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柴乃の変わらない日常④

スーパージャシンパは怒りをたたえた表情のまま、ゆっくりと浮上して柴乃たちと同じ高さで静止した。「ガルルルル……」と唸ったかと思うと、次の瞬間、口を大きく開いて強力なエネルギー波を吐き出した。

 フルツ、マスカット、ゴールデンキウイの三人は、突然のエネルギー波に一瞬反応が遅れた。だが、柴乃は以前に同じ攻撃を目にしていたため、反射的に両手を前に突き出し、エネルギー波を放って応戦した。

 二つの強力なエネルギー波が両者の間で衝突し、大爆発を巻き起こした。衝撃波が周囲を揺るがし、爆煙が空高く舞い上がった。

「今の攻撃に反応できるなんて、さすがグレープ様ですわ!」とゴールデンキウイは声高らかに言った。

「すごい……」とマスカットが短く呟いた。

「フンッ、あれくらい、あたしだって――」

フルツが張り合おうとしたその瞬間、突然、彼女の右足に冷たい感触が走った。

「なっ……!」

驚く間もなく、足元に現れたスーパージャシンパの腕が「ガシッ!」とフルツの足首を掴み取った。誰も気づかないうちに、スーパージャシンパの空間転移した手がフルツの足元に現れていたのだ。

フルツは振り解く間もなく、真下に勢いよく引っ張られ、地面に叩きつけられた。

「フルツ!」

柴乃が声を上げた一瞬の間に、スーパージャシンパが、爆煙を吹き飛ばすほどの勢いで突撃してきた。

 マスカットが一歩前に出て、鋭い眼差しで睨みつけた。

「来なさい!」

短く言い放ち、迫り来る敵に合わせて渾身の突き蹴りを繰り出した。

スーパージャシンパはその蹴りを見切り、素早くしゃがんで回避。勢いのままマスカットの背後に一瞬で回り込み、強烈な回し蹴りを叩き込んだ。

「ぐっ……!」

マスカットは背中に鋭い痛みを感じながら、勢いよく吹き飛ばされた。

 次に、柴乃とゴールデンキウイが並んで迎え撃つ。

スーパージャシンパは口を開き、エネルギー波を放った。エネルギー波が二人の間を裂くように真ん中を貫いた。二人がそれぞれ左右に跳んで避けると、スーパージャシンパはゴールデンキウイに突撃した。

右腕を引き、拳に力を込めて突き出す。すると、その腕が不自然に伸び、蛇のようにうねりながらゴールデンキウイの首元へと迫った。

 ゴールデンキウイは伸びてくる右腕をじっと見据え、冷静にタイミングを見極めた。首元に迫った瞬間、的確に弾き飛ばした。しかしその瞬間、死角から伸びていた左腕が視界に入ったが、気づいたときにはすでに遅く、足元を「ガシッ!」と掴まれてしまった。

スーパージャシンパは伸ばした左腕を高速でもとに戻し、ゴールデンキウイを引き寄せた。

ゴールデンキウイは、“避けられない”と瞬時に悟り、両腕を胸の前で交差してガードを固めた。そのガードの上から強烈なパンチを受け、吹き飛ばされた。

 スーパージャシンパが拳を放った瞬間、柴乃は空気が揺れる感覚とともに瞬間移動を発動。彼の背後に現れ、ためらうことなく鋭い蹴りを繰り出した。

スーパージャシンパは振り向きもせず、素早くしゃがんで蹴りを回避。

柴乃は空振りしたが、体勢を崩さずその勢いで一回転し、鋭い回し蹴りを放つ。だが、その動きも完全に見透かされていた。

スーパージャシンパは瞬時に細かいピースに分裂し、柴乃の蹴りをするりと躱した。

柴乃は空振りすると、咄嗟に構えを取り、意識を集中して周囲を警戒した。

不気味な静寂が広がる中、スーパージャシンパが音もなく背後に出現。柴乃は、その気配に気づくのが一瞬遅れた。

刹那、スーパージャシンパは組んだ手を柴乃の頭部に叩き込んだ。

強烈な一撃を浴びた柴乃は、勢いよく吹き飛ばされ、地面に激突した。

スーパージャシンパは、満足げな笑みを浮かべながら「ウヘヘヘヘ!」と高らかに笑い声を響かせた。その笑いは、圧倒する快感に浸る狂気そのものだった。

 そのとき、復活したフルツが再び立ち上がり、怒りに燃える瞳でスーパージャシンパを睨みつけた。

「まだ終わってねぇ!」

そう叫びながら、一瞬で間合いを詰め、全力のパンチを繰り出す。

スーパージャシンパは軽く手を動かして攻撃を払うと、間髪を入れずに強烈な一撃を腹部に叩き込んだ。

フルツは衝撃に声を上げる間もなく、後方に吹き飛ばされた。

マスカット、ゴールデンキウイ、柴乃も互いに目配せを交わし、一斉に突撃した。それぞれが絶妙なタイミングで攻撃を繰り出し、見事な連携でスーパージャシンパを攻め立てた。

だが、スーパージャシンパは一切の焦りも見せず、すべての攻撃を洗練された動きで軽やかに捌いていく。その様子は、まるで子どもの相手をしている大人のようだった。

次第に四人の体力は削られ、一瞬の隙が生まれると、スーパージャシンパは決してそれを見逃さず、反撃に出た。

四人は様々な戦術を次々と繰り出すが、すべて簡単にいなされてしまう。すでに動きを見切られたようなその実力は、四人のトッププレイヤーが共闘しても、歯が立たないほどだった。

柴乃たちの戦いは、映像を通じて全世界のプレイヤーやファンの目に届けられていた。画面越しに伝わるスーパージャシンパの圧倒的な力と狂気に、彼らは思わず息をのんだ。歓声が途切れ、静寂が訪れる。誰もがただ画面を凝視し、言葉を失っていた。沈黙が支配する中、その光景はまるで“絶望”そのもののように、世界を静かに覆っていった。

 柴乃たちは四方からスーパージャシンパを囲み、一斉に強力なエネルギー波を放った。直後、爆発が大地を揺るがした。

 四人は肩で息をしながら、静かに煙の中を見つめていた。

ゆっくりと煙が晴れると、誰もが目を疑った。

欠伸をしながら尖った耳に小指を突っ込むスーパージャシンパの姿が悠然とそこにあった。その顔には、まるで「退屈……」と言わんばかりの嘲笑が浮かんでいた。

 その挑発的な姿を目にしたフルツは、全身を震わせながら拳を握りしめた。悔しさが胸を焼き、唇をきつく噛みしめた。

「ふざけやがって……!」

呟くその声には、怒りと無力感が滲んでいた。

柴乃たちは一度、フルツのもとへ集まった。全員が肩で息をし、身体は限界に近づいていた。だが、その目は諦めるどころか、逆に力強く燃え上がっていた。“まだ終わらせない”という共通の意志が、視線を交わすだけで伝わってきた。柴乃たちの中に宿る闘志の炎は、絶望の闇をも焼き尽くす勢いを秘めていた。

「はぁ、はぁ……チッ……あの野郎、調子に乗りやがって!」フルツは苛立ち混じりの声を漏らした。

「はぁ、はぁ……さすがに、強すぎる!」とマスカットが呟いた。

「くっ、一体どうやったら倒せるんだ!?」と柴乃は悔しさを滲ませた声で言った。

 一方、ゴールデンキウイは顎に手を当て、真剣な表情で考え込んでいた。しばらく沈黙が流れたあと、静かに提案した。

「こうなったら仕方ありません。“あれ”をやりましょう!」

「……“あれ”?」柴乃たちは一瞬顔を見合わせ、首をかしげた。

ゴールデンキウイは柴乃に視線を向けると、真剣な表情で言った。

「グレープ様……もう一度、伝説のあのお姿に変身していただけませんか?」

「えっ!?」

「全力のグレープ様なら、ジャシンパに勝てるはずです」とゴールデンキウイは自信満々に断言した。

一瞬の間を置いてから柴乃は答えた。

「……た、たしかに……あの姿なら、勝てるかもしれない。だが、すまない。今は気が足りなくて変身できないんだ……」

「もちろん承知しておりますわ。なので、わたくしたちが、グレープ様に気を分け与えます」

 その提案を聞いた瞬間、フルツは「なっ!?」と驚きの表情を浮かべた。

 ゴールデンキウイは続けた。

「――そうすれば、もう一度変身できるはずです」

「それなら変身できるが……汝たちは、それでいいのか?」

「わたくしは構いません。グレープ様のお力になれるのなら本望ですわ」とゴールデンキウイは即答した。

「わたしもいいよ。グレープちゃんが変身した姿、近くで見てみたいし!」とマスカットもあっさり同意した。

「ありがとうございます。マスカットさん」

ゴールデンキウイはマスカットに笑顔で感謝を伝えた。

「では、決まりですわね!」

ゴールデンキウイが手を叩き、話をまとめようとしたその瞬間、「ちょっと待てー!」というフルツの叫び声が響いた。

フルツは慌てて身を乗り出し、止めに入った。

「勝手に決めんな!」

「何か不満がおありですか? フルツさん」ゴールデンキウイは不満げに尋ねた。

「大アリだ。あたしはまだ賛成してねぇ!」

「あら、そうでしたの? 何もおっしゃらないので、てっきり賛成だとばかり思っていましたわ」

「そんなわけあるか!」

「では、早く賛成してくださいませ」

「フン、そんな作戦、賛成するわけねぇだろ!」フルツは腕を組み、そっぽを向いた。

「どうしてですの?」

フルツは、柴乃を指差しながら言い放った。

「このあたしが、ライバルのこいつに気を分け与えるわけねぇだろ?」

 フルツの反応を柴乃は冷静に予想していた。共闘すら渋々応じていたフルツが、気を分け与えるなど考えられなかった。予想通りの反応に静かに待ち続けた。

 ゴールデンキウイもまた、フルツの反応を予想していたのだろう。彼女の表情には微かな余裕が漂い、その態度はむしろ計画通りとでも言わんばかりだった。

「そうおっしゃると思っていました。ですので、フルツさんが気を分ける必要はありません。おそらく、マスカットさんとわたくしで十分だと思いますので……」とゴールデンキウイは落ち着いた声で告げた。

「フンッ!」とフルツは鼻を鳴らした。

「ですが、代わりに一つだけ、お願いがあります」

ゴールデンキウイは真剣な眼差しを向けた。

「……なんだ?」

「気を分け与えている間、わたくしたちは動けなくなります。つまり、無防備になるということです」

「まあ、そうだろうな」

「ですので、その間、フルツさん一人でジャシンパを抑えていただく必要がありますの」

「はぁ!? なんであたしが、こいつのために時間稼ぎなんてしなきゃなんねぇんだよ!」

「フルツさんしかいないからです」

「フン、そんなことやるくらいなら、死んだ方がマシだ!」

フルツは強い口調で言い返し、顔を背けた。

「そんなこと言わないで協力してよー、フルツちゃん!」とマスカットも軽い口調で頼んだ。

「嫌ったら嫌だ!」

フルツは頑なに拒否した。どうしてもプライドが許さないようだ。

 その様子を、柴乃は黙って見守っていた。作戦を決行する場合、力を分けてもらう身なので、三人の意見を尊重したいと考えていた。

「そうですか、残念です……」

ゴールデンキウイはため息をついて目を伏せ、一瞬の間を置いて静かに呟いた。

「……では、グレープ様に“あのこと”をお伝えするしかありませんわね」

 その言葉に、フルツは思わず「なっ……!?」と声を漏らし、目を大きく見開いた。

「……“あのこと”?」柴乃は首を傾げた。

ゴールデンキウイは向き直り、柴乃に視線を向けて口を開いた。

「グレープ様……実は、フルツさんは――」

そう言いかけた瞬間、フルツが遮るように慌てて声を上げた。

「あー、もういい! わかったから、それ以上言うな!」

「フフ、賢明なご判断ですわ」ゴールデンキウイは不敵な笑みを浮かべた。

「チッ、相変わらず嫌な性格しやがって!」

「お褒めいただき光栄ですわ」

「褒めてねぇ!」

 誇り高いフルツがあっさりと提案を受け入れたことに、柴乃は驚きを隠せなかった。

どうやらフルツは、ゴールデンキウイに絶対に知られたくない弱みを握られているようだった。

柴乃は容赦のないゴールデンキウイに対して、少し警戒心を高めた。

ゴールデンキウイは静かに手を叩き、話をまとめた。

「これで、わたくしたちの意見はまとまりましたわ」

柴乃に目を向け、静かに尋ねた。

「……あとはグレープ様のご判断次第です。どうなさいますか?」

「……本当にいいのか? この作戦で……」

柴乃が控えめに問いかけると、ゴールデンキウイが笑顔で「はい」、マスカットが「うん!」と頷いた。

「フン、お前が気を溜め終わる前に、あたしが一人で倒してやるよ!」とフルツが不愛想に返した。

三人の力強い返答を受けた柴乃は、深く息を吸い込んだ。自身の胸中で決意を固めると、静かに、しかし力強く頷いた。

「みんな……頼む!」

その声には、仲間を信じる覚悟と感謝が込められていた。

 四人はそれぞれ配置についた。

先頭にフルツがふわりと浮かび、スーパージャシンパを見据えた。その後ろにマスカット、柴乃、ゴールデンキウイが横一列――左からマスカット、柴乃、ゴールデンキウイの順に並んだ。

 柴乃は左目の眼帯を外し、しばし手の中で握りしめたあと、決然と投げ捨てた。ドラゴンのフードを外し、紫色の瞳を剥き出しにした。彼女の決意が視線に宿っていた。

「では、作戦開始ですわ!」

ゴールデンキウイが鋭く宣言した瞬間、全員が同時に気のオーラをまとった。次第に気が燃え上がり、場の空気を震わせた。

 スーパージャシンパは気の抜けた様子で、眠そうな目をこすりながら柴乃たちを見下ろしていた。その姿には隙だらけの油断が見え、攻撃する気配は微塵も感じられなかった。

やがて、マスカットとゴールデンキウイの気のオーラが、柴乃のオーラと静かに溶け合い始めた。二人のオーラは少しずつ小さくなり、代わりに柴乃のオーラが炎のように燃え上がり、どんどん大きく膨れ上がっていった。

その変化を目にしたスーパージャシンパは、一瞬驚きで目を見開いたが、すぐに柴乃たちの意図に気づき、動き出した。突撃しながら口を開き、柴乃たちに向かって容赦なく強力なエネルギー波を放った。

エネルギー波が迫った瞬間、フルツが立ち塞がった。

フルツは鋭く手を振るい、迫るエネルギー波を弾き飛ばした。

弾き飛ばされたエネルギー波は、遠く離れた大地に着弾し、大爆発を起こすと、その衝撃波が数秒後にフルツたちもとまで届いた。

フルツは鋭い目つきで睨みつけ、「お前の相手はあたしだ!」と言い放ち、超スピードで突撃した。

スーパージャシンパは、ニヤリと笑みを浮かべ、フルツを迎え撃った。

フルツは閃光のごとく疾走し、顔面を狙って鋭いパンチを放った。

スーパージャシンパはわずかに身体を捻り、拳を紙一重で躱した。

フルツは間髪を入れずに追撃のパンチを繰り出すが、その一撃も軽く受け流された。さらに、こめかみを狙った鋭い蹴りも、見透かされたように低く身を沈めて回避された。フルツの攻撃は、次々と虚空を切り裂くだけだった。

フルツが蹴りを空振りした刹那、スーパージャシンパはそのわずかな隙を逃さなかった。鋭い動きで間合いを詰め、彼女の腹部に深々と拳を叩き込んだ。

「ぐっ……!」

フルツは激痛に顔を歪め、反射的に腹を押さえた。体がふらつき、攻撃の勢いを完全に失った。

その隙にスーパージャシンパは、次々とフルツに拳を叩き込み、最後に組んで手で頭部を激しく叩きつけた。

フルツは頭から地面に叩きつけられ、衝撃で大地が大きく陥没し、瓦礫が爆風のように舞い上がった。

スーパージャシンパは勝利を確信したかのように、不敵な笑みを浮かべながらゆっくりと視線を巡らせた。冷徹な目で柴乃たちを見据え、突き出した手のひらにエネルギーを集め始めた。

柴乃たちを吹き飛ばすほどのエネルギーが溜まると、スーパージャシンパの口元がわずかに歪み、挑発するかのような微笑を浮かべた。

その瞬間、大地が大きく揺れ、空を裂くような突風が吹き荒れた。

スーパージャシンパは突き出した手をゆっくり下げ、視線を動かした。その先――大地に穿たれた深い穴の中心には、傷だらけで息も絶え絶えのフルツが、なお立っていた。

フルツは怒りを滲ませた表情で、スーパージャシンパを見据えていた。穴から勢いよく飛び出し、空高く舞い上がると、手を掲げエネルギーを収束させた。次の瞬間、手を突き出し、上空からスーパージャシンパに向かって、連続エネルギー弾を放った。だが、すべて手で弾き飛ばされた。弾き飛ばされたエネルギー弾は、周辺に飛び散り、地面に着弾すると、爆発を起こして大地を激しく揺らした。気の受け渡しをしていた柴乃たちがふらつくほどの揺れだった。

柴乃たちは揺れる足元を踏みしめ、気の受け渡し続けた。三人ともフルツのことが気になっていたが、信じて自分たちの役割に集中した。

スーパージャシンパはニヤリと笑みを浮かべ、フルツを見据えると、人差し指をクイッと曲げて、「かかってこい」と挑発的な素振りを見せた。

フルツはその仕草に苛立ちを隠せず、拳を強く握りしめた。その手を振り払い、手足を大の字に広げてエネルギーを溜め始めた。次に両手を前に突き出し、溜めたエネルギーを手のひらに集中させた。次第に手のひらに膨大なエネルギーが収束し、バチバチと音を立てながらスパークを纏い始めた。とてつもない量の“気”がフルツの手のひらに集まっていた。

「お前にこれが受け止められるか!?」とフルツは挑発的に言い放った。

 スーパージャシンパは一切動じることなく、余裕の笑みを浮かべながら見据えていた。

「ふっ、まあ、無理だろうな!」

フルツが挑発した瞬間、スーパージャシンパは「ムッ!」とした表情を浮かべ、拳をグッと握りしめた。

フルツは微かに口角を上げ、最後に「……所詮お前は、臆病者だ!」と言い放った。

フルツの声がスーパージャシンパに届いた瞬間、突然ガラスの割れるような音が響いた。同時に、スーパージャシンパは足元をふらつかせ、片膝をついた。自分に何が起こったのかわからない様子で、目を丸くしていた。

フルツはその一瞬の隙を見逃さず、叫んだ。

「ビックバン・フラッシュ!」

突き出した両手から、強力な金色のエネルギー波が放たれた。その光は太陽をも凌ぐほど眩しく、地上を焼き払う彗星のように突き進んだ。大地を揺るがす轟音とともに、空を裂くような衝撃波が周囲に吹き荒れた。

 スーパージャシンパは避ける様子を見せず、片膝をついたまま鋭い目つきで睨みつけ、「ガルルルルル……!」と唸りながら正面から受け止めるようだった。着弾寸前に目を見開き、素早く両手を前に突き出した。

次の瞬間、大爆発が起こり、まるで地球全体が激しく揺れているようだった。轟音とともに衝撃波も広がり、周囲の瓦礫をすべて吹き飛ばした。

フルツは肩で大きく息をしながらゆっくりと呼吸を整えた。今の攻撃ですべての“気”を使い果たしていた。

「どうだ……クソヤロー!」と吐き捨て、頬を伝う汗を拭った。

 やがて爆煙が晴れると、大地に刻まれた巨大な溝が姿を現した。その溝を見るだけで、フルツの放った『ビックバン・フラッシュ』の凄まじい威力が伝わってきた。

フルツはしばらく溝の中を凝視し、そして目を見開いた。視線の先に、スーパージャシンパの姿があった。周りに透明のバリアが張られ、それでフルツの『ビックバン・フラッシュ』を防いだようだった。

「なっ……バ、バカな……! あたしの全力が……!」

フルツは目を見開き、硬直したまま息をのんだ。

 直後、透明のバリア全体に蜘蛛の巣のようなひびが広がり、まるで氷が一瞬で割れるような鋭い音が空間を切り裂いた。砕け散った破片は光の粒となり、消える間際に空中で淡い虹色の残像を描いた。虹色の残光の合間から、スーパージャシンパの不敵な笑みがゆっくりと浮かび上がった。

次の瞬間、スーパージャシンパの姿が一瞬でかき消え、残像すら残さない速度で空間がねじれるような衝撃波がフルツを襲った。気づけば、目の前に冷たい視線を向けるスーパージャシンパの姿があった。その移動の速さは、フルツが気を張り巡らせても捉えきれないほどだった。

 フルツは反射的に身を引いたが、歯を食いしばり、震える膝を押さえ込んでその場に踏みとどまった。目の前の敵を鋭く睨みつけながら、「何でもありかよ、バカヤロー!」と怒声を上げた。

 すると、フルツの声に反応するかのように、スーパージャシンパの体表面――顔から胸の辺りが、まるで窓ガラスが割れるような音を立てて砕け散った。

「ん……? なんだ!?」

フルツはすぐに状況を把握できず、スーパージャシンパもまた驚いたように目を見開いていた。

その一瞬の隙に、フルツはすかさず拳を突き出した。

 スーパージャシンパも一瞬、戸惑いを見せたが、すぐにフルツを睨みつけると、瞬時に身体を細かいピースに分裂させ、拳を躱した。

 フルツの拳は空を裂いただけで終わり、咄嗟に身構えたものの、無音で背後に現れたスーパージャシンパに気づかず、背中に強烈な蹴りを叩き込まれた。勢いよく吹き飛び、地面に激突したが、すぐに立ち上がった。しかし、ダメージが大きく、片膝をつき、やがて倒れた。立ち上がることすらできないほどダメージを負っていたが、わずかに体力が残っていたため、かろうじてゲームオーバーは免れた。

 スーパージャシンパは、フルツを完全に消し去ろうとしていた。地面にうつ伏せで倒れるフルツのそばに一瞬で移動すると、「フゥー、フゥー」と浅い呼吸を繰り返しながら怒りの形相で指を差した。指の先端にエネルギーが収束し始め、輝き出した。砕けた体表面もすでに再生し、その目にはフルツを仕留める決意が宿っていた。

 十分なエネルギーが集まり、スーパージャシンパが放とうとしたその瞬間、突然柴乃たちの立っていた場所が大爆発を起こした。

スーパージャシンパは思わず手を止め、目を見開きながらその場所を見た。

そこから白い気のオーラが天高く舞い上がり、まるで空そのものを裂くかのように広がった。その中心には、まるで神話から抜け出したかのような、純白に染まった柴乃が立っていた。髪とドラゴンの着ぐるみは純白に輝き、全身を纏うスパークが雷鳴のような音を立てていた。その瞳には白銀の光が宿り、まるで神々しい力そのものが具現化したかのようだった。

 マスカットとゴールデンキウイは、すべての気を柴乃に託すと、肩を大きく上下させながらその場に座り込んだ。その目には満足感と誇りが宿り、仲間への信頼を感じさせた。柴乃の姿を近くで目の当たりにすると、マスカットは笑顔を浮かべ、ゴールデンキウイは言葉を失い、目を潤ませながら見つめていた。

「ありがとう、二人とも……あとは、我に任せよ!」

柴乃はゆっくりと足を踏み出した。一歩進むたびに、スパークがバチバチと音を立て、気のオーラが空気を裂いた。

「あれが……伝説の……」とゴールデンキウイは呟いた。

「スノーホワイトだよ!」とマスカットが言った。

「スノー……ホワイト?」

「純白の姿がまるで白雪のように美しいから、ファンの間でそう呼ばれてるんだ!」

 ゴールデンキウイは、眩いばかりの柴乃の姿に息をのみ、目を輝かせた。

(すごいパワーだ! 気がどんどん溢れてくる。こんなのは初めてだ。これなら、あいつに勝てる!)

 柴乃の胸には、確かな自信が満ち溢れていた。

そのとき、イリスから一通のメッセージが届いた。

『シェンは無事に解放しました。あとはジャシンパを倒すだけです。信じています』

 そのメッセージに目を通した柴乃は、空を見上げた。宙に浮かんでいたカラフルな球体はいつの間にか音もなく消え去り、空には静寂が戻り始めた。

荒れ狂っていた嵐は遠くの地平線へと退き、大地の裂け目もゆっくりと閉じていく。各地で暴れ回っていたボスキャラたちも思わず手を止め、息をのみながら柴乃の姿を凝視していた。

柴乃は軽く微笑んだあと、スーパージャシンパを鋭く見据えた。

 スーパージャシンパは、柴乃の姿を見て目を見開き、まるで怯えたように数歩後退した。変身前に味わった屈辱的な敗北が鮮明に蘇り、喉がひとりでに渇き、手足が震えていた。その瞳は明らかに恐怖に染まっていた。

 柴乃は鋭い眼差しをスーパージャシンパに突き刺し、次の瞬間、閃光のように姿を消した。

 スーパージャシンパは柴乃を完全に見失い、慌てて視線を動かしながら周囲を見渡した。数秒後、柴乃を見つけると、目を見開いた。

 柴乃はフルツを抱きかかえ、マスカットとゴールデンキウイのそばに立っていた。

 その光景を目にしたスーパージャシンパは、素早く自分の足元に視線を落とした。さっきまでそこにいたはずのフルツの姿はなく、ただ無機質な地面が見えるだけだった。スーパージャシンパは冷や汗を流しなら、驚きを隠せない様子でゆっくりと柴乃に視線を戻した。

 柴乃は静かに膝をつき、フルツをそっと地面に寝かせた。その顔を見下ろしながら、やさしく微笑んだ。

「ありがとう、フルツ。汝のおかげで、なんとかなりそうだ!」

「フン、勘違いするな。別にお前のためにやったわけじゃねぇ!」フルツは顔を背けて返した。

「ハハ、そうだったな」

「チッ……こんな戦い、さっさと終わらせてこい!」

「ああ!」

 柴乃は立ち上がって向きを変えると、スーパージャシンパを見据え、ゆっくりと歩き出した。

 スーパージャシンパは、迫りくる柴乃に対して恐怖の色を浮かべ、一歩、二歩と後ずさりした。だが、途中で足を止めると、肩を震わせながら荒い息を整え、恐怖を振り払うように、「ガウァァァァァ!」と耳をつんざくような雄叫びを上げた。体中から異様な黒いオーラが噴き出し、周囲の空気が歪み始めた。

「我はグレープでも柴乃でもない。我はキサマを倒す者だ!」

 その言葉を放つと同時に、柴乃は一瞬でスーパージャシンパとの距離を詰めた。その動きは疾風のようで、柴乃の拳が目にも留まらぬ速さで、スーパージャシンパの胸に叩き込まれた。数発の強烈な殴打が彼の胸をへこませた。ぐらついた隙を突き、柴乃は一瞬で背後に回り込む。彼が振り向く間もなく、後頭部に二度の強烈な膝蹴りを叩き込み、最後に後方回転しながら顔面に蹴りを繰り出した。

スーパージャシンパは後方に吹き飛ばされながらも、かろうじて足で着地し、体勢を整えた。

柴乃は静かに左手を掲げた。その瞬間、手のひらの上に白い光の玉がぽつりと生まれた。玉は徐々に輝きを増し、虹のように七色の光を放ち始めた。ふわりと空気を揺らしながら柴乃の手に落ちると、掌からまばゆい白い光が溢れ出し、七色のオーラが左手全体をやさしく包み込んだ。

 スーパージャシンパは柴乃の超パワーに一瞬怯んだが、恐怖心を払拭するように胸を張り、口を大きく開け、強力なエネルギー波を放った。

 エネルギー波が柴乃に直撃した。だが、柴乃は微動だにせず、まったくの無傷だった。膨大な量の気のオーラを纏っているため、それが防いでくれたのだ。今の状態の柴乃には、大抵の攻撃が効かない。

 スーパージャシンパは、一瞬絶望の表情を浮かべたが、最後の悪あがきをするかのように、柴乃に突撃した。

柴乃は迫るスーパージャシンパに向けて、光の玉を投げつけた。光の玉はスーパージャシンパの胸に直撃し、そのまま瞬く間に体内へと吸い込まれていった。そのまま何も起こらず、スーパージャシンパが拳を放ったが、柴乃はそれを指一本で簡単に受け止めた。

一瞬の静寂のあと、スーパージャシンパの背に、乾いた音とともに亀裂が走る。次の瞬間、白い閃光が全身を貫き、爆発が起こった。そこから黒いオーラが蒸発するように空へと散り、彼の身体は細かな塵となって崩れ落ちた。残されたのは、宙を舞う無数の光の粒。それはまるで、この地に再び平穏が訪れたことを告げる祈りのようだった。その瞬間を境に、空気を満たしていた暴力的な気配が完全に消え去り、世界中に静寂が訪れた。

シェンも完全に復活を果たし、滅びかけていた街には人々の笑顔が戻ると、『龍球オメガ』の世界は再び生命の息吹で満たされた。すべてを見守っていたプレイヤーやファンたちは、歓声と拍手でその奇跡の瞬間を祝福した。

柴乃は気を使い果たし、もとの姿に戻った。すぐにフルツたちのもとへ向かうと、互いの健闘を称賛しつつ、一緒に喜び合った。体力も気力も限界のはずなのに、柴乃、マスカット、ゴールデンキウイの三人は、勝利の喜びに背中を押されるように笑顔で飛び跳ねた。フルツも上体を起こし、微かに笑顔を浮かべていた。

そこへ、イリスが柔らかな光に包まれて空から舞い降りた。その姿は、まるで勝利の女神のようだった。

「お疲れ様でした、グレープ様。素晴らしい戦いでしたね」とイリスは声をかけた。

「ああ、みんなのおかげだ!」と柴乃は返した。

イリスは三人の方へ向き直ると、手を前で組み、心を込めて感謝を伝えた。

「みなさん……グレープ様を支えてくださり、本当にありがとうございました」

「こちらこそ、一緒に戦えて光栄でしたわ」とゴールデンキウイが返した。

「代ってくれてありがと。イリスちゃん!」とマスカットも笑顔で返した。

「別に、こいつのためにやったわけじゃねぇ」とフルツは言いつつ、その瞳の奥には、わずかな照れくささが隠れていた。

 イリスはそれぞれの反応にやさしく微笑んでいたが、思い出したように口を開いた。

「そういえば、シェンもみなさんに直接お礼を伝えたいとのことですが、どうでしょうか?」

「シェン? 誰だ、そいつは?」とフルツが聞き返した。

「このゲームの全システムを司っている超AI……つまり、神様です」

「神様……だと?」

「神様が直接お礼って、なんかすごいね!」マスカットが軽い口調で言った。

「ウフフ、そうですわね」ゴールデンキウイも同意した。

「フンッ、超AIだろうが神だろうが、そんなものに興味はない!」とフルツは冷たく言い放った。

「そう言わずに、シェンの感謝の気持ちを受け取っていただけないでしょうか?」とイリスは柔らかく促した。

「礼があるなら、そっちから来るのが筋だろ?」

(フルツの意見も一理あるな)

柴乃は心の中でそう思った。

「ごもっともな意見です。ただ、シェンは一応、この世界の神様なので、簡単に下界に降りることができないのです」とイリスは丁寧に説明した。

「いい身分だな……」とフルツは皮肉を込めて言った。たとえ神が相手でも、決して臆さなかった。

 現時点でフルツは神殿に行く気がまったくなく、マスカットとゴールデンキウイはどちらでもよいという様子だった。柴乃も正直どちらでもよいと思っていたが、イリスの一言でこの状況が一変した。

イリスは深くため息をつき、「……神殿に行けば、このゲームでもっとも貴重な“レアアイテム”をもらえるのに……残念です」と、わざとらしく肩を落とした。

 その言葉を聞いた瞬間、四人の目の色が一斉に変わった。

「そ、そこまで言うなら、行ってやってもいいな」と柴乃が言った。

「そうですわね。行くだけなら、そこまで疲れませんし……」とゴールデンキウイもすかさず賛同した。

「このあと予定もないし、行ってみるのも悪くないかも!」とマスカットも軽い口調で言った。

 三人は一斉にフルツに視線を向けた。三人とも「行くでしょ?」という無言のプレッシャーを感じさせるような視線を送った。

フルツはため息混じりに、わざとらしく渋い表情を作って言った。

「ま、まあ、三人が行くなら仕方ねぇ。付き合ってやるよ」

やむなく受け入れたような態度だったが、フルツの口元が緩んだ瞬間を誰もが気づいた。フルツが本当は楽しみにしていることは、一目瞭然だった。

「決まりですね。では、参りましょう!」とイリスは声をかけ、柴乃に気を分け与えた。

五人は輪になって手を繋ぐと、次の瞬間、柴乃の瞬間移動でその場から一斉に消え去った。

眩い光に包まれたかと思えば、一行は神秘的な半球状の空間へとふわりと降り立っていた。その床は光沢のある白い大理石でできており、足元からは薄い霧が立ち上っていた。奥には、巨大で威厳あるドラゴンの姿をしたシェンが鎮座していた。輝く鱗と鋭い目が、圧倒的な存在感を放っていた。

「よく来た」とシェンは威厳のある低い声で言った。

 その後、それぞれがシェンから感謝の言葉をもらい、レアアイテムを授けられた。さらに、何でも願いを一つ叶えてもらえることになった。

本来、願い事は世界各地に散らばる輝く玉を七つ集めなければならない。だが、今回はシェンが特別に叶えてくれるという。

そのときのシェンは、威厳を保ちながらも、どこか疲れ切った様子が伺えた。鱗に微かな曇りが見え、瞳の奥には深い悲しみと後悔の色が宿っていた。それはまるで、自らの力で巻き起こしてしまった災厄を悔やむようだった。

全員で話し合った結果、柴乃が代表して願い事を叶えてもらえることになった。

願いを決めるとき、柴乃はしばらく黙り込み、静かに目を閉じた。息をついて目を開け、仲間たちの顔を一人ひとり見渡したあと、ゆっくりと口を開いた。

「……傷ついた世界と、人々の心をもとに戻してくれ!」

その言葉には、深い決意と覚悟が込められていた。

仲間の四人も満足げな表情を浮かべていた。

「承知した!」とシェンは低く答えた。その瞳には、願いを必ず叶えようとする強い決意が宿っていた。

柴乃たちは神殿を後にし、それぞれの目的地へと静かに散っていった。普段は淡々としているフルツも、去り際に「ま、またな」と呟き、小さな微笑みを見せた。仲間たちの背中を見送りながら、柴乃は心の中で(また会おう)とそっと誓った。

 準決勝の途中だった『世界一武術大会』は延期になった。先に破壊された世界を修復しなければならない。続きがいつ開催されるかわからないが、おそらく柴乃は参加できないだろう。だが、柴乃はあまり気にしていなかった。むしろ、諸事情により棄権となった場合、フルツが激怒しそうだった。

 柴乃とイリスは、ログアウトして現実世界に戻った。

 柴乃は布団の中でゆっくりと上体を起こし、耳に装着されたイヤホン型の量子デバイスを外した。疲れた体を伸ばすように、深く息を吸いながら背伸びをした。その瞬間、現実の部屋の空気が肌に触れ、ゲームの世界から戻ってきたことを実感した。

その後、夕食、シャワー、歯磨きなどを済ませ、パジャマに着替えると、気がつけば午後十一時を過ぎていた。いつもなら、残り一時間だろうと寝る直前までゲームをしているが、今回は疲れが溜まっていたため、柴乃は布団が敷かれた畳部屋へ向かった。

大きな欠伸をしながら、眠い目を擦り、トボトボと歩く。布団の前に立つと、そのまま倒れ込むように寝転んだ。柴乃が布団に潜り込むと、イリスがやさしく掛け布団を整えた。

「今日も大活躍でしたね、柴乃ちゃん」

イリスは微笑みながらやさしく声をかけ、静かにリビングへと向かった。

「さてと……それじゃあ、騒動を引き起こした元凶を探しますか!」

イリスは腕まくりをして気合を入れると、目を光らせた。ネット世界のデータが次々と目の前に映し出される中、イリスの顔には決意が宿っていた。

「どんな手を使ってでも……必ず見つけ出す!」

その声には、不敵な自信と隠しきれない緊張感が混ざっていた。


 その頃、廃墟と化したネイチャーラバーズの暗く湿った空間では、緑色の培養液で満たされた巨大な容器が薄暗い部屋の中心で不気味に発光していた。容器の中から漏れ出すボコボコという低い音が、静寂を破るかのように響き渡り、冷たい空気に妙な緊張感を与えていた。容器の微かな光と、そこに繋がれたデスクトップパソコンのモニターの光が、薄暗い部屋を不規則に照らし出していた。

部屋の中には、五つの巨大な容器が整然と並び、その中では無数の微小な細胞が蠢いていた。それらは少しずつ輪郭を帯び、まるで新たな生命が胎動しているかのようだった。

モニターには、それらの成長記録が無機質な数字とグラフで無言のように刻まれていた。

その中の一つには、コンピューターウイルス『ルシファー』が、異様な存在感を放ちながら映し出されていた。データの海を彷徨いながら、無数の情報の断片を鋭い牙のように見えるプログラムで引き裂き、貪るように食らっていた。その姿は、まるで獲物を狩る捕食者そのもので、画面越しにも冷たい悪意が滲み出ていた。

そのとき、部屋の片隅に繋がれたネットワークから、新たな存在が姿を現した。それは、大量のデータを抱え込んだミニジャシンパだった。漂うようにゆっくりとルシファーの前に近づき、ヘラヘラと笑いながら、抱えていたデータの塊を差し出した。

ルシファーは、ミニジャシンパが『龍球オメガ』から持ち帰ったデータの塊に鋭い目を光らせた。そして、飢えた獣のようにデータへと飛びかかり、一瞬のうちにその膨大な情報を解体し、吸収していった。ミニジャシンパは抵抗することもなく静かに飲み込まれ、最後には、その存在さえデータの海に溶けるように、跡形もなく消え去った。すべてのデータを取り込んだルシファーの赤い瞳が、邪悪な輝きを放ちながら、次なる獲物を冷酷に狙っていた。



読んでいただき、ありがとうございます。

次回もお楽しみに。

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