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EPISODE 1-7

「琥珀、今日の放課後だからね、忘れないでよ?」


朝の空の教室の前


(今日は生徒会に呼ばれていたんだっけ?)


「ああ、大丈夫。終わったら迎えに来るから待っていてくれ。」


そう約束をして一日が始まった。

ちなみに、空は今日の朝の練習でも"ゲート"は使えなかった。

ここまで空ができないというのは珍しい。


「おっす、おはよ。」


これも見慣れた光景で、教室に着くと明がもう来ていた。


「おはよ。」


そう言葉を交わして琥珀は自分の席に荷物を置いた。

(今日の時間割は…)


「琥珀、1限が魔法基礎だぞ。さっさと教室移動しちまおうぜ。」


明に言われて、席を立って行こうとした時に東条さんが来たことに気が付いた。


「おはよ、東条さん。」


「おぅ東条、おはよ。」


明とほとんど同時に挨拶をした。

少しハモったな、琥珀は頭の片隅で思った。


「おはよう、2人とも早いね。」


せっかくなので、ということで東条も含めた3人で移動することになった。

なんとなくこと2人といることが、日常となりつつあった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


杉下先生は1回目の授業と変わらず、のんびりしていた。

これで国でトップレベルの魔法遣いなのだと言われてもピンと来ないのが本音である。


この学園に通うものの将来は大きく分けて3つに分けることができる。

魔法研究をし、その傍らで教職に就く。

警察などの国家機関に属して、戦闘などの前線で魔法を遣う。

そして最後は、魔法に関する技術開発。


今はまだどれを目指すかはわからない。

空は人助けがしたいらしく、そっち方面をめざすらしい。

だが、あまり俺に関しては選択肢はあるのだろうか。


「じゃあ今日も前回とやることは同様です。ペアになって開始してください。」


前回と同じことか。

(できた俺はぼーっとしていて良いってことか?)

琥珀は特にすることも無く、がんばる明の隣でのんびり外の景色を眺めていた。

今日も清々しい陽気で、気を抜くと、すぐに夢の世界へと行けそうだった。


「暇そうですね、琥珀くん。」


突然名前を呼ばれたが、その声が杉下であることはすぐにわかった。

ふわふわとしていた意識を呼び戻し、声の主のほうへ顔を向けた。


「前回できましたからね。」


「君が優秀なのか、そうでないのか分かりかねますねー。」


相変わらずのんびりとしたしゃべり方をする人だ。

ホントにらしくない人だった。

人は見かけによらないという言葉は、この人のためにあるのだろう。

眠気でぼんやりした頭で、杉下の様子を見ながら考えていた。


「少なくとも優秀ではないと思いますよ。実際"F"にいますからね。」


そう言ってまた目を外にやった。

少しずつ桜が散り始めていた。

春風に乗って桜の花びらが飛んでいく光景は見ていて、落ち着くものがあった。


「そうですか?テストはあくまでテストですからね。」


この人は何が言いたいのだろうか。

疑われている?

それとも、俺のことに気付いている?

急速に思考が加速していく。

さっきまでの眠気は吹き飛んでしまった。


「…何が言いたいんですか?」


思わず聞き返してしまった。

(もし万が一何か知っている場合は…)

ある種決断を迫られた琥珀は、鋭い目つきで杉下を見た。


「特に含むものはありませんよ。機嫌を損なわしてしまったのならすみません。」


そう言って頭を下げた。

なんとなく油断できない相手だということだけは理解できた。

この教師は何かがおかしい。

だがそれが何かは分からなかった。

らしくないと言えばそれだけなのかもしれないが、どうにも琥珀には些細なことが気になった。


「おい琥珀。少しぐらいアドバイスしてくれよ。」


明の声でここが教室であることを思い出した。

考えは急速に萎んでいき、やがて保留という決断に至った。


「それ以前に俺は明が火を出すことができたことに驚いたよ。」


明を見た琥珀の第一声がそれだった。

(以前に明は"土"系統以外は使えないって言ってなかったか?)

でも今、琥珀の目の前の明は火を出している。


「馬鹿にするなよ?俺にだってこのぐらいは出来るんだよ。」


少し不機嫌そうに明が答えた。

教室の中には火すら出せない者もいるようだ。

(これで魔法学園なのか…)

がっかりした琥珀を裏腹に、明は未だ必死に続けていた。


「なら簡単だ。魔法で一番大事なものはなんだ?」


「…なんだそれは?気合か?」


どうやら明の頭の中は気合と根性で構築されているらしい。

何世紀経っても、この類の人間が減らないものである。


「…明、もう少し実技以外にも目を向けたほうがいいぞ。」


あまり効果は期待できそうにないが、一応忠告しておくことにした。

明は琥珀の忠告を予想通りスルーして、続きを促した。


「魔法を遣うときに、どんなことを意識する?」


明にも分かるようにヒントを出した。

これでわからないようなら、無理だろうと思っていた。


「うーん、確か脳内のイメージだったか?」


「そうだ、一番大事なのはイメージだ。ヒントは以上だ、がんばれ。」


「おい、それじゃあわかんねぇだろ。」


明が反抗してきたが、流すことにした。

魔法はそれこそ人に教えてもらえることは少ない。

それこそ理論のみだ。

実際に使えるようになるためには、日々の努力が重要になる。


俺も空もほぼ毎日朝、練習を続けてきた。

俺たちに魔法を教えてくれる人はいなかった。

空は小さなときから少しずつ両親に教えてもらっていた。

そのおかげで、俺に魔法を教えることもできたわけだが。


外の景色を見ながらぼんやりしているうちに授業は終わった。

この学園に入ったらいろいろとわかることが増えると思っていたが、どうやら買いかぶりすぎたようだ。

授業のレベルも決して低くはない。

だが、人より使える魔力が少なかった俺は、魔法の効率化と発動までのタイムラグをなくすことに尽くしてきた。

人より劣っていたからこそ、努力した。

誰よりも基礎理論と、構築を学んだ。

そのため授業の内容は必然的に知っていることばかりになった。


「琥珀、教室戻るぞ。外ばっかりみ黄昏やがって。」


(さっきのことをまだすねているのだろうか。)

そう思って明を見たが、どうやらそうではないらしい。

そしていすから立ち上がって明と教室に戻った。

東条はひたすら自分なりに努力していたことを、琥珀はしっかりと見ていた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


(もう放課後か)

ほとんど上の空で授業を聞いていた。

知りたいことは授業で教えてもらえることはなかった。


「明、悪いが今日は先に行くぞ。」


「ああ、空ちゃんと行くんだったな。」


うなずいて、東条さんにも挨拶をして、教室をあとにした。


「空、行こうか。」


相変わらず教室から向けられる視線は痛かった。

そんなことにも少しずつ慣れつつあった。


「そうだね。行こう行こう。」


空はうれしそうに少し前を歩いていた。


「失礼します。」


空に続き、生徒会室に入った。

そこには先日の2年生の女子と、数名の生徒がいた。

生徒会長と思われる人は、2年生の女子だった。

それから話し合いが始まった。


「それで、要するに一条さんは執行部に入る条件として冴原くんも入れてほしいと。そういうことですよね?」


「はい。」


空は生徒会長の確認に大きくうなずいた。


「結果だけいえば、それは不可能です。」


生徒会長は何のためらいもなく言い切った。

最初から分かっていたのであまり驚きはしなかった。


「え、どうしてですか?何でだめなんですか?」


空も食い下がるつもりはないらしい。

すると隣に座っていた男子生徒が口を開いた。


「"F"が執行部に入ることは不可能だ。何かあったときに"F"では対応することは難しいからな。」


予想通りの答えだった。

それでも空はなにか言い返そうとしていたので、止めておく事にした。


「空、もういい。先輩方もすみませんでした。」


そういってから、生徒会室を後にした。

空は隣でずっと悔しそうな顔をしていた。


「空、帰りにアイスでも食べるか。」


元気付けようと、空に提案してみた。

いつもならこれで元気になってくれるのだが、どうやら今日は違ったらしい。


「…琥珀は、悔しくないの?あんなこと言われて。私は悔しいよ?だれも本当の琥珀のこと分かってない。」


それだけ言ってまた空は黙ってしまった。

参ったな。

これは思ったより重症だ。


「空、ありがとう。俺は一人でも俺のことを知ってる人がいればいいと思ってる。」


そう言って空に笑顔を向けた。

空は悲しそうな顔をしていたが、やがていつもの笑顔を向けてくれた。


「…うん。私はちゃんとわかってるからね。」


それからはいつものように話したりしながら家まで帰った。

琥珀の内心は空と違って、ほっとしていた。

それからしばらくしてから、空は執行部に入ったようだった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


夕食も終わり、空は帰った。

時間もそろそろ12時を指そうかという時間だった。

琥珀は上着を掴んで外へ向かった。

陽のあるときとは違い、外は肌寒かった。


「ゼロ、怪我はもういいのか?」


少し歩いたところに榊が待っていた。


「問題ありません。早く終わらせましょう。」


そして二人は車に乗り込み夜の街に消えていった。

いつも通りの日常を得るために、いつも通りの非日常を過ごしに行った。

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