EPISODE3-4 Human
目の前には人が人を蹂躙する光景が広がる
そこにあるのは純粋な死ではない
死ぬ寸前まで痛めつけられ、
意識がなくなれば叩き起こされ
笑い、奪い、殺し
それだけの行為を楽しむ人間の姿
「・・・お前たちは人間じゃない・・・」
誰にも聞こえない声で
それでも強い意志をもって
少年の手はその力を解き放つ―――
~~~~~~~~~~
明と東条が町にたどり着いたとき、すべては終わっていた。
傷ついた人たちが集まって互いの傷を癒していた。
腕や足、顔から血を流しそれでも懸命に生きようとしていた。
そこは戦場だった。
壊し壊される場所
殺し殺される場所
「琥珀ッ!!」
明の声が響く
振り向いた少年の服にはべったりと黒いしみが付着している。
白地のTシャツは真黒に変色して
いつの間にかその手に持っていたはずの黒刀がなくなっている。
辺りには砕け散った魔法玉の欠片が地面に散らばっていた。
「・・・」
その眼には優しさの欠片も存在せず、見知らぬ少年が立っている。
顔にも鮮血がこびり付いていた。
ゆっくりとした動作でポケットからイヤリングを取り出すとそれをおもむろにつけた。
その瞬間に無暗に振りまかれていた魔力がなくなった。
明も東条も一言も発しない。
「魔法玉・・・割れちゃったな。」
力なく言葉を紡いだ少年の顔はいつもの冴原琥珀に戻っていた。
表情は悲しみに満ちていた。
3人の中に再びの静寂が訪れて数秒
一人の住民が話しかけてきた。
老人で褐色の皮膚に真っ白の髪、優しそうな表情を浮かべて琥珀に話しかける
『―――――!!』
力なく振り向いた琥珀にかけられた言葉の意味はわからない。
それでも老人の顔もほかの住民の顔も一様に明るかった。
それは圧倒的な力に対する畏怖も、恐怖も含まれていない。
それを見た琥珀はにっこりと一瞬だけ笑って町から歩いて出て行こうとする。
「待てっってんだろぉぉぉぉぉぉぉ!!」
いきなり琥珀は後ろから殴られた。
「!?」
振り向いた瞬間に頬にぶち込まれた拳は軽々と琥珀を吹き飛ばす。
1メートルほど先にお尻をつきながら琥珀は殴られた頬を左手で触る。
何が起きたのか理解できない。
「待てよ、どこ行くんだよ。」
そう言った明の顔には心配の色が浮いていた。
それは東条にも当てはまった。
「とりあえず家に戻ろ?空ちゃん置いてきちゃったからさ。」
そう言って笑う東条の顔はいつものように輝いていた。
この場所に似つかわしくない表情
土で作られた家や木造の家屋に飛び散ってこびり付いた血しぶき
それでも2人は琥珀に笑顔を向けた。
そして帰ろうと言ってくれた。
「・・・うん。」
一言だけ
ポツリと零した琥珀にさらに笑顔を向けて3人は歩きだした。
と、そこで思い出したように琥珀が立ち止まる。
琥珀の近くに来ていた町の老人に話しかける。
ポケットの中から携帯端末を取り出して、ソフトを起動する。
いくつかのボタン操作の後に琥珀は話し始める。
『余計な事をしてすみませんでした。』
頭を下げながら琥珀はその老人に向かって話す。
携帯端末は琥珀がしゃべった日本語をマイクから取り込み、そしてそれを現地の言葉に翻訳してスピーカーから発した。
それを見ていた老人は一瞬驚いてから、再び話し始めた。
『お礼を言うのは我々の方です。少し前から度々襲撃を受けてきたんで。
ですが私たちに彼らを倒すすべも、力もありませんでした。』
そう言った老人の眼には悲しみの光が放たれていた。
おそらく今までに多くの住民が殺されたのだろう、と琥珀はすぐに理解した。
そこで琥珀は少し違和感を覚えた。
それはさっきまで気付きもしなかった些細なものを・・・
再び例を言われて琥珀が立ち去ろうと視線を戻すと明が壊れた家の修復を行っていた。
東条は回復魔法は使えないものの、自己修復力を促進する魔法を使っていた。
いつか琥珀が傷を癒すときに用いた魔法を。
それを見届けると、琥珀は散らばっていた魔法玉を拾い集める。
もともとはビー玉ぐらいの大きさの真っ黒の球体だったものがばらばらに砕け散っていた。
それを丁寧に拾い終えたときには2人の作業は終わっていた。
「帰るか。」
明るく言った明の言葉にうなずいて3人は昨日魔法で作った家に向かった。
~~~~~~~~~~
「なんだこりゃ。」
明が建てた即席の家の周りには薄い膜のようなものが創り出されていた。
それに反応を示したのは明だった。
たしかによくよく見てみるといかにも不可思議な光景である。
「それは私のせいだよ。
みんなには言ってなかったけど、私って陰陽師なんだよ。」
いきなりの東条のカミングアウトに
「「えっ!?」」
思わず明と共に琥珀も驚いてしまった。
その二人を見て東条は隣でゲラゲラと笑いこけている。
東の空にはうっすらと太陽の光のせいで明るくなりかけている。
ひとしきり笑い終わった東条は満足げに一回咳ばらいをした後に、建物に向けて手のひらを差し出して小さく口の中で言葉を紡いだ。
「―――――――――――」
その言葉は届かなかったがその東条の動きに反応してうすい膜状の結界は解かれた。
その結界にどれほどの効果が隠れているのかはわからないが、それでもきっと空を守るために張った東条がこの場所を離れるほどに安心なものなのだろうと琥珀は勝手に納得して扉を開ける。
中で寝ている空の顔には涙の乾いた跡が残っていた。
悲しみで流した涙なのかはわからないが、それでも琥珀はやりきれない思いを隠せなかった。
強張った顔を見た二人はそっと琥珀たちから離れた。
「よかったのか?」
家の外で明と東条は今日あったことを話し始める。
それは琥珀の事とも取れるし、今の部屋の中に男女が1人ずつという状況に対してともとれる。
「少なくともあの二人なら大丈夫でしょ。
それよりも本題はソッチじゃないよね?」
いたずらっぽく笑う東条にもあまりの急展開のせいでいつものような元気はない。
それでも努めて明るく振る舞う彼女に対して明は感謝していた。
壁にもたれてポツポツと話し始める。
「まあな。ただどうしたらいいのかわかんねえ。
さっきはあんなこと言ったけど、冷静になるとやっぱな・・・」
表情は硬く、視線は遠くの山間に向けられている。
その山からは少しばかり太陽が顔を出し始めていて、自然とその眼は細められている。
隣に腰を下ろして、東条美代も話し始める。
「そうだよね。いきなりあんな光景見せられたらまいっちゃうよね。」
その表情は明とは異なる。
遠くを見るではなく、足もとに転がる石を見ていた。
砂っぽい地面に転がっている石はごつごつとしていて、それでいても脆かった。
「・・・?」
明の視線が一瞬東条をとらえる。
「でも」
と続ける東条
「琥珀は琥珀だよ。
空ちゃんにだだ甘な鈍感男だよ。」
意地悪そうに笑う彼女の顔に明は救われたように、さっきまでの硬かった表情は崩れる。
「そだな。うっし。」
と言って立ち上がる明
「とりあえず・・・」
立ち上がった明につられて東条も立ち上がる
「とりあえず?」
東条をみながら明は笑顔で彼女に告げる
いつもの日常に戻るために
「寝るか!!」
その言葉に笑いながらうなずき、二人はさっきまでいた家に戻っていく。
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入れ替わるように出てきた琥珀は血だらけになった地面を凝視する。
朝の空気は冷たく、肌を抜ける風も冷たい
その風が少しずつ血を拭い、何もなかったように全てを隠していく。
『はいはい、どうしたんだい?』
男の声は眠そうに対応する。
それは決して適当ではないが、それでも疲れは隠しきれない。
「少し調べてもらいたいことがある。」
何の抑揚もなく告げる声
年の割に落ち着いているが、その声に含まれた感情は良いものではない
むしろその逆である
電話口の男の気が引き締まる。
現実的に相手の気配などわからないが、それでも次に返ってくる男の声は先ほどとは全く違う感じが見受けられた。
『・・・詳しく話してくれ』
太陽の半分は山から顔を出し、地面を明るく照らしていた。
そして一日が始まる。
遅れてすみません。
実は今インフルエンザという強敵に襲われてます。
ほぼ治りましたが、皆さんも体調には気を付けてください。
ではでは読んでくれてありがとうございますです。