EPISODE3-8 after
数日後
研修旅行の疲れもあり、琥珀は特に何もすることもなく家でだらだらと過ごす日々が続いていた。
とはいえ、毎日の空との魔法の練習を疎かにする事はなかったが・・・
そして大型連休の最終日である今日はいつものおなじみメンバーでの食事の予定が入っていた。
「あっ、やば。」
現在時刻11:00
待ち合わせの時間まであと30分を切っていた。
琥珀はまだ自宅にいた。
朝の練習が終わった後いつものように調べ物をしながら過ごしていた。
気が付いたのはつい数十秒前
「・・・あ、時間。」
と言う事ですぐさま着替えを済ませた。
朝に一度鍛錬の後にシャワーを浴びていたので寝癖の心配はない。
「服は・・・いつも通りで大丈夫。
財布は・・・よし。
んじゃ行くか。」
残り時間はあと28分
急げばギリギリ間に合う。
ここから待ち合わせの駅前までは歩いて30分
ちなみに空は泉や東条たちと買い物に行っている。
勢いよく入り口のドアを閉めて鍵をかける。
鍵と言っても生体認証のために旧世代の持ち歩く鍵ではない。
「あー、やばいやばい。」
一応街中での魔法の使用は極力控えなければいけない。
禁止ではないが、いろいろと大人の事情らしい。
しばらく走ると琥珀の額に汗がうっすらと浮かび上がった。
さすがに5月にもなると気温は高くなる。
「なんとか間に合いそうだな。」
ダッシュから速度を落として歩きに変える。
駅前の近くの商店街を通る。
一時期は大型デパートなど複合店舗が増えた時代もあった。
しかしやはり人間は人と人とのふれあいが大事だったのか、再び商店街と言う旧世代のものを作り上げた。
などとのんびりと歩調を遅めた琥珀はぼんやりと考えながらふと聞こえてきた声の方を振り向いた。
「・・・め・・・さいッ!!」
「(カップルのケンカかな。)」
それとなく向けた視線の先をよく見た。
なぜか周りを歩く人は一瞬だけ目を向けて、今度は足早にその場から去って行く。
またある人はオロオロと周りを見渡しているだけ。
「(あぁ、なるほど。)」
さっきの声の主は一人の女の子だった。
いわゆるナンパだったりするわけだ。
「だから、放してください。」
「いいじゃねぇ~かよぉ。ちょっと俺たちに付き合ってくれるだけでいいんだからさぁ。」
「そうそう。別に変なことしようって思ってるわけじゃないんだからさぁ。」
「へへへ。」
と、こんな感じで絡まれていたりする。
もはやナンパではなく、誘拐なんじゃないか。
そんなことを思いながら周りを見渡したが誰も助けに行く様子はない。
そんなことをしている間に女の子は手をつかまれて路地裏に連れて行かれてしまった。
そして琥珀は思わず口から言葉が漏れた
「・・・な、なんてべたな展開・・・」
~~~~~~~~~~
やっぱり世間なんて冷たいものだ。
それを今日この瞬間に身にしみて感じた。
とおり過ぎる人は、見て見ぬふりをするかもしくは誰か別の人に頼ろうとする。
たしかにその気持ちはわからなくもない。
というかむしろわかる。
逆の立場なら私は何もできないだろうから・・・
「い、痛いッ!!」
さっきから掴まれている右手首が痛い。
やっぱり護身術ぐらいできないと危険なのかなぁ。
と、そんなのんきなことを考えている時点で私はこの現実から目を背けているんだろう。
そりゃドラマとか漫画みたいに突然イケメンな人が助けてくれなくてもいいけど、せめて1人ぐらい助けてあげようとする人がいてもよかったんじゃないかと思ったりなんかしてる訳だ。
ニヤニヤしながら手を引く男は最悪である。
「へへ、まぁそんなこと言うなよ。もうすぐ着くからさ。」
そう言いながら見えてきたところは明らかに人通りが少ない通りに建っているビルのようなものだ。
機能しているのかわからないが、見た目は廃ビルのようだ。
あぁ、初めては絶対に大事にするって決めてたのに・・・
と半ばあきらめかけた私を無理やりビルの中に引きずり込んだ男たちの目は心なしか血走っている。
しかもさっきは3人しかいなかったのに、なぜか5人に増えている。
「さぁ、着いた着いた。これからゆっくり楽しもうや。そういやお前の名前は?」
まさに今からピーなことをしようとする男の顔は気持ち悪いぐらいの笑みである。
周りにいる男も似たようなものだけど。
正直なところ私はこの状況から逃げ出す自信などない。
かと言って素直に従う気もないけれど。
「・・・」
黙りこくっている私に何をするわけでもなく無言で近づいてくる男
あぁ、神様
と、別にキリスト教でもなんでもない私はすがり付いてみたりする。
もう絶望的な状況に頭が付いて来ない。
「!?誰だテメェ!?」
男の一人が私の頭上を見ながら訳のわからないことを言う。
はっ!!
もしかしてこのビルってお化けがでたりとか・・・
男たちの顔は特に恐怖と言うわけではなく、むしろ怪訝な表情だ。
「いや、ただの通りすがりです。」
「はぁ?何テメェ意味わかんねぇこと言ってんだ?ここは立ち入り禁止だぜ?」
一人の男が笑うとすぐにそれにつられてほかの男たちもゲラゲラと笑い出した。
とりあえず振り返ってその人物の・・・
足が生えているのかを確認
ここでもしなかったら、と思ったら背中に冷たい何かを感じた。
「まぁいい。テメェも始末しないといけねぇなぁ。」
男の声を合図に3人の男が飛び掛る。
いやコレはどう考えても通行人さんは勝てないっしょ。
と、さっきから振り向くことはためらっていた私は思い切って飛び掛って行った男たちの方を見た。
ここで予定ならば1人の男の人がフルボッコにされているはずだった。
普通はそう思うはず。
「な・・・」
後ろから聞こえた男の声は詰まっていた。
目の前に広がっているのは本来見えないはずの風。
と言ってもその通りすがりさんの体の周りを激しく風が渦巻いていた。
そして3人のイカツイお兄さんたちはみっともなく地面でお寝んねなさっていた。
もう言葉が出ません。
「・・・」
と、私が呆然としていたところにさらに声が降る。
「テメエ、なめんなよ!!」
「へへへ。」
と言いながら二人の男たちはそれぞれポケットと懐から何かを取り出す。
一人の痩せ気味な男はポケットからバタフライナイフ
なんて古典的な!!
と思わずツッコミたくなる衝動を抑えて隣を見ると、リーダー格の男は胸元からあろう事かハンドガンを取り出した。
もしかして、本物でしたか!!
にもかかわらず通りすがりの少年、いや青年?
同い年ぐらいの男の子は顔色を変えない。
そして今頃気付いたが、もう私は完全に蚊帳の外
「・・・はぁ。」
とだけ言って風は収まり、それを見た男はナイフを持ち青年に飛び掛る。
それを軽やかな動きでかわした。
その直後に飛び掛ったはずの男が静かに崩れ落ちる。
「えっ?」
明らかに今何もしてないのに倒れたよね?
なんでなんで?
と思っている暇もなくもう一人の男がハンドガンの銃口を向ける。
これはもうさすがに・・・
「なめたマネしやがって。なるべく使う気はなかったんだけどなぁ。」
いやいや、使う気満々で懐入れてましたやん!
私の心の中のツッコミなどわかるはずもなく、トリガーに置かれた人差し指に力が込められた。
その刹那
―――――パンッ!!
男の右手の先に握られたものから煙が吐き出される。
あれが世に言う硝煙なのかと冷静に見る暇もなく、撃たれたはずの青年を見る。
が、すでにそこには姿はなく男の後ろで悠然と立っていた。
おぉ、私は生まれて初めて瞬間移動と言うものを見ました。
思わず端末のカメラを向けていた。
今冷静に考えると瞬間移動って撮れないじゃん。
「それじゃあ。」
と言って振り下ろした手刀で襲ってきた5人組は全員地面に倒れていた。
その間はわずかに十秒程度だった。
そのとき不意に私の頭をある言葉がよぎった。
それはもちろん、
「お」
「お?」
私の言葉を繰り返す通りすがりさんを他所に続けた。
「王子様!!」
「えっ?」