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柴乃と新たな友達

 日本よりはるか西に位置するとある国の某所に、アルカナ・オースの本部がある。

 ラドゥ、シンファ、ツェペシュの三人は、姉のヴラドが日本に旅立って以降、毎日のように本部に足を運んでいた。ラドゥの家にはネット環境がないため、ヴラドとの連絡手段が本部にしかない。そのため、昼間はシンファと修行に励み、夜はヴラドから連絡が来るのを待つのが、ラドゥの日課になっていた。とはいえ、ヴラドから毎日連絡が来るわけではない。

ヴラドと話せた日、ラドゥは嬉しくてご機嫌になり、連絡が来なかった日は、しょんぼり落ち込んでいた。だが、それも仕方ないことだと受け入れていた。ヴラドが忙しいことを理解していたし、頻繁に連絡を取りすぎると、天使たちに気づかれてしまうかもしれないからだ。それでも、寂しい気持ちを消すことはできなかった。

ある日の夜。

ラドゥは修行を終えたあと、ワクワクしながらヴラドからの連絡を待っていた。しかし、この日は連絡がなかった。ラドゥは通路の端に腰を下ろし、ツェペシュを強く抱きしめながら、落ち込んでいた。ツェペシュは息ができず、苦しそうに身をよじっていたが、ラドゥはまったく気づいていなかった。そのとき、シンファが近くを通りかかり、明るく声をかけた。

「ラドゥお嬢様、元気出すアルよ! ヴラドお嬢様なら、きっと今頃、天使どもをボコボコにしてるアル!」シンファは拳を突き出し、微笑んだ。

「うん、そうだね」ラドゥは苦笑いを浮かべた。手の力が弱まり、ツェペシュはようやく深く息をついた。

 シンファはラドゥの気持ちを察し、どんな言葉をかけるべきか一瞬迷い、少し気まずい沈黙が流れた。わずかな沈黙のあと、シンファは「あ、そういえば!」と何かを思い出したように呟き、腕輪型デバイスを軽く操作して、宙に映像を投影した。

「ラドゥお嬢様、これを見てアル!」

 シンファに促され、ラドゥはゆっくりと視線を向け、「これは?」と尋ねた。

 宙に映し出されたのは、少女たちが彩り豊かな光弾を撃ち合うゲームのホログラム映像だった。映像の上部には、『西方』の文字が浮かんでいた。

「これは、日本で大人気の3D弾幕シューティングゲーム『西方』アル! かわいくて魅力的なキャラクター、かっこいい音楽、美しい弾幕、そして洗練されたストーリー……すべてを兼ね備えた、とても面白いゲームアル!」

「日本の、ゲーム?」ラドゥは少し興味を引かれた様子で呟いた。

「そうアル! 少しやってみないアルか? きっと気分転換になるアル!」

「でも……」

「他の仲間たちも、結構ゲームしてるアルよ!」

「うーん……」

「もしかしたら、ヴラドお嬢様も息抜きにやってるかもしれないアルよ!」

ヴラドの名が出た瞬間、ラドゥは「やる!」と即答した。目を輝かせ、再びツェペシュを強く抱きしめた。

ツェペシュは思わず、「グヘッ!」と苦しそうな声を漏らした。

「決まりアルね!」シンファは嬉しそうに微笑んだ。「それじゃあ、行くアルよ!」

 シンファが手を差し伸べると、ラドゥは笑顔でその手を握り返した。

 三人はその場を離れ、しばらくすると、アルカナ・オースのトップの部屋の前に立っていた。

「シンファ……ここ、アンの部屋なんだけど……」ラドゥは不安げに呟いた。

「そうアルね!」

「どうしてここに?」

「ラドゥお嬢様は追われる身……だから、一応アンちゃんに許可をもらわないと!」

「……そっか」ラドゥはやむなく受け入れた。

 シンファがドアをノックすると、部屋の中から「どうぞ」と女性の声が響いた。シンファは「失礼するアル」と言い、ゆっくりとドアを開け、三人は部屋に足を踏み入れた。

部屋の中では、椅子に腰を下ろして、悩ましい表情で報告書を見つめる女性――アンドロメダの姿があった。

アンドロメダは世界中のアルカナ・オースを統括、管理する大魔法使いの一人である。とっくに還暦を迎えているが、魔法で若さを保っており、その外見は二十代後半から三十代前半に見える。そのため、仲間からは親しみを込めて「アンちゃん」と呼ばれている。

 アンドロメダは視線を移し、「シンファとラドゥとツェペシュか。わたしに何の用だ?」と問いかけた。

「アンちゃん! 今からラドゥと一緒にゲームをやりたいんだけど、いいアルか?」

 シンファが尋ねた瞬間、アンドロメダは視線を鋭くした。眉間にシワを寄せ、低い声で、「シンファ! アンちゃんじゃなくて、アンドロメダ様とお呼び!」と注意した。

 彼女の貫禄に、ラドゥは思わず怯み、わずかに身を引いた。

一方、シンファは軽く笑い飛ばしていた。普段から会うたびに同じやり取りをしているため、すっかり慣れていた。

 アンドロメダは呆れたように言った。

「まったく、最近の若いもんは、礼儀がなっちゃいないね」

 少しの沈黙のあと、話題を戻した。

「で、ラドゥと一緒にゲームをしたいんだって?」

「うん! 毎日修行頑張ってるから、少し気分転換したいアル!」

「……お前、ラドゥの立場がわかってるのか?」

「もちろんアル! でも、本部ここならできるはずアル! だって、世界一安全な場所なんだから!」シンファは両手を広げ、強気に訴えかけた。

 しばし緊張感のある空気が流れた。やがて、アンドロメダはため息をつき、静かに口を開いた。

「……いいだろう。だが、ハメを外しすぎるなよ!」

 シンファは満面の笑みを浮かべ、「アンちゃん、謝謝シェイシェイ!」と言い、ラドゥとツェペシュも慌てて頭を下げた。

「アンちゃんじゃない! アンドロメダ様だ!」と言いつつ、アンドロメダの表情は嬉しそうに微笑んでいた。

 シンファ、ラドゥ、ツェペシュの三人は部屋を後にし、空いていた部屋を見つけ、そこでゲームの準備を始めた。

ラドゥとシンファは椅子に深く腰を下ろし、デバイスを装着したあと、ゆっくりと息を整えた。ツェペシュが静かに見守る中、二人は声を揃えて「コネクト・オン」と呟いた。その瞬間、デバイスと脳が量子で繋がり、二人はゲームの世界に飛び込んでいった。

目を開けると、二人は人里離れた山奥の中に立っていた。少し先に神社があり、そこがゲームの設定を行えるロビーだった。ゲーム内では、この世界を『神秘郷』と呼んでいる。

二人は神社に足を踏み入れ、まずは名前を決めた。ラドゥは『羅都らどぅ』、シンファは『星華せいか』になった。次に自分の種族を選んだ。ラドゥは吸血鬼、シンファは武術の達人を選択した。

ラドゥは初めてなので、難易度は『Easy』に設定し、まずは初心者向けのステージを選んだ。

選択が終わると、二人の身体に光が巻きつくように輝きだした。ラドゥが少し緊張していると、隣に立つシンファがやさしく「大丈夫アルよ」と声をかけた。二人はロビーから姿が消え、第一ステージへと転移した。

 二人は山奥の上空に浮かんでいた。周囲は山々に囲まれ、見渡す限り広がっていた。

「ここから前に進めば、敵が現れるアル」

 シンファはラドゥを誘導し、ゲームのルールや動きを説明しながら進んだ。最初の敵の妖精が現れると、まずはシンファが前に出て、弾幕戦の戦い方を見せた。

 ラドゥは少し後方に下がり、静かにシンファの戦い方を見守っていた。

 妖精を倒して次に進むと、また別の妖精が現れた。今度はラドゥが前に出て戦った。緊張でぎこちなさもあったが、無事に敵を倒すことができた。「いい動きだったアルよ!」とシンファに褒められ、ラドゥは少し嬉しくなった。

「それじゃあ、頑張るアルよ!」シンファは明るく声をかけた。

「うん、頑張る!」ラドゥは力強く頷いた。

 シンファは小さく微笑み、ラドゥの前から姿が消え、神社に転移した。その後、シンファはプレイせず、ラドゥの見守りに徹した。神社の上空に映し出された映像から、ラドゥの様子を見ていた。

 ラドゥは気を引き締めて前に進んだ。妖精の敵が突然現れると、思わず驚くこともあったが、勇敢に挑んでいった。最初は少し戸惑いつつも、次第に慣れると、次々と敵を倒してステージをクリアしていった。そして気づけば、ラドゥはゲームの面白さにすっかりのめり込み、夢中になっていた。

 ラドゥの様子を見守るシンファも、嬉しそうに微笑んだ。



 日本時間の五月六日、金曜日の午前一時過ぎ。

 柴乃は3D弾幕シューティングゲーム『西方』をプレイしていた。柴乃のプレイヤーネームは『むらさき』、種族はもちろん魔法使いだ。

柴乃は起床してすぐにゲームの中に飛び込み、勘を取り戻すために難易度『Lunatic』で魅せるプレイを披露し、ノーミスであっという間にクリアした。そのあとは、他のプレイヤーとのオンライン対戦で次々と相手を蹴散らしていった。周囲から『紫の魔術師』と呼ばれる彼女の豪快なプレイスタイルは、多くのプレイヤーを魅了していた。

ランクマッチでは上位にランクインしており、ライバルには『呉橋の巫女』、『十三騎士の人形使い』、『華人護衛』、『黄金の九尾』、そして『銀髪赤眼の吸血鬼』という異名を持つプレイヤーが名を連ねている。

柴乃の対戦は神社の上空に映し出され、誰もがその美しい弾幕に目を奪われていた。その中に、ひと際目を輝かせて見つめる銀髪少女の姿があった。彼女のプレイヤーネームは『羅都』。『西方』を始めたばかりの新人だが、その成長速度は驚異的だった。

羅都はランクマッチで次々と高ランクプレイヤーを倒し、瞬く間に上位層へと上り詰めた新進気鋭のプレイヤーだった。普段は落ち着きがあり理知的だが、いざ対戦が始まると、突然気性が荒くなり、破壊の限りを尽くす。そのため、彼女についた異名は『破壊の吸血鬼』だった。

柴乃は連戦連勝を重ねたあと、神社の端の石段で休憩していた。すると、羅都が後ろから近づいてきて、静かに声をかけた。

「あなた、強いのね」

 柴乃は一瞬驚いたが、平静を保ちつつ、ゆっくりと振り返った。目が合った瞬間、羅都の綺麗なオッドアイに思わず見惚れてしまいそうになった。だが、すぐにはっと我に返り、冷静に口を開いた。

「輝く銀髪に、色の異なる二つの澄んだ瞳……ここ最近頭角を現した『破壊の吸血鬼』だな?」

「知ってるの?」

「ああ、強者の情報は常にアップデートしている。ゲームを続けていれば、いずれ相まみえるかもしれぬからな」

「ふーん、そうなんだ」

 羅都は観察するような視線で柴乃をじっと見つめた。

 柴乃はその視線に耐え切れず、威厳を崩さぬ口調で言った。

「ところで、我に何か用か?」

「あ、そうだった!」羅都は背筋を伸ばし、真っ直ぐな瞳で柴乃を見つめて言った。「『紫の魔術師』さん、次はわたしと一緒に遊んでくれない?」

 予想通りの言葉に、柴乃はまったく驚かなかった。むしろ、嬉しさと興奮で胸が高鳴り、思わず笑みを浮かべながら、「いくら出す?」と問いかけた。

「コイン1個」と羅都は答えた。

 少しの沈黙のあと、柴乃が冷静に「いいだろう」と答えると、羅都は気持ちが昂り、その興奮が表情にも漏れていた。

 柴乃と羅都の対戦が決まると、周囲が騒然とした。他のプレイヤーたちは強者二人の激突に注目し、どちらが勝つのか、予想し合っていた。

「紫の魔術師が勝つに決まっている!」妖怪は自信満々に言った。

「いや、破壊の吸血鬼の方が強い!」天狗は言い切った。

「新人が挑むにはまだ早すぎる!」妖精は冷静に分析した。

「新たな風よ! どうか一矢報いてください!」神は願った。

 誰もが楽しそうに語り合い、様々な意見が飛び交っていた。

 周囲の声に一切構うことなく、柴乃と羅都は淡々と対戦の準備を始めた。

 羅都はステージ選択画面を開き、「どこがいい?」と尋ねた。

「どこでも。汝に任せる」柴乃は即答した。

「じゃあ、ランダムで!」

 羅都がランダムを押し、深紅の洋館が選ばれた。

 二人は互いに不敵な笑みを浮かべながら、次第に光に包まれていった。やがて、全身が光に覆われると、神社から二人の姿が消え、洋館に転移した。

 二人は洋館の地下――巨大な柱で囲まれた部屋に向かい合って立っていた。柴乃はほうきを、羅都は杖を握りしめていた。

柴乃は三角帽子をクイッと被り直し、冷静に言った。

「コイン一個じゃ、人命も買えないよ」

 羅都は不敵に笑いながら言った。

「あなたが、コンテニューできないのさ!」

謎めいた雰囲気と狂気を感じさせる音楽が流れ始めた瞬間、羅都が先に攻撃を仕掛けた。ふわりと宙へ舞い上がり、手を突き出す。赤い光弾が無数に弾け、羅都を中心として全方位に広がった。

柴乃は軽く体を傾け、弾幕の間をすり抜けるように避ける。反撃のレーザーを撃ち込むが、羅都は軽く躱し、すぐさま光の一撃を返してきた。弾幕が入り乱れるものの、まだ二人とも本気ではない。様子見の攻防に過ぎなかった。

見極めを終えた羅都が、次の手を繰り出す。杖の先から飛び出した四つの小さな魔法陣が、柴乃を四方から取り囲んだ。青とピンクの光弾が一斉に雨あられと降り注ぐ。

柴乃はほうきに跨って急加速し、上下左右に旋回しながら弾を躱す。その合間に自分の魔法陣を展開し、光弾とレーザーを連続で撃ち込んだ。鋭い光線が羅都の周囲を包み込むが、羅都も軽やかに後退しながら応戦する。

羅都が動きを変えた。炎が杖を飲み込み、巨大な炎の刃と化す。

「はあっ!」

振り抜かれた炎の刀身が柴乃の横をかすめ、背後の太い柱を上下に裂き、灼けた破片が飛び散った。

あまりの威力に、柴乃は一瞬息をのむ。だが、迷う暇もなく、次の一撃が飛んできた。

炎の斬撃は強烈だが、重く、遅い。

柴乃は紙一重で回避し続ける。振るうたびに、柱も壁も、シャンデリアまでも崩れていく。

隙を見つけた柴乃は、素早くミニ八卦路を構えた。

「はっ!」

放たれた巨大レーザーが羅都を捉えたかに見えた。その光は、眩く空間を切り裂き、爆発的な音を轟かせた。しかし、光が収束するその瞬間、羅都の姿は煙に紛れて見えなかった。

柴乃が警戒して視線を走らせていると、背後でコウモリの群れとともに羅都が現れ、至近距離から光弾を放った。

柴乃は反射的に振り返るも避けきれず、一撃を受けて後方へ吹き飛ぶ。すぐに体勢を整え、前を見据えると、視界には四人の羅都が浮かんでいた。三体は分身、本体は一人。四方向から光弾が襲いかかり、美しいが容赦ない弾幕が柴乃を包囲した。

柴乃は必死に弾の隙間を縫うように飛び回るが、四人分の弾幕は濃い。手詰まりになりかけたそのとき――背後の扉が、羅都の流れ弾でわずかに開いた。柴乃は一瞬で判断し、迷わず扉へ飛び込んだ。

通路へ出た柴乃は、飛びながら後方を確認する。羅都たちがすぐ背後に迫っていた。柴乃はボムを一つ放り投げる。爆発が通路を照らし、先頭の分身が霧のように消えた。そのまま一直線に進んだ先、視界に新たな扉が見える。柴乃は勢いよく突入した。

そこは円形の大広間。柴乃はすぐに上昇し、天井近くで旋回する。遅れて二体の羅都が突入し、光弾を放つが、柴乃はボムを扉へ投げた。分身体が飛び込んできた瞬間、爆発が起こり、消し飛ぶ。

「よし!」

柴乃の喜びも束の間、残る二体が怒涛の連撃を撃ち込んでくる。

 手数が減った今こそ反撃のチャンス。柴乃は魔法陣を展開し、カラフルな星形弾幕を天井から降らせた。流星群のような光に包まれ、分身がひとつ消える。残るは本体のみ。

柴乃は攻めを強め、ボムを五つ同時に投げ放った。

羅都は迫るボムを視認し、手をきゅっと握りしめた。その瞬間、五つのボムが空中で同時にドカーンと炸裂した。

柴乃が驚きながら見つめていると、羅都は得意げに微笑み、次の攻撃へ移った。

羅都が杖を床へ突き立てると、大広間全体に魔法陣が広がる。緑の光弾が網目状に浮かび、空間を支配した。羅都は舞い上がり、上空から黄色い光弾を集中して放つ。同時に、緑の光弾が一斉に動き出し、柴乃の逃げ場を奪った。

柴乃は冷静に弾幕の軌道を読み、隙間を縫って飛び抜けた。自身の周囲に四色の小さな魔法陣を展開し、レーザーを撃ち返す。羅都も避けながら光弾を撃ち、二人の攻防はますます激しさを増した。

羅都がふわりと大広間の中心へ戻り、手に光りを集める。手を掲げると、密度の高い渦巻き弾幕が四方八方へと放たれた。

 柴乃は思わず息をのむ。だが、すぐに冷静さを取り戻し、渦の隙間を読み切って突破した。四つの魔法陣から光弾を連射すると、羅都が吹き飛び、攻撃が止まる。その隙を逃さず、柴乃が突進した。

羅都は柴乃に背を向け飛び回りながら、床に刺さっていた杖を回収すると、大広間を脱出した。柴乃も追いすがり、二人は洋館の複雑な通路を疾風のごとく駆け抜ける。

薄暗い一室へ入った瞬間――羅都が空中で身体を反転させた。七色の光弾が一斉に放たれ、激しい雨のように降り注ぐ。

柴乃はほうきを構え、衝撃を受けながらも踏みとどまる。その衝撃で四つの魔法陣が消え、足が床についた。間髪入れずに、羅都の放った光弾が空間を切り裂くように降り注ぐ。柴乃は即座に反応し、ほうきに跨ると、地面スレスレを飛び、光弾の狭間を縫うように躱していった。一つ、また一つ、光弾が彼女のすぐ横をかすめていくが、柴乃は冷静に進む。

次に、羅都は部屋の中を自由自在に飛び回り、壁に向かって次々と光弾を放ち始めた。大小様々な光弾が壁に当たり、瞬時に跳ね返って部屋全体が弾幕に包まれた。まるで宇宙の中で星々が遊んでいるようだ。

 柴乃はほうきに軽く立ち乗りながら、反射する光弾の間を縫うように飛び回り、次々と躱していく。無数の光弾が迫る中でも、彼女は恐れずに、次の一手を練っていた。手のひらを広げ、二つの小さな魔法陣が浮かび上がる。その魔法陣から、無数の小光弾が飛び出すと同時に、手のひらを前方に突き出して、鋭い針のような光弾を一斉に放った。小さな光弾が羅都を次々と狙い、鋭い光線が彼女を包囲していった。

羅都はそれらを冷静に捌きながら、次の弾幕を準備し始める。彼女が手を突き出すと、魔法陣が空間に現れ、巨大な青い十字レーザーが浮かび上がった。十字レーザーは時計回り、反時計回りに回転し、まるで時間の流れそのものを変えてしまいそうな勢いで柴乃に迫ってきた。一方、羅都は無数の赤い光弾を放ち、柴乃を取り囲み始めた。

 柴乃は一歩も引かず、反応の速さでレーザーを躱し、軽い身のこなしで光弾の隙間をすり抜けた。さらに攻撃の手も緩めず、羅都を狙い続けた。

 柴乃の鋭い光弾が羅都を捉えていた。だが、羅都が不敵な笑みを浮かべた次の瞬間、突然その場から彼女の姿が消え去った。柴乃が攻撃を止めると、そこには青色の光弾が不気味に浮かんでいた。

青光弾が軌跡に弾を吐きながら、柴乃に向かって襲いかかる。柴乃が軽く回避するが、即座に追いかける。追尾式光弾が一つ、また一つと増え、まるで高性能な追跡ミサイルのように柴乃を執拗に追い回した。光弾の数は次第に増加し、その勢いはまるで柴乃を逃がさないようにすべてを覆い尽くすかのようだった。

柴乃は広大な洋館の中を超高速で飛び回り、華麗に追尾式光弾を躱す。勢いのまま先に見える小さな扉の中へ突っ込んだその瞬間、追尾式光弾が壁に衝突し、爆発とともに消え去った。振り切ったのも束の間、無数の光弾が柴乃を全方位から囲んでいた。均等に並んだ弾幕が、一斉に中心の柴乃へと迫る。

柴乃は光弾のわずかな隙間を紙一重で躱す。回避し続けていると、空中に魔法陣が浮かび、そこから羅都が姿を現した。

羅都は挑発的な笑みを浮かべ、手を突き出す。魔法陣が展開し、手のひらにエネルギーが収束していく。

挑発に乗るように、柴乃はミニ八卦路を構える。ミニ八卦路を中心に砲身のような魔法陣を展開し、強力なエネルギーが集まった。

「スーパー・紫・スパーク!」

 ミニ八卦路から極太レーザーを放つと同時に、無数の星型弾幕を繰り出した。

 羅都はニヤリと笑い、レーザーを回避する。レーザーの側面を沿うように距離を詰め、宙に手を掲げた。魔法陣を展開し、密度の高い弾幕が球状に広がる。弾幕は空中に次々と発射され、波紋のように広がり、瞬く間に部屋中を覆い尽くした。

柴乃は気を取り直し、即座にほうきに跨ると、羅都を追いかける。二人は閃光のような速さで飛び回り、無数の弾幕が宙を舞った。激しい弾幕の撃ち合いをしつつも、二人の表情は楽しそうだった。互いに一歩も譲らない攻防が繰り広げられたが、ついに柴乃の光弾が羅都を捉え、撃ち落とした。

その光景を、多くのプレイヤーたちが息をのんで見守っていた。その中に、『黄金の九尾』の姿があった。彼女のプレイヤーネームは『黄金おうごん』――その正体は、一色こがねだった。

こがねは二人の美しい弾幕ごっこに魅了され、心を奪われていた。

戦いの結末が迫る中、神社上空に、緊張の糸が切れるようにして、『勝者――紫!』の文字が大きく浮かび上がった。一瞬の静寂のあと、神社は歓声に包まれ、二人の健闘に拍手が送られた。

柴乃と羅都はゆっくりと地上に降り立った。

「噓みたい。わたしが負けるなんて……」羅都は驚きと悔しさが入り混じった表情で呟いた。

「あいにく、弾避けは得意なんだ」と柴乃は得意げに言った。「満足した?」

「うん、すごく楽しかった! また、あなたと遊びたい!」羅都は満足そうに答えたあと、切なげな表情を浮かべた。「でも、結局また一人になっちゃうのか……」

「……?」柴乃は少し首を傾げた。

「だって、あなた、たまにしか来ないし……」羅都は目を伏せ、静かに呟いた。声にはどこか寂しさが滲んでいた。

 少しの沈黙のあと、柴乃は何か閃いた表情を浮かべ、意味ありげに言った。

「クックック……汝はまだ知らぬようだな」

 羅都が目を丸くして顔を上げると、柴乃はわずかな笑みを浮かべて、意味深に続けた。

「この世界――『神秘郷』には、たくさんの猛者が住んでいる! 『十三騎士の人形使い』、『黄金の九尾』、そして『銀髪赤眼の吸血鬼』……。奴らは、我に匹敵するライバルだ。きっと、汝を満足させることができるはずだ」

 羅都の様子をうかがいながら、柴乃はさらに言い添えた。

「今度、『呉橋の巫女』を紹介しよう」

「ほんと!?」羅都は目を輝かせて嬉しそうに声を上げた。

「ああ、約束だ」

「うん、約束!」

 柴乃と羅都は小指を絡ませ、強く指切りを交わした。その後、お互いに微笑み合い、軽く手を振りながらその場を後にした。

 柴乃はそのままログアウトし、現実世界へと戻った。目を開けると、リビングの天井が目に映った。軽く上体を起こし、眠い目を擦りながら時計に目を向ける。午前六時を過ぎていた。

「六時か……よし、寝よう!」

 柴乃は迷わず即決し、ソファに横になると、ブランケットを羽織って眠りについた。しばらくすると、柴乃の身体からブランケットがずれ落ちた。そのとき、イリスがリビングに入ってきた。

イリスは静かに柴乃に近づき、やさしくブランケットを掛け直した。ふわりと浮かび上がり、和やか表情で見つめながら小さく呟いた。

「ふふ、どんなゲームをしても、柴乃様は人々の目を引くのですね」

 柔らかく微笑み、イリスは静かにリビングを後にした。

 八時間後、目を覚ました柴乃は、『マイクリ』にログインした。作りかけていた空中庭園を完成させ、島民に自慢げに披露した。その後はのんびりと過ごし、心地よい疲れを感じながら一日を終えた。


 次の日、五月七日の土曜日は、翠が穏やかな一日を過ごした。午前中はイリスとともに家の掃除や洗濯をこなし、午後は買い物に出かけたり、新しいレシピ開発に勤しんだりした。まるで嵐の前の静けさのような平穏な時間を過ごし、心身ともに全回復すると、翠は充実した様子で眠りについた。

 しかし――。

翌日、五月八日の日曜日。

桜を狙う七代天使『かぐや』が、多くの部下を従えながら、ついに動き出した。



読んでいただきありがとうございました。

次回もお楽しみに!

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