ!
さぞや失礼な学生と思われていたことだろう。
思いもかけない路上で親と出会った。
見知った顔だと思ったのでお辞儀をした。
どう言ってごまかしたのは忘れたが、とても恥ずかしい思いをした。
私は大体、場所と服装と声で人を認識している。
誰だかわからない時は、アルカイックスマイルを浮かべつつお辞儀をする。
何か話しかけてくれればしめたものだ。
記憶の中をひっくり返して人物を特定する。
相貌失認症の人は、全人口の五%はいるそうだ。意外に多い。
奇抜な服装や髪型、髭を好む人はその可能性が高い。
他人から声をかけてもらえるからだ。
前頭葉や側頭葉の器質的損傷によって起きるという説が広まっているが、結論とするにはは早計だ。
私は人生に二度、三十年ほど間を置いて脳のMRIとCTスキャンを受けている。が、どちらでも器質的な欠陥は指摘されなかった。
自閉スペクトラム症(自閉症/ASD)の人に相貌失認症が多く見られることが知られている。三分の一から半数は相貌失認症だという。
コロナ以降、その後遺症として相貌失認症が多くなったという話もある。
遺伝的な要因もあるという説もある。
とりあえずは「原因不明」で「人付き合いにおいて障害を持っている」病気であるということをご理解いただけるとありがたい。
なお、相貌失認症を描いた映画『フェイシズ』に「全ての人が同じ顔に見える」という表現があったが、これは誤りである。「顔の違いはわかるけど、それが誰だかわからない」「似た人を誤認してしまう」のが相貌失認症なのだ。