EPISODE3-2 Town of grit
「・・・1つ聞いてもいいか?」
冷静になった明が3人に話しかけた。
その言葉が異様にリアリティがなく、夢であって欲しいとの願望がありありと表れていた。
「なんだ?」
先を促したのは琥珀だった。
もちろんこれから何を聞かれるのかの予想は大体付いていた。
それでも聞き返すのは礼儀であろうと思っての琥珀の心意気だったのだろう。
「ここはどこだ?」
その言葉を明が発した瞬間、4人の間に乾いた風が吹いた。
その風には一切の水分が含まれていないようなカラカラな風で、かつ一番の問題はその風に粉塵が紛れていることだ。
見渡す限り何もない―――ということはなかったが、むしろそれよりもタチが悪いかもしれない。
「「「「・・・」」」
明以外の3人は口を開かない。
つい5分前までは近代的な建物の中にいたはずで、衣食住の心配などしたことがなかった人間たちにこの状況は厳しいのかもしれない。
建物は何世代前の素材でできているのか琥珀たちには全く見当もつかなかった。
「とりあえず…」
と琥珀がおもむろにポケットから携帯端末をとり出す。
最新式と言うわけではないが、これでも衛星回線との通信は可能である。
理論上は地球上のどこにいても自分の居場所がわかる、例外としては地下など電波が届かないところは別であるが。
何度か手元の端末のボタンをいじる。そしてそこに映し出されたのは…
「・・・」
「お、おい、ここはどこなんだ琥珀。」
一瞬端末に表示された場所にわれを忘れてしまった琥珀が明の声で目を覚ました。
そして告げるそれはこの状況では絶望的な発現であろうことを知りつつも…
~~~~~~~~~~
時間をさかのぼること1時間前
今日は3泊4日の研修旅行の始まりの日である。
朝の9時にまず学園の体育館に集合となった。
10分前に到着した時にはすでに中は熱気に包まれていた。
「うわー、すごいね。」
琥珀の隣で素直に感想を漏らした空の顔をちらっと見てから、壇上に魔法によって作り出された立体ホログラムに目を向ける。
どうやら組み合わせ発表がすでに行われているようだ。
それを見た空が荷物をその場に放り出して、駆け寄っていった。
「よお、琥珀。」
やれやれと朝から溜息を零した琥珀に声をかけたのは明だった。
少し前から来ていたらしい明は荷物をもって近寄ってきた。
「おはよ。もう見たのか?」
「ああ、琥珀は…まだみたいだな。」
「空が先に走っていっちゃったからな。で、俺は誰となんだ?」
とりあえず明に聞く琥珀に、
「お前は見に行く気がないのか。」
と返されてしまった。
「行きたくないわけでじゃないけど、コレ放っておくわけにいかないから。」
と言って琥珀は近くにある空の荷物を指差した。
それを見た明は苦笑しつつも、教えてくれた。
「俺と琥珀と東条と空ちゃんだ。なんとなく意図を感じなくもないが・・・」
教えてもらったメンバーに若干戸惑いつつも、空と同じというところに安堵をおぼえたのは琥珀は自分の心の中に留めておいた。
「まあ・・・気心が知れてる仲間でよかったと言うべきじゃないのか?」
と琥珀は適当に流しておくことにした。
そのあとすぐに空が戻ってきた。
相変わらず楽しそうにはじける笑顔を振りまきながら、周りの男子の視線など気にすることもなく。
そして琥珀は再び心の中で溜息をつくことになった。
「それじゃあ今からテレポートするから、グループごとに指定された場所に行くように。」
と学年主任の教師が全員に向かってマイクで話した。
琥珀たちが指定されている場所はグラウンドの一角でそこまで4人でのんびりと歩いて行った。
空と東条は共に女の子ということもあったので自然と琥珀は明と話すことになった。
「まだ俺たちは良い方だよな。」
と言われて改めて周りを見渡すと、
「なんでお前となんだよ。」
などと喧嘩を始める班さえあった。
それを見た琥珀は、確かに、と心の中で明に同意した。
指定の場所には1人の教師が待機していた。
わざわざ場所を話す理由は、互いの魔法が干渉しないようにとのことだろう。
「じゃあ転移魔法つかうから、4人で固まってくれるか?」
と指示されたように4人が近寄る。
「じゃあ始めるぞ。
地よ、かの地と繋ぎて道となせ、テレポート」
一瞬の地面の隆起の後に、4人は浮遊感に包まれる。
どこまでも落ちていくようなそんな感覚に
~~~~~~~~~~
「「「・・・」」」
琥珀の予想通り、3人は黙ってしまった。
恐らくはテレポートを担当した教師の属性転移魔法によるせいなのだろうが。
ゲートとテレポートの違いは、主に移動距離で分類される。
明確な距離の差はあまり重視はされないが、ゲートは長距離移動には向かない。
そしてテレポートの中でもさらに難易度が高いものを属性転移と言ったりもする。
4つの属性の特徴をうまく使って転移させる魔法で、たとえば今のように土属性の転移を行えば必然的に土属性と結びつきが強い土地、つまり今琥珀たちが置かれているような場所に出るわけである。
ただ欠点としては、細かい場所指定が難しくこういう風にわけのわからないところに転移してしまう可能性はおおいにあるわけで・・・
「「「だ、ダリア王国・・・」」」
その言葉を言いながら3人は崩れ落ちた。
ダリア王国は、ユーラシア大陸の中東地方に位置する、あたりを4つの国に囲まれた小国である。
国内情勢は最悪の一言に尽きる。
周りの国からの侵略、宗教対立による内紛そして政治不信によるクーデターが重なり、いまや国連ですら手がつけられない状況になってしまっている。
「ま、まあとりあえず近くの町に行ってみよう。」
と、はたから見ても明らかに動揺している声で励ます琥珀
そしてそうするしかない状況にうなだれる3人を連れて近くの町まで歩くこととなった。
「これは、町なのか?」
土で作られた家が立ち並ぶ町
そしてその家はほとんどが壊れている。
それでも人が生活しており、おそらく強奪などが絶えないのだろうと琥珀は直感的に理解する。
ほかの3人はこんな地獄のような場所には来たことがないだろうからわからないだろう。
「とりあえず寝るところの確保だけど・・・」
と言いかけて琥珀は、現実を見る。
泊まれるようなホテルなどは存在するのだろうか。
そもそもお金など持ち合わせていない。
テレポート後に換金する予定がことごとく崩れ去ったからだ。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
誰も口をひらかない。
それでも野宿はまずいと琥珀は3人を鼓舞して宿探しが始まった。
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「・・・宿どうしよう。」
夕方になり4人で町はずれに出た。
宿は結局見つかることはなかった。
初日からとんだスタートである。
「しかたない、魔法でやっちまうか。」
と明が言って立ち上がった。
確かに魔法で家を造ってしまうという最終手段しかないと思われた。
そして4人ともそれは薄々感じていたものの、此処へきてやっと決心がついた。
明の作り出した家は町にあるものより新しくはあったが、それでも4人で寝るにはギリギリの大きさしかなかった。
素材は土で、町から100メートルほどの所に建てた。
「次は食べ物だが・・・」
と琥珀は最大の問題点を挙げることにした。
近くに川も海もない。魚は期待できないことと、お金がなく食材を買うこともできそうになかった。
「あのーお菓子ならあるけど。」
と空が救いの手を伸ばす。
「背に腹は代えられないな。とりあえず今日は我慢してまた明日からどうするか決めよう。」
琥珀の案に全員うなずきその日の散策は終わった。
ご飯代わりのお菓子を食べ、それぞれ自分の寝る場所へと向かった。
一応男子と女子は部屋が分かれてはいるが、これはどうなんだろうとの思いを琥珀は抱いた。
布団などなく、そのまま床へごろ寝となって明と部屋で寝転んだ。
サバイバル部で慣れているのか明は少し話しているうちにすぐに寝てしまった。
そして次第に琥珀の意識も混濁していく。
ゆっくりと闇に包まれていく感覚を味わいながら琥珀は眠った。