フリーデンVSルシファー①
色神公園では、アインス、ノインの二人が、突然、空から舞い降りたルシファーと対峙していた。
アインスは両手に短剣を逆手に握り、ノインはバイオリンの弓を模した特注の武器を構えていた。二人とも目の前のルシファーの圧倒的な威圧感を感じ取り、冷や汗を滲ませていた。アインスたちの近くには、まだ治療中の被害者が数人、地面に横たわっていた。迂闊に動けない状況だ。
アインスがほんの一瞬、被害者に視線を向けた刹那、ルシファーが地面を強く蹴り、瞬時に間合いを詰めて拳を振り下ろした。
アインスは素早く後方へ跳び、拳を回避したが、その衝撃で地面が砕け散り、巻き上がった砂埃が視界を遮った。
ノインも後方へ素早く回避して、ルシファーと距離を取った。
砂埃がゆっくりと落ち着き、視界が晴れると、ルシファーは地面に拳をめり込ませたまま、不気味に佇んでいた。拳がめり込んだ地面には窪みが生まれ、そこから蜘蛛の巣状のひびが広がっていた。
次の瞬間、アインスは音もなく突撃した。一瞬でルシファーの背後に回り込むと、鋭い短剣を首元へ突き出した。
ルシファーは振り返りもせず、咄嗟にしゃがみ込み、短剣を躱すと、即座に蹴りを繰り出した。
アインスは体をしなやかにのけ反らせて蹴りを回避し、その勢いでバク宙を華麗に決めながら距離を取った。
ルシファーはゆっくりと振り返り、その無表情な顔をアインスに向けた。黒い目の奥で、赤くて小さな瞳がアインスを睨みつけていた。
一瞬の静寂のあと、ルシファーはまたしても一瞬で距離を詰め、アインスに猛然と襲いかかった。
アインスは冷静にルシファーの拳を躱し、少しずつ後退した。その際、アインスは一瞬だけノインに視線を送った。そのままルシファーを人のいない場所に誘導するという合図だった。
ノインはそれを即座に理解し、他のエージェントに「今がチャンスです。早く安全な場所に避難してくだい」と指示を出した。
指示を受け、医療班は被害者を連れて速やかにその場を後にした。
それを確認したのち、ノインもすぐにアインスの後を追いかけた。
アインスは、ルシファーの攻撃を巧みに躱しながら、周りに何もない芝生の開けた場所に出た。冷静にルシファーの鋭いパンチの軌道を見極め、驚異的な反射神経で、一撃も受けずに躱し続けていた。
周囲を素早く確認し、誰もいないと確かめた瞬間、アインスの目が鋭く光った。戦意に満ちた表情に変わっていた。次の瞬間、ルシファーの拳を短剣で鮮やかに受け止めると、身体をしなやかに捻りながら後ろ回し蹴りを繰り出した。
ルシファーは咄嗟に後ろに跳んでアインスの蹴りを躱し、距離を取った。軽やかに着地すると、アインスを見据え、すぐに戦闘態勢を整えた。
アインスは力みを緩めた。肩を回し、首の骨を鳴らすと、軽く跳躍して呼吸を整えながら乱れた服装を無造作に直した。ルシファーを睨みつけ、鋭く言い放った。
「お前がここにいる理由に、興味はない。ただ一つだけ確かなことは――おれの邪魔をするなら、排除するのみだ」
ルシファーはわずかに身を低く構え、赤い瞳を鋭く光らせながら警戒心をさらに高めた。
わずかな静寂のあと、アインスは地面を強く蹴り、疾風のごとき速さで距離を詰め、短剣を一閃。
ルシファーは一瞬反応が遅れた。咄嗟にのけ反ったが、アインスの短剣がわずかに頬を掠めた。短剣の刃が、骸骨に小さな線を刻んだ。
アインスはすかさず、次の鋭い一撃を放った。だが、ルシファーを捉えたのは、最初の一閃のみで、それ以外は紙一重のところですべて躱された。
二メートルを超える巨体の割に、素早い動きができるようだった。ルシファーが後ろに跳んで距離を取ったが、アインスはすぐに追撃しなかった。ルシファーに動きを見切られているのを感じ、アインスは即座に攻め方を再考する必要があると判断した。
アインスは相手を冷静に分析していた。
あの身のこなしからして、おそらく奴は、以前、おれたちと戦ったときの戦闘データを学習している。少し厄介だな。こいつを早く片付けて、シュバルツのところに向かいたいところだが……。
そのとき、芝の向こうから駆け寄る足音が聞こえ、ノインが姿を現した。
「すみません、遅くなりました」とノインは言った。
アインスはノインを見た瞬間、ふと思った。
たしか、ノインはルシファーと一度も戦っていない。てことは、奴はノインの戦法を知らないはずだ。よし、これならいける。
「ノイン、ちょっといいか……?」アインスは小さな声で呼びかけた。
「なんですか?」とノインは返した。
ルシファーは警戒した様子で、迂闊に手を出してこなかった。
「おれが近距離で攻める。ノインには援護を頼みたい。いいか?」とアインスは提案した。
「え、まあ、構いませんが……」
「頼んだ」
短い作戦会議を終えた二人は、視線を交わしてから同時にルシファーを見据え、戦闘態勢に入った。
ノインは腰のポシェットに手を伸ばし、特注のグローブを取り出して手際よく装着した。
「準備できました」とノインが言うと、アインスは黙って頷いた。
一瞬の静寂。乾いた風が三人の間をすり抜けていく。張り詰めた空気の中、ノインの頬を冷や汗が伝った。ぽたりと汗が顎先から落ち、乾いた地面に消えた――その刹那、三人が一斉に動いた。
アインスとルシファーが衝突し、衝撃波が広がる。二人の激しい拳の撃ち合いが始まった。轟音とともに凄まじい風圧が周囲の木々を激しく揺らした。
少し離れた場所から、ノインが攻撃を仕掛けた。
ノインが右手を左腕にかざすと、空中に輝く3Dホログラムのピアノ鍵盤が浮かび上がる。彼女は迷いなく、優雅に指を走らせた。次に、左手を右腕にかざすと、右腕に3Dホログラムのクラリネットが現れ、今度はそれを吹き始めた。さらに、胸には太鼓、両肩にはタンバリンとシンバル、下腹部にはドラム――ノインの全身に、ホログラムの楽器が次々と現れていった。
ノインはそれらを駆使して演奏し始めた。様々な楽器の音色が響き渡り、周辺は異様な空気に包まれた。ノインの奏でる音色は、美しくもどこか異様な響きを宿しており、ルシファーの聴覚をじわじわと侵食していった。やがて、ルシファーの動きが鈍くなり始めた。
アインスはその隙を見逃さず、鋭い一撃がルシファーの巨体に深い切り傷を刻み、続く連撃でその傷をさらに広げていった。
自身の身体の異変に気づいたルシファーは、咄嗟に後ろに跳んで距離を取った。だが、アインスはすぐに詰め寄り、攻撃の手を休めなかった。次第に防戦一方となるルシファーに、アインスの攻撃はさらに苛烈さを増していった。
ノインはアインスの動きに合わせ、絶妙なタイミングで楽器を演奏し続けていた。常にアインスの背後に身を隠し、ルシファーが攻め込めない場所を取り続けた。
ノインの旋律は、聴覚を通じて敵の精神と神経をじわじわと蝕んでいく。怯み、混乱、幻覚、眠気、平衡感覚の乱れ――見えない毒のように、戦意を静かに奪っていく。
その音色は、仲間の能力向上にも使える。
極めつけは、音による物理的な攻撃。ノインの奏でる音は、爆発や斬撃を生み出すことも可能だった。
ノインの音が原因だと察したルシファーは、踵落としで地面を抉り、跳ね上がった瓦礫を目くらましに使った。アインスの視界が一瞬塞がると、ノインを見据え、風のような速さで突撃した。
一瞬で間合いを詰めたルシファーは、鋭い蹴りでノインの身体を真っ二つに引き裂いた。だが、次の瞬間、引き裂かれたノインの姿が淡く霧となって消える――幻影だった。そして、ルシファーの背後に本物のノインが現れる。
「残念、外れです」
ノインは冷ややかに呟くと、ルシファーが振り返る間もなく、バイオリンの弓を模した武器で鋭く一閃。その身体を切り裂いた。
ノインの鋭い攻撃を受け、ルシファーが怯んだ一瞬の隙に、アインスが高速で突進し、強烈な跳び蹴りを顔面に叩き込んだ。
その衝撃を受けたルシファーは、巨体を大きく宙に舞わせ、地面に激しく叩きつけられた。
アインスは倒れたルシファーに跳び乗り、短剣をその胸に深々と突き立て、心臓を正確に貫いた。激しく暴れ出したルシファーからすぐに離れ、アインスは冷静に距離を取った。
ルシファーは胸に手を当て悶え苦しみ、次第に動きが鈍くなっていった。やがて動きが止まると、目の奥で灯っていた赤い光も、静かに消えた。
それを確認したアインスは、静かに「任務完了」と呟き、短剣を鞘に収めた。
ノインはアインスに駆け寄り、柔らかい声で言った。
「お疲れ様でした、アインスさん」
「ああ……」と不愛想に返したアインスだったが、一拍置いてから「いい援護だった。ありがとう」と、かすかに声を落として感謝を告げた。
「どういたしまして」とノインは笑顔を向けた。倒れているルシファーに視線を移し、「それにしても、コンピューターウイルスが現実世界にまで現れるなんて、本当に驚きです」と呟いた。
「そうだな……」アインスは静かに同意した。
少しの沈黙のあと、アインスははっとして、静かに口を開いた。
「……そうだ、こんなところで時間を浪費している場合じゃない。早くシュバルツのところに行かなければ」
アインスが歩き出そうとしたその瞬間、隣のノインが彼の腕を掴んだ。
「ん? どうした? ノイン」とアインスは尋ねた。
ノインの目が大きく見開かれていた。
アインスはゆっくりノインが見つめている方へ視線を移した。そして、同じく目を大きく開いた。
視線の先にあったのは――動いているルシファーの姿だった。
「なに!?」アインスは思わず声を上げた。
「心臓を貫かれてたはずなのに、どうして……!?」とノインも驚いた。
「まさか、瞬時に心臓の位置をずらしたのか……!? いや、そもそも奴の身体は、おれたちと根本的に違うのかもしれない……」とアインスは冷静に分析した。
ルシファーはゆっくりと上体を起こし、胸の傷に指を滑らせ、血に染まった指先を無表情で見つめた。立ち上がると、軽く手を挙げた。
その瞬間、アインスとノインは即座に身構えた。
ルシファーは懐に手を差し入れ、何かを探るように取り出した。小さなカプセル状の薬を摘み、それを口に放り投げ、飲み込んだ。間もなく、ルシファーの傷口から湯気が立ち上り、傷口が目に見える速度で塞がった。やがて、まるで何事もなかったかのように滑らかな肌が蘇っていった。
アインスとノインは、その光景を目にして驚愕の表情を浮かべつつも冷静だった。
「超速再生か……」とアインスは低く呟いた。
「そのようですね」とノインも返した。
「ツェーンがこの状況を見たら、喜びそうだな」
「ふふ、そうですね」
胸の傷が完全に塞がると、ルシファーの身体から溢れ出す湯気が治まった。
そのタイミングで、ゼクスからナンバーエージェント全員に向けて、一斉に音声メッセージが届いた。
「全ナンバーエージェントに報告する。ルシファーは再生能力を持つ薬を所持し、即座に傷を治すことが可能だ。また、人型ではあるが、内部構造は人間と大きく異なる。急所を貫いても効果がない。つまり、ルシファーを倒す唯一の方法は、その身体を再生できないほど完全に粉砕することだ。以上、健闘を祈る」
通信の終わりとともに、場に再び静寂が戻った。
「だそうです。アインスさん」とノインは言った。
「少し面倒だが、問題ない。おれがこいつを――」
アインスがそう言いかけた瞬間、ルシファーは一瞬にして間合いを詰め、強烈な拳を繰り出した。
アインスは咄嗟に腕でガードしたが、勢いに押されて吹き飛ばされ、池の水面に激しく打ちつけられた。その衝撃で水しぶきが大きく舞い上がり、陽光を受けて淡い虹が一瞬だけ浮かび上がった。
ノインはバイオリンの弓型武器を横一文字に振り抜いた。その一閃は空気を裂き、鋭い音を残した。
ルシファーは驚異的な反射神経で身を低くして一閃を回避した。そのまま頭の角を勢いよくノインに突き出した。
ノインは目の前に迫る角を弓で受け止めた。だが、勢いよく薙ぎ払われて吹き飛ばされ、木に激突した。衝撃で、木は悲鳴を上げるようにメキメキと音を立て、真っ二つに折れた。
「イタタ……」
ノインは打ちつけた腰をさすりながら立ち上がり、すぐに鋭い目つきでルシファーを見据えて身構えた。
ルシファーは冷徹な自信を全身に漂わせながら、ゆっくりとノインに向かって歩を進めた。その背の高さは、威圧感を伴いながら自然とノインを見下ろす形になった。
ルシファーがゆっくりと距離を詰めていると、彼の背後にびしょ濡れのアインスが音もなく現れた。
アインスは鋭い目つきで、ルシファーの首を見据え、瞬時に短剣を横薙ぎに振り抜いた。
ルシファーは瞬く間に身を屈め、その流れるような動作のままアインスの腹部を狙って鋭い突き蹴りを繰り出した。
アインスは空中で体を素早く捻って突き蹴りを躱し、その回転の勢いを利用して、鋭い回し蹴りを顔面に叩き込んだ。
強烈な蹴りを受けたルシファーは吹き飛ばされ、地面を何度も跳ねるように転がりながら、最後は木に激突してようやく止まった。折れた木がルシファーに覆いかぶさるように倒れた。
ノインはすぐにアインスのそばに駆け寄った。
「アインスさん、お怪我はありませんか?」
「問題ない、ただの掠り傷だ」
「そうですか……」
「もう、一瞬たりとも隙は見せない」
「そうですね」
二人は互いに視線を交わし、再びルシファーを見据え、静かに構えを取った。
ルシファーは覆いかぶさる木を無造作にどけ、悠然と立ち上がった。その目には冷酷な光が宿り、身体についた汚れを軽く払い落とす仕草にも余裕が漂っていた。ダメージを受けた気配は微塵もない。
両者は鋭い視線を交わし、空気が一瞬で緊張感に包まれた。
静寂の中、アインスとノインの背後から「あの~」という弱々しい声が小さく響いた。
二人は素早く振り向きながら、アインスは短剣を、ノインはバイオリンの弓型武器を振った。だが、相手に当たる寸前で、二人はピタリと手を止めた。
「ひぃぃぃ!」という驚きの声が響き、相手は頭を抱えてしゃがみ込んだ。その正体は、〈フリーデン〉のナンバーエージェント――ズィーベンだった。
ズィーベンは〈フリーデン〉の中でも屈指の隠密能力を持ち、完全に気配を消すことができる。アインスたちでも、注意を怠れば察知するのは困難だ。
アインスとノインは、ズィーベンの姿を確認すると、武器を持つ手を静かに下げた。
「ご、ごめんなさい、ズィーベンさん。お怪我はありませんか?」ノインはやさしく手を差し出した。
「は、はい、大丈夫です……ありがとうございます」
ズィーベンはノインの手を借りて立ち上がった。
「すまない……後ろから突然声をかけられると、反射的に攻撃してしまうんだ」とアインスは申し訳なさそうに言った。
「い、いえ、ぼくの方こそすみません。戦闘中に余計な声をかけて……」
「ズィーベンさんは何も悪くありません。気にしないでください」
ノインがやさしく言うと、ズィーベンの表情が少し和らいだ。
ノインは続けて問いかけた。
「――それより、ズィーベンさんがここにいるということは、わたくしたちの手伝いに来てくれたのですか?」
「は、はい……アハトさんに言われて……」とズィーベンは控えめに答えた。
「そうですか、ありがとうございます」
「い、いえ、ぼくなんかが来ても、役に立つかどうか……最悪、足手まといになるかもしれません……」
「そんなことはありません。ズィーベンさんは十分強いですよ」
「つ、強くなんかありませんよ、ぼくは……」
「二人とも、話はそこまでだ。奴が来る」とアインスは冷静に言った。
その声で、ズィーベンとノインは、ルシファーに目を向けた。
ルシファーは微かに目を細め、警戒心を露わにしていた。三人を鋭い視線で観察しながら、一瞬の隙を窺っているようだった。だが、いつまでも観察し続けることはせず、ゆっくりとした足取りで三人に近づいていた。
「先におれとズィーベンが突っ込む。ノインは後方から援護を頼む」とアインスは静かに指示を出した。
「わかりました」とノインは即答した。
「え、ぼ、ぼくも!?」ズィーベンは自分を指差しながら戸惑いを見せた。
「ズィーベンさん、少し失礼しますね」
ノインが両手を広げると、淡い光が空間に集まり、そこから精巧な3Dホログラムのバイオリンと弓が現れた。彼女はそれを迷いなく手に取り、すぐに演奏を始めた。
演奏が始まると、ルシファーは直感的に危険な気配を察知し、ためらいなく地面を強く蹴って突撃した。
アインスは突撃するルシファーに真正面から立ち向かい、その鋭い拳を短剣で受け止めた。
アインスとルシファーが激突し、鋭い音が響く中、ノインは冷静に演奏を続けていた。
一方、ズィーベンはその場でただ呆然とノインの演奏を聴いていた。しかし次の瞬間、ズィーベンの様子が少しずつ変わり始めた。
ズィーベンは徐々に瞼が重くなり、意識が引き込まれるような感覚に襲われた。何度も頭を振って眠気を振り払おうとしたが、その抗いも虚しく、ついに静かに目を閉じて深い眠りに落ちていった。
ルシファーは強烈な拳を繰り出し、ガードを固めたアインスを弾き飛ばすと、その一瞬の隙に、ズィーベンとノインに突進した。
ノインはズィーベンが眠った瞬間、素早く後方に跳んで距離を取った。
ズィーベンはその場に残り、微かに体を揺らしながら立っていた。
ルシファーは拳に力を込め、迷いなくズィーベンの顔面にパンチを繰り出した。
ズィーベンは反射的に身体を大きくのけ反らせ、ルシファーの拳を紙一重で躱した。続けざまに驚くほど軽やかなバク転を決めながら、その勢いでルシファーの顎を鋭く蹴り上げた。
ルシファーは軽く後ろに吹き飛び、ズィーベンは軽やかに着地した。ズィーベンの目は閉じたままだった。
ズィーベンは、眠りについた瞬間から本領を発揮する『睡眠拳』の使い手だった。眠ったズィーベンは、不規則で反射的に動くため、AIですら動きを予測するのが難しい。その動きは、思考を一切伴わず、ただ体が最善の反応をしているだけだった。
覚醒時のズィーベンの力は、一般人とほとんど変わらない。その代わり、彼には驚異的な“運”が備わっている。本人の意志とは無関係に、偶然の行動が敵を倒し、仲間を救う――そんな奇跡のような現象が何度も起きていた。それが、ズィーベンの特別な力だった。この見えざる力は、いまだ科学的に解明されていない。フィーアやツェーンを始め、〈フリーデン〉の好奇心旺盛なエージェントたちが、解明に向けて日々調査している。
ルシファーは顎をさすり、目を細めながら首を左右にひねり、骨を不気味に鳴らした。
アインス、ノイン、ズィーベンは三方向からルシファーを取り囲んだ。
静寂が支配する中、全員が身構え、互いの出方を慎重に窺っていた。
四人の戦いは、いよいよ最終局面へと突入する――。
読んでいただきありがとうございます。
次回もお楽しみに!
感想お待ちしております。




