EPISODE 1-2
「空、待ったか?」
琥珀と明と校門に着いたときには、もう空が待っていた。
「ううん、大丈夫だよ。明君も一緒なんだね。」
「あまりにも明が淋しそうだったからな。いいか?」
琥珀は聞くまでもないとは思いつつ、念のため空に聞くことにした。
空はどんなことに対しても大らかなところがある、そのことを琥珀はちゃんと知っていた。
「もちろん。」
予想通りの空の答えに明がうれしそうな顔をしていた。
「ってなわけで、よかったな明。」
「おう!」
相変わらずわかりやすい性格であった。。
「じゃあ、行こっか。」
笑顔で空が歩きだした。
それを見ながら仲良く下校となった。
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「じゃあな、明。」
「おう、またな。」
「明君ばいばい。」
途中で明と別れてから、空と2人で帰った。
空の家は、琥珀の家の前にある。
小さいときからの付き合いらしい。
らしいと言うのは、俺の記憶は、3年前からしかないからである。
以前の俺はどんな人間だったのか興味がないと言うわけではない。
ただ、空には聞けない。
それに、あまり空は昔の話はしたがらなかった。
「ねえ、琥珀。晩御飯どうしよっか。」
物思いにふけっていると、突然空に話し掛けられた。
「そうだな・・・、今日は入学式だったから少し贅沢して、外食でもするか。」
そう提案してみた。
「えっ、ホントに!?やったー。」
隣ではしゃぐ空を見て、琥珀の顔が自然とほころんだ。
「ねぇねぇ、何食べる?何食べる?やっぱりお寿司とかかなぁ?」
お祭り騒ぎとは、この事だろう。
近くにいる空は小さな子供のようにはしゃいでいた。
「空の好きなとこでいいぞ。」
ということで、晩御飯はお寿司だそうだ。
そしてその夜は、お寿司となった。
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「じゃあまた明日ね。」
そう言って、空は自分の家に帰って行った。
外食から帰ってきた二人は、家の前で挨拶を交わしてそれぞれの家に入っていった。
(今日は早く寝よう。)
琥珀はそう思い早めにベッドに入った。
(そっか、もう3年になるのか。
早いな。)
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「琥珀起きろ〜!!」
今日も朝から大声と、激しく身体を揺らされる感覚で目が覚める。
「おはよう、空。」
「今日から授業だよ。ほら、しゃきっとして。」
「あぁ、そうだったな。すぐ行くからご飯食べててくれ。」
「二度寝したら雷落とすからね?」
「大丈夫だ。」
空のことだ、本気でやるに違いない。
空は"火"の属性が得意だが、基本属性である"火"、"水"、"風"、"土"の4属性が使える数少ない魔法遣いである。
ただ、属性が4つしかないというわけではない。
だが、今もっとも研究者の間で支持されているのはこの考え方のようだ。
大きく分けて、魔法は3種類
攻撃系統を得意とした黒魔法
回復、肉体強化を得意とした白魔法
そしてそれ以外
3つ目は魔法遣いの中でも"異能"と呼ばれている。
精神感応などである。
しかし"異能"ということもあり、あまり研究は進んでいない。
「っと、急がないとホントに落ちてきそうだ。」
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「おっす、琥珀。」
教室に着くと、もう明は来ていた。
見た目の割にはマメなのだろうか。
「おはよ。早いな。」
まだ二日目なので、無難な挨拶にすることにした。
「あぁ、どうも日が昇と目が覚めちまうんだ。」
野性的な明は動物的な感覚を持っているんだろう。
またしても明に対して失礼なことを考えていた琥珀は、のんびりと朝の用意に取り掛かった。
「そういえば、一限は実技らしいぞ。さっさと着替えて体育館行こうぜ。」
「わかった。ならさっさと行こう。」
俺と明は着替えて体育館に行った。
「なぁ琥珀。」
「どうした?」
明は不思議そうに俺の顔を覗いてくる。
「それ、取らなくていいのか?」
俺の右耳のピアスを指差しながら言った。
「ああ、これはいいんだ。」
ピアスは両親の残したものである。
いわゆる形見ってやつになる。
琥珀には記憶がないからわからないが、助けられたときに握り締めていたそうだ。
そのことから考えても、形見ということにしてあった。
「ふ〜ん。まぁいいや。琥珀はどんな魔法が得意なんだ?」
あまり興味がなかったのか、明はすぐに話題を変えてしまった。
琥珀は昔の話ができないので、すこしほっとしてその話題に乗ることにした。
「んー、得意はないが苦手もないな。しいて言うなら"水"かもしれないな。」
「ってことは…、4元素すべて使えんのか!?」
驚いた様子で明が詰め寄ってきた。
「使えなくはないが…」
そう使える。
使えるのだが、俺の場合は少し違う。
「それってすげぇじゃねえか!!」
「俺の場合は、魔力のほうが問題なんだ。だからFなんだよ。」
魔法とは、
魔法を理解すること、すなわち基礎理論の理解。
魔法を使用するための魔法の構築。
そして、もっとも重要になるのが魔法を発言させるための魔力。
基礎理論、構築は後天的なものによる。
つまり努力すれば改善(より早く展開)することができる。
しかし、魔力は生まれ持ったものである。
つまり、いくら勉強し、訓練したところで魔力は増えない。
魔法は生まれた瞬間にすべて…とまではいかないものの8割は決まってしまっているのである。
「なるほど。親は魔法遣いだったのか?」
明は気にした様子もなく聞いてきた。
「いや、一般人だ。」
そう両親は魔法使いではなかった。
けど琥珀には魔力があった。
俺の記憶がある範囲でだが。
両親のことは空に聞いたことがすべてであった。
「じゃあ、突然変異って感じだな。ちなみに俺は、"土"系統しか使えない。それと俺は実技以外はとことんダメなんだよ。」
そう言って明は笑っていた。
それにしてもまたイメージ通りの気がする。
本当にワイルドって言葉が似合う男であった。
「さて、そろそろ時間だな。ところで明、なんでこんなに生徒が多いんだ?」
明と話し込んでいるうちに続々と生徒が体育館に入ってきた。
明らかに1つのクラスだけじゃないな。
「あぁ、1年全員での実技だそうだ。」
「ってことは、SもAも一緒なわけか。」
そう思い空がいるのかと思ってあたりを見ようとしたら、ちょうど空に話しかけられた。
「琥珀に明君。一緒の授業だねー。」
周りの視線を一身に浴びながら、空が近づいてきた。
周りの視線がまったくもって痛い。
そんなことは、空にはわからないようだけど。
「よお、空。空も実技か?」
「そうだよー、なんか一年生の実力を見るためなんだって。」
(なるほど。
そのための一年生全員での授業か。)
「琥珀は…取らなくていいの?」
空は右耳に視線をやった。
琥珀は軽く首を振り
「いいんだ。空も覚えてるだろ?」
「そ、そうだけど…でもっ!」
そういいかけたところで、忘れ去られていた明が割って入ってきた。
「こら、俺を忘れてないか?まったく二人だけの世界に入りやがって…」
すっかり明のことを忘れていた。
とはさすがに言えないので
「あ、悪かった。」
素直に謝っておくことにした。
「べ、べべ、別に二人の世界に入ってなんか…!」
「空、何を焦ってるんだ?」
隣で突然空がオロオロしだした。
相変わらず無駄に元気なやつだ。
「焦ってなんか!…ないよ。それよりもう授業始まるよ?」
そう言われて、体育館の壁にあるデジタル時計に目をやった。
「ん、そうだな。空も早くクラスのとこ言ったほうがいいんじゃないのか?」
「そうだね!そうするっ。」
そう言うなり空は走って自分のクラスのいるところに走っていった。
そんな琥珀の空に対する様子を見て、明は琥珀に話かけた。
「お前って、クールなのな。」
「??、どういうことだ、明?」
「何でもねーよ。俺たちも行こうぜ。」
そう言いながら俺たちもクラスの人の所に行った。
クラスメイトの大半はもう大体きていた。
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「では、今から魔法の実技授業に入る。名前を呼ばれたら順にこっちに来てくれ。」
どうも一人ずつ自分の使える魔法を見せるらしい。
ただ、自分でコントロールできる限界の魔法を見せてほしいとのこと。
つまり最高位の魔法を見せなければいけないらしい。
「ん、どうしたものかな。」
「どうした、琥珀。緊張でもしてるのか?」
そういう明は、緊張とは無縁の顔をしている。
「いや、そうじゃなくて…」
「なんだよ、トイレか?」
「違う。そのなんだ、俺は上位魔法が使えないんだ。」
俺は上位魔法を使うための魔力がない。
「なんだ、そういうことか。」
あっけらかんと明が言い放った。
そんな明を見た琥珀は、
「明は魔力多そうだもんな。」
俺はそう言って、明を見た。
「まぁ魔力はあるんだがな。どうも理論と構築がつまずいてて思いのほか使えないんだ。」
琥珀はなんとなく納得してしまった。
明は見た目通りに細かい作業が苦手だということがわかった。
「大雑把ってわけか。なんだか納得できるよ。」
「琥珀もなかなか言ってくれるな。まぁ間違っていないから何もいえないけどな。」
そう言って明は隣で笑っていた。
魔法は、使った魔力=現実に現れる魔法の威力
というわけではない。
つまりは、途中でロスが出てしまっているのだ。
魔法の威力と呼ばれるものを上げる方法は3つある。
1つ目は、魔力を大量に使う方法。
2つ目は、ロスを減らし効率的に具現化する方法。
3つ目は、魔法具と呼ばれるものを使うこと。
「冴原琥珀。」
「はい。んじゃ行ってくるよ。」
「ほいよ、無理してぶっ倒れるんじゃねぇぞ。」
「気を付けるよ。」
琥珀は明の視線を背中に感じながら、呼ばれたほうに歩きだした。