ヴラドVS大伴大納言
色神学園の伝統的な講堂が建ち並ぶエリアで、ヴラド・トランシルヴァニアは、大伴大納言と熾烈な戦いを展開していた。周囲の建物が戦いの余波に震え、空気が引き裂かれるような音が響き渡る。
槍の先端が血のように赤く光り、鋭く大伴を狙って迫る。ヴラドの動きは速く、影のようにその姿を消し、次の瞬間、目の前に現れる。槍を巧みに操り、弾丸のように突き出し、容赦なく連続した攻撃を繰り出した。
一方、大伴は笏を手に、冷静にヴラドの攻撃を受け流す。笏は瞬時に形を変え、まるで生きているかのようにその動きに応じる。大伴は笏を巧みに使い、ヴラドの槍を弾き返し、即座に反撃を繰り出す。
二人の激しい戦いは拮抗していた。ヴラドは周囲を気にかけながら攻撃を繰り出し、最小限の被害に収めていた。しかし、大伴は躊躇いなく豪快に笏を振るい、建ち並ぶ講堂を次々と破壊していった。
歴史ある建物が崩れ落ちる光景に、ヴラドは胸を痛めた。悲しみとともに怒りが込み上げ、鋭く大伴を睨みつける。
大伴は不敵な笑みを浮かべ、嘲笑うような声で呟いた。
「おお、こわいこわい」
ヴラドは冷静に考えた。
このままでは、周辺の施設がすべてあやつに破壊されてしまう! そんなこと、絶対にさせてなるものか!
ヴラドは固く決意し、向き直ると、速やかにその場から飛び去った。
大伴は一瞬驚き、目を見開いたが、すぐに落ち着きを取り戻して追い始めた。
「どこへ行く? まさか、麻呂の強さに恐れをなして、逃げ出したくなったのか? おほほ……賢明な判断だ。しかし、貴様はすでに処刑が決まっている。逃しはせん」
冷酷に告げた大伴に、ヴラドは一切構わず、前進し続けた。間もなく、向かう先にグラウンドが現れると、ヴラドは迷いなくそこへ飛び込み、静かに着地した。大伴も後に続き、勢いよく着地して、砂塵が舞い上がった。
二人は再び対峙し、周囲の空気が張り詰める。
「追いかけっこは、もう終いか?」大伴は笑みを浮かべたまま、挑発的に言った。
「ああ……ここなら、余も存分に力を振るえる」ヴラドは三又槍を巧みに操ってみせた。
「……ほほっ! その言い方だと、さっきまでは本気を出していなかったように聞こえるなあ!」
ヴラドは何も言わず、ただ鋭い眼光を飛ばした。
大伴は一瞬、何かを察したように目を見開き、すぐに表情を引き締めた。わずかな沈黙のあと、苛立った声で言った。
「おほほ……なら、見せてみろ!」
そう言い放ち、地面を強く蹴り上げ、疾風のごとく突撃した。
ヴラドは素早く三又槍を構え、迎え撃つ。
新たなステージとなったグラウンドで、ヴラドと大伴の戦闘が再開した。
しばらく互角の戦いが続いていたが、やがて、ヴラドの動きがさらに速くなり、攻撃も徐々に威力を増していった。槍の先端が大伴の肩や大腿部をかすり、次々に切り傷を刻んでいく。ヴラドの圧倒的な力が、次第に大伴を追い詰めていった。
大伴は堪らず距離を取り、瞬時に仕切り直しを図った。警戒しながらヴラドをじっと見据えていると、ふと何かに気づき、口を開いた。
「白い肌に、銀色の髪……そして、その赤い瞳……貴様、吸血鬼の末裔だな?」
ヴラドは答えなかったが、眉がわずかに動いた。
大伴はそれを見逃さず、確信に満ちた笑みを浮かべ、続けて言った。
「そうか……とうの昔に絶滅したと思っていたが、まさか、まだ生き残りがいたとは! 劣等種族は本当にしぶとい」
わずかな沈黙のあと、ヴラドは強気に煽り返した。
「なら、これから余に倒されるお前は、それ以下の存在――ゴミだな!」
その挑発に、大伴は怒りが込み上げ、顔を赤く染めた。次の瞬間、一瞬で距離を詰め、笏を一閃する。
ヴラドは冷静にその動きを見切り、三又槍で受け止めた。衝撃とともに火花が弾け、足元がわずかに沈み込む。間髪入れずに連撃が叩き込まれたが、軽々と受け流し、一瞬の隙に反撃を繰り出した。ヴラドの強烈な一撃が、大伴の腹部に直撃し、彼を後方へ吹き飛ばした。大伴は勢いよく地面に激突し、砂塵が舞い上がった。
ヴラドは攻撃の手を緩めず、畳みかけるように突撃した。砂煙を一振りで吹き飛ばし、大伴の姿を捉えると、躊躇うことなく飛び込み、三又槍を突き出した。
しかし、大伴は動揺することなく、冷徹にヴラドを睨み返した。その瞳には、奥の手を隠し持っているかのような余裕が滲み出ていた。
次の瞬間、突然、大伴を中心に猛烈な風圧が広がり、ヴラドを吹き飛ばすとともに、天を突くような光の柱が彼を一瞬で包み込んだ。大伴の頭上には、天使の輪が輝き、背中には四つの翼が広がった。
ヴラドは空中で一回転し、軽やかに着地すると、すぐに三又槍を構え、大伴を見据える。
「それが……お前の本当の姿か……!」
その声は、驚きと緊張が入り混じっていた。
次第に光が大伴の元へ収束し、彼は不気味な笑みを浮かべ、ヴラドを見つめた。
「いや、まだだ!」
大伴は懐から五色――赤、青、黄、白、紫に輝く美しい玉を取り出し、それを見せびらかすように掲げた。その後、口元へ運び、なんとその玉を口に含んで一気に呑み込んだ。
その場に一瞬の静寂が訪れ、ヴラドはその変化に目を見張った。大伴の体がわずかに震え、その後、急激な変化が始まった。筋肉が膨張し、骨格が歪むように広がっていく。その膨れ上がる身体に、骨が軋む音が響いた。肩甲骨が奇妙な音を立てて伸び、背中から巨大な鱗のようなものが露出し、次第にそれが硬化していく。その鱗は、鮮やかな青色に輝きながら、身体全体を包み込んでいった。目は金色に輝き、瞳孔が細く引き伸ばされ、口元には鋭い牙が伸びる。首元には透明の玉が掛かっていた。
「なっ――!?」
ヴラドは驚愕の表情を浮かべ、息をのんだ。
大伴の姿は、鹿の角と蛇の尾を持つ青龍へと変わり、グラウンドを覆い尽くすほどに大きくなった。その巨大な姿は、まるで天を支えるかのように圧倒的な存在感を放ち、ヴラドを見下ろしていた。唸るような低い声が辺りに響き渡る。
「待たせたな。これが、麻呂の真の姿だ!」
ヴラドはその変化に驚きながらも、すぐに落ち着きを取り戻した。毅然とした態度で口を開く。
「遥か昔に実在していたという東洋の龍か……。絶滅したと聞いていたが、まさかその力を、取り込んでいる者がいたとは!」
その声には、皮肉が込められていた。
「怖気づいたか?」大伴はドスの利いた声で挑発的に言った。
「まさか……! 一生に一度の龍狩りだ。ワクワクが抑えきれぬ」
「ふん、口の減らない小娘が! 一瞬で葬ってくれる!」
「それはこっちのセリフだ! その身体、余が串刺しにしてやる!」
ヴラドは槍を握り直し、その目に燃え上がる闘志を宿らせた。
大伴は口を大きく開け、ヴラドに狙いを定めた。首元の玉が赤く輝き、次第に喉の奥から赤い炎が燃え上がっていく。
「火炎砲!」
大伴の重く低い声が響き、口から一気に炎が噴き出した。猛烈な炎が一直線にヴラドへと迫っていく。
ヴラドは力強く地面を蹴り上げ、疾風のように宙を舞った。軽やかに炎を躱し、流れるような動きで距離を詰め、龍の身体に飛び乗ると、瞬時に三又槍を突き刺す。その瞬間、龍の首元の玉が赤から青に変わり、全身がまるで鋼のように一瞬で硬くなった。
槍の鋭い先端が鱗に触れた瞬間、金属のような音とともに火花が弾け飛んだ。ヴラドはすかさず次の攻撃に転じる。槍を振るい、間髪入れずに繰り出される一撃。だが、鱗の硬さに槍の刃は通らず、弾かれるばかりだった。
「くっ……!」
ヴラドは距離を取り、すぐに大伴見据えると、即座に次の攻撃に移った。
「これなら、どうだ!」
手を掲げ、頭上に赤い魔法陣を展開する。
「グラディアイ・ルベル!」
手を前に突き出すと、魔法陣から赤い短剣のような光弾が無数に放たれた。空間を埋め尽くすほどの鋭利な光弾が、一斉に龍の身体に襲いかかる。顔、首、胸、背、尾など、光弾は次々と直撃して炸裂するが、鱗は微動だにしなかった。大伴の体は傷ひとつつかず、悠然と佇んでいた。
「チッ!」
ヴラドは攻撃を止め、地上に舞い降り、冷静に大伴を見上げた。その瞬間、大伴の目が鋭く光る。龍の首元の玉が青から赤に染まり、再び口を大きく開け、火球を放った。無数の火球が、まるで雨のようにヴラドに向かって降り注ぐ。
ヴラドは素早い動きでグラウンドを駆け回り、火球を躱していく。避ける度、火球が爆発し、地面を抉った。
やがて、火の雨が止み、一瞬の沈黙が流れる。ヴラドは瞬時に大伴を見据えた。龍の首元に掛かる玉の色が、赤から白に変わる瞬間を、今度ははっきりと捉えた。
玉の色が……変わった!?
ヴラドは警戒心を高め、即座に身構えた。
大伴は蛇のようにとぐろを巻き、低い声で呟く。
「大龍巻」
巨大な体が高速で回転し、その衝撃が広がると、周囲の風が渦巻いた。その渦は瞬く間に大きく、強烈になり、空間を震わせるほどの龍巻になった。荒れ狂う大龍巻がヴラドに迫っていく。しかし、その速度は遅い。
「今度は龍巻か!」
ヴラドは少し驚きつつも、すぐにその場を退避した。地面を這うように低空飛行し、追いかけてくる龍巻を避けながら、冷静に次の手を考えた。
おそらく、あの玉の色が変わると、攻撃の属性が変わるのだろう。赤は『火』、白は『風』と言ったところか。あと、まだ何色かありそうだな……。それより、今はあの異常に硬い鱗の方が厄介だ。余の槍が効かぬとは……。さて、どうやって打ち破るか。
ヴラドが思案していると、大伴は立て続けに攻撃を繰り出す。
「風刃破!」
冷徹な声が響くとともに、龍の口から突風のように鋭い風の刃が放たれた。空気を切り裂きながら、ヴラドに容赦なく襲いかかる。
ヴラドは咄嗟に三又槍を構え、その一撃を三又槍で受け止めた。風の刃の勢いに押され、地面を削りながら後退する。
「ぐっ……こんのっ……!」
なんとか踏ん張り、風の刃を力で弾き飛ばす。腕の筋肉が震え、衝撃の余韻で手が痺れたが、ヴラドはすぐに拳を握りしめ、即座に槍を構えた。
背後から大龍巻が畳みかけるように迫り、ヴラドを呑み込むように包み込んだ。しかし、次の瞬間、龍巻の中で無数の閃光が走り、空間が裂けるような音が響き渡る。ヴラドが三又槍を振るい、鋭く空気を斬り裂くと、龍巻は爆発的に弾け、霧散するように消え去った。
ヴラドは得意げな表情を浮かべ、大伴を見据える。
「なかなかやるな!」大伴は少し感心したように呟いた。
「お前もな!」ヴラドは即座に答えた。
張り詰めた空気が漂い、冷たい風が吹き抜ける。束の間の静寂が訪れたあと、ヴラドと大伴は同時に動き出した。
ヴラドは猛烈な勢いで突撃し、大伴は口を大きく開け、彼女を呑み込もうと突っ込む。巨大な口が目の前に迫った瞬間、ヴラドはひらりと躱し、龍の身体に沿うように駆け抜けた。素早く腹部に回り込むと、鋭利な槍の先端を突き刺す。しかし、槍は硬い皮膚と筋肉に阻まれ、刃がまったく通らなかった。首の玉は青色に染まっていた。
「チッ! こっちもか!」
ヴラドは龍の腹を疾走しながら、槍を次々と繰り出していく。だが、硬い筋肉に阻まれ、どこにも隙間は見当たらなかった。わずかな時間、隙を見逃すまいと必死で探したが、やはり見つからず、やむなくその場を離れた。そのとき、ふと首の玉が視界に入る。青色から黄色へと変わるその瞬間を、ヴラドは鋭い目で捉えた。
また、色が変わった! 何か来る!
ヴラドは警戒し、瞬時に身構える。次の大伴の一手が迫っていた。
いつの間にか、グラウンド上空に黒い雲が漂い、ゴロゴロと雷鳴が響いた。
ヴラドはその音に気づき、空を見上げた。
その瞬間、大伴の重い声が無慈悲に響き渡る。
「雷落とし!」
その言葉とともに、一筋の稲光がヴラドに向かって一瞬で降り注ぐ。驚異的な速さに、ヴラドは避けることができず、雷の一撃をまともに受けてしまった。
「ガハッ……!」
全身に焼けるような激痛が走り、痺れが体中に広がっていく。力を込めても、体が動かない。まるで体が焼かれているかのようだった。最終的に、力尽きるように地面に崩れ落ち、ヴラドは静かに倒れ込んだ。
大伴は笑みを浮かべ、勝利を確信したように呟いた。
「害虫駆除……完了!」
その後、ヴラドの身体が微かに震えているのを、大伴は確認した。
「まだ生きているのか! たいした生命力だな。だが、もうどうすることもできまい。次の一撃で、完全に消し去ってやろう」
再び上空の雷雲がゴロゴロと音を響かせた。雷雲の中で凄まじいエネルギーが溜まっているようだった。
ヴラドは必死に立ち上がろうとするが、まだ全身に力が入らず、まったく動かない。
くっ……! 次の攻撃がくるというのに、体が言うことを聞かぬ。こうなったらやむを得ん……“アレ”を解き放つしかない!
ヴラドが決心した瞬間、大伴の準備が整い、彼は冷酷に言い放った。
「これで終わりだ! 雷落とし!」
先ほどよりもさらに強力で太い稲妻が、ヴラドに向かって猛然と降り注ぐ。その衝撃は激しく、砂塵が舞い上がり、周囲の視界を塞いだ。
大伴はニヤリと笑みを浮かべ、無言で見守った。
やがて、上空の雷雲が散り、霧のように無音で消え去った。次第に砂塵も薄くなり、視界が開けると、雷に貫かれた大地の焦げた黒い痕が露わになる。だが、そこにはヴラドの姿はなかった。
「一瞬で焼き尽くされたか……」
大伴はヴラドを完全に仕留めたと思い込んでいた。
しかし次の瞬間、ヴラドの声がグラウンド全体に轟くように響き渡った。
「クックック……その程度で、余が参るとでも思ったのか?」
「なに!?」
大伴は目を見開き、周囲を必死に見渡すが、その姿を捉えることができず、焦りと疑念が胸に広がる。
「ど、どこだ!?」
顔を左右に振っていると、突然、彼の顔の下から赤い鎖が真っ直ぐに伸び、あっという間に首に絡みついた。
ヴラドは大伴の真下で鎖の端をしっかりと握りしめ、次の瞬間、力強く跳躍した。大伴の横を一瞬で抜け、空高く舞い上がると、流れるように投げ技を繰り出した。
「せーのっ! ふんっ!」
鎖を肩で担ぎ、背負い投げのように全力で腕を振り抜いた。
大伴の体が一瞬で引っ張られ、首から強烈に引き上げられる。その巨体はまるで重力を無視したかのように空を舞い、強烈な力でそのまま放り投げられた。
「グワァァァァ!」
大伴は夜空を舞い、巨大な体が一回転し、勢いよく地面に叩きつけられた。その衝撃で、周囲の地面が割れ、爆風のように土が舞い上がる。
「グ……ガァッ……」
龍の巨大な体がグラウンドに横たわり、周囲が静まり返る。
大伴は激しい痛みを堪えながら、顔面を砂塵まみれにしてゆっくりと起き上がった。顔を振って砂を払うと、素早く視線を上げ、上空のヴラドの姿を捉える。
ヴラドの深紅の瞳が闇を貫くように鋭く光り、漆黒の翼が背中から広がる。口元に現れた鋭い牙が月光を受けて煌めき、彼女の姿はまさに吸血鬼そのものだった。
「貴様……その姿は……!」大伴は低く呟く。
「ヴァンパイア・フォルマ……これが、余の本来の姿だ!」
「まだそんな力を隠し持っていたとは、舐めた真似を!」
大伴は険しい表情を浮かべ、怒りに満ちた目でヴラドを睨みつける。その眼差しには、獲物を狩る獣のような鋭さが宿り、猛然と高空へ急上昇した。
ヴラドは拳を握りしめながら言った。
「できれば、この力を使わずにお前を倒すつもりだった。次の七代天使に備えてな。だが、そんな余裕はないようだ。……悔しいが、お前は強い」
一拍置き、突き刺すような視線で睨み返し、続けて言い放った。
「よって、余が全力を持って、お前を叩きのめす! ここからが、本当の戦いだ!」
ヴラドは閃光のごとく突進した。夜空に空間を切り裂くような鮮やかに赤い軌跡が残る。
大伴は口を大きく開け、迎え撃つ。首の玉が透明から白に変わった。ヴラドに狙いを定め、言い放つ。
「風刃烈破!」
その声とともに、口から無数の風の刃が一斉に放たれた。
ヴラドは瞬時に見切り、軽快な身のこなしで躱す。その動きは鋭く、まったく迷いがない。縦横無尽に空を飛びながら躱し続け、鋭く敵を見据えた。
「さらに速くなったな!」
大伴は冷静に呟き、すぐに次の手を繰り出す。玉の色が白から紫に変わった。大伴は空気を吸い込み、頬を大きく膨らませ、少しの時間固まった。次の瞬間、深く吸い込んだ空気を一気に吐き出す。紫色の濃厚な霧が、広がりながら周囲に漂い始めた。
その光景を一目見た瞬間、ヴラドは直感した。
「毒か!」
見るからに毒々しい霧が、ゆっくりとヴラドに迫っていく。放っておけば、いずれ毒霧がグラウンド全体を覆い尽くす。そうなる前に、ヴラドはすぐに動いた。空中に小さな円を描くように高速で回り始める。その速度は次第に増し、しばらくして、猛烈な旋風が発生する。風は渦巻き状に膨れ上がり、大きな龍巻となった。その圧倒的な風圧が、毒霧を巻き込みながら吹き飛ばす。渦巻く風に飲み込まれた毒霧は、空中へと消え、グラウンドは再び視界を取り戻した。
大伴は少し不満げに唸り声を上げ、ヴラドは反撃に転じた。
「次は、余の番だ!」
目にも留まらぬ速さで突進し、一気に間合いを詰める。
ヴラドの凄まじい速さに、大伴は目を見開き、咄嗟に声を上げた。
「鋼鱗殻!」
その瞬間、首の玉の色が紫から青に変わった。
ヴラドはその変化を見つめ、自信ありげに小さく呟く。
「やはりな……だが、その硬さにはもう慣れた!」
その勢いのまま突っ込み、目の前で三又槍を振り上げる。手に力を込め、瞬時に振り下ろした。強烈な槍の一撃が、龍の顔面に叩き込まれる。その瞬間、火花が弾けるとともに、龍の顔面が大きくへこんだ。大伴は顔から地面に叩きつけられ、大地を激しく揺らす。龍の巨体が再び地面に崩れ落ちた。
ヴラドは冷徹な視線で見下ろし、さらに攻撃を畳み込む。手を掲げ、頭上に魔法陣を展開する。
「グラディアイ・ルベル!」
魔法陣から赤い鋭利な光弾が無数に放たれ、一斉に龍の身体に襲いかかる。光弾は次々と炸裂し、龍の全身に小さな傷を刻んでいった。
「グワァ!」大伴の顔が痛みに歪む。
ヴラドはしばらく攻撃を続けたが、光弾は皮膚の表面をわずかに傷つけるだけで、それ以上深くは刺さらなかった。攻撃を止め、観察の目を向ける。そして、不満げに呟いた。
「少しは効いているが、まだ浅い。もっと強力な技でないと、仕留められぬか!」
大伴は目を開き、ゆっくりと巨体を起こす。蛇がうねるように上昇し、鋭い眼差しでヴラドを見据えた。その表情には、激しい怒りが滲み出ていた。
「いい気になるなよ、小娘が!」
大伴が咆哮を上げ、威圧感とともに猛烈な風圧がヴラドを襲う。
銀髪が風を受けて流されるが、ヴラドは微動だにせず、大伴をじっと見据え続けた。
怒りに震える大伴の首の玉の色が、忙しく移り変わった。赤、青、黄、紫、白の順に激しく輝き、次第に玉が五色に染まる。その後、絵の具が混じり合うように、ゆっくりとどす黒い色に変わっていった。
「狂乱怒涛・大嵐!!!」
大伴の力強い声が響いた瞬間、空が一変した。瞬く間に空は暗雲に覆われ、まるで天がその怒りを解き放とうとするかのように、再び雷雲が漂い始める。空に光が走り、ゴロゴロと轟音がグラウンド全体を揺るがす。
風が急激に強まり、荒れ狂うように吹き荒れ、突風が大伴の周囲を取り巻き、渦を巻きながら龍巻と化した。雨も降り始め、横殴りに降る雨粒が、まるで石のように肌に叩きつけられる。さらに、雷鳴が再び轟き、空中に激しい閃光が走る。グラウンド全体が、あっという間に嵐に包まれた。
激しい暴風雷雨の中でも、ヴラドは動じず、周囲を見渡したあと、首の玉をじっと見据え、冷静に呟いた。
「すべての属性が同時に発動している……これは、最終奥義か」
「その通りだ! かつて、麻呂の『狂乱怒涛・大嵐』を食らって生き残った者は、誰一人として存在しない!」大伴は自信満々に答えた。
「なら、余がその最初の一人になるというわけだな。ククッ、悪くない」
「貴様には不可能だ。潔く諦めて、無様に死ねぇぇぇぇ……!」
激闘の幕が再び上がり、戦いの火蓋が切って落とされた。
正面から火球と風の刃、横からは竜巻、頭上からは雷。全方位から迫る絶え間ない攻撃が、容赦なくヴラドに襲いかかる。ヴラドはその攻撃を一つひとつ機敏に躱しながら、即座に反撃の光弾を繰り出す。その光弾は次々と大伴の攻撃に衝突し、空中で轟音とともに炸裂、衝撃波が広がり、周囲の空気を揺らした。
ヴラドは接近し、力強く三又槍を振り抜く。大伴は体当たりで迎え撃つ。衝突した瞬間、火花とともに爆発音が鳴り響いた。ヴラドは巧みな槍捌きで受け流し、流れるような動きで龍の身体に飛び乗る。沿うように駆け抜けながら、その身を三又槍で次々と斬り裂いてく。
「グワァ!」大伴が苦悶の表情でうめく。「ちょこまかと、鬱陶しいハエが!」
大伴は全身を引き締めると、身体を覆う鱗が小刻みに震えた。次の瞬間、鱗が爆発的に飛び散った。
ヴラドは咄嗟に退き、それを回避した。すぐに体勢を整え、大伴を見据える。その瞬間、赤い瞳が鋭く煌めいた。
剥がれた鱗は、鋭い刃のように周囲の空気を切り裂きながら飛び散り、無数の鋼の片鱗が舞い上がる。大伴の体は鱗を失ったが、剥がれた部分の肌は引き締まり、溢れんばかりのエネルギーが宿っていた。
「麻呂の鱗は、こんな使い方もできる!」
大伴は得意げに言い、さらに言葉を続けた。
「鋼鱗包囲斬!」
その声とともに、無数の鱗が、まるで小さな矢のようにヴラドへ向かって飛んでいった。
ヴラドは素早く退き、大波のように押し寄せる鱗を回避する。だが、無数の鱗はすぐに向きを変え、ヴラドを逃がすまいと迫る。ヴラドは高速で飛び回り、ひたすら鱗を振り切ろうと試みるが、鱗は執拗に後を追い回す。気づけば、ヴラドは鱗に四方を囲まれ、完全に包囲された。鱗の一枚一枚が刃のように鋭く、空気を切り裂く音が響く。一縷の隙間もなかった。
「細切れになって、死ね!」
大伴が低く言い放つと、鱗が一斉にヴラドに襲いかかり、残酷にその身体を切り裂いていった。その光景を、大伴は冷徹な笑みを浮かべながら、見守った。
しかし――。
ヴラドの身体が突然、弾けるように無数のコウモリへと変わり、その場から消え去った。
「なに――!?」大伴は驚きの声を上げ、目を見開いた。
空に舞い上がったコウモリたちは、次第に大伴の頭上に集まっていき、光に包まれる。やがて、光の中からヴラドの姿が現れた。
大伴はすぐにヴラドに視線を向け、苛立ちを込めて声を上げた。
「ちっ、分身体だったか! 小賢しい真似を……!」
「お前の方こそ、次から次へといろんな技を出して、いい加減にしろ!」
「貴様が死ねば済む話だ」
「お前が倒れるのが先だ!」
二人の言い分は決裂し、再び死闘が繰り広げられた。
ヴラドが無数の光弾を放つ。
大伴はその巨体をうねらせ、光弾のわずかな隙間を縫うように空を飛び、巧みに躱し続けた。
ヴラドが攻撃に意識を集中させていると、大伴はその隙を突き、すかさず頭上から雷で撃ち抜こうと狙う。強烈な雷の一撃がヴラドに迫った。
ヴラドは寸前で気配に気づき、反射的に身を捻じって雷撃を躱す。だが次の瞬間、死角から龍の尾が凄まじい勢いでしなり、ヴラドを地面へと叩き落とした。
大伴はすかさず攻撃を畳みかける。
「火炎砲!」
猛烈な勢いの火炎がヴラドを狙う。
ヴラドはすぐに立ち上がり、迫りくる火炎を見据えると、反射的に飛び上がり、紙一重でそれを躱す。しかし、避けた先には、無数の風の刃がすでに迫っていた。ヴラドは咄嗟に三又槍を振るい、風の刃を弾き返す。だが、衝撃に耐えきれず、三又槍は悲鳴を上げるように粉々に砕け散った。
「くっ……!」
すぐに破片を放り投げ、素早く身を翻して、風の刃を避け続ける。だが、その数の多さに次第に反応が追いつかず、風の刃が肩、腕、腹、大腿をかすり、切り傷を刻んだ。
「……ッ!」
ヴラドの表情が痛みで歪み、歯を食いしばる。その身体はボロボロで、限界が間近に迫っていた。だが、ヴラドの眼差しには、目の前の敵に屈しない強い意志が宿っていた。
一方、大伴もまた全身が傷つき、呼吸が乱れ、その表情には疲労の色が浮かんでいた。早く決着をつけたいという焦りと、胸の奥に芽生えたわずかな不安が、その表情に滲み出ていた。
「そろそろ限界のようだな、小娘!」大伴は挑発的に言い放った。
「お前こそ、身体が悲鳴を上げているぞ!」ヴラドは即座に煽り返した。
「ふん、強がっても無駄だ。貴様はもう、立っているだけでやっとのはずだ」
ヴラドは図星を突かれ、口を閉ざした。鋭い眼光で睨み返し、言葉以上の威圧を叩きつける。
その反応を見て、大伴は自信ありげに言い放った。
「貴様の敗北はすでに決まった。次の一撃で、完全に消し去ってやる!」
大伴はさらに上昇して空へと舞い上がり、ヴラドを見下ろした。それまでグラウンド全体を揺らしていた暴風雷雨が嘘のように止み、世界から音が消えたかのような静寂が訪れる。張り詰めた空気の中、大伴が口を大きく開けると、膨大なエネルギーが口元に収束し、黒く輝き出した。
「全力の一撃だ! 逃げたければ、逃げるがいい! だが、貴様が避けた瞬間、この学園が吹き飛ぶぞ! さあ、どうする? 吸血鬼の小娘ぇ!」大伴は煽り立てるように言い放った。
ヴラドは目を伏せ、しばらく固まっていた。わずかな沈黙のあと、視線を上げ、正々堂々と言い返す。
「逃げるだと……? クク、笑わせるな! そんな選択肢、余は最初から持ち合わせてなどおらぬ!」
手を掲げると、ヴラドの全身から赤いオーラが溢れ出す。頭上に魔力が集まり、徐々に赤い槍を作り上げていった。
「この槍で、お前を貫く!」
ヴラドは迎え撃つ覚悟を決め、鋭い眼差しで大伴を見据えた。
二人の強大な力が大地を揺らし、まるで空間そのものが怯え、震えているようだった。同時に準備が整い、二人は一斉に叫んだ。
「五色龍玉砲!!!」
大伴の口から漆黒のエネルギー波が放たれ、轟々とヴラドに迫っていく。
「エクシディウム・グングニル!!!」
ヴラドが叫び、腕を振り抜くと、巨大な赤い槍が空気を貫きながら、真っ直ぐに飛んでいった。
二つの強大な力がぶつかり合い、空間そのものが歪んだかのように揺れ動く。轟音とともに、周囲の空気が震え、視界が一瞬、白く霞んだ。地鳴りが響き渡り、グラウンドに亀裂が走る。瓦礫が空中に舞い上がり、無数の閃光が空を走り抜けた。
ヴラドは力を込めて手を突き出し、槍を前に押し出す。しかし、黒いエネルギー波が次第に押し返し始める。その瞬間、大伴が薄ら笑いを浮かべた。
「ぐっ……こんのっ!」
ヴラドはありったけの力で、懸命に押し返す。再び互角の力を保ったまま、爆発的な衝撃が全方向へと広がっていく。二つの力は一歩も譲らず、天地を震わせるほどの圧倒的なエネルギーとなって渦巻いた。
二人は渾身の力を込めて、最後の力を振り絞った。その瞬間、激しい爆発音が響き渡り、無数の火花とともに強烈な衝撃波が四方に拡散した。周囲の木々や建物が吹き飛び、煙と粉塵が立ち込め、視界が完全に遮られた。
大伴は目を見開き、信じられない表情を浮かべて声を上げた。
「馬鹿な……! 麻呂の『五色龍玉砲』を……打ち消しただと!?」
呆然としたまま、言葉を失い、その一瞬の隙が、勝敗を分けた。
突然、煙の中を貫くように無数の赤い鎖が大伴に迫る。頭、首、腹、脚、尾など龍の全身を絡め取り、地面に叩き落とした。
「グワァ!」大伴が痛みで声を上げる。
尖った鎖の先端が地面に深く突き刺さり、大伴の動きを完全に封じた。
「こんな鎖、すぐに引き千切ってやる!」
大伴は全身の筋肉を引き締め、鎖の縛りから逃れようと抵抗する。鋼鉄のような筋肉と鎖が擦れ合い、軋む音が響き渡る。次の瞬間、凄まじい力が爆発し、鎖は金切り声を上げるように粉々に砕け散った。大伴は拘束から解放され、地を揺らしながら体を起こす。すぐに周囲を見渡し、ヴラドを探した。そのとき、上空からヴラドの冷徹な声が響いた。
「言ったはずだ! お前は、余が必ず串刺しにして倒すと!」
大伴は即座に視線を上げ、ヴラドの姿を捉えると、目を見開いた。彼の視界に映ったのは、闇夜に輝く深紅の瞳と、ヴラドの頭上に浮かぶ無数の赤い槍の光弾だった。その美しい光景に、大伴は一瞬見惚れ、致命的な硬直を晒した。
ヴラドは躊躇いなく言い放つ。
「プルウィア・グングニル!!!」
その声とともに、無数の槍の光弾が一斉に大伴に向かって飛んでいく。槍の光弾は、まるで血の雨のように降り注ぎ、龍の全身を容赦なく貫いていった。
「グワァァァァ!!」
大伴の苦しげな叫び声が、空気を震わせて響き渡る。
赤い槍の雨が止んだ瞬間、グラウンドには再び静寂が訪れる。大伴の巨大な龍の身体は、無数の槍に貫かれたまま地面に横たわっていた。
「がはっ……!」
喉の奥から、かすれた声が漏れた。赤黒い血が口元から溢れ、地面にぽたり、ぽたりと落ちていく。
「ば、馬鹿な……この、麻呂が……吸血鬼の、小娘ごときに……!」
必死に動かそうとした足が、わずかに震えただけで止まった。もはや筋肉は言うことを聞かず、全身を支えていた力が、急速に失われていく。
その様子を、ヴラドは上空から静かに見下ろしていた。呼吸は荒く、肩は大きく上下している。全身の傷からは血が滲み、明らかに限界を超えていることは誰の目にも明らかだった。
ヴラドは深く息をつき、呼吸を整えてからゆっくりと降下する。大伴のそばに舞い降り、冷徹な視線を向けて言い放った。
「余の実力を甘く見ていたその傲りこそが、お前の敗因だ。悔い改めて、安らかに眠れ」
大伴は必死に口を開くが、呻き声しか漏れなかった。
「か、かぐ……や……さ……ま……」
その言葉を最後に、大伴の龍の巨体が痙攣し、やがて完全に動きを止めた。
赤い槍は光を失い、まるで霧のように静かに消えていった。同時に、龍の身体もまた崩れ落ちるように縮み、次第に人の姿へと戻っていく。そして、大伴の体はそのまま塵になってこの世から完全に消え去った。
グラウンドには、深く抉れた地面と、大小様々な瓦礫が散らばっていた。
ヴラドは大伴の最後を見届けたあと、ようやく緊張を解き、再び息を切らした。
「……ギリギリの戦いだった。まさか、ここまで追い詰められるとは……。だが、余の勝利だ!」
手を掲げ、勝利の余韻に浸る。その背中は、満身創痍でありながらも、勝者としての威厳を保っていた。しかし、すぐにはっと我に返る。
「って、こんなことをしている場合ではない! 早く桜たちの元へ戻らなければ!」
踵を返し、その場から飛び立とうとした瞬間、全身に鋭い痛みが走り、ヴラドは膝から崩れ落ちた。翼が消え、鋭い牙も短くなり、元の姿を取り戻す。
「くっ……! ダメージを負い過ぎたか。体がまったく動かぬ」
必死に立ち上がろうとするが、視界が次第に暗闇に包まれ、意識がぼやけていく。
「すまない……桜……」
その言葉を残して、ヴラドは深い闇の中へと沈んでいった。
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