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アルカナ・オースVS兎軍団①

 五月八日、日曜日の朝。

 桜はまくろんとともに、アルカナ・オース日本支部を訪れた。広間に足を踏み入れると、威厳ある風貌の天ノ川銀河が正面に立ち、その向かいには阿修羅、風魔、アリス、ヴラド、織姫をはじめ、多くの仲間たちが集まっていた。しかし、神楽の姿は見当たらなかった。

 桜は静かに集団の端に立ち、銀河に視線を向けた。

 銀河は桜に気づくと、ほっとしたように息をついた。表情を引き締め、軽く咳払いをし、全員の視線を集めると、まずは労いの言葉をかけ、その後、現状を報告した。そして、激励の言葉を送り、仲間たちの士気を高めてから、集会を締めくくった。

 集会が終わると、アルカナたちはそれぞれ散っていった。桜が広間を立ち去ろうとしたとき、阿修羅に「桜、ちょっといいか?」と呼び止められた。桜が足を止めて振り返ると、阿修羅がゆっくりと近づいてきた。アリス、ヴラド、風魔、織姫も、それぞれのタイミングで自然に集まってきた。

 阿修羅は銀河の報告を振り返りながら、真剣な表情で言った。

「長官の報告にもあったが、あれだけ執拗に桜を探していた兎の襲撃が急に途絶えた。おそらく、桜とじじいが特級天使を倒したことで計画が崩れたんだろう。でも、まだ諦めていないはずだ。決して油断できない。それに、桜を狙う特級天使は、あと三体残っている。こいつらを倒さない限り、桜の安全は保障できない」

「そうかもね」桜はあっさりと呟いた。

「それで、一つ提案があるんだが、今日はチームを組んで行動しないか?」

 阿修羅は軽い口調で提案し、真面目な表情でさらに言い添えた。

「……桜が強いのはわかってる。でも、もし残り三体の特級天使が一斉に襲ってきたら、桜ひとりじゃ厳しいと思う」

 阿修羅がはっきり言うと、空気が重くなった。

わずかな沈黙のあと、織姫が静かに口を開いた。

「わたしも、阿修羅くんに賛成。少なくとも、三体の特級天使を倒すまでは、チームを組んだ方が良いと思う」

「ワタシもその方がいいと思いマス!」アリスは即座に賛同し、ヴラドは「うんうん」と頷いた。

 風魔は真剣な表情を浮かべ、無言で腕を組み、何かを考え込んでいる様子だった。

 桜は阿修羅たちを見回しながら、銀河に言われたことを思い出していた。静かな間をおいて、ゆっくりと口を開いた。

「……そうだね。じゃあ、チームを組もうか」

 桜が受け入れると、阿修羅たちの表情がほっと緩み、緊張が解けた。

「よし! それじゃあ、おれが桜と――」

 阿修羅が言いかけた瞬間、その言葉を掻き消すように、アリスが言った。

「ワタシが桜を守ってみせマス!」

 さらに、ヴラドがすぐに続いた。

「余がそばにいれば、何の心配もいらぬぞ。桜」

 桜は小さく微笑みながら、「ありがとう、頼りにしてる」と答え、チーム編成があっさりと決まった。

「なっ!?」阿修羅は思わず目を見開き、言葉を失った。

 桜は阿修羅の様子に気づかず、「それじゃあ、行こうか」と声をかけ、まくろん、アリス、ヴラドとともにその場を後にした。

桜たちの背中を見送りながら、呆然と佇む阿修羅に、風魔が静かに近づいた。風魔は阿修羅の肩にそっと手を置き、無言で哀れんだ。その後、織姫が「残念だったね」と気遣いの声をかけた。


 桜たちは色神の街を中心に、その周辺一帯を巡回していた。天使が現れることなく、街はいつも通り活気に満ち溢れていた。ゴールデンウイーク最終日を精一杯楽しもうとする若者や、イベント会場で楽しげに踊る子どもたち、休日関係なく元気に働く者など、人々は平和な日常を過ごしていた。

 アリス、ヴラド、まくろんの三人は、街の活気に目を輝かせた。様々な場所で食べ歩きやウィンドウショッピングして回り、楽しそうに過ごしていた。

桜は三人を静かに見守りながら、自然と微笑んだ。しかし、その一方で、胸の奥に不安が広がっていくのを感じていた。ふと足を止め、空を見上げた。青空は広がっているが、その一部に不自然な陰りが見え、心の奥に引っかかるものを感じた。まるで、何か大きな嵐の前触れのような。だが、それが何なのかはっきりせず、桜は一抹の不安を抱えたまま、再び歩き出した。

 このまま何も起こらなければいいけど……。

 桜は心の中で、何も起こらないことを願っていた。しかし、その願いはあっさりと裏切られ、事態は突然、動き出した。

 昼過ぎ、桜たちはカフェで軽いランチを食べていた。和やかな雰囲気で食事を楽しんでいた四人だったが、次の瞬間、突然視線を鋭くし、一斉に遠くを見上げた。

「この気配……天使デスね」アリスは真剣な表情で呟いた。

「あちこちに複数体、急に現れたニャ!」まくろんは少し驚きながら言った。

「まるで、何者かの合図で一斉に動き出したような」ヴラドは冷静に呟いた。

「行くよ」桜が鋭く言い、四人は足早に外に出ると、勢いよくその場を飛び立った。

 日本各地に突如として現れた兎天使は、瞬く間にその数を増し、数千体を超えてなお、止まることなく増え続けた。複数の兎小隊が都会から田舎町に至るまで全国規模で分散し、不気味に動き出した。

 アルカナ・オース日本支部の司令室では、警報音が鳴り止まず、次々と新たな報告が上がっていた。現在のところ被害報告はなかったが、事態は一刻を争う状況であることには変わりはない。

銀河はその異常事態をすぐに察知した。一瞬、前代未聞の状況に驚き、思考が停止しかけたが、すぐに心を落ち着け、全アルカナに向けて冷徹に指示を出した。

「全アルカナに告ぐ! 直ちに現場へ向かい、敵を一掃せよ!」

 威厳のある銀河の声を聞いたアルカナたちは、熱い闘志を燃やした。気合のこもったその表情には、『絶対に敵を倒す!』という強い意志が宿っていた。彼らは即座に情報を共有し、それぞれの現場へと急いで向かった。

その後、銀河は副官にその場を任せ、自らも戦場へと出向いた。

アルカナ・オースは総力を挙げ、兎天使との全面戦争がついに幕を開けた。

 兎たちは一般人を襲わず、静かに進行していた。アルカナに見つかると、すぐにその場から逃げ出し、十分に分散させてから応戦していた。

個々の力ではアルカナ・オースが優位に立っていたが、兎天使は数の利を活かし、その穴を埋めていた。アルカナ・オースの中でも、特に強力な者――天ノ川銀河と百鬼夜行には、他の者たちよりも多くの兎たちが襲いかかった。

桜、まくろん、アリス、ヴラドの四人は、色神の街に現れた兎天使たちと戦っていた。上空を高速で飛び回りながら周囲を見渡し、兎天使見つけた瞬間、逃げる間も与えず、速やかに倒していった。

最初、桜たちは互いに適切な距離を保ちながら、効率よく敵を倒していた。しかし気づくと、桜のそばにはまくろんしかいなくなり、いつの間にかアリスとヴラドの姿が消えていた。

「あれ? アリスとヴラドは?」桜は周囲を見渡しながら言った。

「さあ?」まくろんは肩をすくめて答えた。


その頃、アリスとヴラドは、それぞれ別の兎天使を追いかけ、桜から猛スピードで離れていた。

しばらくして兎天使が足を止めると、アリスは追うのを止めた。

「もう逃げるのは終わりデスか?」

兎天使が無言で佇み、沈黙が流れたあと、アリスは少し得意げに言った。

「桜、まくろん、ヴラド、ここはワタシがやるので、少し下がっていてください!」

 だが、返事はない。アリスは眉をひそめ、振り返りながら口を開いた。

「もう、みんな! 無視しないでくださ……」

 アリスはそこまで言いかけると、目を見開き、口を開けたまま固まった。

「あれ? みんな、どこデスか!?」

 慌てて周囲を見渡すが、三人の姿は見当たらない。やがて事態を把握すると、アリスは両手を頬に当て、「Nooooo!」と叫んだ。

 一方、ヴラドもまた、ひとりで兎天使の後を追っていた。追跡が終わって対峙すると、ヴラドは鋭く兎を見据えた。

「クックック……追いかけっこはもう終わりだ」

 ヴラドは不敵な笑みを浮かべながら、一歩踏み込んだ。

「この程度の相手、余ひとりで十分だ。桜たちは後ろで休んでいても構わぬぞ」

 返答はなく、無言の空気が広がっていた。

ヴラドは妙に思いながら、ゆっくりと振り返った。

「ん……? どうした? なぜ無視をする?」

 振り向くと、そこには誰もいなかった。ヴラドは目を見開き、言葉を失う。あまりの状況に、思わず呆然と立ち尽くした。

「クックック……し、しまったぁぁぁぁぁ!」

 ヴラドは頭を抱え、声を上げた。

 遠く離れた場所で叫ぶ二人の声が、空気を伝い、途中で混じり合った。その声は桜のもとへ届かず、冷たい風が吹きつけるだけだった。

 桜は風になびく髪を掻き分け、冷静に言った。

「まあいっか。あの二人なら、心配いらないし」

「ニャ!」

 二人はあっさりと現状を受け入れ、目の前の敵に集中した。

桜をはじめ、アルカナたちはそれぞれ迅速に現場へ駆けつけ、手際よく兎天使を倒していった。しかし、いくら倒しても次々と新たな兎天使が湧くように現れ、アルカナたちは完全にその場から離れられなくなっていた。

アリスはつい「しつこいデスね!」と愚痴を漏らし、ヴラドは少し苛立ちながら、「ええい! 次から次へと、鬱陶しい!」と薙ぎ払った。


 夕刻、戦況は依然として変わらなかった。各地に分散して戦うアルカナたちの表情には、少しの疲労が見え始めた。

阿修羅と風魔は、色神の街から遠く離れた山奥で兎天使と交戦していた。

 阿修羅は『鬼丸』を構え、閃光のような速さで振り抜いた。

「地獄の王・壱の裁き――秦広一閃!」

 風魔は影のように兎天使の背後を取り、目にも留まらぬ速さでクナイを振るった。

 阿修羅の強烈な一撃が兎天使を豪快に吹き飛ばし、風魔の鋭いクナイが敵を一瞬で切り刻んだ。

 阿修羅は戦いながら、兎天使の不可解な行動に違和感を覚え、「風魔……! こいつら、何かおかしくないか?」と尋ねた。

「ああ……行動の意図が読めない」風魔は低い声で呟いた。

「長官の報告だと、他の場所でも戦っているらしいな……敵の目的は何だ?」

阿修羅は少し考え込み、独り言のように呟いた。

「前に現れたときは、桜を探していた。だが、今日はただ暴れ回るだけ……」

 少しの間のあと、阿修羅ははっと何かに気づき、「まさか!」と声を上げた。素早く風魔に視線を向け、慌てて口を開いた。

「風魔! こいつら、任せていいか?」

「……ああ」風魔は短く答えた。

「頼んだ! おれは、桜のもとへ向かう!」

 そう言うと、阿修羅は全力で地面を蹴り、桜のいる場所へ勢いよく飛び立った。その衝撃で地面が抉れ、周囲の木々も激しく揺れた。


 一方その頃、桜とまくろんは、色神の街に現れる兎天使たちと戦い続けていた。

「まくろんパーンチ!」

「まくろんキーック!」

「まくろんアターック!」

 まくろんは叫びながら兎たちに強烈な技を叩き込み、桜は冷徹に魔法を放ち、淡々と兎たちを塵に変えていった。大量に出現しているとはいえ、兎天使自体はそれほど強くはない。桜たちは十分な余力を残していた。

 目の前の敵を概ね倒し終えると、まくろんは少し心配そうに口を開いた。

「さくらぁ、ちょっと、気にニャることがあるニャ」

「花子と貞子のこと?」桜は冷静に言った。

 まくろんは静かに頷き、不安げに言った。

「こんニャに天使が湧いてるのに、二人がニャにもしニャいニャんて、絶対におかしいニャ!」

 桜は少し考え込み、落ち着いて言った。

「……何かあったのかな? ちょっと様子を見に行こうか」

「ニャ!」まくろんが即答し、桜の肩に跳び乗ると、二人は色神学園へと飛び立った。

 色神学園の上空に到着した瞬間、二人は妙な違和感を覚えた。

日曜日の夕方とはいえ、普段ならまだ生徒たちが行き交っていてもおかしくない時間帯だったが、人の気配がまったくなく、掃除ロボットや警備ロボットたちがすべて停止し、不気味な静けさが色神学園全体に広がっていた。

「この感じ、ニャにか嫌ニャ予感がするニャ……」まくろんは警戒しながら呟いた。

「気をつけて進むよ、まくろん」

「ニャ!」

 桜はまくろんを肩に乗せたまま慎重に足を踏み入れ、周囲を警戒しながら花子がいるはずのトイレの方へ飛んだ。向かっている途中、桜はわずかな人の気配に気づき、その方向へ素早く目を向けた。視線の先には、五体の兎天使と対峙する一色こがねの姿があった。こがねの隣には、3Dホログラムのオーロラが浮かんでいた。

兎たちは驚いた様子で目を見開き、こがねをじっと見据えていた。中心に立つ兎が「ただの人間が、なぜここにいる?」と呟き、残りの四体は小声でざわついていた。

「お嬢……こいつら、かなりヤベェぞ」オーロラはこがねの耳元で、不安そうに呟いた。額に冷や汗が滲んでいた。

「わかっています。しかし、このまま見過ごすわけにもいきませんわ!」こがねは小声で答えた。少し怯えつつも、勇敢に立ち向かおうとしていた。

「あなたたち、一体何者ですの?」

 返答はなく、兎たちは小声でひそひそと話し合っていた。

こがねは続けて口を開いた。

「その姿、兎のトランスジーン手術を受けているようですわね。でも、その頭上に浮かぶ光輪と、背中の翼は何ですの?」

 兎たちは答えず、話し合いを続けた。ほどなくして話がまとまると、向き直り、こがねを鋭く見据えた。

「貴様の存在は想定外だ。よって、今ここで排除する!」

 そう告げた瞬間、兎たちは一斉に襲いかかった。

 こがねは素早く身構えた。

 その光景を捉えた瞬間、桜は閃光のような速さで駆けつけ、間に割って入ると、素早く杖を構えた。

「なっ!? 貴様は――」

兎天使が驚きを口にする暇もなく、桜は二つの魔法を繰り出した。目視せず背後のこがねを結界で包み込むと同時に、敵を鋭く見据えながら、「アポロン」と小さく呟いた。その瞬間、小さな魔法陣が展開し、無数の光線が一斉に放たれた。光線は一瞬で兎たちを貫いた。

 桜が静かに見守っていると、兎天使たちは塵となり、最後に不気味な笑い声が残った。

「ウササ……これで、使命は果たしました。かぐや様……」

 満足げに呟き、やがてこの世から完全に消滅した。

 兎天使の消滅を確認すると、桜は一息つき、無表情で振り返った。すぐに結界を解き、冷静に、「ごめんね、驚かせちゃって……」と淡々と言った。

 こがねは目を見開き、しばらく呆然と桜を見つめていた。驚きのあまり、言葉が出ないようだった。

「もしかして、どこか怪我でもした?」桜はほんの少し心配そうに尋ねた。

 こがねははっと我に返り、慌てて「い、いえ……大丈夫ですわ」と答えたが、声が少し震えていた。軽く咳払いをしてから、真剣な表情を浮かべ、少しお辞儀をしながら言った。

「助けていただき、ありがとうございます」

「気にしないで。無事でよかった」

 こがねは洞察するような瞳で桜をじっと見つめ、短い沈黙が流れた。

「……あの、何か?」桜は控えめに言った。

「あっ! す、すみません。前にどこかで……」

こがねは途中で言葉を止めた。一瞬考え込んだあと、「いえ……」と否定し、手で顔を覆いながら少し恥ずかしそうに続けた。

「あまりにもかわいくて、つい見惚れてしまいましたの!」

「そう……」

 桜が少し引いていると、彼女の肩に座るまくろんが短く呟いた。

「キミ、見る目あるニャ!」

「え……?」こがねはぽかんとまくろんを見た。

 まくろんは桜の肩から飛び降り、地面に立つと、得意げに言った。

「桜のかわいさに気づくニャンて、キミの洞察力は素晴らしいニャ! そう! “桜たち”は、世界一かわいいニャ!」

 まくろんの声がこだまするように響いた。やがて、その声が空気に溶けるように消え去ると、まくろんは精悍な表情で向き直り、こがねに手を差し出した。その手には揺るぎない自信が宿っていた。

 わずかな静寂のあと、こがねは表情を引き締め、その手を握り返した。

二人は固い握手を交わし、力強く頷き合った。その様子は、まるで信頼のおける同志のようだった。

二人の熱意に構わず、桜は冷静に口を開いた。

「まくろん、仲良くするのはいいけど、今はそれどころじゃないから」

 向き直り、淡々と言った。

「一色こがね、早くここを離れ――」

 そう言いかけた瞬間、桜は何かの気配を察知し、素早く振り返りながら咄嗟に防御魔法を発動した。防御魔法が展開された直後、突然、轟音が響き渡り、大地が激しく揺れ、突風が吹き荒れた。その衝撃で砂塵が舞い上がり、視界を奪うほどに周囲が包み込まれた。

 防御魔法が衝撃を防ぐ中、まくろんは思わず、「ニャ、ニャんだ!?」と声を上げた。

 衝撃が落ち着き、防御魔法が静かに消えた。

桜たちは真剣な表情でじっと砂塵の中を見据えた。砂塵が次第に薄れ、視界が開けると、そこには見たことのない朱色の鳥居が静かに立っていた。その奥には、手水舎や石で作られた兎の像、社務所、授与所、そして最奥に本殿がどんと構えていた。

桜とまくろん、こがねは、突如現れた神社の前で立ち尽くし、息をのんだ。その神社の雰囲気は、どこか異質で、胸の奥に不安をかき立てるものがあった。

 しばらく静寂が続いたあと、突然、神社内から鈴の音のような高い音が響き渡り、闇の中から現れる影があった。現れたのは、兎天使たちと三人の貴公子――庫持、阿部、大伴だった。彼らは参道に整然と並び、足音一つ立てずに跪いた。その装束は美しく、だがどこか冷たく威厳を感じさせる。まるで彼ら自身がこの神社の一部となっているかのような、神秘的な存在感を放っていた。

 桜は三人の貴公子たちを鋭く見据えながら、心の中で冷静に見抜いていた。

あの三人……多分、この前戦った二人の仲間だ。でも、あの二人よりはるかに強い。

 桜が警戒する中、少し遅れて、月見が本殿から現れた。

月見は手に持っていた絨毯を勢いよく広げた。その絨毯は、静かな音を立てながら跪く部下たちの間を滑り、鳥居へと真っ直ぐに広がった。

 桜は月見をじっと見つめ、鋭く洞察した。

あのバニーガール、ふざけた格好してるけど、物凄い力を秘めている。

桜が注意深く見据えていると、月見が少し横に移動し、軽く頭を下げた。そして、ついに七代天使――かぐやが静かに姿を現した。その瞬間、緊張感が一気に高まった。

 かぐやは着物に身を包み、その袖口には金色の糸が精緻に刺繍されていた。長い黒髪が月明かりに照らされ、まるで闇夜を彩る星々のように艶やかに輝いていた。目元には微かな紅がさし、その紅の色が、どこか神秘的で冷徹な美しさを醸し出していた。かぐやは部下たちの作った列の間を、悠然と歩いた。一歩進むたび、彼女の圧倒的な存在感が空気を震わせ、それが色神学園の外にまで伝わっていた。偶然、学園の近くを歩いていた人々は、その気迫に圧倒され、次々と意識を失って崩れ落ちた。

桜はかぐやを見据え、その迫力に気圧されながらも、必死に冷静さを保とうとした。額に冷や汗が滲み、心臓が速く鼓動を打つ中でも、何とか冷徹にその力を見極めようとしていた。

 この圧倒的な存在感と神秘的な力……間違いない、こいつが――!

「七代天使……」

 桜が小さく呟くと、まくろんは思わず、「ニャ、ニャんだって!?」と声を上げて驚愕し、言葉を失った。

隣に立つこがねは状況をあまり理解していなかったが、目の前に現れたかぐやに対し、本能的に恐怖を感じ、震えていた。

本来、七代天使ほどの圧倒的な力を目の当たりにすると、一般人は即座に気を失い、アルカナたちでさえ耐え抜くのが難しい。そのはずなのに、こがねは不思議とかぐやの迫力に耐え、自分の足でしっかりと踏ん張っていた。そのことに、普段なら桜が気づいていたはずだが、今はさすがにそれどころではない。

桜はかぐやから目を離さず、静かに杖を構えた。

かぐやは桜の前に到達すると、その美しい瞳でじっと見つめ、静かに口を開いた。

「やはりな……どこをどう見ても、貧相な顔立ち。わらわの美しさには到底及ばぬ、ただの小娘じゃ!」

 かぐやは桜を見下し、嘲笑を浮かべながら言った。彼女の言葉は冷徹で、桜のかわいさをまるで価値がないかのように否定するものだった。振り返り、部下たちに問いかけた。

「そなたらは、どう思う?」

「はい、かぐや様の言う通りでございます!」

部下たちは一斉に答えた。その言葉には疑いもなく、かぐやの圧倒的な美しさを肯定する力強さが込められていた。

 かぐやは満足げに微笑み、列の間を戻ると、冷たい眼差しを庫持に向けて言った。

「庫持、そなたはどうじゃ?」

「はい。かぐや様の美しさは、この世のものとは思えません。まさに天上の麗しさ、次元が違うのです。あんな小娘、足元にも及びません」

かぐやは満ち足りた表情で頷き、次に阿部に目を向けた。

「阿部、そなたはどうじゃ?」

「はい。かぐや様は、あらゆるものの心を一瞬で掴み取るほどの魅力で溢れています。人の目を引き寄せるその存在感こそが、真に美しく思います。あんな貧弱な小娘、取るに足りません」

 その言葉に、かぐやは再び満足そうに頷いた。

「そうか、そうか……」

かぐやは微笑みながら、次に大伴に視線を向けた。

「大伴、そなたはどうじゃ?」

「はい。かぐや様の美しさは、到底、言葉では言い表せません。存在そのものが崇高で、完璧なのです。あのような小娘如きと、比べるまでもありません」

「そうかそうか、ふふふ……」かぐやは満足げに微笑んだ。その表情には、完全な支配者としての自信が滲み出ていた。

 天使たちの誰もがその意見に賛同し、頷く中、まくろんはついに堪えきれず、怒りを込めて反論した。

「さっきから黙って聞いてりゃ、好き勝手言いやがって! 桜が貧相ニャ顔立ちの小娘だと!? バカ言うニャ! お前ニャンかより、桜の方が百億倍かわいいニャ!」

 その声が響き渡ると、場の空気は一瞬で凍りついた。

兎天使たちは動揺の色を浮かべ、貴公子たちは静かに怒り、月見は無表情で、かぐやの反応を待った。主が口を開くまで無言を貫くその姿勢には、深い忠誠心が見られた。

「何じゃと……?」かぐやは険しい表情で振り返り、まくろんを鋭く睨みつけた。

その威圧にまくろんはたじろぎ、わずかに後退した。

そのとき、こがねが勇気を絞りながら一歩前に出て、控えめに手を掲げた。

「あの……わたくしからも、一言よろしいでしょうか?」

 かぐやはこがねに視線を向けて言った。

「……何じゃ?」

 こがねは一息ついて心を落ち着け、真っ直ぐな眼差しで力強く言い放った。

「美しさというものは、人によってそれぞれ感じ方が違うものなので、他者と比べてもあまり意味がありません。そんな愚かな行為をするよりも、自分を磨いた方がよろしいのではなくて?」

こがねの無自覚な挑発に、かぐやは目を見開き、しばし呆然と立ち尽くした。重苦しい中、言葉を失った。

一方、桜はついにかぐやから視線を逸らし、こがねを見つめると、驚きと少しの感心が混じった表情で言った。

「あなた……七代天使を挑発するなんて、すごい度胸だね」

「挑発したつもりはありませんわ。ただ、少し不快な気持ちになりましたので、正直な気持ちを言っただけです」

「そっか……あの子たちが気に入るわけだ」桜はぽつりと呟き、ほんの少しだけ嬉しそうに微笑んだ。

「え……?」こがねは疑問に思い、思わず桜を見つめた。

 その瞬間、かぐやの不気味な笑い声が空気を震わせて響き渡った。

桜たちは即座に気を引き締め、反射的にかぐやを見据えた。

 かぐやは冷ややかな笑みを浮かべながら言った。

「ふふふ……やはり、年端も行かぬ小娘には、わらわの尊さが理解できぬようじゃな。なんと哀れな存在じゃ……生きる価値もない」

 かぐやが射殺すような視線で鋭く睨みつけると、周囲の空気がより一層重くなった。

 桜たちは、まるでその場に押し潰されるような重圧を感じた。桜とまくろんは何とか耐えていたが、こがねは息苦しそうに肩を震わせ、今にも崩れ落ちそうだった。

 こがねが耐え切れず、地面に膝をついたその瞬間、突然、柔らかな光が彼女を包み込んだ。それは桜が展開した防御魔法だった。

こがねはゆっくりと深呼吸し、次第に落ち着きを取り戻していった。

桜はこがねの前に立ち、振り向くことなく言った。

「ごめんね、面倒なことに巻き込んでしまって……」

 その声には、少しの申し訳なさが滲んでいた。

「でも、心配しないで。あなたは絶対に護るから!」

 桜の力強い言葉と、頼もしい背中に、こがねは深い安心感を覚えた。

「まくろん、頼んだよ」

 桜が指示を出すと、まくろんは「合点承知ニャ!」と意気込み、こがねを護るように構えた。

 一方、兎天使と貴公子たちは、月見が無言で視線を向けると、一斉に立ち上がり、静かに後退して距離を取った。

 桜は深く息を吸い、かぐやを鋭く見据えた。そして素早く杖を構え、冷静に言い放った。

「お前の相手は、わたしだ!」

 かぐやは余裕のある笑みを浮かべた。

「ふふ……不敬で無知な小娘め! わらわが天罰を下してやろう」

 かぐやが自信満々に告げると、部下たちは一斉に「うぉぉぉぉぉ!」と声を上げ、その場を盛り上げた。

空気が震える中、かぐやはゆっくりと扇子を掲げた。それを突きだそうとした刹那、月見が何かに気づき、慌てて「かぐや様!」と声を上げた。その瞬間、かぐや、月見、三人の貴公子、兎天使たちの動きが、まるで何かに縛りつけられたかのように、ピタリと止まった。

「なんじゃ? これは?」

 かぐやは腕を動かそうとするが、微動だにしない。部下たちも同様に、身動きができず、戸惑いを見せた。

 その光景を見て、桜は即座に事態を察し、視線を横に素早く移動させた。視線の先には、両手を突き出し、念力を放つ貞子が立っていた。

貞子はその場で力強く踏ん張り、強力な念力でかぐやたちの動きを封じていた。その必死な表情から、この拘束が限界ぎりぎりであることは明らかだった。

「花ちゃん!」

 貞子が叫びながら視線を向けると、そこには花子が地面に手をついて待っていた。間髪入れずに花子が力を込めると、かぐやの足元から勢いよく植物の茎が伸び、渦巻き状に絡みついた。太い茎が瞬く間にかぐやを拘束すると、花子は流れるように空を見上げ、「今です!」と叫んだ。

見上げた先の空中――かぐやの頭上に、神楽の姿があった。

神楽は鋭くかぐやの頭を狙いながら、破魔矢をつがえ、弓を構えていた。

「弓の舞・破魔!」

 神楽が言い放ち、迷わず矢を射ると、桜もそれに合わせ、「建御雷神」と呟き、素早く雷魔法を繰り出した。

 光り輝く破魔矢が頭上から、巨大な雷が正面から同時に放たれ、空を裂きながらかぐやに迫った。

 主の危機的な状況を前に、部下たちは必死に体を動かそうとするが、まるで地に根付いたように動かなかった。兎たちは動揺し、貴公子たちは困惑した。

 しかし、かぐやはまるで動じることなく、無表情で立ち尽くしていた。破魔矢と雷が迫る直前、かぐやの口元に不敵な笑みが浮かんだ。その表情には、揺るぎない自信が滲み出ていた。そして次の瞬間、轟音とともに大爆発が巻き起こった。

 激しい爆風が周囲に広がりかけたその瞬間、神楽はあらかじめ地面に仕掛けていた四枚の霊符を発動した。

神楽が素早く印を結ぶと、霊符が一斉に輝き、光が空に向かって勢いよく伸びた。その光が互いに結びつき、瞬く間に立方体を構築すると、大きな結界となってすべての衝撃を包み込んだ。爆発の衝撃で、結界が破裂しそうなほど膨張したが、すぐに元の形に戻った。結界の中は、一瞬で黒煙に包み込まれた。

「かぐや様ぁ!」

兎天使と貴公子たちは一斉に声を上げた。貞子の念力がようやく解けると、急いで結界まで駆け寄った。天使の誰もが心配そうにその動静をうかがう中、月見は冷たい表情を浮かべ、何も言わず無言で見守っていた。



読んでいただき、ありがとうございました。

次回もお楽しみに。

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