桜・神楽VSかぐや③
色神学園上空――。
幾何学的な光の軌跡が、夜空一面を覆い尽くす。
桜、神楽、そしてかぐやの三人は、壮絶な死闘を繰り広げていた。互いに相手の動きを先読みしつつ、剣技や光弾が絶え間なく繰り出される。
神楽が鋭い斬撃を叩き込み、かぐやは扇子でそれを弾き返す。その隙を突いて、桜が死角から精密な光弾を放つが、かぐやは紙一重で躱す。直後、かぐやは無数の光弾を四方へ解き放つ。桜と神楽は無駄のない動きでそれをかいくぐった。かぐやは空を縦横無尽に飛び回り、桜と神楽がその軌跡を追う。
放たれた光弾は空中に静止し、まるで宙に仕掛けられた地雷のように、空間を埋め尽くしていく。三人はその隙間を縫うように駆け抜け、戦いはさらに激しさを増していった。
両者一歩も譲らない戦況が続く。
しかし――。
かぐやは周囲を一瞥し、ニヤリと口元を歪める。急上昇し、追ってくる二人を確認した瞬間、不意に振り向き、光弾を放つ。
桜と神楽は反射的に身を翻し、その光弾を躱す。再びかぐやを見据えたその瞬間、二人ははっと気づいた。
目の前に広がる光の弾幕が、逃げ場なく二人を取り囲んでいた。
かぐやは不敵な笑みを浮かべ、二人を見下ろしながら低く呟く。
「月華輪舞」
かぐやが指を鳴らした瞬間、『月の世界』が解除される。止まっていた光弾が一斉に動き出す。次々と衝突し、爆発が連鎖する。爆風が桜と神楽を一瞬でのみ込んだ。辺り一帯は黒煙に包まれ、視界が完全に遮られる。
やがて、爆発が止み、静寂が訪れる。
かぐやは満足げにその場を見届けると、ゆっくりと視線を移し、校舎屋上にいる花子を見つめる。冷徹に呟いた。
「次は貴様じゃ――おかっぱ娘」
一直線に突き進み、花子を狙う。間合いを詰め、扇子を振り下ろした――次の瞬間、かぐやの眼前に神楽が現れた。
神楽はその一閃を受け止め、立ちはだかる。
「行かせるわけがないでしょ!」
かぐやは目を細め、瞬時に見破る。
「……転移魔法か」
冷静に呟いたその刹那、かぐやは死角から迫る閃光に気づき、咄嗟にその場を退いた。華麗に光魔法を躱しつつ、素早く視線を動かし、桜を見据える。
桜は淡々と、しかしはっきと言い放つ。
「お前の相手は――わたしたちだ」
かぐやはやむなく後退し、その表情に苛立ちを浮かべた。
そして、再び激しい空中戦が始まった。
かぐやは扇子を手離す。扇子は空中で止まり、静かに開く。月光を浴びて膨張し、やがて巨大な光の扇へと変貌。兎、月、竹の意匠が金色に輝き、神秘的な光景が広がった。
かぐやは低く呟く。
「月華光扇」
光の扇から、色鮮やかな光弾と光の刃が一斉に解き放たれる。星屑のような光の嵐が、空間を満たしていく。
二人は表情を引き締め、軽快な身のこなしでそれを躱しながら、対抗して光弾を撃つ。
拮抗した戦いの中、かぐやは桜に向かって挑発的に言った。
「どうした? 先ほどの“剣技”はもう見せぬのか?」
「お前に同じ技は通じないでしょ?」桜は冷静に答えた。
「ふふ……」
「お前こそ、さっきの“時を止める力”はもう使わないの?」神楽は煽るように言った。
「貴様らごとき、時を止めるまでもない」
「そう……」
神楽と桜は視線を交わし、頷き合う。桜が転移魔法を発動し、神楽はかぐやの目の前に一瞬で現れた。
「剣の舞・神薙連舞!」
神楽は間髪入れず、鋭い斬撃を連続で叩き込む。
かぐやは流れるように素手で受け流す。衝撃波が周囲に広がる。
「剣の舞・大祓!」
神楽は力を込め、強烈な一撃を繰り出す。
それを受け止めようと、かぐやは構えた。
その瞬間、桜は転移魔法を発動――神楽と自らの位置を一瞬で入れ替える。かぐやの目前に現れ、低く呟く。
「バルドル」
杖の先端から閃光が迸った。
二人の連携は、完全にかぐやの不意を突いた――かに見えた。
しかし――。
かぐやはその動きを読んでいたかのように身を翻し、光魔法を紙一重で躱す。舞うような動きで猛烈な回し蹴りを放つ。
桜は瞬時に防御魔法で蹴りを受け止めた。だが、衝撃で防御魔法が砕け散る。
「転移魔法も、もう効かぬ」
かぐやの冷徹な声が響き渡った。
「それはどうかな?」
桜は再び転移し、距離を取る。転移魔法を繰り返し、かぐやの周囲を絶え間なく移動しながら、奇襲を狙う。
かぐやは不遜な笑みを崩さず、泰然と構えていた。静かに気配を探り、次の瞬間、素早く向き直り、光弾を放つ。光の弾丸が空気を切り裂き――転移した直後の桜に直撃した。
桜は被弾し、墜落する。
かぐやは容赦なく追い打ちをかけようとした。
だが、横合いから神楽が迫り、お祓い棒を横一文字。
かぐやはそれをひらりと避け、しなやかな動きで回し蹴りを放った。
神楽は吹き飛ばされ、『月姫竹取神社』境内に落下、全身を石畳に激しく叩きつけられた。
桜もまたそのまま落下し、神楽の隣へと崩れ落ちた。
かぐやは勝ち誇ったような顔で二人を見下ろしながら、ゆっくりと降下する。下りていると、扇子が自ずと手元に戻ってくる。扇子を握りしめ、鳥居の上に降り立つと、その先端を二人へ向ける。凄まじい重圧が二人に降りかかる。地面に亀裂が走り、二人の身体が沈み込んでいく。身動きを完全に封じ、かぐやはそのまま最後の一撃へ移る。
扇子を掲げると、光が収束し始める。次第にその光は膨れ上がり、凄まじいエネルギーが扇子に凝縮していく。
「ふふふ……これでとどめじゃ」
かぐやは冷徹に笑い、狙いを定める。
「月見輝夜」
かぐやは勝利を確信し、扇子を振り下ろそうとした――その瞬間、背後から花子が一瞬で距離を詰めた。
「この瞬間を待っていた!」
花子はかぐやの背中に手を当て、一気に霊力を流し込む。
「怨念呪縛!」
霊力が瞬く間にかぐやの全身を駆け巡り、動きを完全に封じる。
かぐやの身体は硬直し、技を出す前に動きが止まった。
花子は間を置かず、さらに縛り上げる。
「ぐるぐる巻き巻き!」
蔦がかぐやに絡みつき、一層拘束を強める。さらに目元を覆い、視界を塞いだ。
「ガチガチ花牢獄!」
蔦が強固な檻のようにかぐやを包み込み、色とりどりの花が咲いた。
かぐやは三重に縛られ、身動きが取れなくなった。だが、動揺するどころか、冷徹な笑みが浮かんだ。
「何のつもりじゃ? 今更このような拘束で、わらわを抑えられると思うたか?」
その口元を歪め、かぐやは嘲笑った。
花子は臆することなく、真剣な表情で答える。
「思わない! だけど、たった一瞬でもお前の動きを止めた。それで十分だ!」
花子は残るすべての霊力を込め、拘束力を緩めることなく、素早くその場を離れた。
そのとき、周囲の空間がびりびりと震える。
かぐやはその気配を感じ取り、目元を覆う蔦を切り裂いた。かぐやの視界が開け、目の前に映ったのは空中に浮かぶ桜だった。
桜は杖を握りしめ、高く掲げていた。彼女の頭上には、太陽のように輝く巨大な魔力の塊が浮かんでいる。
さらに、かぐやは背後から迫る圧倒的な気配に気づき、瞬時に振り向いた。後ろには、すでに神楽が構えていた。
神楽は手を掲げ、陰陽の力が渦巻き、巨大な玉を形成する。紅と白、二つの力が絡み合い、猛烈なエネルギーを内包したその玉が、頭上に浮かんでいた。
「くっ……!」
かぐやは急いで拘束を解こうとした。しかし、予想以上に花子の拘束力が強く、少し手間取った。かぐやの表情から笑顔がなくなり、初めて焦りが見えた。
「小癪な者どもが!」
険しい顔で怒声を上げる。
その隙に、桜と神楽は同時に攻撃を放った。
「天照」
「陰陽宝玉!」
桜と神楽の声が重なり、二つの強大な玉が放たれる。桜の光輝く『天照』は太陽の如くその道を切り開き、神楽の『陰陽宝玉』は風を切り裂きながら、前後からかぐやを挟み込むように一直線に迫った。
しかし、攻撃が届く寸前――かぐやは力強く拘束を吹き飛ばした。衝撃で蔦が砕け散り、花びらが宙を舞う。すぐにその場を離れようとしたが、ほんの一瞬遅かった。かぐやは回避不可能と瞬時に判断し、咄嗟に手を広げ、二つの巨大な玉を受け止めた。その衝撃で空間が歪み、凄まじい風圧が周囲に広がる。
かぐやは重力波を解き放つ。圧し潰さんと迫る二つの巨大な玉を、真正面から跳ね返そうとした。
「こ、こんな……もの……!」
拮抗――。
二つの巨大な玉は、かぐやを中心に激しくせめぎ合っていた。衝突の余波が暴風となって吹き荒れ、地面を削り、周囲の空気を震わせた。
「くっ……!」
桜は厳しい表情を浮かべ、杖を握る手にさらに力を込める。腕が震え、骨が軋む。それでも、決して力を緩めようとはしない。額から流れる汗が頬を伝い、宙へと散った。
神楽もまた、両手を突き出し、全身を震わせながら歯を食いしばる。
「あと、ちょっと……なのに……!」
力を振り絞り、陰陽の玉が轟音を伴い、さらに押し込んでいく。
しかし――。
「ふふ……」
かぐやの口元が、ゆっくりと歪んだ。その瞬間、重力が一層強まる。ぐぐぐっ、と押し潰すような圧が二つの玉にかかり、わずかに押し返され始めた。
「なっ――!?」
神楽は目を見開く。
じりじりと――確実に、押し負けていく。
「まだ……まだ……」
桜はさらに魔力を込める。杖が軋み、今にも砕け散りそうだ。それでもなお、押し返そうと必死に力を込める。
だが――届かない。
二つの玉が、じわじわと桜と神楽の側へ押し戻されていく。
「ふはははははは……! 世界の支配者たるわらわをここまで追い詰めたことは、見事であった。――じゃが、貴様らの命運もここまでじゃ!」
かぐやは冷たく言い放った。両手を広げたまま、さらに力を込める。重力が唸りを上げ、二つの玉を容赦なく押し返す。その圧は、圧倒的だった。
桜と神楽は諦めずに食らいつく。しかし、踏みとどまれない。
その光景を少し離れた場所から見ていた花子は、唇を噛み締めた。
「どうしよう……このままじゃ……!」
拳を握ろうとするが、力が入らない。霊力は、もうほとんど残っていなかった。焦りと無力感が、花子の胸を強く締めつけた。
そのとき――。
「花ちゃん……」
貞子の微かな声が、胸の奥に響いた。
「……え?」
花子ははっと顔を上げる。周囲を見渡すが、どこにも見当たらない。だが、確かに貞子の声が聞こえた。
「大丈夫……まだ……やれるよ……花ちゃん……」
その声とともに花子の胸に、やさしい温もりが広がった。自然と心が落ち着き、冷静さを取り戻す。そして、気がつくと、尽きていた霊力が、ほんのわずかに灯っていた。
花子は拳を握りしめ、目に再び光が宿る。
「これなら……!」
即座にかぐやへ向き直り、手を突き出す。微かな力をすべて一点に集中した。
「怨念呪縛!」
不可視の念力が一直線に迸り、かぐやを捉える。その瞬間、かぐやの動きが、ほんの一瞬――止まった。
「――っ!?」
かぐやはすぐに異常に気づき、花子を鋭く睨みつけた。
「貴様ぁああ!」
堪らず怒鳴り声を上げた。
刹那――。
「今だ!」
桜が叫ぶ。
桜と神楽は残る力のすべてを一気に解き放った。
「はああああああ!」
二つの巨大な玉が、再び前へと押し返す。
「なにっ――!?」
かぐやは慌てて押し返そうとしたが、二つの玉はもはや止まらなかった。そのまま受け止めきれず、二つの玉にのみ込まれる。
「ぐわぁああああ!」
かぐやの全身が光にのまれ、焼き尽くされていく。
「こ……こんなことが……あって、たまる……ものか……!」
かぐやの身体は、抵抗する間もなく焼失し、やがて――跡形もなく、塵となって消え去った。
残ったのは、宝石のように深紅に輝く一片の欠片だけだった。
激しい戦いが終わり、辺りは驚くほど静まり返った。
荒れ狂っていた風は嘘のように止み、空間を満たしていた圧力も跡形もなく消え失せた。微かに舞う光の残滓が、暗闇の中で揺らめき、砕け散った花びらがゆっくりと地面へと舞い落ちる。
桜、神楽、そして花子の三人は、しばらくその場に動けずにいた。空気が重く、耳鳴りが響くような感覚が全身を包んでいた。
「……終わった……」
桜はかすれた声で呟く。
「はぁ……はぁ……」
神楽はその場に立ち尽くしたまま、肩で息をしていた。両腕は重く、今にも落ちそうになる。持ち上げることすら、ままならない。
花子も、ようやく張り詰めていたものが切れた。
「やった……!」
震える声で呟き、足元がふらつき、意識が遠のくような感覚が押し寄せる。踏ん張ったその瞬間、花子の体が淡い光に包まれた。
桜と神楽は目を見開き、花子に目を向ける。
「え……?」
花子はぼんやりと輝きながら、天に召されるように、ゆっくりと浮き上がり始めた。
「花子……?」
神楽はその光景を見て呟く。
桜は静かに、目を細めて見守る。
花子は少し驚きながらも、自分の運命を悟り、一瞬だけ悲しげな表情を浮かべたあと、次第に満足そうに微笑んだ。
「神楽様……桜……」
穏やかな声で呼びかけ、微笑みかける。
「今まで本当にありがとう……さよなら」
満面の笑みを浮かべて告げると、花子はまるで成仏するかのように、光の粒子となり、静かに空気に溶けて消え去った。
神楽は目に涙を浮かべ、その光を見届けた。直後、神楽の膝がガクリと折れ、そのまま力なく前に倒れ込んだ。
桜も限界に達していた。花子を見送った瞬間、蓄積していた疲労が一気に襲いかかってきた。杖を握る手から力が抜け、指先の感覚が遠のき、視界がぐらりと歪んだ。杖を支えにしていた身体が、ゆっくりと傾いていく。そして――静かに、地面へと崩れ落ちた。
かぐやがこの世から完全に消滅した瞬間――。
日本各地で暴れ回っていた兎天使たちは、一斉にその事実を悟った。主を失ったことに絶望し、虚無感に打ちひしがれ、次々と活動を停止する。その隙に、アルカナたちの攻撃を受け、身体があっけなく塵となり、無力に崩れ去った。その塵は風に流され、最後には空気に溶けて虚しく消えていった。
一段落つき、アルカナたちは深く息をついた。多くの者が疲労困憊していたが、その表情には勝利の喜びと安堵が入り混じり、ようやく戦いが終わったことを実感し、肩の力が抜けたようだった。
一方、その頃――。
世界各国に散らばる他の七代天使たちは、かぐやの気配が消滅したことを一斉に感知し、それぞれ異なる反応を見せた。
とあるレストランで酒をガブガブ飲んでいた年配の七代天使――暴食のオキナは、手を止め、目を見開いて上を見た。勢いよく立ち上がると、その衝撃でテーブルのグラスが倒れ、酒が滴り落ちた。
「まさか……かぐやが――!?」
思わず叫んだ。
お椀に乗って川下りをしていた七代天使――イッスンも、その場で一旦止まり、空を見上げて、驚きとともに声を上げた。
「倒されたでござるか……!?」
川が猛烈に波打ち、お椀が激しく揺れた。
山奥で部下たちと相撲を取っていた力士の七代天使――憤怒のキンジは、怒りを抑えきれず、声を張り上げ、周囲の空気を震わせた。
「なんだとぉぉぉぉぉ!?」
取っ組み合っていた巨大な熊を力強く豪快に投げ飛ばし、大地が揺れた。
とある研究所で実験をしていたドレスの七代天使――強欲のラプレラは、冷静さを保ちながら、興味津々に呟いた。
「七代天使が欠けるのは数百年ぶり……一体誰が倒したのか、非常に興味深いでありんす」
堤防で横になり、釣りをしていた気だるげな七代天使――怠惰のウラシマは、静かに呟いた。
「だる……」
そして――。
とある王宮の玉座の間の椅子に座る七代天使――傲慢のモモタは、不敵な笑みを浮かべ、好戦的に言った。
「ふん、面白い! このおれがぶっ殺してやる!」
拳を突き合わせ、闘争心が溢れていた。
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