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EPISODE 1-4


今日から、入学式やら授業やらでしばらく休んでいた空との魔法の修行を再開することにした。

主に空に教えてもらう側であるが、理論などは琥珀が教えることの方が多い。

空は魔力が多い故に、多少のロスがあっても力を発揮できるため制御の方は苦手なようだった。

空に言わせてみれば、細々としたことは苦手だそうだ。


「さてさて、今日は何しますか琥珀さんや。」


おどけたような空に琥珀もすっかり慣れてしまった。

ちょうど昨日行った図書館で、便利な魔法を見つけ出し今日からそれを練習しようと思っていた。


「昨日図書館で見つけたんだが、面白い魔法があるぞ?」


そう言うなり空の目の色が輝いた。

たしかに最近新しい魔法に挑戦するということはなくなっていた。

それは、空がすぐに出来てしまうということがあるのだが…


「何何?すっごい魔法だったりする??」


「すごいかどうかは分からないが、便利であるな。マスターしたら、朝もう30分寝れるぞ。」


それを聞いた空は俄然やる気になっていた。


「ゲートっていう魔法だ。聞いたことぐらいはあるだろ?」


「おぉ、知ってるよ〜。やろやろ♪じゃあ呪文とコツ教えてよ。」


ホントに空はやる気満々みたいだ。

琥珀は、さっそく空にポイントと呪文を教えることにした。


「呪文は《わが道を創れ、ゲート》だ。」


魔法にとって呪文とは始動キーになるもので、必要といわれている。

だが、呪文さえ唱えたら魔法が発動するとは限らない。

魔法にも練習が必要なのである。

それが必要ないものが"異能"と呼ばれる魔法である。

逆に言えば、"異能"とは生まれつきの才能がないと使うことができないわけだ。


「よっし、どっちが初めにできるか勝負だね琥珀。」


そう言い切って空は集中し始めた。

辺りの空気がピリピリしだした。

空の中に魔力が高まるのが感じられる。


「わが道を創れ、ゲート」


さぁどうなるか、今まで空はほとんどの魔法をすぐにマスターした。

昨日の"フレイム"などは上級魔法なだけあって練習を必要としたが、空には他の魔法遣いがうらやむほどの才能があった。


「…」


が、しかしどうやら失敗みたいだった。

収束された魔力は行き場を失い、急速に霧散して消え去った。


「あれれ、失敗失敗。琥珀もやってみなよ。先に出来たら1週間お弁当作ってあげようか?」


空は悪戯な笑顔を向けた。

(お弁当というのは魅力的な提案だけど…)


目を閉じて集中しだした。

魔力の高まりを感じつつ、魔法のイメージを作り始めた。

(この魔法は、ゲート。

つまり扉で、空間と空間をつなげる。

だったら…)

琥珀は、昨日図書館で読んだ内容を反芻した。

そして意を決して、叫んだ。


「わが道を創れ、ゲート」


すると、目の前の空間が裂けその中に道のようなものが出来た。

そばで見ていた空は悔しそうな顔をしていた。


「ぶー、琥珀に負けたー。まさか一発で成功するとは思ってなかったよお。ねえねえ、これってどこに繋がってるの?」


(そういえばどこだろう。

本当に自分でも成功するとは思ってなかったから、出口のことは考えてなかったな。

まさか入り口だけじゃないよな?)

琥珀の頭に少し疑問が浮かび上がり、そしてそのことが頭から離れなかった。


「入ってみるよ。気になるしね。空は少し待ってて。」


(多少不安ではあるが、成功かどうかはまだわからない。)

琥珀は恐る恐る裂けて出来た空間に足を進めていく。

空間のなかは真っ暗というわけでなく、薄暗い月明かりのある夜のようであった。


「出口が見えてきたな。」


誰もいない空間で、見えた出口に向かってひとりでに口が動いていた。

一際明るい空間が目の前に現れた。

琥珀には最も見慣れた風景だった。


「琥珀、なんで家から出てきたの?」


不思議そうに空が聞いてきた。


「ああ、出た先が俺の部屋だったんだ。自分でも驚いたよ。」


そう言うと空は笑っていた。


「琥珀らしいね、なんだか気が抜けちゃった。そろそろ朝ごはんにしよっか。」


練習が少ししかできなかったが、仕方がないとあきらめ家に身体を向けた。

(また明日からやればいいことだしな。)

自身に言い聞かせるように心の中でつぶやいた。


「そうするか、今日は俺も作るの手伝うよ。」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「おっす、早いな琥珀。」


教室に着くともう明が来ていた。

相変わらず朝は得意なようだった。


「明には勝てないけどな。」


そう言って琥珀はかばんを机に置いた。

(今日は午前が教室での授業か。

移動は…6限の魔法基礎理論か。)


「今日も相変わらず仲良く登校してんのな。」


明が近くの机に座った。


「今日は朝から魔法の練習してたからな。明は"ゲート"使えるか?」


1限の授業の用意をしながらふと明に聞いてみた。


「"ゲート"?俺は使えないが、親父とか兄貴は使ってた気がするな。それがどうかしたのか?」


「今日の朝空と練習してたんだ。それで気になっただけ。」


「もしかして出来たのか?」


「空は無理だったけど、俺はなんとか形にはなったよ。繋がった先が自分の部屋っていう情けない結果だったがな。」


琥珀は苦笑しながら明に言った。

(そもそも繋ぐ先の指定を忘れてたんだよな。)


「お前それって…すごいんじゃないのか?」


「うむ。これをマスターすると、朝30分寝ることが可能になる。」


笑いながら明に言うと、


「それはすごいな。俺にも教えてくれよ。」


(この明の食いつき様はなんだろうか…)

まあ明のことだ、山にでも行くんだろうと琥珀は、勝手に納得することにした。


「明は早く起きてるしいらないんじゃないのか?まあ、今度時間があればな。」


「頼んだぜ!」


そんな会話をしているうちに朝の短い時間は終わりを告げた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「おーい琥珀。次移動だぞ。行こうぜ。」


(次は魔法基礎理論だったっけ。)


「そうだな。ちょっと早めに行って聞きたいことがあるんだけど、いいか?」


昨日図書館で見たあの記事のことを聞いてみようと思っていた。

資料自体古いものだったので、それが事実かどうか確認したかっただけなのだが。


「おーけー。ならさっさと行こうぜ。」


そう言って明が振り返ってドアから出ようとした時


「あいたっ…」


明のデカイ体に隠れて見えなかったが、向こう側に小柄な女子が立っていた。

その女子に明がぶつかってしまったのだ。


「おっと…大丈夫?」


琥珀はとっさに体を動かして、なんとかその生徒が転ぶのを防いだ。

えっと確かこの人は同じクラスの


「東条さん?」


「えっ?ああ、うんそうだよ!」


「あ、悪ぃ大丈夫か?」


少し申し訳なさそうに明が東条さんに謝った。


「ううん、大丈夫だから。冴原くんだよね?ありがと。」


「いえ、大丈夫そうで何より。明も気を付けなよ?デカイんだからさ。」


少しおどけたように言ってみると、明はさらに申し訳なさそうに謝った。


「んじゃ、気を取り直して行くか。東条も一緒に行こうぜ。」


ホントにフレンドリーな奴だな。

さて、東条さんはどうするのかな?

チラッと彼女のほうを見ると、明るくうなずいていた。


「いいよ。行こう行こう。」


なんだか東条さんも親しみやすい人のようだ。

(明とは馬が合うかもしれないな。)

そんなことを思いながら3人で授業の教室まで行った。


残念ながら、ゴタゴタのせいで時間がなくなり聞くことはできなかった。

(担当の名前は何だったっけな。)

そんなことを考えているうちに授業が始まった。


「えー、魔法基礎の担当の杉下です。」


なんか見た目も中身も普通。

この人大丈夫なのか?

つい疑ってしまいそうなほどおっとりした人であった。


「そうですね、説明するより見てもらった方が早いので…」


そう言って、手の中に炎をともした。

そして次の瞬間、赤いはずの炎は青になった。

教室の誰もが驚いた様子だった。


「まぁ、見てもらった通りに、魔法を知り、魔法を理解し、制御するとこのようになるわけです。」


生徒の目は先ほどの疑惑を浮かべざるを得ない時とは表情が一変した。


「魔法制御は、魔法遣いに取ってはもっとも重要な技術です。この制御が上手くいかなければ、暴走し最悪の場合は自分に被害がおよびますからね。」


そう言うなり、手元の端末を操作しだした。

出席はIDカードで確認できるので何をやっているのかと思っていたら、おもむろに顔をあげた。


「このクラスでは、そうですね…冴原くんが一番この制御ができていますね。」


そしてこっちらに視線を向けた。

何を思っているのか分かりかねる表情だった。

個人的にはあまり好きになれない男のようだった。


「この授業は主にこの制御が中心となります。まず、3人ペアになって今見せたことが出来るようになってもらいます。」


俺は明とペアになった。

やはりこういうグループ的なものは気心が知れたもの同士が一番やりやすい。


「あと1人どうすっかな。あっ、東条一緒にどうだ?」


明は近くにいた東条さんに声をかけた。


「うん。一緒にやろー。」


東条さんも、もう明に慣れた様子だった。

(なんとなく空に似ているのか、どことなく親しみやすいな。)

琥珀は、そんなことを暢気に思っていた。


「じゃあ、始めてください。できたら言ってくださいよー。」


この先生も暢気だ。

平和な光景だった。


「一番にできたらジュースな。」


明が勝手に勝負を始めてしまった。

なんとなく聞いたことがあるセリフだった。


「えぇ!?ちょっと待ってよ〜。」


東条さんも負けじとやり始めた。

どうやらのんびりしてるとジュースをおごらされてしまいそうだ。


一呼吸置いて、集中力を高めた。

この程度なら呪文は必要ない。

まず右手に炎をともした。

ここまでは簡単だ。

次に、この赤い炎を青に変える作業だ。


「できねぇ。」


明が近くで唸っていた。

その声をかすかに聴覚で捕らえながらも集中力は切らさなかった。

青い炎…青…

そう強くイメージした。

魔法はそうしたイメージが結構重要になってくる。


そして、目を開けた。


「ん、出来た。」


小さくつぶやくと明が振り向いた。


「ちっ、あとは俺と東条の一騎打ちだな。負けたらジュースだからな。」


明は東条さんに言うなりまた集中した。

東条さんはコツをつかめばすぐにできそうだ。


「あれ、冴原くんできたのですか?」


見回りをしていた杉下先生に声をかけられた。


「あ、はい。」


「そうですか、さすがですね。君がFにいるのが不思議なぐらいですよ。」


笑いながらそんなことを言った。

馬鹿にしているのか、褒めているのか、どちらに取るべきか。

琥珀はそんなことを考えていた。

ふと、さっき聞きそびれたことが頭によぎった。


「あの、少し聞きたいことがあるんですが…」


不思議そうな顔をしてこちらを見てきた。


「何ですか?質問ですか?」


そして昨日からの疑問を口に出して聞いてみた。

果たしてそんなことが可能なのか。


「…理論上は可能と言われているし、実際に使える人もいる。だがそれはかなりの難易度であることは間違いないよ。」


可能なのか。

その言葉を聴いた瞬間今までもやもやしていたものがすっきりと晴れた気がした。

結局その人授業では俺以外に課題をこなせたものはいなかった。

ジュースは二人のうちどちらかができるまで待つこととなった。

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