養豚令嬢は今日も無敵らしい 中
趣味は創作小説投稿、さんっちです。ジャンルには広く浅く触れることが多いです。
マイペースな子ほど、いざって時の頑張りがしっかりしてると思ってる。というか願っている。
トリアは気付いていた、彼が来てから見知らぬブーちゃんがいたことに。しかし他のブーちゃんがとても楽しそうに関わっていたし、何より追い出しては駆除される恐れがある。そのため、様子を見守っていたそう。
「あなたからは他のブーちゃんと違い、ほんの少し魔力を感じました。つまり、そういうことですか?」
「まぁそういうことね。アタシ、ボーって言うの。豚の身なりをした魔物、っていう感じ」
「ボーちゃんですか~、ここのブーちゃんと仲良くされてます?」
「そりゃもうバッチリよ!意外とアタシ、モテてるのよ」
「確かにボーちゃん、他の子と比べると鍛えてますよね」
「うーん、まぁつい最近まで、山中駆け巡ってたからね」
彼女は何故、この状況に対応している?そもそも、何故彼女に深夜の会議が勘づかれた!?トリアとボーの会話を、居心地悪く立ち会うダーヴィッド。冷や汗をかきつつ、警戒心を持ってこの場にいた。
「それでボーちゃん、ダーヴィッドさんと何をお話ししてたのですか?」
トリアがボーに尋ねたというのに、何故か「黙れ!」と、ダーヴィッドが急に牙を向く。
「トリア・パールム、これ以上は俺達に関わるな。貴様に知られては、危険な計画に巻き込むことになるぞ・・・!今回ばかりは見逃すが、これ以上は」
「あら、ダーヴィッド。彼女、使えるじゃない。協力者にしちゃいなさいよ」
「協力・・・!?ふ、ふざけてるのか!」
「良いですよ~、ボーちゃんは悪い子では無さそうですし。ダーヴィッドさんも顔は怖いですけど、誰かのために頑張らなきゃって思ってる感じですもの」
「あら~、いい目持ってるじゃないの。アタシを受け入れるし、ダーヴィッドの良さも分かってるし」
話は遮られるわ、どんどん話が進んでいくわ・・・!半分はいつものことだが、無関係の人間を巻き込むわけには!ダーヴィッドはさらに慌てていく。
「待て待て待て待て!勝手に決めるな、トリア嬢には荷が重すぎる。彼女にはこの候爵家を守るという役割があるではないか!」
「何を言うのですか。ダーヴィッドさんも、ブーちゃんを幸せにしてくれるという、私にとって大切な役割がありますよ」
トリアはいつも通り和やかに、それでいても真剣に言葉を告げる。本気で彼を必要だと示し付けるように。ダーヴィッドも流石に、すぐに否定できなかった。
「良いじゃない、教えても。というか教えるしかないでしょう、ここまで首突っ込んでくれたんだし」
はぁ~・・・と、ダーヴィッドから深い深いため息がもれる。遂に観念したのか、トリアを計画に巻き込むことを決心したようだ。自らの素性と共に、今抱えている計画について、全て明らかに話す。
ダーヴィッドは幼い頃、スラムで彷徨っていたところ、魔物側の世界に迷い込んでしまった人間だ。そこでボーに拾われ、幼少期のほとんどを魔物側の世界で過ごした。彼は生まれつき、動物と心を通わせる能力があったそう。そのため、魔物と心通うことはそう苦ではなかったという。
このままでも悪くない、自分は魔物のために人生を尽くすと思っていたある日。本来の境界線以外にも、別のところに歪みが生じて、2つの世界の通り口が生まれそうになっている噂が出てきた。
「もしそれが真実であり、万が一それが実現してしまえば。人間と魔物が互いに領域を蝕み、さらに対立は深まる。最悪、戦争にまで陥るだろう。俺は魔物も人間も、双方生存させたいタチだ。それは避けたい。
だが闇雲にその在処を探しても、ただ時だけが過ぎるのみ。どこか名家のつてを使い、効率的に調べたい魂胆があったな」
「なるほど~、そうして私を利用するつもりでしたか。それなら隠されると、尚更不満です」
トリアの笑みとちょっとの怒りに、ダーヴィッドは少し冷や汗をかく。
「まぁ、とにかく・・・その狭間がおそらく、この国のどこかにある。完全に開く前に見つけ出して、今の内に閉ざさないといけないのよ。こちらから開きかけている以上、こっちから閉ざす必要があるの」
「確かに本当に争いが起きれば、ブーちゃんにも危険が伴いますね。ブーちゃんが魔物に襲われたら、ひとたまりもありません」
「争いは喪失を生みすぎる、避けられるモノは避けるべきだろう」
ダーヴィッドがそう言うと、トリアはふと「フフッ」と笑った。
「私、ちょーっと誤解してました。ダーヴィッドさん、自分の世界に浸ることと動物さんだけが好きだと思ってました。でも本当は、沢山の人のことを、何よりも大切に考えてるんですね。
私、貴方となら・・・良い“協力者”になれそうです!」
「だってよ!良かったわね~、本当のアンタを見てくれる子で」
「へ、変な方向に話を持って行くな!と、ともかく、まずは歪みを探すぞ!!」
深夜のブーちゃんの家にて、「「おーっ!!」」とやたらと明るいかけ声がするのだった。
○
翌朝より、トリアは行動に移る。王妃でもある姉にも、公にしないように事情を伝えれば、「良いわよ、妹のためなら!」と情報を集めてくれる。勿論姉に頼るだけでなく、トリア自ら情報を集めようと、あちこちに飛び交っていく。まさかここまで動くとは、驚きだった。
確かにこの頼れ具合を見ると「豚好きが勿体ない」と言う輩の気持ちが分かる。だが、それを否定するのはトリア自身を否定すること。傷つけかねないので、何も言わない。
そんな日々を送ること1週間程。トリアの元に、気になる情報が来た。
「なんでもファビロス候爵家の領土内で、突然魔物の目撃が急増したようですよ。人的被害はまだ無い一方で、農作物を荒らされているとか」
「ファビロス候爵家って、ここより境界線から遠いわよねぇ?」
「・・・ならば、この近くにありそうだな。入り口となりかねない、歪みが」
一応、立場はこちらが上。ならば恐れている場合では無い。トリアはアポも何も取らず、堂々と候爵家へ向かうのだった・・・。
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「下」は明日“午後”に投稿する予定です。