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EPISODE 1-3

「冴原、得意な属性でいいから自分が出来る限界の魔法を見せてくれ。」


(そう言われてもな・・・

実際どの属性の魔法を使えるけど、上位魔法が使えないんじゃな)

たいていの魔法が使える人間はどれかひとつ上位魔法を使えるものである。

それは琥珀にとって致命的な問題であった。


「わかりました。」


(とは言え、授業では仕方ない。

自分に出来る限界か・・・)


「水よ、集いて我が姿を写せ、アリアス」


永唱が終わると共に、周囲の空気が急速に冷却されていき水が作り出された。

そしてその水を自分の制御下に置き、コントロールして自分にそっくりな水の分身を5体作った。


「うむ。少し動かせるか?」


「はい。」


"水"は多少得意なだけあって、琥珀は教師の注文にも答えることが出来た。

上位魔法ではなく、中位魔法である。

しかし、自らの分身を作り出すということは魔力以上に制御能力が試されるのである。


「OKだ。もういいぞ。」


そう言われてから、魔法を解いた。

自らの姿をした分身は、構成されている水分をすべて蒸発させてその場から消え去った。


「水分身か、まぁ普通だよな。ただ5体とは驚きだがな。」


終わるなり明に声をかけられた。


「ああ、魔力が少ないからな。仕方ないさ。」


そう言いつつ、空のいる方に目を向けた。

ちょうど今から空が始めるようだった。


「おっ、空ちゃんだぜ、琥珀。」


明も気が付いたみたいだ。

(みんなが空の魔法見て落ち込まなきゃいいがな。)

そんな心配をしてると、空が永唱し始めた。

体育館の中に緊張が走った。


「地獄の業火よ、我が障害を焼き払え、フレイム」


やはり学年のトップの空にはみんな注目しているようだった。

琥珀は、空の集中力が爆発的に増えたことを表情から読み取ることができた。

次に膨大な魔力が収束していき具現化し始めた。

すると、急に体育館の中の温度が上がった。

そして、空の目の前にあった空間に黒い焔が現れた。


「うっわフレイムかよ、空ちゃん上位魔法をあっさりとやっちまったぞ?」


隣で明が予想通り驚いていた。

周りの生徒たちも明と同じような反応だった。

でも空が本気になれば体育館が丸焼けになりかねない。

そこら辺は、空もしっかり考えていたようだ。


「こら、三島明!お前の番だぞ。」


突然言われて、明は何の事かわかっていない様子だったが、自分の順番だと分かるとすぐに教師の元に向かった。


「でも相変わらず空は凄まじい魔力だな。」


終わった空に声をかけた。


「まだまだだよー。」


嬉しそうに笑っていた。

(実は褒められて嬉しいのだろう。)


「ん、明。終わったのか?」


いつの間にか戻ってきていた明に気が付いた。


「・・・ひどいな、琥珀。」


明は落ち込んでいた。

(案外ナイーブな神経らしい。)


「すまん。それで明は何をしたんだ?やっぱり"土"系統か?」


「まぁそういうことだ。そもそも"土"しか使えん。お前達がすごいんだよ。」


「確かに空はすごいと思うよ。」


そう言って、二人の視線は空に向かった。


「そ、そうかな!?」


空は少し照れていた。


中学までは、普通の学校に通っていたから褒められ慣れていないんだろうな。

学園は魔力がある人間ばかりだが、中学校は違った。

魔力があるというだけで、怖がられたりやっかみの対象になったりと。

それにさらに厄介だったのは、空の容姿だった。

魔力がある上にかわいかったから、女子からはあまり良くは見られていなかった。


「空ちゃんの魔法すごかったぜ。またファンが増えたんじゃないのか?」


明は周りに視線をやると、案の定男子がこちらを見ていた。

空の人気ということもあるだろうが・・・


「俺達がFだからという可能性もあるけどな。」


「ああ、それもあったな。」


魔法遣いの世界は、絶対的な実力社会

才能のあるものは、才能を生かせるようにあらゆる特別扱いを受けることができる。

この学園でもその例外ではない。

現にクラスというものが顕著に表している。


「私はそんなの気にしないよ?」


「空は気にしなくとも、周りは気にするんだ。」


「そうだな、でもそれも仕方ないんだろうけどよ。」


明はそういうこともちゃんと分かっているようだ。


「うーん、でも私は琥珀の味方だよ。」


笑顔で空が言い放った。

だから、周りの視線が・・・


「そして何故明まで俺を見るんだ。」


明が俺をジト目で見てきた。


「果報者が。」


そんな感じで、初めての授業は終わった。

ただ、琥珀はさし語の明の言葉だけは理解できなかった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


実技の授業以外は特に目立ったことはなかった。

1世代前なら教室に教師が来て全員で授業をしていたそうだが、科学技術が発達した現在は、各個人の席に端末がありそれを使い授業を受けるという形式である。


「琥珀、飯どうすんだ?」


昼休み、明が待ちに待っていたと言わんばかりに琥珀の席にすぐにやってきた。


「特に決めてない。明はどうするんだ?」


「なら学食行ってみようぜ。うまいらしいぞ。」


「ならそうするか。学食ってどこにあるんだ?」


(そういえば、学園内のことあんまり知らないな。

帰ってから調べるか。)


「体育館の近くだったと思うぞ?」


琥珀は、明について学食に行った。

学食も予想通り無駄に広かった。

明と適当にメニューを決め、空いてる席を探して座った。


「結構混んでるんだな。」


と言ってから、ふと空がいるかもしれないと辺りを見てみた。


「琥珀!やっぱり学食来てた。明君も一緒なんだね。」


見ていた方と全く別の所から空が現れた。


「空も学食なんだな。にしても・・・多いな。」


空の周りには5、6人の男女がいた。

さすが空と言ったところか。

もうこんなに友達ができたのか。

それとも、空がかわいいからか…どちらにしろ人気者に変わりはない。


「みんなと学食に食べに来たんだ。琥珀と明君も一緒にどう?」


ニコニコと元気な笑顔を向けた空とは対照的に、周りのクラスメイト達はあからさまに嫌そうな顔をした。

普通はFに良い印象を持っている人間なんかいない。


「いや、俺も明もすぐ終わるからまた今度にするよ。」


琥珀がチラッと明を見たら、どうやら明も理解したようだ。

やはり"S"クラスの人間には優越感に浸っている人間が多いようだった。


「んー、そっか。ならまた今度ね。」


そう言って空は、残念そうに去って行った。

周りの反応は違ったようだが。


「やっぱりFにいるってだけでこうなるんだな。」


そう明が言い、残りの食事を済ました。

あまりその発言の内容を考えないようにして、琥珀は頼んでおいたラーメン定食を食べ始めた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


放課後


「琥珀は部活やるのか?」


「明はやるんだろ?」


明は見た目にも内面も運動部だった。

それは男子ならば一度ぐらいならあこがれた体型かもしれない。


「当たり前だ。」


やはりと言って良いほどの返事であった。


「ちなみに何部にしたんだ?」


大体想像はつくが、ここは聞いておくことにしよう。


「俺はサバイバル部だ。面白そうだろ?」


…似合いすぎる。

あまりにも似合いすぎてどう反応を返して良いか一瞬迷った。


「…あぁ、ピッタリだと思うぞ。今日は行くのか?」


「もちろんだ。琥珀はどうするんだ?」


「俺は部活をするつもりはないよ。」


俺がこの学園にきた理由は部活をするためじゃない。


「そうなのか?そっか、まぁ気が向いたら見たらいいか。」


「そうするよ。行かなくて良いのか?」


「おおぅっ、もうこんな時間じゃねぇか。行ってくるわ。」


そう言って、明はすぐに教室から出て行った。

さて、空はどうするんだろう。

ポケットから携帯端末を取り出し、空に電話してみた。


~~~~~~~~~~


「琥珀ー、帰ろっか。」


そう言って空が教室を出ようとした時


「あれ、空ちゃん帰っちゃうの?」


教室の中から空を呼ぶ声がした。

空のクラスメイトのようだ。

そして隣にいる俺を冷めた目で見ていた。

(そんなに俺と空がいるのが気に食わないんだろうか。)


「みんなで、お茶の飲もうって話してたんだけど…」


そう言って空の様子を伺った。


「そうらしいけど、どうするんだ?」


とりあえず聞いてはみた。


「うーん、どうしよう…」


空は少し迷っていたようだが、ここは一肌脱ぐことにした。

変に対立してもギスギスするだけである。


「せっかく誘ってもらったんだから、行ったらどうだ?」


「でもそれだと琥珀が…」


「俺は一人でも家に帰れるさ。」


「…わかった。行ってくるね。」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


琥珀は、せっかく時間が空いたので図書館で過ごすことにした。

さすが日本屈指の学校というところだ、蔵書量が半端ではない。

その中には部外者が閲覧することができない資料もある。


そもそもこの学校に入ったには2つ理由があった。

1つ目は、魔法の制御

2つ目は、3年前の事件のことである。


そのとき気が付くとすでに病院で寝ていた俺には何も記憶がなかった。

それどころか記憶がまったくの白紙になっていた。

自分が誰なのか、それすらわからなかった。

あとから聞かされたことだが、そのときの事件で両親も亡くなっていたらしい。

記憶がなくなってしまった俺には悲しむこともできなかった。


そして同時に空という少女を知った。

同じ日、同じ場所で同じ事件に遭っていたのだ。

空も両親が死んでしまったらしい。

空の両親は魔法遣いの間でも知らぬものがいない程の使い手であった。

その当時、相当ニュースになっていた。

自分なりに調べてみたが、報道でやっていること以上のことは分からなかった。

そこで、この学校に来てみたら少しは真実が分かるかもしれないと思ってきたのだ。


まずどっちから調べようか。

棚を覗きながら見て回った。

ふと目に入った本が少し気になったので手に取って見てみることにした。


「魔法制御基礎概論…」


いつの本だろうか。

少なくとも最近のものではないな。

近年の書籍というものは、紙と言う形式をとらない。

電子ペーパーが多いのだ。


館内に空いている席を探して読むことにした。

持ち出しは禁止のようだ。

(当然といえば当然か。)


魔法とかすなわち、その国には兵器と同義である。

つまり、研究結果は必然的に極秘扱いになる。

他国に研究結果がわたることがあれば、国家が潰されかねないのだ。

何世紀も前は核兵器が世界に広がって脅威の対象だった。

だが今ではそんな兵器でさえも、魔法があれば脅威でもなんでもなくなった。

その結果、核は兵器としての機能を果たさず、放棄されたのだが。


しばらく琥珀は、その本を読んでいたが、どうも今日中には読みきれそうになかった。

(しばらく通うことになるかもしれないな。)


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「ん?なんだこれ…」


だいぶ読んだだろうか。

少し気になる項目があったので詳しく読もうとするともう下校時間であることを思い出した。


「明日にするか。」


資料のことはすこし気にかかるものの、今日は帰ることにした。


家に着くと、空が来ていた。


「琥珀、お帰り。どこか寄ってたの?」


「少し図書館に行ってた。そうだ空…」


さっき読んだ資料のことを空に聞いてみた。

そんなことが有り得るのか、そもそもそんなことが可能なのか。


「えっ…聞いたことないな。パパもママもそんな話したことなかったよ?」


「そっか…けど、気になる内容ではあったな。明日また調べてみるよ。」


そう言ってから部屋に行き、着替えて再びリビングに戻ってきた。

あの事件以来空は俺の家でご飯を作り一緒に食べるようになった。

空には記憶のことは話せないでいる。

もしかしたら空は気付いているのかもしれないが、空は何も言わなかった。

空にとっても両親の死ということで辛かっただろうに、俺にはそんな様子はめったに見せなかった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「じゃあ、おやすみなさい。」


「ああ、おやすみ。」


ご飯を済ませて、空は帰って行った。


空が家に入ったのを見届けてから、琥珀は家を出た。


その様子を空が見ていたことに気付かずに。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「今日の獲物だ。確保できるならしてくれ、もし無理ならそのときは…」


「分かっています。そのために俺が来ているのですから。」


スーツを着た男に少年が言い放った。

まるでなんでもないことのように。


「じゃあ、頼んだぞ。」


そう言ってスーツの男が去っていった。


「獲物は第三倉庫か。」


少年は歩みを始め、右のピアスをはずした。


「おい、こんなとこでなにしてんだ。」


第三倉庫の前にいた男がさけんだ。

すると奥から銃を持った男が3人ほど出てきた。


「かわいそうに、知らなかったら死ぬこともなかったのにな!」


いかにも楽しそうに言った。

そして少年に銃口を向け、引き金を引いた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


すべてが終わった倉庫の中は静寂が包んでいた。

なにもなかったように。


「榊さんですか?俺です。」


ポケットから取り出した端末で、先ほどのスーツの男に連絡を入れた。


「はい。すべて終わりました。あとはお任せします。」


伝え終わると端末をしまい、帰路についた。


すこしして、榊と呼ばれるスーツの男と何人もの警官がやってきた。

現場を見た榊はため息をつかずにはいられなかった。


「わかっていたことだが…ホント何も残らないんだよな。」


すべて消えていた。そこにいたはずの男も仲間も何もかも。

(悪魔のような奴だよ。)

男は、心の中だけで悪態をつき仕事を始めた。

そう、悪魔にしているのは俺たち大人なのだから…と

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