EPISODE2-11
荒れた村
焼き放たれた民家
辺りに轟く悲鳴、怒号、狂気の笑い声
飛び交う銃声、爆発音
「…」
血の海
飛び散った肉塊
目の前にはモノと化した人間の死体
別に珍しい光景なんかじゃなかった。
「ひゃっはははは~~~~!!!」
狂ったように人が人を殺す光景
銃弾が体を貫通する。
それを横目に引き金を引く自分の指先
その手に握られているのは、CAR-15―――重量2.40kg全長729mmのサブマシンガンである。
以前大国で使われていたものだが、科学の発展とともに横流しで流れてきたものなのだろう。
「…うッ…た、たす、け…」
また目の前で一人大量の血液を地面に描きつけモノと化す。
繰り返す日常
ひたすら人を殺して、人に殺される
子供も大人もみんな戦場に出る
そして親も友達も、みんなみんな帰ってこなくなった。
それでも僕は死ぬことがなかった
死ねなかった。
「おい、またあいつ生き残ってるぞ…」
「悪魔だよ、悪魔。」
「しっ、聞こえたらどうするんだよ。」
「…」
体に傷などつかなかった。
心だけは日に日に削り取られ、そして磨り減る。
それでも僕は戦い続けた。
人を殺し続けた。
そうでないと、みんな死んでしまうから。
戦う理由なんか知らなかった。
ただ殺さなければ殺される、そう教えられた。
人の殺し方は教えてもらえても、人の愛し方は教えてもらえなかった。
人を殺す武器は与えられても、僕の名前は与えられなかった。
そうして僕は、何年も、何十年も戦い続けた。
この手を血に染め、守るものも大切なものも何一つない世界で僕は生き続けた。
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「はぁ、はぁ、はぁ。」
体中が汗で気持ちが悪い。
着ていた服が汗で体にまとわりつく感覚は久しぶりだった。
「マスター、大丈夫ですか??」
部屋のドアのノックとともに、一人の女性が部屋に入ってきた。
その顔は心配の色を深く刻んでいた。
それは主を思う所から来るものなのか、それとも愛なのかは男にはわからない。
「ああ、大丈夫だ。昔の夢を見たんだ。」
そう言って、ベッドの近くのタンスからタオルを取り出して体を拭く。
体のどこにも傷跡などなく、鍛え上げられた肉体が男の強さを表している。
肌の色は東洋人ではなく、中東に近い黒さの色だった。
背もすらりと高く、180cmはあるだろう。
一方の女は、女にしては背が高い。
西洋系の色の白さと、その肌の色に合ったブロンドの髪の毛と碧眼
街を歩けば大半の男がその姿に見とれるほどの容姿をしていた。
ただ不釣合いなのが、そのか細い右腕にはめられた少しごつい腕輪である。
「それに最近はずいぶんよくなったよ。あと少ししたら計画を始められそうだ。」
「…はい。くれぐれもご無理をなさらぬよう。」
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試合が終わった琥珀は待合室に戻らずに、傷の手当のために救護室に向かった。
たいした傷ではないと言え、それでも次の試合には万全の状態で望みたかった。
「失礼します…」
救護室の中にはまだ人はおらず、手当てのための生徒が待機していた。
おそらく2年か3年の生徒で、回復系魔法の得意な生徒だろうか、女の生徒だった。
もともと回復系魔法は繊細な魔法制御が必要で、その魔法を使いこなすには男よりも女のほうが向いている。
空などは例外なのかもしれないが。
「え、あっ、はい。こっちに座ってください。」
いすに座ってぼんやりと外を眺めていたその生徒はいきなり声をかけられて驚いていた。
琥珀は少し気の毒なことをしたと思いつつも、傷の手当をお願いした。
さっきの、立花とかいう生徒のほうは保健室にでも運ばれたのだろうか、救護室には姿をみせることはなかった。
治療の間も誰も訪れることもなく、救護室には琥珀と生徒の二人だけという空間が広がっていた。
「…」
「…」
お互い何もしゃべらない。
気まずい空気だけが部屋をしていた。
「あ―――」
―――の、と女子生徒が声をかける前に豪快なドアを開ける音と、5人の生徒が乱入してきた。
もちろんいつものメンバーであった。
出かけた声をどうにかごまかした女生徒は入ってきた人間に目を向けて、再び声をだした。
「あれ、空ちゃんとあきらちゃんと桜井君?」
"あきら"、と呼ばれたときに三島明がどきっとしていたのを琥珀は見逃さなかった。
「あいちゃん♪あいちゃんが救護担当だったんだ!!」
と言ったのは空
「そうだよー。空ちゃんこそどうしたの?」
「わたし?わたしは、琥珀の様子を見に来たの。」
「えっと…」
と言ってあいちゃんと呼ばれた女生徒は琥珀を見る。
「ああ、なるほど。」
と笑顔になるあいちゃん。
(何を納得したんだ?)
と疑問に思いつつも、気がつくと怪我の治癒は終わっていた。
「ん、ありがと。」
お礼を言って救護室から選手の待合室に行こうかと席を立った。
「どういたしまして。」
「じゃあ俺は控え室に戻るよ。」
「えっ?ちょっと待ってよ~。」
と駄々をこねる空たちを連れて、仕方なく琥珀は闘技場の見学席に行った。
本当なら控え室で休みたかったが、空に言われては琥珀に拒否する選択肢はなかった。
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「ま、とりあえず1回戦の勝利おめでと。」
見学席に着くとまず明からさっきのことを祝福された。
「でもまさか予選と同じ相手が本戦で当たるとはおもわなかったよなー。
しかも魔具まで使ってさあ。」
「ルール上は魔具の使用は許可されてますよ?
しかし、琥珀さんはそれにも勝ってしまいましたね。」
とさわやかに言う桜井要
「でもさでもさ、最後のアレは何??それに立花君の持ってた魔具って何なんだったのかな??」
と立て続けに聞いてくる空
「そうそう、立花の魔具はともかく琥珀は最後に何やったんだ??何か突然ゴーレムとか消えたように見えたんだけどよ。」
明も空の言ったことに同意した。
東条も同じような顔をしていたが、泉と桜井は特に驚くこともなく2人のことを見ていた。
たぶん気がついているんだろう。
「んー、要頼むわ。」
と責任放棄して琥珀は疲れた体を休めることにした。
「そうですか、なら代わりにご説明しますね。
では立花さんの持っていた魔具から説明しますよ。
あれは、"クイックチャージ"と言う魔具です。
特徴はあらかじめその魔具に魔力を込めておくと、魔力収束と詠唱の手間を省くことができるんです。
ですが2種類の魔法に限定されてしまうんです。立花君の場合は、土壁と土矢でしたね。
次に、終了間際の魔法はゲートの魔法の応用ですね。
普通の使い方はある空間同士を繋げて道を作るものですが、今回の琥珀さんの使い方は少し違います。
端的に言えば、入り口のみ作って出口を作らなかったんです。
放たれた土の矢とゴーレムはそのまま入り口に吸い込まれて、違う次元に閉じ込められた、と言うところでしょうか。」
長い長い桜井要の講座が終わる。
「その通り。」
「なるほどー。」
とちんぷんかんぷんだった3人も納得のようだ。
(って、明と東条さんはともかく空はわからないと不味いんじゃないのか?)
と思った琥珀だが、空のために黙っておくことにした。
今闘技場のステージの上では3組目の試合が行われていたが、特に琥珀は見るつもりもなかった。
すべては次の西野哲平との試合のためだけのもので、それ以外に興味は微塵もない。
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「ん、そろそろ戻るよ。」
「そうだな。次もがんばってこいよな。」
空たちに声援を受けつつ、琥珀は選手がいる控え室にもどることにした。
そこには西野はいなかった。
おそらくはもうひとつある控え室だろう。
控え室は大きな広間のような作りになっていた。
中には大きな長机といすが置かれていて、その上にはさまざまな飲み物が置かれていた。
魔力を多少回復させる飲み物も置かれていたが、それほど魔力を使っていない琥珀は飲まなかった。
どれぐらい部屋の中で部屋の中で待っていたのだろうか。
ふと気がつくと、もうすぐに自分の出番になっていた。
前の試合もそろそろ終盤に入って、もうすぐ決着がつきそうだった。
琥珀は立ち上がって、試合会場に向かった。
たった一つの希望をつかみに行くために