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茜の新たな日常

 四月十二日、火曜日。

「ピピピピピ……!」

けたたましい電子音が寝室に響き、茜はまどろみの中からゆっくりと目を開けた。目の前に3Dホログラムのデジタル目覚まし時計が浮かび、午前6時3分と表示されていた。

茜は無造作に手を伸ばし、ホログラムの目覚ましを叩き落として音を止めると、上体を起こして大きく伸びをした。いつも通りスッキリした目覚めだった。

茜はベッドから足を降ろし、立ち上がると同時に、イリスがふわりと寝室に現れた。

「おはよう、茜ちゃん」とイリスは声をかけた。

「はよー、イリス」と茜は返した。

 イリスは茜の全身を見つめ、目を光らせた。白い光線で全身をスキャンし、健康状態を確認した。

 茜は髪をかき上げながら、片足に体重をかけて待っていた。

「体温……36.6度、心拍数……60拍/分、血圧……120/80mmHg、血糖値……正常、睡眠の質……良好、顔色……良好――」

イリスは茜の健康状態を呟きながらデータを収集していた。

「――うん、今日も変わらず健康体だよ」

 その言葉に、「サンキュー、イリス」と茜は返し、寝室を後にした。

 茜は洗面所に向かい、顔を洗って歯磨きをしたあと、上下茜色のスポーツウェアに着替え、家を出た。家の前で軽く体をほぐし、日課の早朝ランニングを始めた。距離は片道五キロ、往復で十キロだった。

 早朝ランニングで汗を流したあとは、シャワーを浴びてさっぱりした。その後、朝食をとった。白米、味噌汁、焼き鮭、サラダ、ゆで卵、ヨーグルトなど、バランスの良いメニューをしっかりと食べた。さらに、朝食中にイリスと一日の予定を確認した。

「たしか今日は、午前中がテニスで、午後がフェンシングだったよな?」茜はゆで卵を一口で頬張りながら尋ねた。

「そうだったんだけど、予定が変わったんだよね。依頼者が急遽キャンセルしちゃって……」

「そっか……どう変わったんだ?」

「それはね……」


 数十分後、茜は腕を組み、顔をしかめていた。目の前には、色神学園の威圧感のある大きな校門が堂々とそびえていた。茜は色神学園の校門前に立ち、その隣にイリスがふわりと浮かんでいた。

家を出る前、イリスはなぜか、今回、茜が助っ人に入るチームとそのスポーツ、さらにその場所を教えてくれなかった。その理由を、今ここでようやく茜は知った。

「イリス、今日はここが会場なのか?」と茜は眉をひそめながら問いかけた。

「うん」イリスは元気よく頷いた。

「チッ……“あいつら”に会わねぇよう、気をつけねぇと」と、茜は周囲を警戒しながら小さく呟いた。

 茜の言う“あいつら”とは、一色こがね、姫島やなぎ、国東なのはの三人だった。特に、一色には絶対に会いたくないと思っていた。

「大丈夫。わたしについてきて!」とイリスは明るく言った。

「ああ、頼む」

茜はイリスを信じて、彼女の後をついて行った。時折、周りを見渡しながら、三人の姿がないか警戒して歩みを進めた。体育館、広場、グラウンド、ジム、食堂など、どこにも三人の姿がなく、茜はホッと胸を撫でおろした。

茜が周囲を警戒しながら進んでいると、突然イリスが「着いたよ」と告げた。茜は無事に“あいつら”に遭遇することなく、本日のスポーツ会場に無事到着したようだった。

茜が正面を向くと、そこには小さな教室のドアがあった。少人数用の教室で、広々としたスペースではなさそうだった。

「えっ……? イリス、ここが今日の会場なのか?」茜は戸惑いを隠せずに尋ねた。

「うん、そうだよ」とイリスは答えた。

「こんな狭い場所で、一体どんなスポーツができるんだ?」

「入ってみればわかるよ」

 茜はイリスの素っ気ない態度に違和感を覚えつつも、教室に入ればその理由がわかるだろうと判断した。ドアをゆっくり開けて中を覗くと、電気がつけっぱなしで誰の姿もなかった。

「ん? 誰もいねぇじゃねぇか」と茜は呟いた。

 茜が教室に足を踏み入れると、イリスも後から続いた。

教室の中は、特に変わった様子はなく、長机と椅子が静かに並んでいた。二人が中に入ってしばらく探索していると、突然、ドアが「バタン!」と音を立て、ひとりでに閉まった。

 茜は急いでドアまで走り、ドアノブをひねったが、開かなかった。何度ひねっても「ガチャガチャ」と音がするだけ。どうやら、外から鍵を掛けられたようだった。

 拷問部屋かよ……てか、なんでこの教室のドア、外鍵なんだよ!

茜はそう思いながら、事態に集中した。

「チッ、閉じ込められたか……一体誰の仕業だ? こんなくだらねぇことするやつは……?」茜は苛立ちを滲ませた声で呟いた。

 そのとき、突然電気が消え、窓には遮光カーテンが自動的に降り、教室の中は一瞬で闇に包まれた。数秒後、教室の中心に3Dホログラムが浮かび上がった。そこには、ウィッチサバイバルの歴史を特集するバラエティー番組が映し出され、伝説的な白熱試合のシーンが次々と再生された。

その映像を見た瞬間、茜は今回の首謀者が誰なのか、すぐに悟った。ドアを無理やり壊す以外、部屋から出る術がないため、茜は諦めて椅子に腰を下ろした。

 結局、茜は二時間近くこの狭い教室に閉じ込められ、ウィッチサバイバルの映像を延々と見せられる羽目になった。

映像が終わると、電気がパッと点灯し、遮光カーテンが自動的に開き、ドアの鍵も解錠された。直後、首謀者の一色こがねが、姫島やなぎと国東なのはを引き連れ、何食わぬ顔で教室に入ってきた。後ろの姫島と国東は、気まずい表情を浮かべていた。

「茜さん、ごきげんよう」と一色は笑顔で言った。

「やっぱり……お前らか……」と茜は呆れたように呟いた。

「わたくしたちが用意した、ウィッチサバイバルの映像はどうでしたか?」

「『どうでしたか?』、じゃねぇだろ! ふざけやがって……! 一体何のつもりだ!」

「茜さんに、ウィッチサバイバルの魅了をお伝えようと思いまして……」

「だったら、もっとマシなやり方があっただろ! 二時間もこんなとこに閉じ込めやがって!」

「こうでもしないと、茜さん、すぐにここから出て行きますでしょう?」

「当たり前だ!」

「ごめんね、茜ちゃん。こんなことして……」姫島は申し訳なさそうに小さな声で謝り、隣の国東も「ごめんなさい」と深々と頭を下げた。

 反省した様子の二人を見た茜は、息を整えて落ち着いた。

「……いや、二人に怒ってるわけじゃねぇ。お前らも、こいつに巻き込まれたんだろ?」と茜は少し柔らかい口調で返した。

「あら? どうしておわかりになるのですか?」と、一色は驚いた様子で言った。その発言と同時に、姫島と国東がゆっくり頭を上げ、気まずそうに頷いた。

「こんなくだらねぇことを考えるのは、お前しかいねぇだろ!」と茜は鋭く言い放った。

「茜さん!」と一色は大げさに叫び、手で口を覆った。その目には薄く涙が滲み、感激したように声を震わせた。「――いつの間に、そこまでわたくしのことをご理解いただいていたのですか!?」

「そんなわけねぇだろ!」と茜は顔を赤らめながら叫んだ。

「ウフフ、照れなくてもいいですわ。わたくしは嬉しいです」一色は頬を赤く染めた。

「照れてねぇよ! むしろ、迷惑だ!」

「迷惑だなんて……そんな悲しいこと、言わないでください……」一色はわざとらしく涙を浮かべ、泣き落としを試みた。「――わたくしたちは、茜さんのためを思って……」一色は茜をチラ見しながら反応をうかがった。

「それが迷惑だって言ってんだ! あたしは頼んでねぇ! てか、そもそも、なんでこんなことをする必要がある?」茜は苛立ちを露わにした。

「それはもちろん、茜さんに我が校のウィッチサバイバル部に入部してもらうためですわ」と一色は笑顔で答えた。

「はあ!?」

「先日の試合を拝見し、我が校のウィッチサバイバル部には、茜さんが必要だと確信しましたの」

「なんでそうなる? あたしより強いやつは、他にもいるだろ?」

「たしかに、強い選手は他にもたくさんいます。ですが、茜さんがいいのです。いえ、茜さんでなければならないのです!」

一色の発言に合わせ、姫島と国東も激しく頷いた。

「そんな言葉で、あたしを説得できると思うなよ。他のやつらと、あたしは違う……」

茜は鋭い目つきで一色を睨みつけ、さらに続けて言い添えた。

「それに、あたしはまだ、お前を認めてねぇからな!」

 その言葉に、一色は一瞬目を見開いた。すぐに真剣な表情に戻り、ゆっくりと口を開いた。

「……どうすれば、認めていただけるのでしょうか?」

「何をしても認めねぇよ」茜は素っ気なく返した。

「そうですか……」と一色は小さく呟き、落ち込んだように目を伏せた。少しして、顔を上げると、真っ直ぐな瞳で茜を見つめながら、「では――わたくしと、勝負をしませんか?」と静かに提案した。

「は……? 勝負……?」と茜は返した。

「ウィッチサバイバルで、わたくしと勝負をしましょう。それで、茜さんが勝ったら、わたくしは諦めます……ですが、わたくしが勝ったら、茜さんに入部してもらいます」と一色は真面目な口調で条件を提示した。

「……お前が、あたしに勝てると思ってんのか?」

「一対一では無理です。なので、ハンデをいただきたいと思っています」

「……どれくらいのハンデをつけるつもりだ?」

「そうですわね……三対一で、どうでしょうか?」

 茜は少し考えた。

先週の試合内容を見る限り、このハンデは妥当だな。やなぎとなのはの二人だけなら、余裕で勝てる。一色の実力はわかんねぇけど、大きな差はないはずだ。でなけりゃ、ハンデなんて求めねぇ。おそらく、三対一でちょうど互角……面白そうな試合になりそうだ……! でも……。

「そんな勝負、受ける理由がねぇんだよ」と茜は冷ややかに言った。

「ごもっともですわ……なので、もし茜さんが勝ったら、欲しいものを何でも差し上げる、というのはどうでしょうか?」と一色は提案した。

「別に欲しいものなんてねぇ」と茜は即答した。

「……では、物以外のプレゼントはどうでしょうか? たとえば、旅行や遊園地の招待状など……」

「特に興味ねぇ」

「そうですか……」一色は少し視線を下げ、考え込んだ。説得の手段が尽きたようで、しばらく沈黙が流れた。

「わりぃな……」と茜は軽く声をかけ、一色たちの横を通り過ぎ、教室から出ようとドアノブに手を掛けた。

 その瞬間、「あー! 茜ちゃん、もしかして負けるのが怖くて逃げるのー?」と、姫島がわざとらしい棒読みで言った。

 茜はドアノブを掴んだままピタッと止まった。

続いて国東が「そうなんだー、ちょっとカッコ悪いねー」と同じくわざとらしい棒読みで言った。

茜は眉間に深いシワを寄せ、握りしめた拳がわずかに震えた。

「お二人とも、そんな言い方はよくありませんわ。茜さんはただ……怖くて逃げているだけですもの」と一色が挑発的に言った。

「……なんだと?」茜はゆっくりと振り返り、一色を鋭く睨みつけた。

姫島と国東は「ヒッ!」と驚きの声を上げ、互いに抱き合った。

「あら? どうかなさいましたか?」

一色は何食わぬ顔で問いかけた。その姿が、茜には嘲笑っているように見えた。まるで一色が「せっかく試合を組んであげたのに逃げるなんて、とってもダサいですこと。オホホホホ……そんな方とチームメイトにならなくて、ホッとしましたわー!」と笑い飛ばしているように見えた。さらに「その程度の実力で調子に乗るなんて、滑稽ですわー!」と挑発しているようにも見えた。

少しの沈黙のあと、「いいぜ……そこまで言うなら、やってやるよ」と茜は低く呟いた。その目には鋭い光が宿り、口元にはわずかな笑みが浮かんでいた。

「本当ですの!?」と一色はすかさず問いかけた。

「ああ……その代わり、さっきの約束、忘れんなよ」茜は一色を指差して言った。

「はい、もちろんですわ!」

一色は満面の笑みで頷き、さっきまで怯えていた姫島と国東も、手を取り合ってぴょんぴょんと跳ねていた。

 試合会場に向かうため、茜が部屋を出ようとしたそのとき、一色はふとイリスの方に視線を送り、「ありがとうございました。イリス様」と小声でお礼を言った。その言葉に応じるように、イリスは静かに微笑み返した。

 試合会場に向かう途中、一色が今回のルール説明を始めた。

 今回の試合は三対一という特別仕様だった。試合時間は十分、ハーフタイムなし、攻撃力アップ、防御力アップ、HP回復、MP回復などのアイテムあり。HPは姫島たちがそれぞれ100、茜が三人分の300ということだったが、茜はその条件を自ら変更し、自分もHP100でいいと申し出た。

「これくらいで丁度いいだろ」と茜は淡々と言い切った。

 試合会場のグラウンドに近づくと、ウィッチサバイバル専用スーツに身を包んだ少女がひとり静かに立っていた。その姿は、まるで孤高の戦士のようで、気迫すら漂わせていた。離れているときは気づかなかったが、到着して彼女の正体がわかった。先週、茜と対戦した1番選手――九重みやだった。

「あんたは、たしか……」茜は眉をひそめ、低く呟いた。

「やっと来た……! 待ちくたびれたんだけど……」と九重は不満を漏らした。

「みやは待ってるだけで楽だったでしょ! こっちは、茜ちゃんを説得するのに超苦労したんだから!」と姫島が言い返した。

「そんなの、わたし知らないから」九重はあっさりと言い、肩をすくめた。

「な、なんだとー!」

 九重は姫島を無視し、茜に視線を向け、「久しぶり、茜さん」と微笑みながら手を差し出した。

「ああ、久しぶり……」茜は握手に応じた。手を離すと、「てか、何であんたがいるんだ?」と尋ねた。

「えっ!?」と九重は驚き、姫島に目をやった。「ちょっと、やなぎ! 茜さんに言ってないの?」

「あー、そういえば、忘れてた……かも……」姫島は気まずそうに目を逸らし、後頭部を掻いた。

「はぁ……本当にやなぎはまったく……」九重は呆れたように息をつき、少し視線を落とした。

「すみません、九重さん。わたくしも失念しておりましたわ」一色は軽く頭を下げた。すぐに顔を上げ、「あなたが参加することを……」と小声で付け加えた。

「はっ!? どういうことだ? あんたも参加したら、四対一になるじゃねぇか!?」と茜は問いかけた。

「いえ、それは違います」と一色は冷静に答えた。

「何が違うんだ……?」

一色は一呼吸置いてから茜に視線を向けた。

「今回、試合に出場するのは姫島さん、国東さん、そして九重さんの三人ですわ」

 そう言って、一色は三人の方を示した。

「は……? じゃあ、お前は……?」茜は一色を指差した。

「今回は、参加しません」と一色ははっきりと答えた。

「だったら、何でお前はここにいるんだ?」

「わたくしは、色神学園の運営に携わる者として、部活の設立に立ち会うのは当然の役目です」

一色は胸を張って言った。その瞳には、どこか野心的な光が宿っていた。一色の心の中では、すでに新生ウィッチサバイバル部が、全国大会で次々と強豪校を打ち破り、最終的に全国優勝を果たすビジョンが鮮やかに描かれているようだった。

(そんな簡単にいくはずねぇだろ……!)

茜は内心でそう呟きながらも、どこか一色の熱意に引き込まれている自分に気づき、眉間にシワを寄せた。気持ちを切り替えるため、「お前は入部しねぇのか?」と尋ねた。

「はい、わたくしはサポート役に徹しますわ」と一色は即答した。

「そうか……」茜は興味なさそうに短く呟いた。

茜の反応を見た一色は、ハッとして手で口を覆った。

「茜さん……まさか……わたくしとチームメイトになりたかったのですの!?」

 一色は驚きと嬉しさを滲ませた声で問いかけた。

茜は顔を赤く染めながら、「はあ!? そんなわけ……」と反論しようとした。だが、一色が「それなら、わたくしも考え直さなければいけませんわね……」と食い気味に制し、真剣な表情で考え込んだ。

「そんなわけねぇだろ!」と茜はすかさず全力で否定した。

「そんなに照れなくてもよろしいですわ」一色は頬を赤らめながら、満足げに呟いた。

 茜は呆れたように息をつき、目を伏せ、早々に説得を諦めた。しかし、すぐに顔を上げ、「……いいことを思いついた!」とニヤリと笑った。

「いいこと……?」と姫島が首を傾げた。

茜は一色に目を向け、改めて条件を確認した。

「あたしが勝ったら、何でも言うことを聞くんだよな?」

「はい、わたくしにできることならなんでも……」と一色は落ち着いた口調で答えた。しかし次の瞬間、「あっ!」と何かを閃いたような表情を浮かべ、頬を赤く染めた。両手でそっと頬に触れながら、「ただ……その……エッチなことは、心の準備が必要ですので、少しお時間をいただければ……」と恥ずかしそうに言った。

「そんなわけあるかっ!」と茜は即座にツッコんだ。咳払いひとつで気持ちを切り替え、真剣な眼差しで一色を見据えた。

緊張感のある沈黙が流れる中、茜はゆっくりと口を開いた。

「あたしが勝ったら、お前が入部しろ!」と茜は一色を指差しながら言い放った。

 一色は一瞬、不意を突かれたように目を見開いた。茜のまさかの発言に驚いた様子だった。

 姫島、国東、九重の三人も同じように目を丸くして驚いた。

 茜は一色の驚き顔を見た瞬間、心の中で喜んだ。

 よっしゃ! ついに一矢報いることができたぜ。さすがのこいつも、この展開は読めなかったみたいだな……フフッ、さあ、どうする? 一色こがね! ここまで来て、「やっぱり無理です」なんて言うわけねぇよなぁ?

 茜は思わず笑みをこぼし、一色の返答を楽しみに待った。

 しばらくすると、一色がようやく口を開いた。

「……わかりました。その条件で、お受けいたしますわ」と一色は静かに答えた。

 その返事を聞いた瞬間、茜はニヤリと笑った。

一方、一色は手で口元を覆い、「まさか……そこまでとは……」と声を震わせた。

 茜は一色の様子に違和感を覚え、彼女を見つめた。

一色は続けて呟いた。

「――茜さんが、そこまでわたくしと一緒のチームになりたかったなんて……」一色は感極まったように呟いた。

「はあ!? 誰がそんなこと言った!?」と茜は焦ったように声を張り上げた。

一色は瞬時に表情を引き締め、周囲を見渡してから静かに問いかけた。

「というわけで、今回の試合は、姫島さん、国東さん、九重さん対茜さんで行います。よろしいでしょうか?」

 姫島、国東、九重の三人は黙って頷いた。

「えっ、ちょっと待っ……」と茜は戸惑いを見せた。

だが、「ではみなさん、準備を始めてください!」と一色は茜の発言を遮り、明るい声で言った。

一色の声かけに応じ、姫島と国東は更衣室へと足早に向かった。

茜は反論のタイミングを逃し、慌てて二人を追いかけた。

更衣室にはウィッチサバイバル専用の装備が整然と並び、色とりどりのスーツやカスタマイズ可能な杖、そして翼を模したほうき型ドローンがディスプレイされていた。

 茜は、炎のような力強さを感じさせるデザインのスーツとほうきを選んだ。

 姫島と国東は、九重と同じ水を連想させる青いスーツとほうきを手に取った。

「ごめんね、茜ちゃん。さっき、挑発するようなことを言っちゃって……」と姫島は顔を伏せ、申し訳なさそうに言った。

「気にすんな。どうせ、一色に言わされたんだろ?」と茜は軽く返した。

 姫島は気まずそうに頷いた。

「でも、嫌な気持ちにさせたよね……本当にごめんなさい」と国東が謝った。

「まぁ、ちょっとはムカッときたけどな……」

茜はため息まじりに言いつつ、すぐに口元に自信たっぷりの笑みを浮かべて続けた。

「でも、二人と戦えるのは楽しみだ。手加減はしねぇから、覚悟しろよ!」

「あ、あたしだって、全力でいくからね!」と姫島は言い返し、「わたしも!」と国東も続いた。

「ふっ、いい試合にしよーな」と茜は返した。

三人は準備を終え、更衣室を後にした。

グラウンドに集まると、一色が全員に目を配りながら「フィールドはどうしますか?」と尋ねた。

「茜ちゃんが決めていいよ!」と姫島が言うと、全員の視線が茜に集まった。

「何でもいい」と茜は答えた。

「では、ランダムで決めましょう」と一色は言い、空中に浮かぶホログラムの設定画面を人差し指で軽くタップし、試合の設定を行った。

設定が完了し、一色が決定ボタンをタップすると、平坦なグラウンドに波紋のような光が広がった。次の瞬間、地面から透明な立方体がせり上がり、それが次々と緑の葉をまといながら成長していく。それらの木々は瞬く間に密集し、目の前に深い仮想の森を作り上げた。

「今回の会場は、森林地帯ですわ」と一色は言い添えた。

先週の岩場と違い、空中に障害物は何もない。ただし、地上から生えた木々は絶好の隠れ場所となりうる。木の高さはおよそ十メートルから二十メートル。フィールド範囲は前回と同じで、縦百二十メートル、横八十メートル、高さ百十メートルの楕円形に設定された。このフィールドに生い茂る木々は3Dホログラムで構成されており、攻撃が命中すると傷つき、折れる。さらに、木々と衝突すると、選手のHPは減少する。

フィールドが変わったことで、今回の戦術は前回とはまったく異なるものになるだろう。場合によっては、三対一のハンデが意味をなさないかもしれない。上手く木に隠れながら一対一に持ち込むことができるからだ。茜にとっては、今回は有利なフィールドと言えるだろう。加えて、三人の実力も前回の試合で把握済みのため、様子見の必要もなかった。

 茜は肩に乗るイリスに静かに尋ねた。

「イリス、どうなると思う?」

「相手がどんな作戦でくるかわからないけど、前回のデータから推測すると、茜ちゃんが87%の確率で勝つと思う……」とイリスは冷静に答えた。

「だろうな」

「でも、油断しちゃダメだよ」

「ああ、わかってる」

 茜、姫島、国東、九重はフィールドの境界線を越えると、足元の地面がわずかに揺れる感覚を覚えた。各々が静かに指定された位置へ向かいながらも、互いの気配を探るように視線を交わし、一瞬の緊張が空気を支配していた。茜は口角をわずかに上げ、闘志が湧き上がるのを隠しきれない表情を浮かべた。九重は目を輝かせ、楽しそうに周囲を見回していた。一方で、姫島と国東の顔には緊張の色が浮かび、時折互いに視線を送り合っていた。

四人は指定された場所に到着すると、それぞれのほうきを起動し、柔らかく地面を蹴って浮遊した。フィールドには無数の木々が生い茂り、その隙間からは誰の姿も確認できない。木の葉が微かに揺れる音だけが耳に届き、不気味な静けさが漂っていた。

 四人の準備が整うと、AIアナウンスがルール説明を読み上げ始めた。フィールドの周りには、学園の生徒たちが集まり、観戦していた。

AIアナウンスがカウントダウンを開始した。

「ピ・ピ・ピ・ピーッ!」という電子音が鳴り響き、ついに試合の幕が上がった。

 茜は木々の間を低く飛びながら、ゆっくりと前進した。フィールドの状況からして、当然の行動だった。まずは相手がどういう作戦なのかを見極める必要がある。二人と一人に分かれるのか、三方向に分かれて囲い込むのか。時間が限られているため、探り合いはすぐに終わるだろう。

茜は三人が木々に身を潜めているだろうと予測していたが、試合開始からわずか数秒、突然、姫島が勢いよく上空へと飛び出した。その姿はまるで一瞬の隙を狙う猛禽類のようで、フィールド全体を一望しようとしているのが明らかだった。

姫島は上空からフィールド全体を見渡し、茜を探した。三対一のアドバンテージを上手く活かした作戦だが、予想外の行動に、茜の眉が一瞬だけ動いた。

「まさか、上に出るとはな……結構強気じゃねぇか」と茜は呟きつつ、冷静に次の行動を考えた。

茜は姫島に見つからぬよう、その場で息を潜めた。しかし、大体の居場所はバレているはずだった。このまま同じ場所に居続けるのは危険だと、茜は即座に判断し、姫島の位置を正確に見極めると、周囲を見渡して国東と九重を探した。だが、二人の気配はまったく感じられなかった。ただ、不気味な静けさの中に森が広がっていた。まだ近くまで来てないようだった。おそらく、二人も警戒して進んでいるのだろう、と茜は冷静に分析した。

さて、どうする……? やなぎとは少し距離がある。ここからでも攻撃を当てることはできるが、その瞬間、全員に居場所がバレる。そうなると、三人で一気に攻めてくるはずだ。なら、先になのはか、みやをやるか。正直、一番厄介なみやを最初に倒したいが、当然、相手もそれを読んでいるはずだ……。どうせ戦闘が始まれば、居場所はバレる。それなら……誘いに乗ってやる!

茜はそう決断し、空に向かって勢いよく飛び上がった。木々をかすめる風の音が背後で消え、茜の視界には広がる空と、姫島の姿がくっきりと浮かび上がった。最初の標的を姫島に絞り、一気に倒す作戦だった。

姫島は空中で静止し、茜の急接近を冷静に捉えた。瞬時に杖を振り、青白い光の弾丸を放つ中級攻撃『ステラ』を放った。その軌道は狙い澄まされていたが、茜はその微妙なタイミングのズレを見抜き、体をひねるようにして躱した。

姫島は前回と違い、初級攻撃『ルクス』を手当たり次第に撃ってこなかった。しっかりと学んでいるようだった。それでも、腕はまだまだで、茜には当たらなかった。

茜は、姫島の放つ『ステラ』の軌道を完璧に見切り、すべて回避しながら確実に距離を詰めていった。しかしその途中で、森の奥から、鋭い光弾――初級攻撃の『ルクス』が茜の背後に迫った。

茜はギリギリでその気配に気づき、反射的に避けたあと、すぐさま振り返った。そこには木陰から茜を狙う国東の姿があった。冷静な瞳の奥に宿る狙いの確かさが、一瞬で茜に次なる危機を予感させた。

国東が次々と放つ『ルクス』は、まるで茜の動きを完全に読み切ったかのように、鋭い弧を描いて迫ってきた。

茜は息を止め、ギリギリのタイミングで身体をねじるように回避した。だが、その背中には冷や汗が流れていた。姫島に迫りつつも、時折振り返って背後に『ルクス』を放った。だが、頭の中には焦りが渦巻いていた。

「背後を気にしすぎれば前が疎かになる……でも、気を抜けば国東の攻撃は避けられねぇ!」と茜は思わず声を漏らした。

選択を迫られる一瞬、茜の瞳に鋭い光が宿った。次の瞬間、茜は歯を食いしばり、視線を姫島に固定した。一旦、背後の国東を無視することに決めた。国東の攻撃が命中しても、初級攻撃の『ルクス』なので、上手く回避すると、たいしてダメージは入らない。しかし、茜には一つ気がかりなことがあった。いまだに九重が姿を見せていないことだ。自分と同時に、国東と九重も森を飛び出すだろう、と茜は予想していたが、そうはならなかった。九重はいまだに森に潜み、何かを狙っているようだった。

それでも、茜はこのまま作戦を続行した。森を飛び出して居場所がバレた以上、もう簡単に隠れられない。茜は華麗な飛行で光弾を躱しつつ、ついに姫島の目の前まで迫った。そこで強力な光の上級攻撃『ルーナ』を放ち、姫島に大ダメージを与えようと、エネルギーを溜めた杖を構えた。

しかしその瞬間、茜は森の中から異様な気配を感じ取った。咄嗟に攻撃を止め、気配を感じた場所に素早く目をやった。

突如、森の奥から鋭い光が一筋の線となり、茜を射抜くように迫ってきた。その殺気を感じ取った瞬間、茜の瞳が見開かれた。

「まずい!」

茜は反射的に上体を反らし、ギリギリのタイミングで直撃を免れた。だが、その光弾は右肩をかすめ、茜のHPが1減少した。

この光弾は、九重が放った特殊攻撃『ラディウス』だった。『ラディウス』は、頭部か心臓に一発でも当たれば即脱落、防御をも貫通する破壊力を持った攻撃だった。しかし、その他の部位に命中すると、わずか1ダメージしか与えられない。

「くっ、外した……やっぱり狙撃は苦手だな」と九重は悔しそうに声を漏らした。

 茜は九重の居場所を特定した瞬間、急遽作戦を切り替えた。姫島と国東を無視し、迷わず九重の潜む場所に向かって急加速した。

九重は茜の殺気を背に感じ、即座にほうきを急旋回させると、森の中を疾風のように駆け抜けた。枝葉をすり抜けるたびに木々が揺れ、九重の姿は森の奥へと消えかけた。

「逃がすかよ!」

茜もすぐさま反応し、ほうきに体を密着させるようにして加速した。木々が視界を高速で流れ去る中、茜の追撃が始まった。さらに、姫島と国東が茜の後を追った。

 たくさんの木々が邪魔で、遠くからではさすがの茜も九重に攻撃を当てるのは難しかった。だが、相手もまた同じ制約を受けている。密集する木々を縫うように飛ぶ二人のほうきは、わずかな操作ミスさえ許されない状況だった。

九重は森の中で次々と角度を変え、枝の間をすり抜けて進んだ。一方、茜も、彼女に引けを取らない精密な飛行技術で、距離を徐々に詰めていった。

「攻撃を当てるにはもっと近づかねぇと……!」

茜の目に焦りはなく、ただ鋭い集中が光っていた。ただ、九重の飛行技術も高く、木々の間を縫うように飛んでいた。さらに、時折振り返りながら、器用にバランスを保ちつつ、茜に『ルクス』を放った。茜も九重に負けないスピードと『ルクス』で応戦した。

 一方、姫島と国東は、懸命に追いすがるものの、茜と九重の加速にはついていけず、距離が徐々に開いていった。姫島は歯を食いしばりながら懸命に追いかけ、国東も、悔しげに眉をひそめながら全力でほうきを操っていた。しかし、姫島と国東はやがて、前の二人を完全に見失った。

「今だ!」

茜は声を上げ、全身の力を振り絞って飛行スピードをさらに上げた。視界の中で九重の背中がどんどん大きくなっていった。

「ここで決める!」

徐々に九重との距離が詰まり、やがてその背中を射程に捉えると、茜は杖を構え、中級攻撃『ステラ』を放った。

茜の放った『ステラ』が、九重の背中を捉えたその瞬間、九重は驚くほど鋭い角度で上昇した。光弾は彼女のすぐ下を掠め、空に消えていった。

「チッ!」

茜は悔しさを噛みしめながらも、すぐさま追撃態勢に入った。九重の動きを倣い、急角度で上昇した。

茜が上昇した瞬間、九重は急に方向を転換し、杖を構えた。茜も九重に照準を合わせ、杖を構えた。しかし、ほんの一瞬の違和感が茜を襲った。同時に、茜は姫島と国東に左右から挟まれていることに気づいた。

「ルーナ!」

三人の声が響き渡ると、上級攻撃『ルーナ』の光弾が、三方向から一斉に茜へと迫った。逃げ場のない攻撃が茜を包み込み、次の瞬間、まばゆい閃光と轟音がフィールド全体を揺るがした。爆発の衝撃波が四方に広がり、ホログラムの木々が揺れ、枝葉が煌くように舞った。三つの光弾が交差する中心で、茜の姿は爆煙に飲み込まれていた。

姫島たちは息をのみ、杖を構えたまま身構えていた。

「直撃したはず……なのに、なんで終わらないの?」

試合終了のAIアナウンスが流れず、姫島がかすかな疑念を漏らした。

「まさか……?」と国東が声を上げた。

もし、三つの『ルーナ』が茜に直撃していれば、確実に脱落するほどのダメージを与え、試合終了のAIアナウンスが流れるはずだった。だが、AIアナウンスが流れないということは、つまり――茜はまだ健在ということだった。

「やなぎ、なのはちゃん、まだ油断しちゃダメよ!」

九重が冷静に声をかけると、 姫島と国東は静かに頷いた。

三人の額には冷や汗が滲んでいた。

 三人は三方向から杖を構えたまま、いつでも攻撃または防御が展開できるように準備していた。茜の実力を知っているため、決して油断しなかった。

 やがて煙がゆっくりと晴れ、茜のシルエットが浮かび上がった。傷だらけで杖をかろうじて支えているように見えたが、その顔には確かな笑みが刻まれていた。

茜は静かに顔を上げ、鋭い眼差しで三人を見据えた。その不敵な笑みに、九重たちはわずかに息をのんだ。

「そう簡単にはいかないか……」と九重は低く呟いた。

「まさか、あれを防ぐなんて……!」と国東は驚きの表情を浮かべた。

「やっぱりすごいな、茜ちゃんは!」と姫島が嬉しそうに言うと、九重と国東も頷いた。

「でも、全方位にディフェンシオ(防御)を張っただろうから、MPはほとんど尽きているはず。今がチャンスよ!」と九重は冷静に分析した。

「そうだね」と国東は頷いた。

「茜ちゃん……このままあたしたちが、勝たせてもらうよ!」と姫島は力強く宣言した。

茜はニヤリと笑みを浮かべた。

「面白れぇ! 受けて立つ!」

次の瞬間、三人が茜に向かって同時に『ルクス』を放った。

茜は咄嗟に真下へ急降下し、三人の『ルクス』を寸前のところで躱した。

「逃がさない!」と九重は鋭い声を上げ、即座に後を追いかけた。姫島と国東もその後を追撃し、森の上空で繰り広げられる激しい攻防戦に再び突入した。

三人とも攻撃速度の速い初級攻撃『ルクス』を連射し、茜をこのまま倒しきろうと狙い続けた。

一方、茜は森の上空を不規則に旋回し、まるで捕まえられない鳥のように、三人の攻撃を躱し続けた。だが、心の中では焦りを押し殺していた。

(まだだ……あと少しで……)

茜はMPがほとんど尽きかけた状況で、攻撃も防御もできなかった。それでも、森の様子をうかがう視線には、冷静な計算と大胆な計画の兆しが宿っていた。

「何で森の中に逃げないんだろ?」と国東は疑問を投げかけた。

「あたしたちを挑発して、揺さぶってるんじゃないかな?」と姫島は答えた。

「それもあるかもしれないけど……本命は違うと思う」と九重は冷静に分析した。

「本命って何……?」と姫島がすかさず尋ねた。

「わからない……でも、何か仕掛けられる前に、早くに決着をつけるべきよ!」と九重は言い放ち、目つきを変えた。本気モードに入ると、九重の飛行スピードが一気に増し、攻撃の精度も格段に高まった。姫島と国東も頑張ってついていく。それでも、茜にはなかなか攻撃が当たらなかった。

 茜は三人の止まない攻撃を必死に回避し続けた。そのおかげで、MPは三分の一程度まで自動回復した。だが、まだ全然足りない。

残り時間が三分を切ったその瞬間、フィールド全体に眩い光が走った。森の中から四つの光の柱が立ち上り、それぞれの場所にアイテムが出現した。赤い光は攻撃力上昇、緑は防御力上昇、水色はHP、青はMPの回復を示していた。それは一瞬にして選手たちの視線を奪い、戦場の空気を一変させた。

光が消えるや否や、茜はすでに動き出していた。目にも止まらぬ速さで種類を確認すると、迷うことなく森の中へ急降下した。その動きは他の三人の予想を完全に裏切り、九重が反射的に叫んだ。

「しまった! 茜さんの狙いはアイテムだったんだ!」

「全部は取らせないよ!」と姫島は鋭く言い放った。

 姫島、国東、九重は三方向に散ってアイテムを目指した。三人は視線だけで意思を通じ合わせ、瞬時に向かう場所を決めた。一番速い九重がHP回復アイテム、国東が攻撃力上昇アイテム、姫島が防御力上昇アイテムを取りに向かった。

 茜が真っ先に手に入れたアイテムは、MP回復アイテムだった。そしてすぐに方向転換し、もう一つ狙っているアイテムがある場所へ超スピードで向かった。

木々の間を縫うように飛行し、瞬く間に二つ目のアイテムの目前まで迫った。茜とほぼ同時に、姫島が防御力上昇アイテムに迫っていた。アイテムまでの距離は、二人ともあと五メートル。先にアイテムに手を触れた方がゲットできるため、二人とも片手で必死にほうきを握り締めながら、精一杯に体を傾け、アイテムを掴み取ろうとした。

このまま行けば、姫島の方がわずかに早くアイテム手が届く――茜の目がその事実を鋭く捉えた。瞬時に判断した茜は、ほうきを支える手を思い切って放し、全身でバランスを保ちながら杖を振った。

「ルクス!」と茜は小さく叫び、閃光を姫島に向けて放った。

 姫島は反射的に茜の攻撃を避けたが、そのせいであと数センチ手が届かず、アイテムを通り過ぎてしまった。

 その結果、茜は防御力上昇アイテムを手に入れた。

 間もなく、他のアイテムを手に入れた国東と九重が、茜たちのもとへ駆けつけた。

「まさか、その状態でHPを回復しないなんて……意外だった!」と九重は驚いた。

「全員倒せば、HPなんて意味ねぇだろ」茜は言い放った。

「残り二分で、わたしたち全員を倒せると……?」と九重は冷静に問いかけた。

「そのつもりだ!」と茜は即答した。

 そう言い放た瞬間、茜の横から鋭い光弾が迫っていた。茜はそれをサッと躱し、飛んできた方に目を向けた。そこには、杖を構える国東の姿があった。

「わたしたちは負けないよ、茜ちゃん……」と国東ははっきりと言い切った。普段はやさしい国東が、珍しく鋭い目つきで茜を見据えていた。

茜はニヤリと笑みをこぼした。

「望むところだ!」と嬉しそうに返し、杖を横に大きく薙ぎ払った。無数の『ルクス』が放射状に周囲へ飛び散り、姫島たちに襲いかかった。

三人が光弾を避けている間に、茜は国東に狙いを絞って突撃した。まずは、三人の中で攻撃を避けるのが苦手な国東を倒す作戦に出た。

国東は茜の意図に気づき、即座に森の奥へと飛んだ。

「ここで負けるわけには……!」と国東は声を漏らした。

国東は逃げながら、茜の視線を特定の方向へ誘導しようとしていた。だが、茜も超スピードで彼女を追い詰めた。その後ろから姫島と九重が追いかけた。

国東が逃げることに専念していたため、茜は中級攻撃『ステラ』を放ち続けた。もちろん、背後から迫る姫島と九重の『ルクス』をギリギリで回避しながら。光弾が飛び交う中、茜は鋭い旋回と急降下で回避し、空気を切り裂く音がフィールドに響き渡った。

茜は国東に次々と『ステラ』を命中させ、着実にダメージを積み重ねていった。しかし、狙いはことごとく数センチずれ、決定的なダメージを与えられなかった。

茜は悔しさを滲ませつつも、笑みを浮かべた。国東の回避スキルが、一週間前よりも明らかに向上しているのを実感していた。

背後から放たれる姫島の『ルクス』は、以前よりも鋭く正確だった。

「……まさか、ここまでとはな」

茜は内心驚きを隠せなかった。

九重の動きは言うまでもなく洗練されており、姫島の攻撃スキルも一週間前とは別人のようだ。二人の連携攻撃は、茜の動きをじわじわと追い詰めていった。

茜の口元に自然と笑みが浮かんだ。自分が追い詰められている状況にもかかわらず、姫島と国東の成長が何より嬉しかった。一週間前とはまるで別人のような動き――二人が相当な努力を積み重ねてきたのが一目でわかった。茜は二人の成長を心の底から喜んだが、勝負の舞台で情けをかけるつもりは一切なかった。

「だからこそ……全力で叩き潰す!」

 茜はそう宣言した。

残り時間が、一分二十秒を切った。

冷静に状況を分析した茜は、通常戦闘では時間が足りず、敗北することを悟った。わずかな間に脳裏で計算を巡らせ、茜はリスクの高い作戦に踏み切った――特殊攻撃『ラディウス』で一撃ずつ相手を仕留める作戦だ。しかし、茜はあまり狙撃が得意ではなかった。一発でも外せば負けるため、失敗は決して許されない。確実に当てるためには、至近距離から放つしかない。幸い、茜は飛行が得意だった。

茜は攻撃を止め、追跡に全集中した。両手でほうきをしっかりと握りしめ、少し前かがみになり、スピードを上げた。みるみるうちに国東の背中が近づき、彼女の背中を見据え、一気に横に並びかけた、その瞬間――ほうきから片手を放し、国東の心臓へと狙いを定めた。

「ラディウス」

茜の杖から放たれた一条の光が、国東の胸を真っ直ぐに貫いた。体がわずかに震え、HPが0に到達すると、彼女は静かに地面へ降り立った。

残り時間は、ついに一分を切った。

茜は素早く進行方向を変え、姫島と九重に向かって突撃した。

二人はほうきを大きく前傾させ、光の軌跡を描きながら茜へ突撃。無数の『ルクス』が次々と放たれた。

茜は相手の攻撃を回避しながら杖を構えた。茜のHPは残り8しかないため、初級攻撃の『ルクス』でも、まともに当たると負ける。だが、かすり程度のダメージなら、一度は耐えられる。茜はそのリスクを承知で突撃を続けた。

すれ違いざま、姫島の『ルクス』が茜の左肩をかすめた。だが、HPはわずかに2残っていた――防御力上昇アイテムが、土壇場で茜を救ったのだ。

茜はすれ違いざまに九重の心臓を狙い、『ラディウス』を放った。茜のラディウスが九重の心臓を貫き、九重はその場に崩れ落ちた。

残り時間が三十秒を切った。

このまま姫島が逃げ切れば、残りHPの差で茜の敗北は確実だった。しかし、姫島の瞳には逃げる色はなく、ただ茜を真正面から見据えていた。

茜は急旋回して体勢を整えると、姫島と対峙した。

一瞬の静寂のあと、二人は同時に突撃した。これが最後の攻撃になる。先に攻撃を当てた方が勝利を手にする。お互い超スピードで間合いを詰めると、ほぼ同時に杖を構えた。

茜は姫島が避けられないと瞬時に判断し、一瞬早く、彼女の心臓を狙って『ラディウス』を放った。茜の放った『ラディウス』は狙い通り、姫島の心臓を正確に捉えていた。

だが、『ラディウス』が姫島の心臓に届く寸前、彼女は一瞬の反射で上体をねじるようにして翻した。その動きは人間離れした速さと正確さを誇り、『ラディウス』の光弾は空を切った。

姫島はほうきに足を絡ませ、上下逆さまの姿勢で鋭く茜を見据えていた。その集中した視線は一瞬たりともぶれることなく、姫島は小さく呟いた。

「ルクス!」

鋭い光弾が、茜を正確に射抜いた。直後、空中に響き渡る試合終了のアラーム音。静まり返るフィールドに、AIアナウンスが響いた。

「ただいまの試合、脱落者三名。国東なのは、九重みや、茜……生存者一名、姫島やなぎ……よって、チーム一色の勝利です!」

姫島の息遣いが聞こえるほどの静寂が、一瞬だけ訪れた。しかし次の瞬間、観客席から「ワァァァァ!」という割れんばかりの歓声が沸き起こった。

手を叩く音や指笛の音があちこちから聞こえ、フィールド全体が熱気に包まれた。一色もその場で小さくガッツポーズを決めて喜んだ。

 姫島は体勢を立て直すと、ゆっくりと地面に降り立った。自分が勝ったことに驚き、しばらく呆然としていた。そこに国東が駆け寄って勢いよく抱きついた。

「やったね、やなぎちゃん!」

国東が笑顔で声をかけると、姫島の表情にもようやく勝利の実感が広がった。

「やった……本当に、あたしたちが勝ったんだ!」

弾む声とともに、姫島は国東を強く抱きしめた。

 茜は静かに地面に降り立ち、宙に浮かぶ結果を見上げた。勝負には負けたが、茜の表情はどこか清々しかった。そこへ九重が静かに歩み寄った。

「負けたのに、なんだか嬉しそうね」九重は口元に笑みを浮かべながら声をかけた。

「そうだな、何でかわかんねぇけど……」と茜は苦笑した。

「やなぎとなのはちゃんが、強くなってたからじゃない?」

九重がぽつりと呟くと、茜も笑みを浮かべて頷いた。

「……そうかもな」

 やがて、フィールド内の3Dホログラムが消え、もとの平坦なグラウンドに戻った。

試合が終わると、観客たちは徐々に解散し始めた。しかしその中で、一人の少女が興味深そうに茜たちをじっと見つめていた。彼女の瞳には、ただの観戦者とは違う、挑戦的で強い意志を感じさせる光が宿っていた。その視線はまるで「次は自分の番だ」とでも言わんばかりだった。

 茜と九重のもとに姫島、国東、一色が歩み寄り、イリスがふわりと飛んできた。

一色が三人分、イリスが茜の分のスポーツドリンクを持ち、それぞれに手渡した。

「サンキュー」茜はスポーツドリンクを受け取り、一口飲んだ。

 姫島たちも「ありがとう」とお礼を言い、スポーツドリンクを受け取ると、すぐに口に運んだ。

「みなさん、お疲れ様でした」と一色は穏やかに声をかけた。「今回の試合も、とても素晴らしかったですわ!」

「えへへ、それほどでも……」姫島は後頭部を掻きながら照れた。

「まさか、本当に勝てるなんて!」と国東は驚きの声を上げた。

「まあ、ハンデがあったとはいえ、ギリギリだったけどね」と九重は少し悔しげに呟いた。

「ですが、勝ちは勝ちです。これで、茜さんが、我が校のウィッチサバイバル部に入部してくれることになりました!」

一色は目を輝かせながら、茜に視線を向けた。

「そうですわよね? 茜さん……」

その言葉には、どこか確信めいた響きがあった。

茜は一瞬、じっと一色を睨みつけたが、すぐに視線を逸らし、ため息混じりに答えた。

「ああ……約束だからな……」

一色の口元に勝ち誇ったような笑みが浮かぶと、茜は苦々しげに眉を寄せながらそっぽを向いた。

「やったー! 茜ちゃんが仲間になったよ!」

姫島は国東の手を握り、目を輝かせた。

「うん! やったね、やなぎちゃん!」と国東も声を弾ませ、二人は手を取り合って飛び跳ね、勝利と新たな仲間を迎える喜びを全身で表現した。

「姫島さん、国東さん、九重さん……本当にありがとうございました」

一色は一人ひとりの目をしっかり見つめ、深々と頭を下げた。その声には感謝の念が滲んでいた。

 姫島と国東は手を離し、一色の方に向き直った。

「お礼を言うのはあたしたちだよ! こがねちゃんがいろいろ準備してくれたおかげで、今日の試合ができたんだから!」と姫島が笑顔で言った。

「そうだよ! ありがとう、一色さん」と国東もやさしく微笑みながら言葉を添えた。

「いえ、わたくしは何もしていません。お二人の努力が、この結果を手繰り寄せたのです」と一色は言い、九重に視線を移した。

「そうですわよね? 九重さん……」

その問いかけに、九重は「オホン」と咳払いして、ちらりと視線を外しながら「……まあ、そうかもね」と呟いた。その頬はほんのり赤く染まっていた。

姫島は一瞬目を丸くし、九重に目を向けて言った。

「……でも、みやがいなかったら絶対勝てなかったから、本当にありがとう!」

「べっ、別に……わたしはただ、面白そうだと思って参加しただけだから……」と九重は顔を背けたまま、恥ずかしそうに返した。

 姫島と九重の様子は、一週間前と少し違った。以前は常にけんか腰だった二人が、少し和らいでいた。

「みなさんのおかげで、幸先の良いスタートが切れましたわ。これで、部員が四人になりました」と一色は笑顔で言った。

「は……? 四人って……お前は入らないんじゃなかったのか?」と茜は眉をひそめた。

「はい……わたくしは、入りませんわ」と一色は即答した。

「じゃあ、あと一人は誰だよ?」

一瞬の沈黙のあと、九重が静かに手を挙げた。

「……わたしだけど」

その声は控えめだったが、確かな決意がこもっていた。

「えっ!?」茜、姫島、国東は声を揃えて驚いた。すかさず茜が「いやいや、なんでお前らまで驚いてんだよ!」とツッコんだ。

「だ、だって……知らなかったから!」と姫島は言った。

「どういうこと……?」国東は驚きを隠せない様子で尋ねた。

「実はわたしも、一色さんと賭けをしていて……その結果、ウィッチサバイバル部に入ることになった。ただそれだけ……」と九重は少し言いにくそうに答えた。

 茜、姫島、国東はしばらく呆然とした表情で、九重を見つめた。

姫島はハッと我に返り、「えっ、いいの?」と改めて問いかけた。

当然の反応だ。九重は現在地元のクラブチームに所属しているため、そこを辞めてウィッチサバイバル部に入部することになる。

「茜さんが同じチームなら、それも悪くないかなって思ったの。いろんなことが学べそうだし……」九重は少し視線を落としながらも、どこか満足げに答えた。

 姫島は一瞬、嬉しそうな表情を浮かべ、喜びを口に出そうとしたが、寸前で留まった。

「ま、まあ……そこまで言うなら、仲間に入れてあげてもいいけど……!」

姫島は照れを隠しつつも、表情に嬉しさが滲み出ていた。

「別に、やなぎの許可なんかなくても入るけど……」と九重はそっぽを向いた。

「な、なんだと!」

 姫島が突っかかろうとしたが、国東が間に入り、「よろしくね、みやちゃん!」と歓迎した。

「よろしく」と九重は短く返した。

 こうして、色神学園ウィッチサバイバル部は新たな仲間を迎え、四人で活動することとなった。

「よーし、それじゃあ早速、四人で練習スタートだ!」と姫島は両腕を高く掲げ、力強く叫んだ。その瞳には、自信とやる気が眩しいほどに宿っていた。

「練習より先に、部員を集める方が先だろ」と茜は冷静に指摘した。

「あっ!」と姫島は思い出したかのように声を漏らした。

「最低でも、あと三人集めないとね」と国東は呟いた。

「それに、練習内容も考えないと……まずは話し合いをしましょう」と九重は冷静に提案した。

「くっ……仕方ない!」姫島は悔しそうに拳を握りしめ、やる気をぐっと抑え込んだ。

「あ、先に言っとくけど……あたしは火曜しか練習も試合も参加できねぇからな」と茜はさらっと言い放った。

あまりにさらりと言い切る茜の態度に、姫島、国東、九重は一瞬固まった。

「えっ……?」

姫島は目を丸くし、国東は手元のスポーツドリンクを慌てて握り直した。九重は口を半開きにしたまま、しばらく無言だった。

「どういうこと……?」と九重が静かに尋ねた。

「言葉通りだ。あたしは火曜だけ参加する」と茜は答えた。

「そんな……!」と姫島は残念そうに声を上げた。

「一色もそのことを承知の上で、あたしを誘ったんだろ?」と茜は一色に問いかけた。

 姫島、国東、九重は一斉に一色に視線を向けた。

「はい……お伝えするのが遅れてしまい、申し訳ありません」

一色は姫島、国東、九重に向けて頭を下げた。

「本当に冗談じゃないんだ……」と九重は残念そうに呟いた。

「そんな……」国東は手で口を覆った。

「本当に火曜だけなの?」と姫島は改めて尋ねた。

「ああ……」と茜は答えた。

「月曜は……?」

「無理」

「水曜は?」

「無理だ」

「木曜なら?」

「無理!」

「じゃあ金曜……」

「火曜以外は、全部無理だ!」と茜はきっぱりと言い切った。

「どうしても……?」と姫島は食い下がる。

「ああ……」

「土下座して頼んだら、どうにかなる……?」

「……ならねぇよ」と茜は呆れたようにため息をついた。

「お金を払っても……?」

「ダメだ!」

「じゃあ、えーっと、他には……」姫島はこめかみに指を当て、考え込んだ。どうしても茜を説得したいようだった。

「何をしても無駄だ! これだけは……絶対譲れねぇ」と茜は力強く断言した。

「理由は……聞かない方がいい?」と九重は少し躊躇いながら尋ねた。

「ああ、教えられねぇ。わりぃな……」と茜は真剣な表情で答えた。

「そう……」九重は残念そうに目を伏せた。

 気まずい沈黙が流れた。やる気に満ちていた空気が一変し、妙な重苦しさが漂い始めた。その静寂を茜が破った。

「あたしは火曜しか参加できねぇが、手を抜くつもりは一切ない。やるからには全力でやる! でも……それでも納得いかねぇなら、クビにしてくれて構わねぇ!」と茜ははっきりと言い切った。

「ダメじゃない!」と姫島は間髪入れずに答えた。茜を真っ直ぐ見つめながら、「茜ちゃんの事情を考えずにごめん……あたし、ちょっと自分勝手だった」と申し訳なさそうに言った。

「そもそも、わたしたちが強引に勧誘してるもんね……」と国東も視線を落として言い添えた。

「たしかにそうね、ごめんなさい」と九重も謝った。

「いや、三人は悪くねぇ。全部――こいつのせいだ」茜は一色を指差した。

「はい、すべてわたくしの責任です。申し訳ありません」

一色はあっさりと認め、深々と頭を下げた。

「こがねちゃんのせいじゃないよ!」と姫島は慌てて否定した。

その言葉を聞いた瞬間、一色はにっこりと微笑み、すぐに顔を上げた。

「そうですわね! 誰も悪くありません。ただの情報伝達ミスですから、もう謝る必要なんてありません!」

(最初に謝ったのはお前だろ!)

茜は内心でツッコんだ。

姫島、国東、九重も茜と同じ表情で、一色を見つめたが、彼女の晴れやかな笑顔に呆れるしかなかった。

そんな空気をまるで気にも留めず、一色はさらりと話を進めた。

「――では、場所を移して、今後の予定を話し合いましょう!」

 茜たちはまんまと一色に乗せられた。それがわかっているのに、誰も反論しなかった。これが一色こがねという人物の恐ろしさ、なのかもしれない。

 茜たちはグラウンドを後にし、色神学園の食堂へ向かった。

 グラウンドから離れる際、一色は誰にも聞こえないほど小さな声で「ありがとうございます、イリス様」と囁いた。その表情には、普段の飄々とした様子とは異なる、深い感謝の念が滲んでいた。イリスはそれに親指を立てて応じた。茜の知らないところで、二人はいつの間にか仲良くなっていたようだった。

 茜たちが去ったあとのグラウンドの片隅に、一人の少女が静かに立っていた。彼女は興味を抱いた瞳で、ただ静かに茜たちの背中を見送った。


「では、色神学園ウィッチサバイバル部に、新たな部員が加わったことを祝して――」と一色が言うと、茜以外の四人が「カンパーイ!」と声を揃え、ジュースやお茶の入ったグラスを「コツン」と合わせた。それぞれ飲み物を一口飲むと、テーブルの料理――唐揚げ、とり天、焼きそば、新鮮なアジとサバの刺身、だんご汁などを食べながら、日常会話を楽しんだ。

 茜たちはバイキング形式の食堂で、それぞれが食べたいものを自由に取り、六人掛けテーブルで食べていた。

「って、これただの歓迎会じゃねぇか!」と茜は思わずツッコんだ。

「あら? 茜さん、何かお気に召しませんでしたか?」と一色が無邪気に問いかけた。

「『お気に召しませんでしたか?』じゃねぇよ! 今後の予定を話し合うんじゃなかったのか!?」

「もちろん、そのつもりですわ……! ですが、まずは親睦を深める方がいいかと思いまして……わたくしたちは、これからチームメイトになるのですから……」

「お前は入部しねぇだろ!」

「はい、選手にはなりません……ですが、これからはマネージャーとして、みなさんを支えていこうと思っていますの」

「えぇっ!?」

四人は一斉に声を上げ、驚きのあまり箸を持つ手を止めた。

一色は、全員の視線を軽やかに受け止め、涼しげに微笑んでいた。

「こがねちゃん……マネージャーになってくれるの!?」と姫島が目を輝かせて尋ねた。

「はい」と一色は笑顔で頷いた。

「ほ、本当に……?」と国東は信じられない様子で確認した。

「本当ですわ」と一色は即答した。

一瞬の静寂が訪れ、一色は微笑み、他の四人は目を丸くしていた。次の瞬間、「やったー!」と姫島と国東が声を揃え、手を取り合って喜んだ。

「ですので、これからもよろしくお願いいたします、茜さん」一色は茜に微笑んだ。

「チッ……やっとお前の顔を見なくて済むと思ってたのに……」と茜は皮肉っぽく言った。

「ウフフ、それは残念ですわね」と一色は涼しげに笑った。

姫島は目を輝かせ、手をポンと叩いて提案した。

「そうだ、こがねちゃんのマネージャー就任も盛大にお祝いしないと!」

「そうだね」と国東も笑顔で賛同した。

「ほらみんな、グラスを持って!」

姫島が元気よくグラスを掲げると、国東と一色も笑顔で続いた。茜と九重は仕方なさそうに、ゆっくりとグラスを持ち上げた。

「では、こがねちゃんのマネージャー就任を祝して――カンパーイ!」

姫島が声を弾ませると、国東と一色が笑顔でグラスを合わせ、食堂に明るい音が響いた。茜も渋々グラスを持ち上げ、顔を背けながら「……カンパイ」と小さく呟いた。

 その後、唐揚げを取り合い、だんご汁のおいしさに感動しながら、和やかな雰囲気の中で食事を楽しんだ。

 しばらくして、料理をすべて食べ終わり、全員が満足そうな表情を浮かべていた。

「では、みなさん……そろそろ本題に入りましょうか」と一色が声をかけた。

しかしそのとき、姫島が真剣な顔で言った。

「待って、こがねちゃん……! まだ大事なことがあるよ!」

「はっ! そうでしたわ! わたくしとしたことが、申し訳ありません」一色はすぐに謝った。

「大切なこと……? 何だそれ?」茜は首を傾げた。

「ふっふっふ……それはね、茜ちゃん……」

姫島は一呼吸おいて、全員の視線を集めた。その目つきは、まるでこれから重大発表でもするかのようだった。そして次の瞬間、姫島は声を弾ませて言い放った。

「……デザートタイムだよ!」

 一瞬の沈黙のあと、「はっ……?」と茜は呆れたように声を漏らした。

「それじゃあ、取りに行くぞー!」

姫島は勢いよく立ち上がると、真っ先にデザートを取りに向かった。すぐあとに国東、九重、一色も続いた。

茜はぽかんと固まりかけたが、はっと我に返り、重い腰を上げてデザートゾーンへ向かった。

アイス、ジェラート、ソフトクリーム、プリン、コーヒーゼリーなど豊富な種類のデザートが並ぶテーブルを順に眺めながら、茜はどれを食べようかと悩んでいた。そこへ、トレーに全種類のデザートを乗せた姫島が隣にちょこんと現れた。

「茜ちゃん、茜ちゃん……! これ、美味しいからおすすめだよ!」

 姫島が手に持って薦めてくれたのは、『やせうま』という、小麦粉で作った平たい麺に、たっぷりのきな粉と砂糖をまぶした、素朴でどこか懐かしいデザートだった。

 茜は、さっき一色が言っていた「まず親睦を深める方がいいかと思いまして。わたくしたちは、これからチームメイトになるのですから」という言葉をふと思い出した。

 ……まぁ、これからチームメイトとしてやっていくなら、仲良くしておくのも悪くねぇか。それに、この『やせうま』ってやつ……まだ食べたことねぇし、どんな味か気になる。

 茜は姫島に薦められた『やせうま』を手に取り、トレーに乗せた。

 最後に取りに行った茜が、一番乗りでテーブルに戻ってきた。他四人は、まだデザートを慎重に厳選していた。それぞれが持つトレーには、すでに数種類のデザートが溢れるほど乗っていた。……どうやら、彼女たちにとってデザートは完全に別腹らしい。

 四人がそれぞれ山盛りのデザートを抱えて席に戻ると、テーブルは甘い香りで満たされた。

「このアイス、めっちゃ濃厚だよ!」と国東が嬉しそうに笑えば、「このジェラート、果物感がすごい!」と姫島が感動の声を上げた。

茜も一口『やせうま』を食べ、「おぉ、意外とうめぇじゃねぇか!」と素直に感想を漏らした。

 デザートを食べ終えると、一色が改めて本題を切り出した。

「では、みなさん……今度こそ、本題に入りましょうか?」

「こがねちゃん……」と姫島が低く言い、何か言いたげな表情で一色を見つめた。

「な、何でしょうか……?」と一色は慎重に問いかけた。額に冷や汗が滲み、心当たりがないようだった。

緊張感が五人を包み込み、姫島に注目が集まった。

静寂の中、姫島は満を持して、「……ほっぺにクリームがついているよ!」とキリっとした目つきで指摘した。

「えっ!?」と一色は驚きの声を上げ、慌てて右手で頬を押さえた。

「反対側だよ」と、姫島がすかさず補足した。

 一色は左頬に触れてクリームを取り、恥ずかしそうに頬を赤らめ、ハンカチで拭いた。

 茜はそのやり取りを見て、肩を震わせながら、吹き出すのを必死に堪えていた。

「ゴホン……では、改めまして――」

一色は軽く咳払いし、一瞬目を閉じて気持ちを整えた。開いた瞳は真剣そのもので、場の空気が一変し、緊張感が漂った。

「まず、みなさんにお伝えしなければならないことがあります」

「なになに?」と姫島は嬉々として尋ねた。

「……実は、ウィッチサバイバル部は、まだ部活として認められません」

「えっ、なんで!?」姫島は思わず身を乗り出した。

「今はまだ、同好会なのです」一色は眉をひそめ、残念そうな表情を浮かべた。「部活になるためには、部員が最低七人……つまり、あと三人必要なのです」と一色ははっきりと言い切った。「それと……」

「なんだ、そんなことか! それなら、元々集めるつもりだし、あまり心配しなくても……」姫島は一色の言葉を遮り、安心したように言った。

「それだけじゃないから……」と九重がすかさず口を挟んだ。

「えっ……?」と姫島は目を丸くし、九重に視線を向けた。

「部活に昇格するためには、実績も必要……つまり、公式戦での勝利が求められるのよね?」九重は冷静に、だが少し厳しい口調で問いかけた。

「はい……」一色は頷いた。

「前は結構強かったみたいだけど、ここ数年は全然勝てなくて、廃部になっちゃったもんね」と国東が控えめに呟いた。

「大丈夫だよ、茜ちゃんがいるもん!」と姫島は自信満々に言った。

「たしかに茜さんは強い……だけど、ウィッチサバイバルはチームスポーツ。一人が強くても、他六人が弱かったら、試合には勝てない」九重ははっきりと言い切った。

「みやも強いよ!」姫島が即答した。

九重は一瞬、不意を突かれたように目を見開いたが、すぐに視線を逸らした。

「……い、いや、強豪校の選手はみんな、わたしよりもはるかに強いから……!」と少し照れたように言った。

「そうなんだ……」姫島は視線を少し落とした。厳しい現状を理解した様子だった。しかし次の瞬間、「あっ!」と声を上げた。「じゃあさ、あたしたちも超強い人をスカウトすればいいんじゃん!」と目を輝かせながら提案した。

「言うのは簡単だけど、それが一番難しいのよ!」と九重は少し呆れたように答えた。

「そうなの?」と姫島は首を傾げた。

「色神学園の強い選手は、みんなクラブチームに所属してるから、わざわざ部活に入らないもんね」と国東が補足した。

「でも、みやは入ってくれたじゃん!」と姫島は言った。

「わたしは……」九重は何かを言いかけたが、途中で言葉を止めた。

「――わたしは、一色さんとの賭けに負けて入っただけ……普通は、こんなことで入ったりしないから」と九重は言い添えた。

「そういえば、どんな賭けをしたの?」姫島が興味津々で問い詰めた。

「それは……」九重は一瞬言葉を詰まらせ、目を逸らしたあと、軽く咳払いして話題を切り替えた。

「……そ、そんなことより、今は部員集めの方が優先でしょ!」

「そうだけど……」

姫島は目を伏せ、気まずい沈黙が流れた。

「……クラブチームは、将来有望な選手を勧誘していますので、今から探すとなると、正直難しいと思われます」と一色が真剣な表情で冷静に言った。

「そうなんだ……」姫島は、ようやく部員集めの大変さを理解したようで、少ししょんぼりした。

「まあ、そんなに気を落とすな!」と茜が軽い口調で声をかけた。

全員の視線が自然と茜に集まった。

「――この学園には七万人もいるんだろ? だったら、まだ埋もれてる才能があってもおかしくねぇ!」と茜は力強く言い切った。

一瞬の沈黙後、「そ、そうだね!」と姫島が両手の拳をグッと握りしめ、少し希望を見出したように賛同した。

「茜さんのおっしゃる通りですわ!」と一色もすぐに同意した。「そして――すでに一人、有望な選手を見つけておりますの」と言い放った。

「えっ!?」

四人は声を揃えて驚き、一色に目を向けた。

「だっ、誰……!?」姫島ははやる気持ちを抑えきれない様子で身を乗り出した。

一色は茜たち一人ひとりと視線を交わし、意味ありげな笑みを浮かべた。そして、わざと間を取ってから、静かに口を開いた。

「……そのお方は現在、射撃部に所属していますの」

「しゃ、射撃部って、あの……!?」

姫島は両手でライフルを構えるような仕草をしながら尋ねた。

「はい、その射撃ですわ」

一色は笑顔で姫島と同じジェスチャーを返した。

「……実は、さきほどの試合も見てもらいたくて、声をかけていたのですが……来られなかったようです」と一色は残念そうに呟いた。

「い、いつの間に……!」姫島は驚きを隠せない様子だった。

「マネージャーとして、当然の務めですわ!」

一色がスマートリングに触れると、淡い光が空中に浮かび、黒髪の少女の凛々しい写真が現れた。ホログラムはテーブルの中央で静かに回転していた。

その写真を見つめながら、一色は続けた。

「――この方は、高等部一年、安心院朝霧あじむあさぎりさんです。わたくしは、彼女を仲間に招き入れたいと思っていますの」

 姫島と国東は、安心院の写真を凝視し、九重と茜も見つめていた。

「こがねちゃんは、どうしてこの子を仲間にしたいの?」と姫島が尋ねた。

一色は小さく微笑みながら、はっきりと答えた。

「……わたくしたちのチームに足りないものを、彼女が持っているからです」

「足りないもの……?」国東は首を傾げた。

「もしかして、狙撃力……?」

九重の問いかけに、一色は「はい……」と深く頷き、さらに続けた。

「安心院さんは、優れた狙撃力をお持ちです。種目は違いますが、ウィッチサバイバルでも十分通用すると、わたくしは確信していますの」と自信あり気に言った。

「へぇー、そうなんだ!」姫島は感心したように頷いた。

「たしかに、そうかもな……」と茜も一色の意見に賛同した。

 一色は茜に視線を向け、嬉しそうに目を輝かせた。

「茜さん……! わたくしのことを信じてくださるなんて、本当に感激ですわ!」

「いちいちそんな反応すんな! うぜぇ!」

茜は顔を背けつつ声を上げた、頬が少し赤く染まっていた。気づかれないよう、そのまま強引に話題を戻した。

「――てか、そいつを仲間にする方法は、ちゃんと考えてんのか?」

「もちろん、考えていますわ」と一色は笑顔で即答した。

「そうか……なら、いい……」

一色は真剣な表情で視線を巡らせながら口を開いた。

「――ですが、わたくし一人では難しいので、みなさんもご協力していただけないでしょうか?」

「もちろんだよ!」と姫島は即答し、勢いよく手を上げた。

「わたしにできることがあれば、何でも言って」と国東もすぐに応じ、九重も静かに頷いた。

 一色は最後に茜に目を向けた。姫島、国東、九重も茜に視線を移した。四人とも期待の表情を浮かべ、茜の返事を待っていた。

茜はその視線を受けて、頭を掻きながら不機嫌そうに答えた。

「あーもう、そんな目で見んなって!」と顔を背け、しばし沈黙。「……わかったよ。あたしも手伝う」と茜は頬をほんのり赤く染めながら呟いた。

 その瞬間、四人の表情が一気に明るくなった。姫島は「やったー!」と大きくガッツポーズを見せ、国東は嬉しそうに微笑み、九重も静かに安堵のため息をついた。

「みなさん、ありがとうございます」一色は頭を下げた。

「礼はまだ早ぇよ」と茜が返すと、一色はすぐに顔を上げ、「そうですね……」と返した。

「で――あたしたちは、具体的に何すりゃいいんだ?」と茜は冷静に尋ねた。

一色は一呼吸置き、キリっとした目つきになった。

「……では、わたくしが考えた作戦をお伝えしますわ」

その後、一色が慎重に練り上げた作戦を披露すると、茜たちは次々と意見を出していった。

「それ、ちょっと強引すぎないか?」と茜が指摘すれば、「でも、それぐらい大胆な方が目を引くよ」と姫島が言い添えた。

国東が冷静に中立の意見を挟み、九重が黙って首肯する場面もあった。

議論を重ねて作戦が形になったところで、ようやく話し合いは一段落した。

食堂の出口で別れる際、姫島は大きく親指を立てて笑顔で宣言した。

「茜ちゃん、来週の火曜までには、安心院ちゃんを絶対仲間にしてみせるから、期待して待ってて!」

茜は軽く手を挙げ、「ああ、期待してる」と短く返した。その瞳には、かすかな信頼の色が宿っていた。


解散後、日はすっかり沈み、色神学園の校舎や街灯が道を明るく照らしていた。

「なあ、イリス。あたしが休んでる間に、他に良さそうなやつを探しておいてくれないか?」と茜は頼んだ。

「ふふ……うん、いいよ」とイリスはやさしく微笑んだ。

「ん? 何か変なこと言ったか?」と茜は首を傾げた。

「ううん、面白いから笑ったんじゃなくて……茜ちゃんが、すっかりチームの一員になったみたいで、嬉しかったの」

「嬉しい……? なんで?」

「だって、茜ちゃん……今までずっと、何かを我慢してるように見えたから……」

「……そんな風に見えてたのか?」

「うん……」イリスは深く頷き、さらに続けた。

「スポーツは楽しんでるけど、どこか満たされない感じだったよ。孤高というか、孤独というか……多分、チームスポーツの助っ人が多かったからだと思う。人と一緒にいるけど、深く関わらなかったから……」

「たしかに……そう言われると、そうかもな……」

 茜はこれまでの自分を思い返した。どんなに華々しく活躍しても、心の奥にはいつも空虚な穴が空いていた。その感覚に慣れすぎて、気づくことすらなかった。茜は他人のことには敏いが、自分のことには無頓着なところがあった。

イリスはそれを見抜いていた。

「わたしも、茜ちゃんたちを全力でサポートするから!」とイリスは力強く宣言した。

「ああ、頼む」と茜も返した。

 茜は校門に着くまでの間、すれ違う生徒たちを観察し、有望そうな選手を探していた。その中で、ひときわ目立つ集団が目に留まった。

 彼らは虫取り網やさすまた、ネットランチャー、マジックハンドといった奇妙な捕獲道具を手に、「今日こそ見つけてやる!」「絶対に捕まえるぞ!」「このマジックハンドが、お前を逃がさない!」と妙に物騒な声を上げていた。

「イリス、あいつらは何を探してんだ?」と茜は尋ねた。

「あの人たちは、オカルト研究会だよ。色神学園七不思議を調べてるみたい」とイリスが答えた。

「色神学園七不思議……? そんなのがあんのか?」

「うん……トイレの花子さんとか、貞子とか、動く人体模型とか、探してるようだよ」

「へぇー、そんなやつらもいるんだな……」茜はオカルトにあまり興味を示さなかった。

 校門に着くと、茜はポケットからほうき型ドローンを畳んだ円柱型の機器を取り出した。その際、手が滑って機器を地面に落としてしまった。機器はコロコロと転がり、近くに立っていた女性の足に当たって止まった。

 彼女は静かにしゃがみ込んで機器を拾い上げた。長い黒髪が顔にかかり、その表情は見えない。白い服に身を包んだその姿は、どこか現実味を欠いていて、まるで夢の中の住人のようだった。

 茜は急いで彼女のもとへ駆け寄ったが、その女性はまるで茜の存在に気づいていないかのように、無言で機器を見つめていた。

 やがて、彼女は茜に気づき、視線を向けると、さっと手を差し出し、機器を返した。

「サンキュー」と茜はお礼を言い、受け取った。

 彼女は何も言わず、じっと機器を見つめていた。

「ん? これか? これは――」

茜が機器のボタンを押すと、一瞬でほうきに変形した。

「あたし専用のほうきドローンだ」

 彼女は茜に機器を返したあとも一言も発さず、静かに背を向け、歩き出した。風に揺れる黒髪。その後ろ姿は、茜の目にまるで幻のように映った。

「……あれ? どこかで見たことあるような……」

茜は立ち去る彼女の後ろ姿を見つめながら首を傾げた。しかし、その記憶の断片はすぐに霧のように消えてしまった。


 家に帰ると、茜は日課の筋力トレーニングを始めた。腕立て伏せやスクワットを繰り返すたび、額に汗が滲む。その後、シャワーを浴び、スッキリした気分で柔軟体操に移った。筋肉を伸ばしながら、茜の頭には一日の出来事がちらついていた。

 茜がベッドに横になると、全身がどっと重くなり、深い疲労感が波のように押し寄せた。目を閉じると、茜は数分と経たないうちに、静かに眠りに落ちた。



読んでいただき、ありがとうございます。

次回もお楽しみに。

感想お待ちしています。

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