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柴乃の秘密④

 ヤギの頭に、漆黒の螺旋模様が刻まれた二本の角がそびえ立つ。三メートルを優に超える巨体に、鋼のような筋骨が浮き彫りになっていた。目は暗闇の中でも不気味な赤い光を放ち、その全身から圧倒的な威圧感が漂っていた。

間違いない──こいつが……!

ついに姿を現したルシファーを目にして、柴乃は武者震いした。

「ルシファー……」

イリスは静かに呟き、鋭い目つきで睨んだ。拳は強く握られ、唇を噛む。まるで因縁でもあるかのような雰囲気だった。

 ルシファーは胸を張り、柴乃たちを見下すように視線を下げた。

「ようやく姿を拝めたな」とナブが呟いた。

「すごい威圧感……」スイが息をのんだ。

「恐れるに足らん。ただの虚勢だ!」と柴乃は断言した。

「その通りです」イリスも頷いた。

 対峙する両者の間に緊張が走る。まるで街全体が機能を停止したかのような静寂が訪れた。

柴乃たちは警戒心をむき出しに、決してルシファーから目を離さない。

先に仕掛けたのはルシファーだった。

 ルシファーが右手を高く掲げた瞬間、空間が歪み、雷鳴のような轟音が響き渡った。頭上に出現した巨大な黒い魔法陣から、まるで瘴気が漏れ出すような不気味な光が放たれた。次の瞬間、右手が振り下ろされると同時に、無数の黒いエネルギー弾が雨のように降り注いだ。

 柴乃たちは四方に散開し、街中を飛び回りながらルシファーの攻撃を回避した。

直径二十センチを超える黒いエネルギー弾が地面に激突するたび、小規模な爆発を起こし、街を無慈悲に破壊していった。

スイが黒いエネルギー弾を避けると、人気カフェの外壁に直撃し、壁が砕けた。

「あっ、行きつけのカフェが……!」

ナブがエネルギー弾を飛び避けると、商業施設の二階にあるジムの窓を突き破った。

「おれの通ってるジムがぁぁぁぁ!」ナブは叫び、頭を抱えた。

「街をめちゃくちゃにしやがって、許さん!」柴乃は静かに怒った。

「ヴィオレ様……同意見です」とイリスが賛同し、スイたちも頷いた。

 柴乃は燃え上がるような怒りを胸に感じた。だが、その視線は冷静だった。攻撃を避けながら、次の一手を考えた。

 奴の情報がない以上、迂闊に近づくのは危険だ。まずは、遠距離から様子を見る。

 柴乃はイリス、スイと視線を交わし互いに頷き合った。次の瞬間、三人はスピードを一気に増し、エネルギー弾を縫うように回避しながら、ルシファーを取り囲んだ。

 柴乃は正面で杖を構え、大量の星形エネルギー弾――『マッセ・ド・エトワール』を放ち、スイは背後から無数の光の矢――『ブレイブアロー』を射る。イリスは三時の方向から、飛ぶ斬撃を繰り出した。

 三方向からの攻撃はルシファーに命中し、大爆発を起こした。黒煙とともに激しい爆風が周囲に広がり、耳をつんざく轟音が響いた。

やがて、不気味な静寂が街を覆った。ルシファーの攻撃も止み、漏れる炎の揺らめきだけが周囲を照らしていた。誰もが息を詰め、次の瞬間に備えるように視線を煙の中心に集中させた。

次第に黒煙が薄れ、ルシファーの姿が露わになった。

ルシファーは手を前に突き出し、自身の周囲に透明のバリアを展開していた。球状のバリアは一切の攻撃を受け付けず、表面には六角形が浮かび上がり、絶対的な防御を誇示していた。次の瞬間、バリア全体にひびが入り、ガラスが割れるような音を立てて砕け散った。

 その光景を見て、柴乃はこう分析した。

 バリアを張っている間、奴の攻撃は止まっていた。……つまり、攻撃と防御を同時に行うことはできない可能性が高い。それに、バリアを張ったということは、こちらの攻撃が有効な証拠だ。

今の攻撃が効くことを確信した柴乃は、わずかな手応えを感じた。だが、警戒を緩めることはない。ルシファーは『賢い怪獣』だという情報もある。柴乃はいつも以上に慎重だった。

 ルシファーはじっくりと周囲を見渡した。自身を取り囲むプレイヤーの位置を把握すると、ゆっくりと正面の柴乃に視線を戻した。次の瞬間、鋭く足を蹴り出し、空を裂くような轟音を伴って柴乃に突撃した。その動きは驚くほど素早く、まるで巨大な弾丸が一直線に飛んできたかのようだった。

 柴乃は反射的に杖を構え、「ミュール・ド・グラース!」と叫んだ。すると、自身の前に分厚い氷の壁が現れた。

 ルシファーはスピードを緩めることなく拳を強く握り、そのまま氷の壁に向かって拳を繰り出した。一発のパンチで氷の壁の中心に深い穴が開き、全体にひびが入った。だが、貫通までには至らなかった。

ルシファーはすかさず二発目を打ち込もうと、左の拳を強く握った。

 二発目のパンチが放たれる寸前、柴乃は素早くテレポートしてイリスの隣へと一瞬で移動した。近接戦闘の得意なプレイヤーの近くにいた方がいいと、即座に判断した。

その直後、ルシファーの二発目の強烈なパンチで、分厚い氷の壁は粉々に砕け散った。もしパンチを一発でも受けていたら、大ダメージは免れなかっただろう。

ルシファーはゆっくりと振り返り、ギロリと柴乃を睨みつけた。

その行動を見ていたナブは、スイの前に立って武器を構え、敵を見据えた。さらに、手元の大剣から軽量な長剣へと切り替えた。ルシファー相手に動きの鈍い大剣だと攻撃が当たらないと判断したようだった。

「次はわたしが行きます。ヴィオレ様は援護を」とイリスが言った。

「ああ」と柴乃は短く応じた。

 イリスは空を蹴り、ルシファーに突撃した。少し遅れてナブも追随した。

ルシファーは冷静に身構えた。その姿からは、余裕すら感じられる。

 最初にイリスが斬りかかった。剣を大きく振りかぶり、そのまま一気に振り下ろす。

一振り目は、軽く躱されたが、すかさず手首を捻り二振り目を放つ。ルシファーの身体を一刀両断するつもりで横一線に振った。

イリスの二振り目の剣先がルシファーの左胸をかすめ、漆黒の肌に薄い傷を刻んだ。その刹那、赤黒い液体が一滴、地面に滴った。ルシファーの目に一瞬驚きが見え隠れした。

ルシファーは咄嗟に後退し、距離を取った。だが、イリスが即座に間合いを詰め、次々と斬撃を繰り出した。全身をしなやかに動かし、ルシファーは斬撃を紙一重で避け続けた。その身のこなしにはまだ余裕が感じられるが、イリスの鋭い剣先が着実に迫っていた。そこへ長剣のナブが加わり、ルシファーの逃げ道を塞ぐ形で背後から迫った。

ルシファーは素早く振り返り、咄嗟に蹄を横に薙いでナブの斬撃を弾いた。だが、休む間もない斬撃の応酬に徐々に追い詰められていく。次第に斬撃を捌ききれなくなり、身体中に切り傷を負い始めた。

一見すると、イリスたちが優勢に見える。しかし、柴乃の中には何か違和感が芽生えていた。

これがルシファー……? 最高難易度ミッションのボスがこの程度だと……? いや、そんなわけがない。まだ何か隠しているはずだ。

柴乃が推測している一方で、スイはナブたちを援護するため、力を溜めていた。

柴乃の視界にふとスイの姿が映った。その瞬間、柴乃はイリスの「ヴィオレ様は援護を」という言葉を思い出し、慌てて力を溜め始めた。

 二人が力を溜め終えると、一方的に攻められていたルシファーの目が光を帯び、不気味な微笑みが浮かんだ。まるで「遊びはここまでだ」と言わんばかりに。その瞬間、空気が凍りついたような感覚がイリスたちを包み込んだ。そして、ルシファーが突然反撃に出た。

ルシファーは両手を大きく広げ、その場で高速回転し、イリスたちを弾き飛ばした。イリスとナブは反射的に剣で受け流し、後ろに跳んで回避した。

ルシファーを中心に、荒れ狂う風は瞬く間に巨大な竜巻へと変貌し、瓦礫や街の看板を次々と巻き込みながら地面を削り、建物すら揺らした。竜巻の中心に立つルシファーの姿は、神々しくも恐ろしい威圧感を放ち、まるで絶対的な支配者のようだった。

イリスたちが近づけない中、柴乃とスイは呼吸を合わせ、静かに狙いを定めていた。柴乃の頭上には巨大な炎の鳥、スイは光り輝く矢を構えていた。

柴乃は「フェニックス・インフェルノ!」、スイは「インペリアルアロー!」と声を揃えた。

炎の鳥はまるで獲物を捕らえる猛禽のようにルシファーに向かって突進した。

スイの光の矢は空を切り裂き、竜巻の外縁を貫いていく。だが、竜巻がその勢いを弱めることはなかった。果たして攻撃が届くのか――その瞬間、両者の攻撃が同時に竜巻の中心を捉えた。

瞬間的に、目も眩むような閃光と爆音が広がり、凄まじい衝撃波が辺り一帯を覆った。建物は軋み、瓦礫が吹き飛ぶ。燃え盛る炎が空へと立ち昇り、ルシファーの姿を飲み込んでいった。

「よし!」

柴乃は小さく拳を握りしめた。安堵と緊張が入り混じり、手のひらにはうっすらと汗が滲んでいた。スイに視線を送り、無言のまま親指を立てた。スイも微笑みを浮かべながら静かに頷き返す。だが、二人の表情にはどこか緊張が残っていた――ルシファーが本当に倒れたのか、その確信はまだ持てないままだった。

誰もが息をのみながら目を凝らし、炎の中を見つめていた。そのとき、柴乃はふと視線を上げ、あるものを視界に捉えた。

空を漂う白い帯のようなものが、風に乗ってゆっくりと炎の中へと吸い寄せられていく。それがただのゴミではないと、柴乃には直感的にわかった――どこか不気味な気配をまとっている。そしてその帯は、炎の中に吸い込まれるように飛び込んでいった。

(何だ、今の……?)と柴乃は心の中で呟いた。

その瞬間、突然ルシファーを包んでいた炎が吹き飛ぶように散り、一気に視界が開けた。柴乃は反射的に視線を戻す。

姿を現したルシファーの体は、無数の深い傷が刻まれていた。肩は激しく上下し、荒い呼吸が喉奥から低い唸り声となって漏れ出している。それでも彼の赤い瞳は光を失っていなかった。むしろ、その目には静かな怒りと執念が宿っており、全身を小刻みに震わせながらも、なお立ち向かおうとしているかのようだった。

それを見て、ナブとスイは勝機を見出したような笑顔を浮かべた。

「確実にダメージを負っているね」とスイが言った。

「ああ……この調子で、一気に畳みかけるぞ!」とナブが威勢よく言った。

一方、柴乃とイリスは真剣な表情を崩さず、ルシファーを見据えていた。そして柴乃は、ルシファーの右手に握られた帯のようなものに気づいた。

次の瞬間、ルシファーは帯を握り締めた右手をゆっくりと上に掲げた。頭上で手を開くと、握っていた帯が、生き物のようにうねりながらルシファーの体に巻きついていった。その帯には数字がびっしりと羅列されていた。

柴乃たちは迂闊に近づくことはせず、警戒しながら見据えていた。それぞれ武器を構え、いつでも攻撃を仕掛けられる状態だった。

「何をしようとしているんだ……?」と柴乃はボソッと呟いた。

その瞬間、イリスの目が大きく見開かれた。

「……まずい!」

声が自然に漏れ出た。イリスの表情には焦りと、何かを察した者の特有の鋭さが混じっていた。

その声に全員が瞬時に反応し、息をのんでイリスへと視線を向けた。直後、帯の先端が蛇のように蠢きながら、ルシファーのこめかみに鋭く突き刺さった。帯全体が生き物のように震えながらルシファーの体内へ吸い込まれていく。その様子は異様で、どこか不吉な儀式を思わせた。

イリスは短く息を吸い込むと、力強い声で叫んだ。

「ヴィオレ様、スイ様、ナブ様、四方向から同時に攻めます! わたしに合わせてください!」

その声には切迫した緊張と覚悟が宿り、場の空気を一変させた。

イリスの指示に三人は即座に反応し、一斉に動き出した。

イリスとナブが挟み込むように突撃し、柴乃とスイはそれぞれ構えた。

彼らが動き出した一瞬の間、ルシファーはニヤリと笑みを浮かべた。傷だらけの左腕を顔の位置までゆっくりと掲げた。すると、ルシファーの周囲に黒い魔法陣がいくつも浮かび上がり、それぞれが不気味な低音とともに脈動を始めた。ルシファーが左腕をそっと振り下ろすと、魔法陣の中心から黒いエネルギー弾が一斉に放たれ、まるで周囲を飲み込む嵐のように広がっていった。

ナブは反射的に急停止したが防御姿勢が間に合わず、スイも驚いて一瞬反応が遅れた。

だが、柴乃がすかさず「ブクリエ・ド・ルミエール!」と叫んだ。その瞬間、純白の光が彼らの前に広がり、エネルギー弾の直撃を防ぐように巨大な盾を形成した。その光は目を焼くほどの輝きを放ち、衝突したエネルギー弾は空中で次々と霧散していった。

イリスの前にも防御壁を展開したのだが、彼女は光の盾を自らの腕で押し進めながら、寸分の迷いも見せず突撃を続けていた。動きは機械のように正確で計算されていたが、そこには人間的な執念と怒りが滲んでいた。イリスの目には「必ず倒す」という確固たる意志が宿っていた。

イリスの驚異的な技術に、誰もが目を見開いて驚いた。

さすがのルシファーも驚きを隠せない様子だった。慌ててイリスに手のひらを向け、エネルギー弾を放とうとしていたが、一瞬判断が遅かった。

イリスはルシファーの目前で光の盾から手を放し、蹴り飛ばした。

ルシファーは咄嗟に右手を振り払って盾を弾き飛ばした。

その一瞬の間に、イリスは両手で剣を強く握り、勢いよく振り下ろした。

鋭い切っ先が目の前に迫った瞬間、ルシファーは反射的に左手の蹄を開き、剣の刃を挟み込んだ。その動きには、まるで猛禽類が獲物を捕らえるような正確さと力強さがあり、鋭い音が響き渡った。赤く鋭い眼光で、イリスを睨みつける。吸収中の光の帯は、まだ半分以上の長さを残していた。

イリスはすかさず左手を剣の柄から放し、新たな一本の剣を手にすると、横一閃。だが、その一撃もルシファーの蹄で挟むように受け止められた。

二人の力は拮抗し、両者の額には汗が滲んでいた。押し合う中で、イリスから白いオーラ、ルシファーから黒いオーラが溢れ出し、周囲に強烈な衝撃波と威圧感が広がっていった。その衝撃で、ナブは近づけなかった。スイも驚愕の表情を浮かべ、力を溜めることすら忘れ、ただ見守っていた。

だが、柴乃だけは違った。長年イリスとともに戦場を駆け抜けてきた柴乃にとって、彼女の驚異的な戦技はもはや日常の一部だった。それでも、胸の奥に小さな誇りと親愛が芽生え、静かに笑みを浮かべた。

柴乃は瞬時にテレポートで二人の頭上へ現れると、迷いなく杖を構えた。同時に、イリスがニヤリと笑みを浮かべる。ルシファーはまだ柴乃の存在に気づいていなかった。

技名を叫べばルシファーに気づかれ、この一瞬の好機が水の泡になる。柴乃は喉まで出かかった言葉をグッと堪え、その代わりに心の中で(ルミエール・サント!)と叫び、杖の先端から聖なる光のビームを放った。

その閃光が空を切り裂く瞬間、イリスは剣の柄を握る手を解き、反射的に後方へ跳躍。まるで完璧に計算されたような二人の動きが、視線の一点で交差した。

ビームが命中する寸前、ルシファーの唇がわずかに歪み、不気味な笑みが浮かんだ。まるで彼がこの展開を予測していたかのように。次の瞬間、ビームはルシファーの頭に直撃し、大爆発を起こした。

「よし!」イリスが珍しくガッツポーズを決めた。

 柴乃はイリスの隣にテレポートし、「どうだ。これが我の力だ!」と勝ち誇ったように言い放った。

「はい、完璧でした。お見事です」イリスは穏やかに微笑んだ。

「そうだろ、そうだろ!」柴乃は誇らしげに胸を張った。視線を少し下げ、イリスの手元を見つめた。「でも、よかったのか? 剣を二本も失って……」

「構いません。ヴィオレ様のサポートが、わたしの仕事ですから」

「そうか……」

 イリスが本心でそう言っていることを、柴乃はすぐに理解した。しかし、二本とも貴重な武器だったため、「やっぱり弁償してください」とイリスが心変わりしないうちに、柴乃は忘れることにした。もし今後、聞かれるようなことがあっても「えっ、なんのことだ?」と知らないふりをすることにした。

 爆煙は時間とともにゆっくりと薄まり、視界が徐々に開けていく。その中には何もなかった。ルシファーの気配も完全に途絶え、場に静寂が広がった。

柴乃たちはミッションをクリアしたと思い、安堵の表情を浮かべた。しかしそのとき、柴乃の耳に微かに届いたのは、低く鈍い「ドクン、ドクン」という音。まるで巨大な心臓が脈打つような不気味な響きだった。

柴乃は音のする方に視線を向けた。そこにはまだ煙が漂っていたが、まるで見えない力に吸い寄せられるように、特定の一点に集まっていた。

柴乃が目を細めてその場所を見つめた瞬間、煙が一気に吹き飛び、音の正体が姿を現した。それは、直径二メートルほどの漆黒の球体だった。重力を無視して宙に浮かび、その表面は光を吸い込むかのように黒々としていた。

全員が球体の存在に気づき、視線が一斉に集まった。その瞬間、イリスは鋭く空を蹴り、一気に球体との間合いを詰めた。新たな剣を構え、力強く振り上げた。

しかし、その瞬間、黒い球体にピキピキとひびが入り始めた。ひびは蜘蛛の巣状に球体を覆いつくし、割れ目から眩い光が漏れ始めた。あまりの眩しさに、柴乃たちは腕で光を遮った。

イリスは咄嗟に設定を切り替え、光で目が眩まないようにして突撃を続けた。間合いを詰めると、球体に向かって勢いよく剣を振り下ろした。しかし同時に、黒い球体が突然、轟音とともに破裂した。周囲に圧倒的な衝撃波が放たれ、大気そのものが震えるようだった。イリスの斬撃はその衝撃波で掻き消され、彼女も後ろに吹き飛んだが、空中で後方回転し、軽やかに体勢を整えた。

球体の中から現れたのは、膝を抱えて丸くなっているルシファーだった。

ルシファーはゆっくりと手を解き、正面を見据えながら立ち上がると、胸を張った。見た目が少し変わっていた。両手の蹄が二本から五本に増え、人間の指のようになっていた。背中には漆黒の翼が広がり、体長は二メートル八十センチほどに縮小していた。筋骨隆々だった身体は、無駄のない鋭さを纏った引き締まった筋肉へと変貌している。その姿は、異様な威圧感と禍々しい美しさを放っていた。顔から頭にかけて骨になり、まるで本物の悪魔のように見えた。

「進化……したの……!?」スイが声を震わせた。

「くっ……!」イリスが悔しそうに唇を噛んだ。

さきほどまでのルシファーよりもはるかに不気味で、威圧感を放っていた。どれほどパワーアップしたのかわからないが、確実に強くなっていることだけは、誰もがひしひしと感じていた。そのため、迂闊に近づかない――いや、近づけなかった。

警戒する柴乃たちを他所に、ルシファーは五本指になった手を見つめ、何度も『握る、開く』を繰り返していた。まるで新たな力の感触を確かめるように、異様な静けさと不気味な自信を漂わせていた。

目玉がないのに、どうやって見てるんだ……? 

柴乃はふと疑問に思ったが、目を細めて見てみると、ルシファーの目の穴の中に、小さな赤い点があることに気づいた。どうやら、その赤い点が目のようだった。

ルシファーは手の感覚を確認すると、次に新しい体――引き締まった筋肉を眺めた。胸の筋肉にそっと手を当て、軽く揉む。自身の変わりようをじっくりと確かめていた。やがて、視線を上げ、ゆっくりと周囲を見渡した。柴乃たちの位置を確認するように視線を巡らす。一通り見渡すと、ルシファーは一瞬動きを止めた。次の瞬間、ルシファーの姿がぼやけ、黒い残像を残して一瞬でそこから消え去った。

 その動きはあまりにも速く、ナブとスイは一瞬でルシファーを見失った。キョロキョロと周囲を見渡したが、すぐに見つけられなかった。

一方、柴乃はしっかりとルシファーの動きを目で追い、スイへと視線を向けていた。イリスも柴乃と同様、ルシファーの姿をはっきりと捉えており、剣を握り締め、すでにスイのもとへ駆け出していた。

 ルシファーは一瞬でスイの前に現れた。その動きは、空間をねじ曲げたかのように異様だった。二人がかろうじて目で追えたということは、柴乃のテレポートとは違い、単純な高速移動のようだった。だが、その速さは尋常ではなく、並みのSランクプレイヤーでも捉えるのが難しかった。

 スイは目の前に突然現れたルシファーに気づくと、反射的に弓を引き絞り、矢を放った。その矢は音を立てて空を裂き、一直線にルシファーの額を狙った。だが、ルシファーはほんのわずかに首を傾けるだけで、矢を軽々と避けた。

柴乃はルシファーの頭上にテレポートし、杖を構えた。イリスもあと三メートルというところまで迫っていた。

しかし、一瞬ルシファーの方が早かった。

ルシファーは静かに右手を構え、人差し指をスイに差した。次の瞬間、ルシファーの指先から細く鋭い黒いビームが放たれた。それは空気を切り裂くような音を立てながら一直線に進み、スイの胸を正確に貫いた。

その光景を目にした瞬間、柴乃は胸の奥から湧きあがるような怒りを感じ、「ルミエール・サント!」と叫んだ。

柴乃の杖から白い光のビームが放たれ、ルシファーに襲いかかった。同時に、イリスも間合いを詰め、斬撃を繰り出した。

だが、ルシファーは高速移動で瞬く間にその場から姿を消し、二人の攻撃を避けた。

イリスはすぐさま振り返り、ルシファーの後を追った。

柴乃は急いで倒れるスイのもとへ駆け寄り、そっと抱きかかえた。スイの胸にぽっかりと開いた穴を見て、すぐに回復アイテムを使ったが効果はなかった。柴乃の額には冷や汗が浮かび、顔には焦燥と絶望が複雑に交錯していた。震える手で、スイの命を救おうと必死だった。

「大丈夫だ、スイちゃん……まだ間に合う……」

震える声で、柴乃は前向きな言葉を絞り出した。別のアイテムを手に取って浴びせるが、スイの胸に開いた穴は一向に塞がらない。それでも、柴乃は諦めず様々な種類のアイテムを使い続けた。今ここですべてを使い切るつもりだった。しかしそのとき、スイが柴乃の腕を弱々しく掴んだ。

「スイちゃん!」と柴乃は言った。

「ごめんね……ヴィオレちゃん……わたし……ここまでみたい……」

「そんなことはない。まだ大丈夫だ。他のアイテムを使えばきっと……」

「ふふ……ありがとう、ヴィオレちゃん……」スイはかすかに微笑み、「あとは……任せるね」と、まるで未来を託すような穏やかな声で告げた。その直後、スイの瞳が静かに閉じられ、柴乃の腕の中でその命の輝きが消えていった。次の瞬間、スイの身体が静かに光を放ち、無数の白い粒子へと変わった。粒子は星屑のように輝き、風に舞って空へと溶けていった。

 柴乃とスイの最後のやり取りの間、ルシファーはナブにも同じ黒いビームを放ち、胸を貫いてゲームオーバーに追い込んでいた。

イリスはその度にぎりぎりで追いつけず、悔しさを滲ませた。

 ルシファーは赤い瞳を光らせながら、柴乃とイリスに冷たく鋭い視線を向けた。唇がゆっくりと吊り上がり、氷のような嘲笑が浮かんだ。

「よくも……よくもスイちゃんを……!」

柴乃は散りゆくスイの光の欠片を震える手で掴んだ。その拳が震えるたびに柴乃の心は怒りと悲しみに引き裂かれた。ルシファーに向けた視線は、鋭さだけでなく、涙で滲む憎悪に満ちていた。

「お前は……我が倒す!」

柴乃は低く吠えるような声で宣言すると、左目の眼帯に手を伸ばした。勢いよく引き千切り、それを投げ捨てた。隠されていた左目には、鮮やかな紫色の光が宿り、その輝きは見る者に圧迫感を与えた。次の瞬間、柴乃の体から紫色のオーラが噴き出すように溢れ出した。オーラがまるで炎のように燃え上がり、空を裂くように突き刺さる。これが柴乃の全力だった。

ゲームの設定上、この行為は特に意味を持たず、強くなることもない。単なるパフォーマンスだが、不思議と柴乃は力を増していた。

イリスの見解では、柴乃の感情が脳を刺激し、それが能力の向上につながっているのではないか、という。

 イリスは柴乃に合わせ、白いオーラを放った。すると、ルシファーも二人に対抗するように黒いオーラを放ち始めた。

紫、白、黒――三色のオーラがそれぞれに咆哮を上げるように渦を巻き、中心で激突した。爆発のような轟音が響き、衝撃波が街を包み込む。高層ビルの窓ガラスに蜘蛛の巣状の亀裂が走り、次の瞬間、粉々に砕けた破片が宙を舞った。無人の飛行車やバスは音を立てながら吹き飛び、地面に叩きつけられて火花を散らした。

 やがて、オーラが互いを打ち消し合い、眩しい閃光を最後に消え去った。世界は突如として静寂に包まれ、風さえも息を潜めた。その場に漂うのは、不気味なほど澄み渡った静けさと、耳鳴りのような余韻だけだった。まるで時間が止まっているような感覚で、緊張が漂う。

三者は互いを見据え、静かに構えた。

高層ビルの割れた窓ガラスの欠片が、地面に落ち始めた。その欠片が歩道に落ち、砕け散った音が鳴り響いた瞬間、三人が一斉に動いた。

 イリスとルシファーは、稲妻のような速さで互いに突進した。剣と拳が激しくぶつかり合い、金属が砕けるような轟音が響いた。その衝撃は地面を震わせ、周囲の瓦礫を跳ね上げた。

イリスは怒涛の斬撃を繰り出し、ルシファーもそれに負けじと拳で迎撃した。鈍い音が絶え間なく鳴り響き、剣の刃と拳がぶつかるたびに赤々とした火花が激しく散った。それはまるで怒れる星屑が弾けるかのようで、闇に光の痕跡を描いていた。

 イリスは一度後方に跳び、距離を取った。ルシファーがすぐに間合いを詰めようと迫る。だが、柴乃がそれを許さない。

柴乃の姿が紫の閃光とともに二人の間に現れ、杖を閃かせて無数の光弾を解き放った。

 ルシファーは身体をしなやかに反らせて光弾を紙一重で躱し、まるでバネのように瞬時に姿勢を正した。その瞳が鋭く柴乃を捉えるや否や、空を蹴って突進してきた。

それを確認した柴乃は、瞬時にイリスの背後へとテレポート。イリスは剣にオーラを纏い、ルシファーに向けて放った。三メートルを超える斬撃が、ルシファーに迫る。

ルシファーは立ち止まると、瞬時に胸の前で腕をクロスし、斬撃を受け止めた。その衝撃で後退するが、次の瞬間、力強く腕を開き、斬撃を四方に弾き飛ばした。四方に散った斬撃は、ビルの壁面に命中し、コンクリートを破壊した。

ルシファーが斬撃を弾いた瞬間、柴乃は彼の背後にテレポート。ルシファーが振り向く前に無数の光弾を放った。光弾は空中で緩やかな放物線を描きながらルシファーに迫った。

無数の光弾が迫る中、ルシファーはニヤリと笑みを浮かべ、忽然と姿を消した。光弾はそのまま誰もいない場所で衝突し、激しく爆発した。

柴乃は素早く視線を動かし、街中のビルに目を向けた。視線の先には、高層ビルが林立していた。そのビル群の壁に、ルシファーが蜘蛛のように張り付いていた。柴乃は杖を構え、「ジーヴル!」と叫んだ。杖から無数の青い光弾が放たれ、ルシファーに向かって飛んでいった。

青い光弾が迫るのを認めたルシファーは、蜘蛛のように四肢を使ってビルの壁を這い回り、跳ねるように逃げた。

柴乃の放った青い光弾は、追尾式でルシファーの背中をしつこく追いかける。だが、ルシファーの素早い動きを捉えるのは難しく、すべて寸前で躱された。

青い光弾はビルに着弾した瞬間、冷気が一気に広がり、繊細な氷の結晶が花のように咲き乱れた。その冷たい輝きは光を反射し、ビル全体を凍てついた芸術品のように変えた。その光景にルシファーは一瞬、目を奪われたかのように動きを止めた。

その瞬間、青い光弾がルシファーに命中し、彼を氷漬けにして捕らえた。

柴乃はその隙に近づき、至近距離から確実に仕留めるつもりだったが、間合いを詰めている間、氷が内側から亀裂を走らせ、耳を劈くような音とともに砕け散った。

破片が四方に飛び散る中、ルシファーは獣のような咆哮を上げて飛び出した。鋭い目つきで柴乃を見据え、指を前に突き出した。指先から漆黒のビームが空間を切り裂くように発射され、まるで光そのものを飲み込むように迫った。

 柴乃は咄嗟に魔法壁を展開し、黒いビームを防いだ。だが、煙で前が見えなくなり、柴乃はルシファーを見失った。

その隙に、ルシファーは高速移動で柴乃の背後に回り込み、鋭いパンチを放った。

柴乃は寸前で背後の気配に気づくと、振り向く間もなくテレポートで回避した。だが、テレポートした先には、すでにルシファーの黒いビームが目の前に迫っていた。柴乃は反射的に体を反らし、避けることができたが、右肩を掠めた。

柴乃はすぐに体勢を立て直し、ルシファーに視線を向けた。骨ばった顔に表情はないはずだが、どこか得意げな雰囲気が滲んでいた。苛立ちを覚えた柴乃だったが、顔を振って気持ちを切り替えると、冷静に分析を始めた。

 今の攻撃……まるで我の現れる場所がわかっていたかのようなタイミングだった。偶然か……? それとも……。

 柴乃が鋭い目つきでルシファーを睨んでいると、「ヴィオレ様、大丈夫ですか!?」と心配した様子のイリスが駆けつけた。

「ああ、問題ない」と柴乃が答えると、イリスはホッとしていた。

「それよりも、確かめたいことがある……」

柴乃が目を向けると、イリスは何も言わずに頷いた。言葉を交わさずとも思いが通じ合っていた。

二人がルシファーに目をやると、彼は手を前に差し出し、人差し指をクイッと自身の方へ曲げた。「かかってこい!」その姿からは余裕が見えた。

その挑発的な仕草に柴乃は眉をひそめ、「行くぞ!」と声を上げた。

「はい」とイリスも応じ、二人は同時に突撃した。

 当然、ルシファーも対抗して突撃してくると読んでいた二人だったが、ルシファーはくるりと振り返り、背を向けて逃げ始めた。

 柴乃とイリスは一瞬目を見開いたが、すぐに鋭い目つきに戻り、ルシファーを追いかけた。

ルシファーは街中を縫うように高速で飛行し、時折背後を確認していた。

「この我に背を向けるとは……いい度胸だ。後悔させてやる!」柴乃の声は低く鋭く、抑えきれない怒りがそのまま音になっていた。

杖を構え、無数の追尾式光弾を放ち、イリスも同時に飛ぶ斬撃を繰り出した。

ルシファーは街を縦横無尽に飛び回り、ビルや看板、標識、さらには路上の車すら巧みに利用して攻撃を躱した。その動きは予測不能で、二人の放つ光弾や斬撃を寸前で躱し、街は破壊の渦と化していた。ビルは軋む音とともに崩壊し、車は爆風に弾き飛ばされた。その混乱の中心で、ルシファーはまるでこの惨状を楽しむかのように、不気味な笑みを浮かべた。

「ヴィオレ様、わたしが先回りします。ルシファーの進路を塞いで、挟み撃ちにしましょう!」とイリスが声を上げた。

「頼んだぞ」と柴乃が短く返事をすると、二人は迷いなく二手に分かれた。

イリスはその計算能力でルシファーの行く先を予測しながら先回りし、柴乃は執拗に後を追い続けた。

 何を狙っている……? なぜ急に逃げ始めた……?

 柴乃は追跡を続けながら冷静に状況を分析した。ルシファーの動きには不可解な点が多い。どこかへ誘い込むようでもなく、かといって単なる逃走にも見えない。まるで彼自身が何かを待っているようにも見える……。必ず何か意図があるはずだ。そう思っていたが、何も掴めぬまま、超高速の追撃戦が続いた。

 やがて、ルシファーがビルとビルの間の狭い小路に迷いなく飛び込んだ。

あえて狭い場所に誘い込むつもりか? 罠かもしれないな……。

柴乃は一瞬躊躇いながらも冷静に判断し、警戒を怠らずに後を追った。

暗くて狭いビルの間でも、柴乃は光弾を放ち続けたが、ルシファーは素早い動きですべて躱す。柴乃が思わず「チッ!」と舌打ちした瞬間、ルシファーの向かう先に突然イリスが現れた。

柴乃は笑みを浮かべ、「でかした!」と呟き、杖を構えた。

イリスが剣を振って飛ぶ斬撃を放ち、柴乃も同時に光弾を撃ち込んだ。

ルシファーは突如、急停止すると、一瞬だけその場で静止した。不気味な笑みが骨の顔に浮かんだ、その瞬間――まるで重力を無視するように直角に飛び上がり、斬撃と光弾を難なく避けた。

柴乃はそれを見越して、ルシファーの頭上にテレポートし、杖を構えた。だが、ルシファーはその行動すらも見透かしており、飛び上がった勢いのまま柴乃に向かって拳を突き出した。

 柴乃はルシファーの拳が目の前に迫った瞬間、反射的にテレポートを使って回避した。だが、先ほどと同様、テレポート先にはすでに黒いビームが放たれ、目の前まで迫っていた。

刹那、(やはりこいつ……我のテレポートを……!)と柴乃は心の中で呟いた。

「柴乃ちゃん!」とイリスは叫び、柴乃のもとへ急いだが、到底間に合わない。

誰もが「終わった」と思い、息をのんだ。だが、柴乃だけは違った。百戦錬磨のゲーマーである彼女は、そう簡単にはいかない。

黒いビームが目前に迫ったその刹那、柴乃は全神経を研ぎ澄まし、反射のように三度目のテレポートを発動した。その動作は、計算された戦術というより、もはや直感と経験が生み出した芸術だった。柴乃が消えた直後、黒いビームが轟音とともに空間を切り裂き、光の残像を消し去った。

テレポートと同時に、柴乃は「なめんな!」と叫んだ。だが、目の前にいるはずのルシファーの姿は、そこになかった。柴乃は慌てて周囲を見渡した。

そのとき、「柴乃ちゃん、後ろ!」というイリスの声が、戦場の騒音を突き破るように柴乃の耳に響いた。その声には焦燥と恐怖が滲んでいた。

柴乃は反射的に振り返り、目を見開いた。視界に入ったルシファーの姿は、まるで暗闇そのものが具現化したかのようだった。その威圧感に、冷たい汗が背中を伝う。二メートル八十センチの巨体が、さらに大きく見えた。

「しまっ――」

柴乃の心臓が一瞬止まりかけた。だが、その恐怖を押し殺すように歯を噛みしめ、戦闘本能が全身を駆け巡った。素早く杖を構え、反撃を試みたものの、ルシファーの指先に溜まった黒いエネルギーが、今にも放たれようとしていた。

クッ、このままでは……!

柴乃の頭に一瞬「ゲームオーバー」の文字がよぎった。無論、そうなる最後の一瞬まで諦めるつもりはない。だが、たった一瞬の間で、回避する手段が思いつかなかった。

 ルシファーの口が不気味に歪み、顔全体が邪悪な笑みで引きつった。その瞳にはすでに「勝利」の二文字が浮かび上がり、柴乃の絶望を楽しむかのようだった。

ルシファーの指先に溜まった漆黒のエネルギーが放たれようとしたその瞬間、雷鳴のごとき轟音とともに、横から飛び出した拳がルシファーの左頬を撃ち抜いた。

その拳の一撃は、空気を裂き、周囲のビルを震わせるほどの破壊力だった。

ルシファーは凄まじい勢いで吹き飛び、背後のビルに激突。その衝撃で、ビル全体が瓦礫と化した。

 柴乃は目を見開き、拳を見つめた。拳をたどるように視線を移すと、そこに立っていたのは――特攻服に身を包む屈強な少年、ドライだった。逆立った金髪に、鋭い瞳が獲物を射抜くように輝いている。その姿は、まさに荒れ狂う嵐を引き連れたヤンキーそのものだった。



読んでいただき、ありがとうございます。

次回もお楽しみに。

感想お待ちしております。

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