EPISODE4-1
季節が流れて7月になった。
制服もすでに夏服になって1ヶ月が過ぎた。
忙しかった中間テストも無事終わり、今日からは学祭の準備期間に入る。
うちの学園は少し特殊で、近くの東高校と合同実施なのだ。
学園は広いが生徒が少ない、東高は生徒が多いが敷地が狭い、お互いの利害関係で成り立っていたりする。
大人の事情はさておき、学祭が9月実施なのに7月から準備期間とは少々早いかもしれないが、学園としてはあまり授業に影響が出ないようにとの配慮だそうだ。
「遅いな。」
HR教室ではなく特別教室で東高の生徒を待つ。
しばらくは午前が魔法関係の授業で、午後からは東高と合同で普通の授業が行われる。ちなみに全校生徒は来られないので、1学年で3クラスの計9クラスのみが学園に来る
残りはそのまま高校に残って授業と準備をするらしい。
「どんな奴らが来るんだろうな。」
朝から必要以上に張り切っている明。
明ほどではないが落ち着かない様子の東条。
興味がなく、シロと遊んでいる琥珀の順に右から並んでいる。
いつもの教室よりも随分と広く、まだ東高の生徒が来ていないので閑散としている。
「相変わらずシロは琥珀にベッタリだね。」
東条が恐る恐るシロに手を差し出す。
その様子に気がついたシロはじっと見つめる。
そして次の瞬間、
かぷッ
東条の右手の中指が噛み付かれた。
「あ痛、やっぱダメかぁ。」
噛まれた指をさすりながらガッカリする東条。
生まれた日から琥珀以外には容赦なく噛み付き、その度に琥珀は謝っている。
空と東条はどうしてもスキンシップを取りたいようで、めげずにたまに触ろうとする。
泉と要と明は諦めて見ることに徹している。
「悪いな、これでも頑張ってるんだけど。」
ポケットから机の上に移動させる。
トテトテと歩きながらキョロキョロと周りを見ている。
「おっ、来たみたいだぜ。」
明が嬉しそうに指をさした。
特別教室は大学のような作りで、扇形で後ろにいくほど高くなっている。
琥珀たちは一番後ろの左端に座っている。
席は3人で1列、計20列ほど散らばっている。
「来たようなので授業始めるが、まぁ初日と言うことなので自己紹介からやるか。」
数学の中年の男性教師が提案を出した。
その間にゾロゾロと入って来た生徒が適当に席につく。
前の1列には女子3人が座った。
学園の制服よりもかわいい感じのブレザーで、スカートも短めだった。
「かわいい制服だよね。」
小声で東条が明に話し掛けていた。
明はキョロキョロと見渡している。
男はかなしい生き物だとつくづく思いながらも、琥珀はシロとじゃれあっていた。
「―――――です。」
前の席の自己紹介が終わる。
次に明と東条が自己紹介をしていた。
終わって琥珀が立ち上がって当たり障りの挨拶をしようと口を開いた。
「あーーーッ!!」
唐突に琥珀の声が妨げられる。
声のする方を見ると、前の席の真ん中に座っている生徒だった。
大声に一瞬静まり返る教室。
「あっ、えっと・・・すみません。」
女の子が謝って、琥珀が何もなかったように自己紹介をする。
名前と特技、と言っても特に何ができるわけでもないけど。
あと胸ポケットにいるシロの紹介をして再び席に座った。
その後はつつがなく自己紹介は続いていった。教室に生徒は合わせて60人程いる。
学園生が25人で残りが東高の生徒である。
うちのクラスは特別問題がある生徒か集まっているが、それでも有数の魔法学園の中での話だ。普通の人からするとFクラスであっても立派なエリートだったりする。
東高の生徒も興味津々と言った様子で食い入るように見ている。
授業自体は50分なので、大体一周する頃には授業時間も終わりに近づいていた。
「よし、とりあえず一通り済んだな。まぁそういうことだ、仲良く頑張ってくれ。」
切りよくチャイムがなり、担当教師が教室から出て行った。
ちなみに今日は6時間授業なので、あと1時間授業が残っている。
琥珀は大きく息を吸って座ったままで縮こまっていた体を目一杯のばす。
その時、前の席の3人組が一斉に琥珀の顔を覗き込む。
「ん?」
両手を上げたままの姿勢で琥珀は固まった。
いきなり見知らぬ3人の女の子にじっと見つめられて困ってしまった。
「・・・あの、えっと」
掛けるべき言葉を探してみたものの、見付からず結局戸惑いがそのまま出てしまった。
そんな様子をポケットからシロが覗いている。
同じように明と東条も見ていた。
『・・・』
6人の間に沈黙が訪れる。
一番始めに口を開いたのは真ん中に座っている女の子だった。
「あの!!・・・この間助けてくれましたよね?」
真っ直ぐ琥珀の顔を見ながら言う。
「あの時はありがとうございました。お礼も言いそびれちゃって。」深々と頭を下げた女の子は、髪は肩ぐらいまでの長さで、黒よりも少し明るめの色をしている。
目は大きく、空とはまた違った可愛さをして、むしろ美人という方が似合っている。
「琥珀、お前いつの間に・・・」
いち早く反応したのは明だった。
そしてとてつもなく勘違いをしているであろう事は手にとるようにわかる。
「えーっと・・・」
琥珀は言い淀む、それはもちろん明に対してでなく、目の前の美少女に対してである。
「覚えて、ないんですか・・・?」
すごく悲しそうな表情をする、それだけで琥珀としてはこの上ない罪悪感を抱かせる。何をしたのか自問自答してみるものの返事はなく、ただ申し訳なさが募るだけだった。
それを見て美少女がさらに言葉を続ける。
「5月の連休の最終日でした。
その日はこの2人と遊びに行く為に待ち合わせ場所に向かっていたんです。
でも、その途中で何人かの男の人に無理矢理連れていかれたんですけど、それを助けてくれたんです。
覚えていませんか?」
少しずつ思い出されていく記憶と、その時に助けた人の顔を思い出す。
「ごめん、あの時急いでたからあまり顔をよく覚えてない。」
素直に謝る琥珀に少女は少し驚いてから、優しく笑みを零した。
それがあまりにも綺麗で、明は東条の隣で見惚れていたのに琥珀は気が付いた。琥珀自身もあまりの綺麗さに驚いた程だ、明のことは気にしない事にした。
「俺、何か変なこと言ったかな?」
突然笑い出したことに疑問を持った琥珀はそれを素直口に出した。
「あっ、いえ違いますよ。
ただ、打算や下心がなくて純粋に助けてくれたことがうれしくてつい・・・」
と、ごまかすように笑った彼女の顔も魅力的だったことは明を見ても一目瞭然だったことは言うまでもない。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「それじゃあ・・・」
『かんぱーい!!』
紙コップにジュースを入れたものを教室の全員がかかげる。
放課後になって、予定していた歓迎会が行われている。まだ全然名前を覚えていない琥珀は隅の席に座ってシロと遊んでいた。
「何で端っこにいるんですか?」
琥珀に話し掛けてくる。
「あぁ、神崎さんか。」
顔を上げて彼女を見た。
神崎双樹
たまたま危ないところを助けた時に出会った人
明るく友達も多い
というのが琥珀の認識だった。
「他人行儀は嫌いです。
双樹って呼んでくださいよ。」
頬を膨らませて拗ねる彼女はさぞかわいらしいのだろう。
と思っている辺り琥珀は彼女に、というか女に興味を持っていない。
「はぁ。
ところでどうしたんですか?」
会話の流れを無理に変える琥珀に嫌な顔をせずに双樹は答える。
「出し物を決めるから少し来てほしいって。
何するか楽しみですよね。」
弾ける笑顔とはこの事だろう。
コロコロと変化する表情を琥珀は見つめていた。