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007 幼女竜のおなか

 ローブの下からは、すべすべぷにぷにの肌が現れた。アイソスが身につけていたのは腰を隠す下着のみのようだ。

 目に止まったのは、その小さなお腹。


「——ん?」

「あっ?」


 儂の疑問の声に、アルビオーネの驚きが重なった。彼女もまた、儂の身体を見つめていた。気づいたのだろう。

 どちらからともなく顔を上げると、視線が交わる。


 なぜか重苦しいような無言の時が流れ——。


「ちがーーーーーーーーうぅっっ!!」


 あ? なにを絶叫している?


「違うでしょっ、グリムちゃんっ!」


 落ちた金貨を拾うかのような勢いで、アルビオーネが脱ぎ捨てたローブを掴んだ。そのまま乱暴に儂の身体を包み込む。


「お……な、なんだ、アリュ……?」


 あまりの剣幕に思わず後ずさってしまう。が、アルビオーネは儂の身体を離さない。まさか、また儂のことを——?


「そんなふうに、恥じらいもなく脱いだらダメですっ! そんなのは、もっともっと幼い子のすることですよっ! あなたくらいの幼女は! もっとこう、誰が見ても欲情しないのに『わたしも女の子だから』なんて背伸びして! 大人ぶって恥ずかしげに脱ぐものなのですっ!!」


「……なにを言っておるのだ、お前は」


「いいですか、グリムちゃん! あなたは幼女なのです。立派な幼女なのですよっ! ですが、幼女初心者なのですっ! できもしないギャップを狙う必要などありませんっ!」


「だからなにをいっておりゅのだあっ!!」

「幼女の心得ですよおぉっ!!」

「この儂に幼女を語るなああああっっっっ!!」


 はあっ、はあっ、はあっ、はあっ…………。


 思わず我を忘れて叫んでしまったではないかっ。アルビオーネも胸を揺らし、肩で息をしている状態だ。儂らの荒い息遣いが辺りに漂っている。


「で、ですからっ、はぁっ、そんな、可愛くない、叫びはっ」

「ど、どうでも、いい、わっ」


 ふーっと深呼吸をして胸に手を当てる。うむ、温かい。やわい。落ち着く。


「そんなことより、貴様も見ただろう? この身体に刻まれたモノを」

「え? 刻まれた…………?」


 見ていないのか? ならば何を見ていたのだ、コイツは——いや、もう聞くまい。だが、儂ははっきりと見たぞ。


 この幼女の腹部には、魔法陣のようなものが描かれていた。その形状から察するに、呪いをもたらす呪印の類だろう。それがどう影響しているかまではわからぬが、ヤンデルゼの奴が儂にかけた術に関係しているやもしれん。

 だとすれば、この幼女、アイソスは儂のためにこんな呪いを受けたということか。


 許せん。


 必ず報いを受けさせてやるぞ。あれで滅んだわけではあるまい。儂本来の身体を取り戻したのち、我が力を直接叩き込んでくれるわ。


「なに? 何かありましたか? もう一度見せてくださいっ! ねっ、ねっ!」


 揺するなっ!


 決意に握りしめた儂の拳が、その勢いにあっさりと開いてしまう。まあいい。もう一度確認せねばなるまい。


「ならば見よ。言っておくが余計な——」

「駄目ですよ、グリムちゃん!」


 ローブの前を開こうとした儂の腕が掴まれた。

 

「なにをするっ?」


「そんな露出狂のようにおっぴろげては駄目です。いいですか、グリムちゃん。さっきも言いましたけれど、女性には恥じらいというものが必要なのですからね」


 上半身ほぼ裸のコイツに言われてもな。アルビオーネの上半身は人間の女性と変わらぬ姿だが、身につけているのは、胸元の布切れといくつかの装飾品のみだ。


「ならばどうしろと」


 段々面倒になってきたぞ。いちいち反応していては話が進まん。半眼で睨みつける儂に、アルビオーネは満面笑みを浮かべて答えた。


「そうですねぇ。それではまず、ローブの裾を握ってください。そう、グリムちゃんが踏みつけて、無様に転んだその部分です」


 ぐ、反応はせん。してやるものか。堪えろ、儂。


「こ、こう、か」


「そうそう、それでそのまま胸元までたくし上げるのです。あ、お顔は横に向けてください。少し俯いて。視線を逸らして。ああ、お顔を赤らめてもらえると最高ですっ!」


 そ、それに何の意味が——。


「んんひゃぁっ!?」


 な、何だっ!? 身体におぞましいものが這う感覚が?


「き、貴様、なにをしておるかっ!」


 目を向けると、儂のお腹を覗き込むように顔を寄せたアルビオーネが舌を這わせていた。


「ふへっ? なにって、調べているのですよ、この呪印を」

「なぜ舐める必要があるっ」

「ああ、私の舌の感覚は鋭敏ですから。こうするのが一番良くわかるのです。知りませんでしたっけ、グリムちゃん」


 む、確かに蛇類の舌先は重要な感覚器官だと聞くが。コイツがやると余計な邪推をしてしまう。とはいえ、このむず痒さは。


「え、あれぇ? グリムちゃん、感じちゃってますぅ? いいですよぉ。せっかくですから、この小さなお体、委ねちゃってくださいねぇ。さっきのお声も可愛いかったですし」


 絶対に声などあげんっ! 耐えてやるわっ!


 固く目を閉じ、歯を食いしばっていると、アルビオーネが呪印の調査を再開した。


 柔らかなものが、じっとりとお腹を這う。複雑な呪印の紋様を辿っているのか、下腹部一帯をゆっくりと湿らせられる。こそばゆく、不快で、意識せずに声が漏れそうになる。


 く……、だめだ。耐えねば。このまま声を出せば、コイツに負けた気がするっ。


 一層強く、顎と唇に力を込める。身体が小刻みに震えているのがわかる。早く、早く終われ——。


 んん……っ!


 舐められていたお腹を舌先で押し込まれる感覚に、喉が震えた。触診するようにあちこちをつつかれる。生温かい風が肌を包み、弾んだ息遣いが頭の中に響く。


 ぴちゃり。


 何故か足先が濡れた気がして、薄く目を開いてみた。儂の足と地面を濡らしていたのは。


「よだれを垂らすなあああっっっ!!」


 反射的に膝をかち上げていた。


「え? ふぇ? グリムちゃん? だめですよぉ、まだ」


 くっ、顎にヒットしたはずだが、全く効いていないっ。


「もう十分だろうがっ。わかったのか? 何かわかったのかっ? いや、わからんでも、もう不要だっ!」

「え、そんな。もうちょっと、もうちょおぉぉっとぉ、味わわせて——」

「呪印はどうしたーーーーっ!!」

「えっ?」


 なんだその呆けた顔は。まさか本気で、儂の身体を舐め回していただけだとでも?

 不意に疲労感に襲われて、その場にへたりこんでしまった。


「グリムちゃん?」

「……なんだ」


「そんなにくだけるほど、気持ちよかったですか?」

「——んぬああああああああーーーーっっ! 貴様きちゃまきちゃまあぁぁーーっ!」


 その笑顔が許せん! そして、振り回した儂の腕を軽くいなすなっ!


「え〜と、ごめんなさいね、グリムちゃん。ちょっと懐かしい味がしてですね、興がのっただけですから」

「……ならば、何を掴んだというのだ。コイツがヤンデルゼの奴の仕業であるとか」


 俯いたまま上目遣いに睨みつけてやった。頬も膨れていたかもしれん。


「いえ、そこまでは流石にわかりませんよ」

「では、どこまでわかったというのだ」

「…………えっ?」


 そこで言い淀むなっ。そろそろ本気で、コイツのことを部下とは思えなくなってきたぞ。


「ええと、この呪印? 呪いの類ですが、それがグリムちゃんの体や精神に負荷をかけているみたいですね。グリムちゃん自身は何か感じませんか?」


「いや、今のところは何も無いな」


「そうですかぁ。でも、アイソスちゃんだったら、どうでしょうね。彼女、というか普通の人間には辛いと思うのですよねぇ。この底暗い、汚泥のような魔力の発散。それが体内に浸透しているみたいですからねぇ。グリムちゃんのお腹をグリグリしてみてわかったんですけど」


 ん、あれは本当に調べていたのか。であれば、少し考えを改めねば——


「……そう、グリグリと。グニグニと。ぁあっ、もっと、たくさん、その身体をぉ内から外からトロトロにしてぇ……」


 いや、その必要はなさそうだな。

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