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EPISODE2-13

西野が琥珀に向かって走る。

ただ真っ直ぐに、最短距離で二人の距離は縮まっていく

それは自信からくるもの―――たとえ攻撃されてもそれを避けることができるという絶対の自信

その眼は目の前の敵を打ち倒すためだけに、そしてその眼には鋭い光を放つ。


(回避も防御も間に合わない―――ッ!!)


それでもとっさに防御の体制に入る。

きっと泉との練習がなかったら手も足も出せずに今この瞬間に西野の攻撃を受けてぶっ倒れていただろう。

その防御でさえもかいくぐって西野の右フックは容赦なく琥珀のわき腹に突き刺さる。

炎の影響で服が焼ける。

布の焼け落ちる臭いが鼻に届く。

うめき声を上げる暇もなく二撃目がくる。


ゴツッ!!


と言う音と、


バチッ!!


と言う音が響き渡る。

琥珀の身体の筋肉が一瞬だけ収集して、ビクッと震える。

ゆっくりと西野の拳が琥珀の身体から離れる。

スローモーションの様に崩れ落ちる、会場の中が一瞬にして静まり返る。

地面に倒れた琥珀は動かない。

それを見下ろすように西野はただ見つめるだけ。


「…」


一瞥してその場を去ろうとしたそのとき、一瞬だけ琥珀の指が動いた。

そしてそれは次第に大きくなり、立ち上がろうともがく。

確かに常人ならば気絶するほどの電撃を浴びせたはずなのに、目の前の人間は再び立ち上がろうとしているそのことに少しばかり驚く。


「やめとけ、これ以上は怪我じゃすまへんで。」


「ッ、ま…だおわっ、てな…い」


右ひざをつき、両手両足を使って立ち上がろうとする。

その様子を西野はただ見ているだけだった。

フラフラと立ち上がって、汗と血で汚れた腕で顔の汗をぬぐう。

一方の西野は多少の汗はかいているものの、一発も攻撃を受けてはいない。


「はァ、はァ、はァ…」


「そうか、んならトコトンやったる。」


今までとは比べ物にならない魔力が収束していく。

そして西野は両手にはめていた魔方陣入りの手袋を脱いだ。

その行為に会場からは驚きの声が上がった。

はっきりしない意識を無理やり覚醒させようとする琥珀には西野が何を考えているかまではわからない。

それでも何かがくることは本能的に感じた。


「灼熱の炎、天空の雷、疾風の風、―――」


西野が叫ぶ


「風よ、わが身を疾風のごとく動かせ―――」


琥珀も叫ぶ


「全てに等しく断罪を、トリニティ!!」


西野の詠唱が終わり


「紫電よ舞え、ムーブ、ブリッツ!!」


同時に琥珀の詠唱も終わる。


西野の両手には先ほどよりも高密度の炎と雷をまとった拳と、全身を包む風が吹いている。

琥珀も風が全身を包む。

そして一瞬の隙もなく両者が駆け寄る。

会場に大きな衝撃音が響き、そしてまばゆい光が会場を包み込んだ。

それは、5秒にも満たない短い時間であった。

それでも試合を決定付けるのには十分だった。


~~~~~~~~~~


東条美代はまぶしさですぐに目を開けることができなかった。

おそらく西野の放つ炎と雷のはじける光であろうと頭では理解できていた。

恐ろしいまでの密度と威力だった。

しかし疑問がひとつ残る。

やっと目を開けた東条の目に結果が現れていた。


「…」


一瞬の静寂に包まれる。

そしてそれは次第に歓声と賞賛に包まれる。


「琥珀、負けちまったな。」


はじめに口を開いたのは明だった。

東条が見た光景は、ちょうど琥珀が倒れる瞬間だった。

それでも彼の拳は西野に届いていた。

それは触れただけかもしれないが、それでも一撃には違いなかった。

琥珀の右拳は西野の胸部に触れていた。


「でもがんばったと思います。」


ここにきてやっと泉が口を開いた。


「正直もっと早く負けると思っていましたし、それに最後の攻撃が届くとも思っていませんでした。

西野先輩のような近接格闘の達人に一撃入れただけでもすばらしいです―――」


泉は琥珀のことを褒めていた。

短期間であれほどの体術を身に着けた琥珀を


「ですが、最後の魔法は…」


と泉は言葉を切る。

そしてその言葉を聞いて東条は疑問を口にした。


「あの―――最後の雷は…」


とそこまで聞いて、泉の代わりに桜井が東条の疑問に答えた。

その間も空は琥珀のことを見つめていた。


「不発ではありませんよ。」


「えっ!?じゃあ、どうなったの??」


「東条さんは身体がどうやって動いているかご存知ですか?」


唐突に魔法と関係ない話題を話し出した桜井に戸惑う東条


「えっと、脳からの信号で筋肉を動かして…」


「その通りです。ではその信号の正体は何ですか?」


再び野疑問に東条は少しずつもやが晴れていく。


「それは生体電気じゃ…あっ!!」


「もうお分かりですよね??琥珀さんは自らの肉体に雷を放つことで通常ではありえない運動能力を手に入れたんです。」


「それってすごいじゃん!!」


興奮したように言う東条に対して、桜井の顔に喜びはなかった。


「確かに運動能力は上昇します。

しかし、普段よりも激しい運動をするということはその分自らの身体にダメージがリバウンドするんです。

そしてもっとも危険なのは、自ら流した電撃によって心臓がとまるかもしれない危険があったのです。」


その言葉に東条の喜びの表情が消える。

自らの感情を嫌うかのように苦々しい表情をする。

そしてその目はステージの琥珀に向けられた。


~~~~~~~~~~


琥珀が目を覚ますと、そこはさっきの救護室だった。

そしてそのベットの近くには空が座っていた。

心配そうな瞳を向けて。


「あっ、起きた??」


目を覚ましてすぐに声をかけてきた。

まだぼんやりする頭を持ち上げようと身体を起こす。


「ああ、もうだいじょう、いっ…」


全身に痛みが走る。

筋肉痛のような感じではあるが、痛みは比ではない。

それを見た空は慌てて駆け寄り、そして再び琥珀をベットに寝かせた。


「だめだよ。相当無理したんだからもうちょっと寝てなさい。」


母親のような口調で琥珀をなだめ、そして近くに置いてあった水を琥珀に飲ませた。

恥ずかしくはあったが、琥珀の身体はまったく言うことを聞かなかった。


「負けちゃったな。」


苦笑いを浮かべた琥珀を空は複雑な思いで見つめる。

聞きたいことは山のようにあったが、それでも琥珀に聞くことはなかった。

二人の間に自然に沈黙の空気が流れる。

それを二人とも気にすることもなくただ黙ってすごしていた。

沈黙を破ったのは、琥珀でも空でもなかった。


ガラガラ


と言う音と共に西野哲平が救護室に入ってきた。

そのふざけた表情と一緒に。


「よぉ~、もう大丈夫なんか??」


その言葉には明らかに心配をする気持ちなど含まれていなかった。

しかし空は西野の言ったことを額面どおりに受け取った。


「どうしたんですか??」


肉体的にも精神的にもこれ以上西野とダラダラするつもりはなかった。


「ん??せっかちなやっちゃのぉ。まぁまぁとりあえず座らせてもらうで。」


と言ってベットの近くにあったパイプ椅子を手にとって琥珀の近くに座った。

しかし、座ってから何かを言い出すことはなくただ沈黙が訪れる。

その様子を見かねた空はすこしの間外で時間を潰すと言って出て行ってしまった。


「それで??話があるんですよね??」


琥珀が西野の言わんとすることを聞く。


「ああ、俺がお前に言いたいのは…3年前の事件のことや。」


その単語を聞いただけで琥珀は飛び起きようとした。

が、彼の全身の筋肉に付いた傷はそれを許さなかった。


「それは確が勝ったときのじょうけんですよね??」


「いや、はじめからそれは建前や。それに組織のバンク覗いたらこの程度の情報は得られるさ。

さて、それじゃあ本題といこうか。」


その言葉を聞いて琥珀は唾を飲み込んだ。

そして救護室の中で過去が語られ始めた。

それは始まりでもあり、そして同時に終わりを意味している。

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