EPISODE2-14
一条空は西野哲平が救護室に来た事で時間を持て余していた。
「んー、何だったんだろ。何かすごい雰囲気だったなー。」
独り言をつぶやきながら学園の中庭にあるベンチを目指していた。
泉たちは闘技大会の続きを見に行っている。
ベンチの途中で自販機を見つけて紅茶を飲むことにした。
「ありゃ、10円足りないや。」
仕方なく500円玉を投入して買うことにした。
500円と引き換えに紅茶1缶とじゃらじゃらとおつりが出てくる。
その缶を持って近くのベンチに座った。
まだ春の雰囲気が残る空を見ながら、物思いにふける。
さっきの琥珀の様子と、試合中の琥珀の様子が頭から離れなかった。
(あんなに必死な琥珀見たのいつぶりだろ。)
少しの間考えて、唐突に考えを止めた。
身体を吹き抜ける風に冷たさが宿っていた。
冷えた紅茶と詰めたい風は用意に体温を奪った。
そして時間を確認して琥珀のいる救護室に戻ることにした。
飲み終えた缶をゴミ箱に入れ、立ち上がる。
救護室まではすぐだった。
扉に手をかけて開ける瞬間中から人の話す声が聞こえた。
『そういえば、何でお前本気ださんかったんや??』
顔を見なくても誰が話しているのかがすぐにわかった。
関西なまりの話し方と、そのお調子者の声
気づくと空はドアを開けるのも忘れて二人の話に聞き入っていた。
頭ではそんなことはしてはいけないと思いつつも…
『…悪い、自分のチカラにはわかってないことが多くて無闇には使えない。』
この声も聞き間違えるはずがなかった。
ずっと、ずっと空の近くにいた人の声だった。
両親が死んでしまっても、琥珀だけはそばにいてくれた。
自分も両親をなくして寂しくてつらいはずなのにそんなこと微塵も見せなかった。
『そうか。ならしゃーないわ。んじゃ俺は帰るわ。』
そう言い残して西野はドアを開けた。
そこに空は居らず、西野は何事もなかったかのようにいつもの日常に戻っていった。
~~~~~~~~~~
ドアの閉まる音が部屋に響く。
部屋の中には人間が2人だけになった。
一人はベットで寝たままである。
「話してもらえますか?」
冴原琥珀は極めて平静を装って尋ねる。
「ああ、お前は何が知りたいんや?」
「質問を質問で返さないでくださいよ。」
いきなり肩透かしを食らった琥珀の機嫌が少し悪くなる。
「まあそう怒るなや。
俺の情報も少ないんや。」
ひとつため息をして西野は続ける。
「はっきり言ってまうと、わかってない事の方が多いかもしれへん。
やつらの組織は"Φως της αναγέννησης"って名のっとる。
まあ"再生の光"って意味のギリシア語や。その目的はその名前の通りやろうけどな。」
「それが3年前の事故とどんな関係が…」
「あれは事故やない。事件やったんや、それぐらいはわかっとったやろ?」
「…」
琥珀は答えない。
「未確認情報なんやけどな、事件当日にあのホテルの周囲に巨大な魔方陣が発生したっていう目撃情報があったんや。」
「!?」
「それともうひとつ、事件は全世界的に起こったかもしれへん。
表ざたにはされてへんけどな、日本以外にも米・仏・独・英・露・中とか世界で似たような事件が起きてたんや。」
「それはどういう―――」
琥珀が何かを聞く前に西野はさらに話を進める。
「それも事件にかかわった者は全員死んどるんや。」
そこまで聞いて琥珀は黙り込む。
想像以上の規模に
そしてその中で生き残った自分達に
すべてが琥珀を悩ませた。
「そんでコレは俺の考えでしかないんやけどな」
と西野はさらに続ける。
「もしかしたら世界各地で同時展開の魔法を使うつもりやったんかもしれへん。」
「なッ!?そんなこと魔法には不可能だ。」
そう魔法ならば不可能だ。
自らの魔力を糧に使う魔法の規模などたかだか知れている。
「確かにな。まああくまでも俺の憶測の域を出てへん。」
それだけ言って西野は厳しかった表情を崩して、いつものお気楽な顔に戻った。
「そういえば、何でお前本気ださんかったんや??」
琥珀は急な質問の変化に一瞬答えに詰まる。
おそらくこの人は知っていたはずで、その上での質問だろうと考える。
ならば下手にうそをついてごまかすよりはと
「…悪い、自分のチカラにはわかってないことが多くて無闇には使えない。」
「そうか。ならしゃーないわ。んじゃ俺は帰るわ。」
本当はわかっていた。
この能力がどんなものか
そしてその能力を使うには代償が必要なことも
~~~~~~~~~~
結局闘技大会は西野の優勝で幕を閉じた。
なんでも3連覇だったとか
閉会式でトロフィーなどが渡されていた。
終わるころまでには琥珀も歩けるだけの回復をして、参加することになったのだが…
「なんで俺が表彰されてるんだ??」
閉会式の祝賀会のステージ上に琥珀は立っていた。
そこには執行部として参加していた空が離れたところに見えている。
まわりは闘技大会での優勝、準優勝、3位の人が立っていた。
琥珀の隣にはこれまた西野が立っていた。
「なんや、自分そんなにいやがらんでもええやないか。
せっかくしてくれるって言ってんねんで?」
能天気な返事に思わず琥珀は見えないようにため息をついた。
名目としては何年ぶりの"F"クラスからの本戦出場とのことと、本戦での勝利などなどだそうだ。
まあいわゆるがんばったで賞と言った所だと突然西野に言われてステージに連れて来られたというわけだ。
「…」
それ以上琥珀は何もしゃべらずになされるがまま
自分のクラスに目をやると明と東条が爆笑していた。
(…)
今日一日で一番疲れた瞬間でもあった。
「「あははは!!」」
帰り道、明と東条は未だに笑いこけている。
いい加減笑い飽きないのか、と内心思いながらいつものように歩いていた。
そして長い一日が幕を閉じる。
~~~~~~~~~~
戦いを終わる条件はいつもひとつだった。
敵を全て殲滅すること
それを可能にしたのは魔術だった。
圧倒的な力で相手を蹂躙して、そして殺す
銃よりも早く、そしてナイフより確実に
残るのは焼け野原と
モノと化した屍だった
時に焼け爛れた皮膚が飛び散る土地に
時に切り裂かれた肉片が飛び散る土地に
時に潰された血しぶきが描く土地に
男は思う
この連鎖を止める方法を
二度と争いが起こることのない土地が広がることを
そして男達は動き出す
自らの目的を果たすために
どうもこんにちは
もしくは始めまして
先に謝ります
更新が遅くて申し訳ないです
とりあえずコレでEPISODE2は終わりになりました。
呼んでくれた人ありがとうございます。
誤字脱字があれば教えてくれるとありがたいです。
あと感想とかも歓迎です。自分では中々わからないので…
続きものんびりと書いていくので続けて読んでくれるとうれしいです。
それではまた会いましょう。