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魂送の天②

心臓の速く大きな鼓動音が天の頭の中を完全に支配し、それ以外の音は一切聞こえなかった。天は驚きで身をすくめ、体を震わせながら恐る恐る神楽を見据えた。神楽と視線が交わった瞬間、天はすぐに目を逸らした。胸を張って佇んでいたましろんも、肩をわずかに震わせた。

 こ、この人、たしか桜ちゃんの友達だよね……? わたしに話があるって、一体なんだろう……? まさか、秘密がバレた!?

 天は内心焦りを募らせ、戸惑いが表情に漏れた。

その様子を見た神楽は深く息をつき、表情を和らげた。

「いきなりごめんね。驚かせちゃったわね」

一呼吸置き、名乗った。

「わたし、呉橋神楽。神学や宗教学を専攻してるただの一般生徒よ」

ましろんは反射的に心の中でツッコんだ。

(いや、どう見てもただの一般生徒じゃニャいニャ!)

しかし、その言葉を飲み込んだ。

一方、天はまるで時間が止まったかのように体を硬直させ、神楽を見据えていた。頭の中では、様々な憶測が忙しく飛び交っていた。

今の感じ……多分、秘密には気づいてない、よね……?

天は少し安堵の息をついたが、すぐにハッとした。

じゃ、じゃあ、わたしに一体何の用……? 本当は秘密に気づいてるけど、一度安心させてから一気に谷底まで突き落とすつもりだったりして……! ま、まだ油断しちゃダメだ……!

 天はますます警戒心を強めた。

「は、はニャしって……ニャ、ニャにかニャ?」と、ましろんが怯えたように尋ねた。

 静寂が訪れ、緊張感が辺りを包み込む。冷たい風が二人の髪を揺らした。

神楽は鋭い目つきでましろんを見つめ、静かに言った。

「……あなた、西奏音と親しいみたいね?」

「ニャ……?」ましろんは目を丸くした。

「彼は今、調子が悪くてピアノが弾けないみたいなの。それが原因で、少し困ったことが起きているのよ」

神楽は小さく息をつき、目を伏せて続けた。

「……彼の不調が治れば解決するんだけど、わたし一人じゃ難しくて……」

一呼吸置き、天を見つめてはっきりと言った。

「だから、あなたに協力してほしいの!」

「ニャ……!?」ましろんは思わず声を上げ、天も目を見開いた。

「突然のことだから驚くのも無理ないわ。でも、お願い……」

神楽は真剣な表情で頭を下げた。

 天は戸惑いながら、何度か深呼吸した。やがて、落ち着きを取り戻したところで、ましろんがゆっくりと口を開いた。

「ニャ、ニャんで、ましろんたちに協力を求めるんニャ?」

 神楽は静かに顔を上げ、「直感!」と即答した。だが、すぐに「ん? ましろん……?」と眉をひそめた。

 ましろんの額には冷や汗が伝い、天もそわそわと目を逸らした。

 神楽はしばらくましろんを見つめていたが、ふと隣の虚空を一瞥した。まるで誰かに呼ばれたかのように。一瞬顔をしかめ、すぐに真剣な表情に戻り、「――っていうのは、半分冗談で……西奏音の不調を治すには、あなたの力が必要なの」と言い直した。

天はぎゅっと拳を握りしめた。

ど、どうしよう……。うかつに関わったら、わたしたちの秘密が……。

心臓が早鐘のように鳴り響き、背中を冷たい汗が一筋伝った。

「……ま、ましろんたちじゃなくても、もっと適任ニャ人がいるんじゃニャい?」

ましろんはできるだけ冷静を装い、抵抗の言葉を絞り出した。

しかし、神楽は首を横に振る。

「いいえ。あなたじゃなきゃ、ダメなの」

その言葉に、天はギクリとした。

ど、どうしてそこまで……!? まさか、本当に秘密がバレて……!?

天は必死に神楽の表情を探った。だだ、そこにあるのはただの真剣な眼差し。敵意も、疑いも、どこにもなかった。

「……ましろんたちに、できることニャんて……」ましろんは気まず同に視線を逸らし、消え入りそうな声で呟いた。

「あるわ」神楽はきっぱりと言った。

 天とましろんは、思わず目を丸くして神楽を見つめた。

「彼の心は今、あなたの音楽に支えられているの……」神楽は眉をひそめ、静かに言った。そして天を見つめ、「あなた……“シエル”なんでしょ?」と冷静に問いかけた。

「ニャ!? そ、それは……!」

ましろんは息をのみ、言葉に詰まった。

「さっきのあなたたちの会話、全部聞いてたの」

神楽は淡々と告げた。

天はすぐに否定できず、不安げな表情を浮かべた。

「あなたがいれば、きっと彼を助けることができると思う。心配しないで。誰にも言わないから」

 神楽ははっきりと宣言し、天の目をまっすぐに見据えた。

 天は心の中で、そっと安堵の息を漏らした。

 よ、よかった……。わたしと桜ちゃんの関係に気づいたわけじゃないんだ。でも、リスクが高いことは変わらないよね……。

「もちろん、無理にとは言わないわ。でも……わたしはあなたを頼りたいの」神楽は頭を下げた。

 天とましろんは顔を寄せ合い、声を潜めて話し合った。

「きょ、協力はしてあげたいけど……」と天が囁くと、「秘密がバレるかもしれニャいニャ……」とましろんが返した。

「で、でも……本当に困ってるみたいだよ」

「そうかもしれニャいけど、ましろんたちにはどうにもできニャいニャ……」

 ましろんが冷静に判断し、天もその考えに納得しかけた――そのとき、不意に桜のやさしい声が頭の中に響いた。

『大丈夫だよ、天。やりたいようにやりな』

 桜の声が響いた瞬間、天の胸にじんわりと温かさが広がり、不安と緊張が和らいだ。そして、何度も自分に問いかけた。

 秘密を守ること――それが最優先。でも……それでも……。

覚悟を決めた天は、ましろんと視線を交わして深く頷き合うと、神楽をまっすぐに見据えた。

「……わ、わかりました。協力……します」天は意を決したように小さく呟いた。

 神楽はパッと顔を上げた。

「ありがとう! 助かるわ!」

 神楽は天に感謝を伝えると、ふと隣の虚空を見つめ、安堵の色を浮かべて頷いた。再び天に視線を戻すと、「改めて、わたしは呉橋神楽。神楽でいいわ」と名乗った。

「そ、天……です」天は目を伏せ、小さな声で名乗った。

「天と……ましろんね。よろしく!」神楽は二人を見回しながら微笑んだ。

 こうして、天は神楽とともに行動することとなった。


 迷わず歩を進める神楽の後ろを、天は静かについて行った。

噴水広場――中央には円形の白い噴水が堂々と佇み、そこから四方へ道が延びていた。その広場に出た瞬間、神楽が急に立ち止まり、腕を横に伸ばして天を制した。

神楽の鋭い視線の先に、西奏音の姿があった。

 奏音は噴水前のベンチに腰を下ろし、イヤホンをつけて音楽に浸っていた。目を閉じ、リズムに合わせて微かに肩を揺らしている。

 噴水広場には奏音のほかにも、多くの生徒たちが行き交っていた。ベンチで楽しげに語らう少女、咲き誇る花々を眺める少年、噴水の縁に腰掛け、物思いにふける少年――そんな光景が広がっていた。

 天と神楽は木陰に身を潜め、少し離れた場所から奏音を見据えた。

「最初に言っておくけど……天ニャンとあの人、ほとんど話したことニャいニャ。だから、力にニャれるかわからニャいニャ……」とましろんは小声で言った。

「大丈夫よ。彼はあなたの大ファンなんだから。その証拠に……ほら! 今もあなたの歌を聴いているわよ」神楽は自信たっぷりに言った。

「まだニャにを聴いてるか、わからニャいニャ……」

「いや、十中八九あなたの新曲だから」

「ニャ!? 神楽ニャン、もう新曲を聴いたのかニャ!?」

神楽はきょとんとした顔を浮かべ、ましろんを見つめた。

「あなたたち……もしかして、気づいてないの?」

「ニャ……?」天とましろんは首を傾げた。

 神楽は少し呆れたようにため息をついた。

「今朝アップした新曲……今、すごいことになってるわよ」

「ニャ……!?」

ましろんが驚きの声を漏らしたその瞬間、イリスがすかさず音楽配信サイトのホログラムを目の前に浮かび上がらせた。

ホログラムに目を向けた天とましろんは、目を見開いて絶句した。

午前七時にアップロードされた『白雪×シークレット』は、すでに三百万回を超える再生数を記録し、コメントやメッセージが殺到してネット上は大盛り上がりだった。

「ニャ……ニャンだ、これはぁぁぁぁ!」

ましろんが思わず叫び声を上げると、天は咄嗟に手を伸ばして口を塞ぎ、神楽も指を口元に当て、「しーっ!」と注意した。

「ご、ごめんニャさい……」反省したましろんの声が、天の指の間から漏れた。

 三人が広場に視線を向けると、数人の生徒たちから驚きの目を向けられていた。彼らに対しては愛想笑いでやり過ごし、すぐに奏音へ視線を戻した。

奏音は一切変わらない様子で音楽に集中していた。ましろんの声は彼に届かなかったようで、天たちはホッと息をついた。宙に浮いていたホログラムも音もなく消えた。

 再び奏音の観察を続けていると、天たちの正面奥の道から〈フリーデン〉のナンバーエージェント――ノインこと長月九音がやってきた。

長月は噴水広場のベンチに座る奏音に気づくと、彼のもとへ歩み寄り、隣に腰を下ろした。

 気配を感じ取った奏音は目を開け、隣に目を向けた。長月と目が合うと、すぐにイヤホンを外した。

「おはようございます、西さん」長月は微笑みかけた。

「長月……何か用か?」奏音は素っ気なく返した。

「何を聴いていらっしゃるのですか?」

「……これだ」

奏音はわずかに眉をひそめ、イヤホンのハウジングに触れた。澄んだ音質で『白雪×シークレット』が流れ出した。神楽の予想は的中していた。

「やっぱり! 西さんのコメントを見て、わたくしも聴きましたの。自然と元気が出るいい曲ですよね」

「……ああ」

 奏音と長月の会話を聞いたましろんは、恥ずかしそうに後頭部を掻き、天は頬をわずかに赤らめた。

「ね、言った通りでしょ?」神楽は得意げに微笑んだ。

 天は静かに頷いた。

「でも、ましろんたちは具体的にニャにをすればいいニャ?」とましろんが冷静に問いかけた。

「そうね……」神楽は顎に手を添えて考え込んだ。「どうやって、彼の不調を治そうかしら……」と独り言のように呟いた。

「そもそも、不調の原因はニャにかわかっているニャ? もしジストニアだったら、ましろんたちだけじゃ、治せないニャ」

「ジストニア?」

「ジストニアっていうのは、特定の動作を繰り返すことで、その動作をするときだけ筋肉が異常に収縮したり、緊張したりする病気ニャ。つまり、ピアニストがピアノを弾けニャくニャることがあるニャ。詳しい原因はわかってニャいけど、精神的ニャストレスが関与しているって言われてるニャ」

「へぇー、そんな病気があるのね……」神楽は感心したように頷いた。「もしかしたら、それかもしれないわね」

「それニャら、ましろんたちじゃなくて、専門のお医者さんに診てもらうのが一番ニャ!」

 神楽は表情を引きしめ、真剣に考え込んだ。ふと視線を隣の虚空へ向け、「どう思う?」と小さく呟いた。明らかに天たちへの問いかけではなかった。その後も「うん……」「そうね……」と呟きながら頷き、まるで見えない誰かと会話しているようだった。

 その光景を、天とましろんは黙って見つめていた。

 ひ、独り言……? いや、そんな風には見えない……。はっ! もしかして、わたしたちと同じで、頭の中で会話をしてる? もしそうなら、仲良くなれるかも……。って、そんなはずないよね……。

 天が一喜一憂しながら結論付けると、ましろんも彼女を見つめ、賛同するように頷いた。

 やがて、神楽は静かに言った。

「わかった。まずはわたしたちだけでやってみるわ。でも、もしそれでうまくいかなかったら、専門医に相談しましょう」

少しの沈黙のあと、さらに言い添えた。

「気にすることないわ。これもわたしの仕事だから」

 神楽の独り言が一段落したところで、ましろんは慎重に尋ねた。

「神楽ニャン……さっきから誰とはニャしているニャ?」

「あっ、そっか……あなたたちには見えてないのね」

「ニャ……?」ましろんは首を傾げた。

神楽は腕を組み、考え込んだ。

「偶然とはいえ、わたしもあなたの秘密を知ってしまったし……」と呟くと、隣の虚空を一瞥した。

「そうね……」と納得したように頷き、懐に手を入れ、そこから霊符を一枚取り出した。

「そのままじっとしてて……」と神楽は言い、天に向かってゆっくりと手を伸ばした。

 天は思わず目を閉じた。霊符のざらりとした感触が、額にじんわりと広がった。

「目を開けて」

神楽に促され、天は恐る恐る目を開いた。最初に見えたのは神楽だった。天は瞬きを繰り返したが、神楽に変わった様子はなかった。次に周囲を見回したが、特に変化はない。不思議に思いながら視線を戻したその瞬間、天は神楽の背後に立つ半透明の女性の姿を捉えた。

「ニャッ!? い、いつの間に!?」ましろんは思わず声を上げた。

彼女は天と目が合うと、手を前で組み、軽くお辞儀をした。

神楽は一歩下がり、彼女の隣に並ぶと、紹介した。

「この人は西奏にしかなでさん。西奏音の母親で、今回の依頼者よ」

「母親……!?」

ましろんは神楽と奏の間で視線を忙しなく行き来させた。奏を見据え、「気づくのが遅れてごめんニャ。ましろんは、ましろん。そしてこの子が、天ニャン!」と名乗った。天もそれに続き、軽く一礼した。

「奏音の母の奏です。今回はわたしのわがままに付き合わせてしまって、ごめんなさい」

奏は申し訳なさそうに頭を下げた。

「謝ることニャいニャ! ましろんたちは、自分の意志で決めたニャ!」ましろんは明るく返した。

 奏は静かに顔を上げ、「ありがとうございます」と心から言った。

 和やかな雰囲気が辺りを包み込んでいたが、神楽の一言で空気が一変した。

「案外すんなりと受け入れるのね。もしかして、幽霊とか信じるタイプ?」と神楽は尋ねた。

「ん? どういう意味ニャ……?」

ましろんは首を傾げ、質問の意図を測るように問い返した。

「だって、本物の幽霊を目の前にしても、全然驚かないじゃない」

「ニャ……?」

ましろんはすぐに飲み込めず、腕を組んで考え込んだ。ふと奏が視界に入ったその瞬間、ハッと目を見開き、まるで時間が止まったかのように固まった。

「ま、まさか……!」天は思わず声を漏らし、驚愕の表情で奏を見据えた。

「気づいてなかったの? 奏さん、幽霊よ」

 神楽が軽い口調で告げると、奏は少し気まずそうに笑った。

 天は内心驚いていたが、それは奏が霊体で存在しているからではなかった。幽霊が見えている自分に驚いていた。

「あ、あれ!? わ、わたし、霊感はないはずなのに……どうして……?」

天は戸惑いを隠せず、目を泳がせた。

「あ、それは、さっき貼った霊符の効果よ」と神楽が冷静に言った。

「え……?」

「あの霊符が効いている間は、幽霊が見えるのよ」

 天は慌てて額に手をやったが、そこに霊符はなく、ただ前髪を掻き分けるだけだった。

「そういえば、まだちゃんと伝えてなかったわね。わたしの仕事……」

神楽は一拍置いて天を見つめると、はっきりと告げた。

「わたし、魂送師こんそうしなの」

「こん……そうし……?」

「簡単に説明すると、現世で迷っている幽霊たちを、黄泉の国に送るのが魂送師の仕事……。幽霊たちはみんな、心残りがあると現世に迷い込むから、それを解消してあげるのよ」

「……そんな仕事もあるんだ」

 天が感心したように呟くと、神楽は続けて問いかけた。

「やっぱり驚かないのね。天はこういうの、好きなの?」

「えっ、あっ……!」天は慌ててましろんを構えた。

「天ニャンは反応がちょっと薄いだけで、内心すっごく驚いてるニャ!」とましろんが補足した。

 神楽は腑に落ちない表情で「ふーん……そう……」と呟いた。

「そんニャことより、その力、ましろんたちに教えてもいいものニャ?」

「うーん……あまり良いことじゃないけど……不思議と、あなたたちには教えてもいいと思ったの。どうしてかしら……?」

「ニャハハ……ニャンでかニャ……」ましろんは愛想笑いで返した。

 少し気まずい空気が流れる中、ましろんは視線を動かし、噴水広場に目を向けた。そして、誰もいないベンチを捉えると、目を見開いた。

「ニャ!? しまった! 西かニャとくんがいニャくニャってるニャ!」

 ましろんが叫ぶと、神楽と奏も素早く目を向けた。

 ベンチに座って話していたはずの奏音と長月の姿はすでになく、どこへ向かったのかもわからなかった。

「あら、どこへ行ったのかしら?」と奏は頬に手を添えて言った。

「ど、どうするんニャ!」

 ましろんが戸惑いながら問いかけると、神楽は「大丈夫よ」と短く冷静に答え、空を見上げた。

「ニャ……?」ましろんもそれに続き、視線を上げた。

「戻ってきた」

神楽がそう呟くと、視線の先に、紅白の鳥が羽ばたいていた。

天は目を凝らした。

赤い袖なし羽織をまとった白鳩が、一直線に神楽のもとへ飛来した。神楽が腕を掲げて待つと、白鳩は華麗にとまった。

「おかえり、ひみこ」

神楽は柔らかく声をかけた。一呼吸置き、「西奏音はどこ?」と尋ねると、白鳩は翼を大きく広げ、二時の方角を指し示した。まるで言葉を完全に理解しているようだった。

「あっちね。ありがとう」神楽は白鳩の頭をやさしく撫でた。

 白鳩は嬉しそうに小さく鳴き、翼を広げると、空へ舞い上がり、羽ばたいていった。

天たちは、白鳩の姿が見えなくなるまで見送った。

白鳩の姿が見えなくなると、神楽は天に目を向け、口を開いた。

「それじゃあ、行きましょう」

そう言って神楽が踏み出した先は、白鳩が指し示した方角だった。

 天、ましろん、奏は互いに顔を見合わせたあと、すぐに神楽の後を追った。

 奏は霊体のため、地面からわずかに浮いたまま進んだ。動く速さは生前と同じで、どうやら走ることもできるようだった。

「天さん、ましろんさん……急なお願いを聞いてくださって、ありがとうございます」と奏は改めて頭を下げた。

「礼を言うのはまだ早いニャ!」ましろんは即答した。

「そうですね……ごめんなさい」奏は苦笑いを浮かべた。

 沈黙が流れ、わずかに高まった緊張感を、天は敏感に感じ取った。天がこの空気を変える言葉を考えていると、奏の表情がわずかに陰り、ゆっくりと口を開いた。

「……奏音が体調を崩したのは、わたしのせいなんです」

「ニャ……?」

 天とましろんは、奏の話に耳を傾けた。



読んでいただき、ありがとうございます。

次回もお楽しみに。

感想、お待ちしています。

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