EPISODE 1-8
なんでもない日常は突然奪い取られた。
「空…どうなってんだ…」
俺の問いに答えるものもおらず、答えられるものもいなかった。
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その日もごく普通のいつも通りの一日になるはずだった。
朝起きていつものように空と練習をして、ご飯を食べて学園に行った。
明や東条さんと他愛も無い話をして、授業を受けていた。
相変わらず退屈な内容でぼんやり外を眺めたりしていた。
今日の放課後は図書館に行こうかとか、空に買い物に付き合わされるのだろうかとかそんなことを考えていた。
今まで続いてきた日常は、これからも続くと心のどこかで安心しきっていた。
それは突然起きた。
授業中、しずかな教室の中に突然何かが爆発する音と、数人の男が入ってきた。
顔は隠されていてよく分からなかった。
ただ、その手には自動小銃が握られていた。
生徒は騒然とならずに、何が起きたか分からないという様子だった。
ただ頭だけは冷静で、落ち着いているのは自分だけだと理解できた。
何があったか分からなかった。
この状況で理解できるのは、自分たちが危機的状態にあるということだけだった。
リーダーらしき人間が突如話し出した。
「悪いが君たちには人質になってもらう。拒否はすなわち死を意味する。わかってもらえたかね?」
その瞬間教室の生徒に恐怖の色が表れた。
銃に魔法で対抗することは不可能ではない。
けれど、銃のトリガーを引く速さ以上の速度で魔法を発現させる必要がある。
それができなければ、魔法の発現前に弾にあたることになる。
おそらく"F"クラスにはそれだけ早く魔法展開できるものはいないだろう。
「君たち程度では銃に対抗できまい。おとなしく人質になっていてもらうよ。」
男はなんの戸惑いも無く言い切った。
間違いなく相手はプロだった。
突入から制圧まで無駄が無かった。
なおかつ、あまりにもあっさりと進入されすぎている。
もしかしたら内通者がいるのか?
3階にある"F"教室だけを制圧するとは考えにくい。
とすれば…もしかして空のクラスにも!?
辺りを見渡した。
動ける人間はいるか?
この状況をどうする?
応援は?
頭の中で思考が加速する。
「明、明。」
男たちに分からないように明に話しかけた。
「…お、おう。」
返事をした明の表情は硬く、余裕は感じられなかった。
ダメだ。
明は雰囲気に飲まれている。
東条さんも同じだろう。
こうなったら自分でなんとかするしか…
「おい!!何話してるんだ。」
突然おとこがこちらを向いて怒鳴った。
まずいな、ばれたか?
「黙ってろ。」
それだけだった。
男はまた視線をあたりにやって警戒し始めた。
どうする…
ピアスをはずせば何とかなるだろうが、周りにに被害がでるかもしれない。
一人状況を分析して打開策を練っていた。
しかし空のことも気になり、内心では焦っていた。
「そろそろ、始まるな…」
そう言って男は不敵に笑った。
なんだ?何が始まる?
男達の表情からは、喜びとも取れる表情が浮かんだ。
「学園のみなさん」
?
なんだ、どこから声がした?
顔を上げると机にある端末に映像が映し出されていた。
男は顔を隠していた。
「君たちには今、人質になってもらっている。」
教室中の生徒が緊張した面持ちでその映像を見つめていた。
誰一人声を発する者はいなかった。
「我々の目的は消えた同胞の解放だ。そのために政府との交渉材料になってもらう。」
消えた同胞の解放?
何のことだ?
「我々の要求が飲まれない場合は…」
そう言ってカメラは首謀者と思われる男から、横にいた2人の生徒に切り替わった。
…そ、空…?
それと、泉さん…
二人は目隠しをされ、椅子に座らされていた。
よく表情はわからなかったが、明らかに恐怖を感じていた。
「この二人に順番に犠牲になってもらうしかない。政府には早急に解放することをおすすめするよ。では30分後に1人目犠牲になってもらう。では。」
そう言って端末の映像は消えた。
今の映像はなんだ?
空だった…
その瞬間すべてのことが頭から消えた。
無意識に右耳のピアスに手が伸びていた。
「…すべての者に等しき眠りを、スリプル」
"風"属性下位魔法
琥珀の周囲から突如霧が発生した。
琥珀以外の人間が気付かずに吸い込み、教室中の人間が強制的に眠りについた。
そして、少年はピアスをはずし、立ち上がった。
その顔は氷のように冷え切っていた。
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(映像に映っていた場所は間違えなく体育館だった。)
そのことを確認し、空のいる場所に向かって走り出した。
そのとき、ポケットにある携帯端末が震えた。
「…はい。」
名前など確認しなかった。
こんなときにかけてくる人は一人しかいない。
「ゼロ、君の学校が占拠されたそうだ。」
やはり榊だった。
「分かっています。相手は誰ですか?」
本当はそんなことすらどうでも良かった。
ただ頭には空を助けることしかなかった。
「先日君が消した、ドラゴンブレイクの連中だ。奴らは消された連中が政府に捕まっていると思っているんだ。」
なるほど。
今まで疑問だったところが繋がった。
「分かりました。」
それだけ伝えて端末を切った。
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階段にも見張りの男がいた。
だがそんなものは相手ではなかった。
男が琥珀を見つけた瞬間に、男の存在はこの世から消えていた。
また別のものは気付く前に消されていた。
1階まで降りてきた時、3年生の生徒が廊下にいる事に気が付いた。
向こうもこちらに気が付いたのか、こちらに顔を向けたがすぐに上の階に走り去った。
たぶん"S"クラスのものだろう。
自力でなんとかしたのか、3年ともなると実力が違うのだろうか。
そんなことを思いながら、体育館に向かった。
まだ10分も足っていないはず。
空は無事だろうか、そればかりが頭を支配していた。
視界に入った男たちを、何のためらいも無く消していった。
琥珀が駆け抜けた後には、男達の銃だけが落ちていた。
体育館の入り口に見張りはいなかった。
舐められているのか、それとも罠があるのか。
どちらにしても、空を助けるためにはどうでもよかった。
たとえ罠だとしても、行くという選択肢以外は考えられなかった。
体育館特有の重い扉を押してあけた。
中には空と泉さんがいた。
目隠しをされ、いすに縛られていた。
それを見た瞬間に、琥珀の何かが音を立てて切れた。
「!?」
中にいた全員が驚いた目を向けてきた。
だがそんなことはたいした問題ではなかった。
「おい!お前何者だ!?」
手下の男たちが銃口を向けてきた。
それを横目で見ながら、リーダーに向かって言った。
「てめぇらには、消えてもらう。」
「ふざけるな、このガキがぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
その声が合図となって男たちが銃のトリガーを引いた。
体育館に銃声が響いた。
その音を聞いた空たちの身体は震えていた。
「…ばけものだ…」
男たちの一人がそうもらした。
「た、確かに、弾は当たっていたはずだ…それなのに、どうして…」
男たちの顔に先ほどまでの表情は消えていた。
変わりに恐怖が浮かんでいた。
確かに放たれた銃弾は、ひとつ残らず消え去っていた。
その先に少年は悠然と立っていた。
その目は男達を見ていなかった。視線の先には2人の少女の姿があった。
そして、少年の目が男を射抜いたとき、運命は決まっていた。
「…消えろ。」
冷たく言い放った声を最後まで聞いたものはいなかった。
断末魔の叫びを上げるものもいなかった。
「さて、後はお前だけだな。」
そう言って主犯格の男を見た。
「まさか君が来るとは思わなかったよ。」
先ほどまでの男達と違って、恐怖の表情も表れてはいなかった。
「俺もあなただと思いませんでしたよ、杉下先生。」
目の前にいる男は、この学園の教師だった。
「通りであっさり侵入されたわけですね。」
「君は本当に優秀かそうでないか分かりかねるよ。」
そう言って笑った杉下の顔は普段からは想像できないほどの威圧感を放っていた。
「…無駄話はもう良いでしょう。捕まるか、ここで俺に消されるかどちらを選びますか?」
尚も相手を見続けて、言葉を続けた。
選択肢を与えたのは初めてだった。
「君は何者だ。」
「あなたに教える義理はありません。ただの生徒です。」
「そうか…悪いが今日は撤収させてもらうよ。」
その言葉を言い切ると同時にあたりに白煙が立ち込めた。
(逃げる気か!?)
だが、今はそれより空と泉さんの安全だ。
ピアスを右耳に付け、詠唱を始めた。
「風よ、すべてを吹き飛ばせ、ウィンディー」
言い終わると、強い風が吹き、立ち込めていた白煙を吹き飛ばした。
その向こうに空と泉さんの姿を見つけ、安堵のため息をついた。
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すべてが終わった後、榊に連絡を入れ事後処理を頼んだ。
その後に駆けつけた教師たちに空と泉さんが保護されるのを確認して教室に戻った。
教室ではまだクラスメイトが眠っていた。
少し強くかけすぎたかもしれないと思ってみんなを起こすことにした。
明も東条さんはすぐには何があったのか理解できなかったようだが、次第に理解していった。
「なぁ琥珀、結局どうなったんだ?」
しばらくたって明が尋ねてきた。
どう答えると納得してもらえるのか考えた末に
「さぁ、俺も起きたらすべて終わっていたよ。」
そう答えることにしておいた。
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後日聞いたことだが、杉下という教師は自宅で殺害されていた。
その死体は死後1週間とのことで、初めから杉下は偽者だった。
教師も誰もそのことに気が付かなかったそうだ。
魔法か特殊な魔具を用いたのかはわからない、それに加え目的も未だに疑問が残る。
榊さんによれば確かに交渉はあったが、その内容があまりにも疑問を持たざるを得ないものだったらしい。
詳しくは聞けなかったが、他の目的ではないか、と言っていた。
そんなことより大変だったことが空だった。
助けに行ったとき、空は声を聞いて誰かわかってしまったらしくしつこく問い詰められた。
そのときは教室で眠らされていたと言うと、不満そうな顔をしながらしぶしぶ納得した。
ちなみに納得するまでに1週間ほど毎日ケーキをおごらされる羽目になったのは余談である。
こんにちは。
これでEPISODE1は終わりになります。
この作品は僕?俺?私?の初の作品です。
まだぜんぜん文章をうまく書けず、稚拙な文ですがここまで読んでくれたことに感謝です。
まだ書こうと思っているので、続きを読もうと思ってもらえていたら幸いです。