ケン太と夢の実
ケン太と夢の実
ガオガオガオガオーーー
恐竜が大きな口を開けて、こっちに迫って来る。
「大変だ、後ろは崖だ逃げ場はない」
絶体絶命の大ピンチ、
こんな時は、
僕は、おもむろに腰の袋の中に手を突っ込んだ。
ピーン、
クルクルクル、パクッ、
ゴックン、
ピロピロピロピーーー
まばゆい光に包まれて僕は、あっという間に移動した。
「あーあ、よく寝た」
目をこすり伸びをする。
ここは部屋の中、ベッドの上。
僕は、一瞬で恐竜の世界から自分のベッドに移動したのさ。
そう、
僕は、この不思議な実の力で簡単に移動できる。
通称、夢の実。正確に言えば、赤い実を食べると誰かの夢の中に入れる。青い実を食べるとベッドの中に戻れる。不思議な実だ。
さっきの夢はタケシの夢だったな。
アイツは、いつも恐竜の事ばっかり考えている恐竜オタク。やっぱり夢の中でも、恐竜がいっぱい出て来るんだ。
危ない、危ない。危うく、食べられそうになったよ。
でも、夢宝石はゲットした。夢宝石は、恐竜の卵の中にあったんだ。慌ててつかんだら、恐竜のお母さんに卵ドロボウとまちがえられたよ。失敗、失敗、
みんなの夢の中には、必ず夢宝石というのがあるんだ。それを見つけてゲットする。それが、僕の使命。
今日は大変だったなぁ。もう少しベッドで寝ていよう。
もう少し、もう少し、寝ていよう…
「ケン太〜起きなさーい、遅刻するよ〜」
あっ、ママの声だ。
時計を見る。
「しまった、もう七時半。学校に遅れちゃう」
僕は、慌てて飛び起きた。
「行ってきまーす」
朝ご飯も食べずに、学校へ走って行く。
学校では、夢の話で持ちきりだ。皆んなは、夢の話が大好きだ。
タケシが、夢の話をしている。
「昨日の夢は、凄かったよ。恐竜がいっぱい出て来て、ティラノザウルスもいたよ」
「でも変なんだよなぁ〜、夢の中にケン太が出て来たんだ。ケン太と一緒に恐竜世界を探検したんだ」
「私も、夢の中にケン太君が出て来て花の世界を〜」
アケミさんが言い出した。
「何で皆んなの夢の中に、ケン太君が出て来るのかなぁ〜」
疑いの目。
「た、たまたまなんじゃない?」
僕は、冷や汗を拭きながら何とかごまかした。
夢の実のことは秘密。誰にも言ってはいけない魔法使いとの約束だ。
でも、夢宝石を十個集めると願い事をかなえてくれる。
あと、一個。どんな望みをかなえもらおうかなぁ〜
その夜、
「おやすみなさーい」
僕はママにおやすみの挨拶をして、急いでベッドに入った。
「よーし」
僕は、腰の袋の中に手を突っ込んだ。
ピーン、
クルクルクル、パクッ、
ゴックン、
ピロピロピロピーーー
まばゆい光に包まれて僕は、あっという間に夢の中に入って行った。
今日はケイコさんの夢だ。
ケイコさんは、転校生。
いつも皆んなと遊ばず、本ばかり読んでいる不思議な子。最近、学校にも来なくなった。
たぶん、ケイコさんの夢はかなり難しいだろう。想像しただけでも大変だ。
でも、頑張るぞー
キュルキュルキュルーーポン
「おおっ、」
その夢の中は、太陽が三つあり空はピンク色。緑色の川が流れて地面はグニャグニャ。曲がりくねった道は、雲の上までつながっている。
さすが、ケイコさんの夢だ。他の友達の夢とはレベルが違う。生えてる木でさえ、丸かったり三角だったり。
「おーい、ケイコさんー」
僕は、夢の中でケイコさんを探した。
どこにもいない。
この夢の世界は、かなり広い。
よく見たら、グニャグニャとした地面は、たまにフワフワとしている。トランポリンのようにジャンプも出来る。
よーし、
ポーン、ポーン、
僕は、ジャンプして高く上がった。
ポーン、ポーン、
遠くに、たくさんの本でできた家が見えた。
ポーン、ポーン、
「もしかして、あの中にケイコさんがいるのかも?」
スタッ、
僕は、その家に行ってみた。
トントントン、
「こんにちは」
トントントン、
「ケン太です。このドアを開けてください」
「ダメですよ。いくらノックしてもドアは開けません」
ケイコさんの声だ。
「なぜですか?」
「知らない人をお家に入れてはいけないと、ママに言われているからです」
「僕ですよ、ケン太です。同級生のケン太です」
「ダメです。ケン太君なんて知りません」
「そんなぁー、同級生のケン太だよ、忘れたの?」
「知りません」
困ったな、ケイコさんは自分以外は、この世界に入られるのが嫌なんだ。
よし、
「では、ケイコさんの夢の中に入れてくれませんか?」
「夢の中に?どうして」
「夢の中だけでいいんです。お願いします」
「どうしようかなぁ、じゃあ、夢の中だけなら」
「はい、夢の中ではドアを開けてくださいね」
「わかりました」
よーし、
僕は、腰の袋の中に手を突っ込んだ。
ピーン、
クルクルクル、パクッ、
ゴックン、
ピロピロピロピーーー
まばゆい光に包まれて僕は、あっという間にケイコさんの夢の中の夢の中に入って行った。
ギィー
ドアが開く。
「あっ、」
そこには、大人の人が立っていた。僕のママと同じぐらい年齢だ。
「もしかして、あなたはケイコさんですか?」
「はい、ケイコです」
「なんで、大人なんですか?」
「子供の夢なんか、大人になったら忘れてしまう。どうせかなわない夢なら最初から大人の方がましでしょう。夢なんか、無くなっちゃえばいいのに」
ケイコさんは、現実の世界が嫌いだった。
すると、
ドロドロドロドロー
さっきの空や川が小さくなってきた。鮮やかな色もどす黒くなってくる。
バグバグバグー
突然、空から夢を食べる魔獣バクーが現れた。
バグバグバグー
バクーは、片っ端からケイコさんの夢を食べ始めた。
バグバグバグー
どんどんケイコさんの夢が食べられていく。
「やめてー、私の夢の世界を食べないでー」
バグバグバグー
「この絶望の夢は、美味しいなぁ」
「私の夢が、私の世界が、食べられていくー」
ケイコさんは泣き叫んだ。
「よーし、僕一人じゃだめだ。ちょっと待っててね」
僕は、腰の袋の中に手を突っ込んだ。
ピーン、
クルクルクル、パクッ、
ゴックン、
僕は、赤い夢の実を食べた。
ピロピロピロピーーー
まばゆい光に包まれて僕は、あっという間に移動した。
「サトシー、アユムー、キリコさんー、アケミさんー…」
僕は、クラスの皆んなの夢の中に訪れた。
「ケイコさんがピンチなんだ、助けてくれ」
「わかった」
皆んなは、僕につかまって一緒に青い実を食べた。
ピロピロピロピーーー
キュルキュルキュルーーポン
皆んなが、ケイコさんの夢へとやって来た。
「助けてー」
ケイコさんは、バクーに捕まり食べられそうになっていた。
「よーし、僕は恐竜で戦うぞ」
ガオガオガオガオー
「よーし、私はバラの花びらで攻撃だ」
ビラビラビラビラー
「僕は、柔道で戦うぞ」
とりゃー
皆んなは、それぞれ自分の夢のキャラクターに変身した。
ガオガオ、ビラビラ、とりゃー、
ガオガオ、ビラビラ、とりゃー、
キャインキャイン、キャイーン、
バクーは、皆んなの攻撃で逃げて行ってしまった。
「ありがとう、皆んな」
ケイコさんは、クラスの皆んなに感謝した。
「僕たちは友達だよ。当たり前さ」
僕たちは、もう一度、ケイコさんと友達になった。
でも….
夢の実は、もう一つしかなかった。
「どうしよう、あと一人しか元のベッドに戻れない」
僕だけ戻るか、ここ残るか、
その時、
ボワワワワーン
突然、魔法使いが現れた。
「夢宝石が、全部集まりましたね」
「どこに?」
ピカッ、ピカッ、
あった、ケイコさんの持っている本の中に夢宝石が光っていた。
「ケン太君は、何を望むんじゃ?」
「僕は…皆んなの夢が明るくなるのが望みです」
「明るくなる?」
「僕は、いろいろな人の夢の中に入りました。でも、夢は楽しい夢ばかりじゃなかった。つらい夢や悲しい夢もたくさんあった。そんな夢を、なくして下さい」
魔法使いは悩んだ。
「それは、無理じゃな。つらい夢や悲しい夢も、人間が成長するために必要な夢なんじゃよ」
「夢は、過去を見るものじゃない。未来をみるものじゃ。これから君たちが作る未来じゃよ」
「わかりました、魔法使いさん」
僕たちは、望みの代わりに青い夢の実をもらった。
ピーン、
クルクルクル、パクッ、
ゴックン、
皆んなで、青い夢の実を食べた。
ピロピロピロピーーー
まばゆい光に包まれて僕たちは、あっという間に移動した。
「あーあ、よく寝た」
目をこすり伸びをする。
僕は、自分の部屋のベッドへ戻ってきた。
「おはようー」
僕たちは、元気に登校した。
「おはよう」
ケイコさんも学校に来ていた。皆んな仲良しだ。
「今日の授業なにかな、楽しみ、楽しみ」
僕は、空っぽの袋をゴミ箱に捨てた。
夢の実はもうない。誰の夢にも行くことは出来ない。
でも、
僕には、未来があるんだ。皆んなで作る夢の未来があるんだ!